突然ではない予測をしていたプロポーズ。
それでも彼女はなんと返答してよいか困った。答えるとなるとやや複雑な事情が
頭をよぎる。
勿論彼を愛している。
子供を産んでもよいくらいに愛している。
だが結婚となるとこの戦時中に果してよいのかまた振り出しに戻ってしまった。
戦争。これがなければ問題は簡単なんだけれどな。彼女は思う。
「あれ。あんまり嬉しくなさそうだな。想定外の反応だ。指輪が必要だったかな。
それとも花束かシャンペンか・・・・・・。」
男は特別な表情もなくいった。あきらかに問題は指輪ではないと思っているご様子だ。
彼女は食べる手をいったん止めて男の目をみて呟く。
なんか不機嫌そうだなと彼女は思う。そしてそれは現実だった。
「嬉しくないことはないが困っているのも事実なんだ・・・・・・。」
女の言葉に男は少しあきれたように言った。
「わがままだな・・・・・・。いつもどおりマイペースなんだよな。ハニーは。」
男は禁褐色の髪に触れて頭をかいた。
めったにしないが困ったとき彼は頭をかく。めったにしない。
「そういわれても仕方がないけれどまだ結婚というのがピンと来なくてね・・・・・・。」
アッテンボローは少し上目遣いにポプランを見つめる。
やっぱり不機嫌だな・・・・・・。結婚自体がいやじゃないんだけれど。
彼は彼女の眸を見て聞く。
「じゃあ。いつになったらピンとくるわけ。」
「・・・・・・戦争が終わればかな。」
女は自分の髪を撫でてみる。まだ湿ってる。ちゃんと乾かしきっていないから。
戦争が終わればなんてことは言ってもせんがないことのようだけれど彼女はこのくだらない
戦争を終結したかった。それは・・・・・・。
多分ヤン・ウェンリーならば終結させることができる唯一の人間だと信じているからで
彼が指揮をとる以上は自分は仕事を離れたくなかった。
でもこの撃墜王殿にはそんな気持ちはわかりにくいだろうし現にこれは
彼女のわがままといわれてもいいものであった。
考えてみれば彼女や彼が生まれる前150年前から続いている戦争。
オリビエ・ポプランがそんな戦争が終わらないと思っているであろうことはわかるし
結婚を先延ばし、いなしたくないといっているようなものと受けとめられるのは仕方がない。
ここは会話で解決しようと女は思う。
男はいつの間にか背後にまわって女の首筋に唇を当てる。
「あの。飯食ってるんですけど・・・・・・。」
と言うのはやはり無駄である。お構いなしに誘いをかける男。食事中困ると女。
「おれは本気で結婚を前提としてお付き合いしていたんですけれど。
言っただろう。ドクシンシュギノヘンジョウは俺が必ずしますって。あの夜のことを忘れたか。
ダスティ。」
ハニーではなく「ダスティ」と呼ばれるときは実はものすごく真剣モードなのである。
男は女のあらゆるところに口づけを落とす。耳元で小声でささやかれると
女は返事ができなくなってしまう。食事もできなくなってしまう。
彼は執拗に攻めてきて彼女の手から食事も取り上げてやや激しい愛撫。
「ごはん・・・・・・。」
「そんな場合じゃないぞ。」
抱き上げられて寝室へ。「おなかすいてるのに。」
「・・・・・・。空気読めよな。俺がどうしてこうなってるかわかってるだろ。お前。」
あ。ひどい言われ方。
怒ってる。
明らかに彼女の恋人は怒っていると女は思う。
誰も結婚したくないといっていないのに話もさせてくれないほど挑まれてしまう。
だから言いたくなかったんだ・・・・・・。
彼女はこれはおさまるまで待つしかないなと思った。
何度か撃墜されたあと我に戻った女性提督は隣で自分を腕枕してくれている
恋人にささやいた。彼は眠っている。多分寝たふりだ。
「ねえ。オリビエ。怒らないで。」
「・・・・・・怒ってない。」
やっぱり寝たふりだった。うでまくらをはずしてその腕を女は抱え込んでベッドの中で腕を組んだ。
指を絡ませて。
「怒ってる。鼻の穴が広がってるもの。」
彼女は恋人の鼻の頭にキスをした。男は観念したのか笑みをこぼして
恋人にキスをした。
あのね・・・・・・と女。
「結婚してくれるといってくれたときは本当に嬉しかった。私が1兵士だったら迷わずイエスと
言ったと思う・・・・・・。」
男も女も困ったかおして見つめあっている。
「本当はイエスと言いたいし答えはイエス以外の何ものでもない。お前しか好きじゃないし
お前となら生きて生きたいと思う。だから答えはイエスなんだ。」
ブルーになった瞳を見て男は彼女の頬をなでる。
半身を起こして彼女は男の顔を自分の手で挟んだ。
「でもね。私はお前を縛ることができない。私は組織に組みしているし部下もいる。そんな女だ。
だから待ってほしいとも言えないし待ってもらう資格がない・・・・・・だから今は結婚はノーなんだ。
