Have you ever really loved a women・2




実は彼女が悩んでいたことはまず3日前にさかのぼる。

「・・・・・・陽性か・・・・・・。」



彼女はきちんと月のものがくるタイプである。

個室で座りつつ検査薬の試薬の色を見つめる。これは陽性反応らしい。

「そうか。そうなったか。」

一人納得する。

一人少し戸惑う。



女はかなりのハードワークと28歳という微妙なお年ごろではあるが

生理痛もひどくないし、毎月生理も周期通りにある。

だが今月の彼女は違っていた。

月のものが来ない。

少しずれることも考慮してしばし様子を見た。

あまり彼女はずれない人だがまれにそういうこともあるだろう。

で。一週間おくれると彼女も考えた。よくドラマであるようなつわりのような

嘔吐感もない。何しろ女は妊娠というものはまだイメージしかない。



アベレージ(平均)1日あたり2回のSEX。

=妊娠?



避妊は確実にしていると思われるが思われないときもあったかも知れない。

避妊は100%じゃないとよく聞く。完全に大丈夫という自信はない。

なにせ相手が。



いやその。



女性提督は自分の性生活が清いものではないと自覚しているからいつかこんな

ときもくるだろうなとぼんやりとは考えていた。

早速市販の妊娠検査薬で調べて陽性反応が出た。

彼女はなんだか納得もしたしどうしようと考え込むのであった。

本当はここですぐに産婦人科に行っていればよかった。



けれど踏ん切りがつかなかった。



彼女は婦人科処女でありそれも理由のひとつ。

過去姉たちがいう話では、

「医者がすること以上にパートナーのすることのほうが激しい」とのこと。

膣内や子宮に器具を入れられたり検査されるのは睦言ほど激しくないと

いいたかったみたいである。3人の姉はすでに子持ち。

痛くもなんともないであろう。

潔癖な女性提督はまだ花の20代(28だけど)独身。

そして未婚でもあり出産経験はない。ちょっと痛そうだなと思う彼女。

そういうナンセンスな理由もあった。



そして最大の理由は・・・・・・。

本当に妊娠していたらどうしよう・・・・・・・。

という永遠のテーマ。



アッテンボローははなから妊娠していたら出産することをかたく心に誓っていた。

授かりものは大事にしなければと彼女は思っているしそれが

赦される環境にいる女性なのだ。

つまり彼女は甲斐性があるし健康だし子供は好きだし。これだけ条件が合えば

やはり授かったものは大事にしたいわけである。

女でいる以上いずれ出産は考えていた。

それは誰の子かはわからないが人生で出会い、恋をして縁があった相手の

子供ならば産めるのであればそうしたいと思う彼女。



それに種はオリビエ・ポプランであることもまちがいない。

そこは絶対間違えようがない。

男が他の女をはらませていたとしても彼女は絶対、今のところあの男が相手なのだ。

女は男を今現在一番愛しているし彼の子供ならばほしいと思う。

そして彼女は遺伝子レベルでも彼の子供なら産んでもいいと思っている。

女の子でも男の子でも反射神経の豊かで頭のよい子が産まれると思う。

彼に似れば。

自分に似ればちょっとごめんなさいと思う。

彼女は自己評価が厳しい女性であった。

ともかく彼の子供は産みたい。



ただ彼女は悩んでいたことがまだあった。

結局はその答えはまだ見つからないままであったがやはり彼女は

三日間考えてやっと産婦人科にはいこうと思うのである。

自分ひとりでその答えを出せるときではない。



それが実は一番の困りごとで何かいい思案がないかと執務室で

仕事をしながら考えてみたが妙案はないままである。





部屋に帰れば彼女の男が帰ってくる。



そう。

やってくるではなく帰ってくる。



それくらい二人が一緒の時間を過ごすのは多い。会戦がないときならばなおのこと

男はマークしているかのように女から離れない。これがかわいい男の子だから赦せるが

シェーンコップのような大男だったら。

ちょっと暑苦しそうだと女性提督は思う。彼女にとってはポプランはかわいい男の子

なのである。不思議に同じような身長で男物でも着る彼女は彼の服を着ることも

しばしば。ボトムはヒップがちと位置が違うみたい。

でも靴も交換できるほどでなんだか彼女は男がかわいい。

「おれはお前の服が入らない。ま、仕方がないからランジェリーを借りよう。」

「全然仕方がなくはない。貸さないよ。」

そんな会話が出ることもある。



話が大きくそれましたな。



本筋に戻ると。

本来であれば恋人のポプランに

「妊娠検査薬で陽性だった」というのが筋。

でも彼女はいわなかった。



1つは妊娠検査薬ではあいまいなこともある。やはりちゃんと医師の診察を受けて

