Have you ever really loved a women・3




「ダスティ・アッテンボローという人物は友誼に篤く実に仕事熱心な人物だった。

私生活も大事にしてきたようだがやはり公人としての立場を重きに置く女性だった。

彼女が責任と信頼、友情をを踏みにじるような行為をしたというのを私の知るうえでは

見たことがない。」



これはのちにユリアン・ミンツの著書の一部である。ほとんどはヤン・ウェンリーのひととなり、そして

彼の行っていたことや思想などを書いているものである。

ペンは剣よりも強しとヤン・ウェンリーはその言葉が真実であると信じていた。

ユリアンはヤンという人間の存在を後世に書き残すことで彼を未来永劫まで存在たらしめようとして

いた。

ひとは本でルドルフ・フォン・ゴールデンバウムの悪政を知っている。

ならばヤン・ウェンリーという一軍人がどこまでも戦争が嫌いで、政治を監視しそして、用兵家よりも

一杯の紅茶を入れる少年に価値を見出す人であったか。

これをヤンを知らない世代にユリアンは残しておきたかったのかもしれない。

ヤンやその仲間たちの空気をできるだけ青年は丁寧に書き残したかったのではないだろうか。

その一人アッテンボローについて書いたくだりの抜粋である。



要するに彼女は義理堅い男前なのだ。

そんな彼女から脱落していくものは勝手にしやがれ的な傍若無人な女性だった。

獅子が伴侶をもとめないように彼女も伴侶を求めない。

残った人間がいれば十分だと思っている。



『妊娠となればヤン先輩に言っておかないといけないな。後方勤務に回されるのかな』

妊娠の事実も確かめないでアッテンボローは帰結点をもうけようとしているところが、

間違いなのであるがこのときの彼女はある意味混乱していた。なまじ想像力の逞しい彼女は

今後の生活を早急に考え答えを出すつもりでいた。

医者にも行かないで彼女は考えようとしている。

そこがおかしい。

だが明晰さをかけた頭脳ではどんどん想像が(妄想といってもよい)膨らんでくる。

止まらない。

『いや出産となると育児休暇がいる。それならいっそ軍人を退官するか。

でも年金が惜しいな。かといって艦隊ごとワープなんて母体に悪くなかったっけ。いずれにせよ

後方勤務になるのだろうか。』

さすがヤンのシンパ。考えることは年金問題。

『それにちの艦隊をどうするんだ。この間グエン少将が亡くなっている。

フィッシャー提督に全て押し付けることになるな。しかしそれは仕方がない。

でも仕方がないとはいえど申し訳ないな。』



それよりも、病院いってきてください。

こうしてかなり独りよがりの3日間を彼女は過ごしたのである。

そしてやっと



「病院へいくぞ」

と正しいポイントにたどり着いた。

午後からの半日休暇を利用していざ婦人科へ初陣であった。






彼女は3日ぶりに自分の部屋に帰ってきた。

「おかえりハニー。俺と風呂にするか俺と飯にするか俺と寝るか。どれにする。」

目をきらきらさせたきらきら星の王子様が彼女を待ちかねたといわんばかりに

飛びついてきた。

愛犬だ・・・・・・。

彼女はため息をついてぎゅうぎゅう抱きしめられたまま、

「一人で風呂に入る。」と呟いた。



「いけずなこと言わないの。俺とはいろうぜ。綺麗綺麗にしてやるからな。」

あの。一人で洗えるんですけどっていっても通用はしない。

というかこの男の場合は体も髪も洗ってくれるが義理堅いのか必ずお相手も勤めてくれる。

狭いところがよいらしい。

私生活で疲れもするダスティ・アッテンボロー少将である。この精力の塊の男と一年以上暮らして

いるのだから。

「バスタブにゆっくり浸かったほうが疲れが取れるぞ。おれ先に上がって、

飯の準備してるからな。15は数えるんだぞ。ハニー。」

なぜ15なのかはよくわからない。10だと少なくて20だと長いということか。

ともかく浴室で情交をしているので彼女は並の女性なら貧血を起こしたかもしれない。

15数えて浴室を出る。バスタオルでざっと拭きバスローブを羽織る。

鏡に映った顔は・・・・・・。

ま、いつもの顔だ。

素顔の彼女も美しいが彼女自身は自己評価が低いためそうは思ってはいない。

頭にタオルをのせているとまるでノックアウト寸前のボクサーだと彼女は

自分の姿を見てそう思う。



あのことは言わないほうがいいかも。

そう考えてリビングへ行った。