・・・・・・待ってって言いたいけれどそれはわがままでしかないだろ。」
男は女の顔をじっと見つめた。彼に目を合わせないで長いまつげを伏せて
うつむく女。どこまで不器用な女だ。
バカバカとひとのことを言うくせに純粋培養のバカはこいつの方ではないかと男は思う。
「待たせればいいだろう。」
男の言葉に女は息を呑んだ。
彼女の目は普段はスモーキーなブルーグリーンをしている。しかし感情の作用でときに
深い青に変わる。特に女が男を愛情で見つめるとき。
深い宙の色になる。
男はそんな眸を持つ彼女を宇宙で一番の存在だと思えた。
自分も好き者だな。男は思った。
他に女はいくらでもいるのになぜこんな四角四面の女に自分はここまで本気なのか、
呆れてしまう。
呆れてしまうがこれが自分の正直な気持ちなので仕方がない。
女の体を引き寄せて額にくちづけをする。
「そんなのわがままじゃないか。・・・・・・悪いよ。」
「じゃあ聞くが俺に待ってもらうのは迷惑なのか。いやなのか。俺が嫌いか。」
ポプランは真剣な面持ちで腕の中の女に尋ねる。
「ううん。だいすき。」
「じゃあ待つ。どうせお前戦争を終わらせるようにしたいんだろ。でも言っておくが
本当に妊娠したら軍はやめて結婚だぞ。地上勤務だったら赦せるが艦隊運動は母体に悪いし
俺だって女と子供を養う甲斐性はある。減給はあと2ヶ月食らっているが。それでもプロポーズの
答えはまだ、ノーなのかな。ハニー。」
ここまで言われて断れる女はいないと思う。
ダスティ・アッテンボローはこくんと頷き。
「ううん。イエス。お前と結婚したい。絶対。子供ができれば・・・・・・多分仕事やめていいと思う。
つつましくていいからお前の給料で暮らしたいな。私は専業主婦になる。」
よしよしと男は女の答えに満足して彼女の頭を撫でる。
「昔のうたに本当に一人の女を愛することは彼女の瞳の中に自分のこどもの姿を見る、
とかって文句があった。あれが好きでな・・・・・・。お前の眸の中に自分たちの子供が
見えるときがある。」
また男は彼女を腕枕にして話を始めた。
「・・・・・・でも、中には、子供に恵まれない女性もいるよ。私だってもしかしたら
わからないよ。身ごもらないかもしれない。」
「こればかりは授かりものだからな。俺も今までにさまざまな女と寝てきたけれど
妊娠したかもしれなかった女はいなかったから案外俺種ないかも。」
「でもそれは大きな問題じゃないよ。オリビエ。私には。」
「そうなのか。」
男が言うと女は彼にキスをひとつ。
「勿論。今はお前が側にいてくれたら私は幸せ。大好き。」
実はこの男は彼女の無防備な「大好き」にも弱い。
「愛してる」と情交の中でささやかれることが多いが、「大好き」は
ダスティ・アッテンボローが本当に「必要で何もかも赦せる」というくらいすきということ。
手放しで彼女が男を受け入れている気持ちを表す言葉のようである。
そしてこの笑顔。
かわいいなとつい思う男。
そんな彼女のほうはちょっと考えた。
この男の子供がほしいと思った。もしも授かることができるならば。
それは当然この男が好きだから。
「そもそもおれがわがままなお嬢さんにほれてしまったんだし気長に待つさ。
お前は待つ価値あるからな。」
胸がきゅうんになるアッテンボロー。
どうしたと男が聞くと女は「・・・・・・ドキドキした。」と答え。
「惚れ直した?」
「うん。すごく好き。」
女は耳まで真っ赤になって彼に寄り添った。これだけ好きな男に大事にされて陥落しない女は
いないだろう。一つ目に彼女は自分の恋人のかわいさに恋焦がれていたし二つ目には
彼の意外な寛容さに甘えていた。
「つーことで今夜からスキンなしで子供を作ろうぜ。ハニー。」
かわいい悪魔が囁くものだから彼女は言った。
「どうして急展開するわけさ。おあずけだよ。」
ポプランは唇を尖らせた。
「子供、作ろうよ。トライしようぜ。じゃなきゃ産まれるものも産まれないぜ。」
「子供はほしい。でも今はまだだめ。もう少し戦局がはっきりしないと。まだだめ。」
「けち。」
けちとかそういう問題じゃない。
「待つと言ったじゃないか。」
「じゃあ普通にエッチしよっか。」
まだたりないのかーと頭痛がする女性提督であった。
「たりないの?」
「ぜんぜん足りない。」
いまさらながら自分が愛した男の精力におののくことが彼女はある。
・・・・・・ウェディング・ベルよりもベビーの方が先なのかも知れない。
戦争が終わればなんの迷いもなくこの男の子供を産むだろう。
自分には最高の連れ合いだと彼女は思う。
この後二人はあの時結婚していればよかったと思う日が来る。
いつまでも時は流れていないと信じていたのかも知れない。
まだ若い二人・・・・・・。
Have you ever really loved a women?
by りょう
|