妊娠かそうでないかをはっきりさせた上で相手に言ったほうがよいと思ったのだ。

隠していたのではない。

2つめは彼女は自分の恋人をよくしっていた。

よくしっているとそう信じている。

オリビエ・ポプランは、あれで子供が好きだ。ユリアンや他の少年訓練兵との

やり取りを見ていると年少のものからも好かれる。

一度だけキャゼルヌ宅へ2人でお邪魔をしたときもちいさなご令嬢たちは

「ポプランおにいちゃま」と喜んで遊んでいた。

キャゼルヌはできるだけ娘たちに男との接触は避けたかったようだが

マダム・オルタンスは別段何も心配しなかった。

ユリアンよりポプランのほうが女の子が何を言い、何をすれば喜ぶか

よく知っている。

レディたちはまたきてねとにこにことしていた。

コーネフの弟妹たちからもなつかれているとかいないとか。

オリビエ・ポプランは子供が好きで子供からも好かれる。



そして、よほどの事情がないかぎり堕胎を嫌っているようである。

だからこそまめに避妊するのだろう。でも彼女にピルを飲むよう

すすめない。彼女は薬は好きじゃない。それを心得ている。

アッテンボローが大事で大事でしょうがないのだ。

だからきっと彼女の赤ん坊なら喜んで産め産めという男ではあるまいかと。



でも彼女は考えた。

出産の前が普通は結婚ではないかと。

さずかってから結婚も悪くないし別に大きな問題ではない。



そう結婚。

これは彼女にとってまだピンと来ないものであった。

実はポプランが逃げてもシングルでたくましく育てるぞというプランのほうが、

彼女には想像しやすかった。

あのオリビエ・ポプランが結婚してパパになる・・・・・・。まさかね。

当のアッテンボローがこんな感じで彼女がウェディング・ベルの必要性を

無視していた。たぶん女以上にあの男は・・・・・・考えているような気がするのだ。



彼女は独身主義を振りかざしているわけではない。

それに亭主がオリビエ・ポプランでもかまわない。

問題はもっと大きなことにもなるかもしれないと女性提督は考えていた。

考えていたかったのであるが。

部屋で過ごせば恋人がじゃれついてくる。

本を読んでいると脇の間から顔を出してこれでは飼い犬。

風呂も一緒ベッドも一緒。

一人で過ごせるのはトイレだけ。



とても悩みに集中できないと彼女は自分のオフィスに「おこもり」をはじめた。

この時期急ぐ仕事はない。

よい機会なのでデータの整理からはじめる。同時に彼女は悩みごとにも集中できる。



初日オフィスに泊まり込むといったときラオ中佐は理由をとうた。

「公私混同とは思うが自室では考え事に集中を欠くんだ。みんなは帰っていいよ。

ラオ中佐は、確かに閣下のプライベイトは思考を整理する方向とは明らかに違うと悟り

何もいわずに帰ろうとした。



「なぁ。ラオ」

明敏なる麗人の提督がいった。

「私が退役したらどうなると思う。」

女性提督の唐突な質問に彼は慣れているがこの手の話は初めてだった。

2秒ほど返事が遅れた。

「それは、困ります。」

「どうして」

彼女の問いは間断がなかった。

「退官なさるおつもりですか」

彼女は、もしもといった。もしもの場合。

分艦隊主任参謀長殿は立ったまましばらく考えてみる。

「そうですね。閣下の場合は影響力が大きい方ですから相当お辞めになると

困ります」

「そう思うか」

デスクにはうんざりするほどのファイル。でも女性提督は事務仕事も

嫌いではない。

「失礼ながら閣下は20代の女性でありながらヤン司令官の幕僚でいらっしゃる。

それだけでも得難い人物であると小官などは思います。そして加えて分艦隊司令官という

地位とそれに伴う人格と知謀そして部下からの信頼もおありです。

下士官からだけでなくヤン司令官も閣下を信頼なさっておいでです。特にヤン司令は

閣下が全艦隊の運動を見れるようになってほしいと思ってらっしゃいますし。

それにお二人の御親交が深いから司令官が1言えば閣下は10から12はお分かり

になる。こうなるとますます得がたい方です。

小官がいうのはなんですが・・・・・・それは少佐とのご結婚でしょうか。」

副官は最後の方は声が小さくなった。

速攻で彼女は返事をした。

「いや気にせんでくれ。ただのざれ言だ。他言するなよ。じゃ。また明日

よろしく。」

ラオが部屋を退出してアッテンボローは更に考え込んでしまった。



これが彼女の深刻な問題だった。


平和なら問題はない。そして彼女はヤンたちに頼られている。

彼女がヤンたちを頼りにするように。

オフィスワークであればよかったのだ。あろうことか前線の「提督」。



いまさらながらこの名札は彼女には荷が重いなと思うときがある。


by りょう





LadyAdmiral