「美味そう・・・・・・。」

髪をタオルで拭きながら彼女は食卓についた。

「レッドペーストとココナッツミルクでカレー。ナンは市販。カレーの味はたぶんなかなかいいと思う

けれど。いかがでしょう。ハニー。」

向かいの席の男は愉快そうな笑みを浮かべて彼女を見ている。

きっと彼女がかわいくてかわいくてたまらないのであろう。

女は料理に釘付け。

「昔の女に教わったんだろ。」

茶化して早速いただきます。ナンをちぎってソースに付け一口。

「美味しい。」



アッテンボローも料理は下手ではない。

そしてオリビエ・ポプランも実は器用で調理は適当にこなしてしまう。

「だろう。昔の女に習ったのは事実。すまんな。俺の知識の泉は女でできている。

妬かないでくれよ。ハニー。」

「妬かないよ。いまさら。」

男は女がおいしそうに食事をする姿を見るのがすきだった。

女はたいてい食事中笑顔である。食を愛する女性。

かといって彼女が太らないのは間食をしないことが大きい。

「食事がおいしく食べられないじゃないか。」という至極健全な理由。

シェーンコップも彼女のそんなところに大いに魅力を感じている。

そして制服組だが運動神経はそこそこでしかもよく動く。

仕事をすればラオが取りにいく書類も彼女が「歩きたいんだよ。」といっては

横取りするし昼寝の習慣も勿論ない。どこぞの司令官閣下は副官「公認」で

昼寝をしている。彼が昼寝をするのは夜遅くまで起きているからだと

昔から彼を知っている女は思っている。

ともかく眠っているとき以外は常に動いている彼女。

惜しむらくは射撃の下手さであったが。

彼女は新陳代謝が活発であり、食べた分は消化する女性であったわけである。



男も自分で作った料理を食べはじめた。

食事をしながらこの3日間の間に話せなかったことや話したかったことが次々話題に上る。

「そうか。グリーンヒル大尉と先輩か。いつプロポーズするのかな。結婚式

あげるかな。何きていこう。春だな。」

女はうきうきしてその話題に乗った。

「美人が男のものになる式典なんぞ興味ないな。俺はいかないと思う。」

「なんでそういう視点なんだ。2人を祝ってあげようよ。」

「ヤン・ウェンリーはどうフレデリカ姫を口説くんだろう。まあ。姫のほうが

待っている節があるから言葉は適当でいいよな。」

「先輩が女性を口説くか。うひひひひ。いつだろうXデーは。」

そんなあたたかい団欒の光景の中で男がふといった。



「お前妊娠してるんじゃないの。ハニー。」



おそるべし、オリビエ・ポプラン。

「だってさ。普通お前生理狂わないじゃん。にしては遅いし。病院には

ちゃんといったのか。医者はなんと言ってた。」

女性の体に詳しすぎる男である。彼女は困った顔をした。

「それがなオリビエ。」



彼女の機智この際乏しく明快かつ慈愛のこもる言葉を選ぶのに

必死である。口元をナプキンでぬぐう。それで今日は彼女にはアルコールが

用意されていなかったのかとオレンジジュースを飲みながら頭の回転の差と

経験値の差を考えた。だてにさまざまな女性と恋をしてきたわけではない男。

じっと緑の眸で彼女を見つめる。真剣だがやわらかい表情の目。


「市販の検査薬では陽性だったんだ。」

男のほうは頷いた。そして間髪いれずいった。

「きまり。ゴールだ。ハニー結婚しよう。」



そうくるとおもったんだ。

・・・・・・彼女は首を振った。



「妊娠はしていなかった。今日の午後病院へいったらそういわれた・・・・・・

たまに検査薬でも間違えることがあるっていわれた。最近のものにしては

珍しいといわれたけれど。子供はいなかったんだ。・・・・・・ごめん。空振りだよな。」

彼女は実は子供を産みたかった。

結婚は意識していなかったといえば嘘になるがオリビエ・ポプランに似た緑の瞳の

赤ん坊がほしいと思っていた。

ゆえに残念というところだ。

「そうか・・・・・・。別にお前が謝る筋のことじゃない。気にするなよ。」

男は女の隣にたって彼女にキスひとつ。

「・・・・・・だから結婚となると事情が違うだろ。子供がいないわけだし。

さっきのプロポーズはこの際無効になっちゃうんだよな・・・・・・。」

と女が言うのを口封じのキス。

目を瞠って男を見つめる女。男は彼女の耳元でささやく。



「じゃ。いっそのこと結婚して真剣に子作りに取り組まないか。ハニー。」




by りょう




LadyAdmiral