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Don’t you see!・2



男がベッドで背中を向けてスキンをはずす姿って、滑稽だよな・・・。

枕に顔をうずめつつも男の発達した肩甲骨や綺麗な背中に見とれながら、

アッテンボローは考えた。




綺麗な背中であればあるほど、滑稽に見えるものだと彼女は思う。

女は実は男の背中も好きなのだ。






その滑稽さが、かわいいと思えるときもある。

いとおしく思えることも。

特にオリビエ・ポプランはかわいいとアッテンボローは常々思っている。

かわいい男って、なにをさせてもかわいいよなぁ、などこんな寒い空気の中でも

考えられる彼女であった。




そう、結局その夜も変わらず彼はやってきてたいして会話もせずに、ことに臨んだ。

無言のまま彼女を抱いた。拒めたかもしれなかったけれど女はそれはしたくなかった。

女は男を愛していたから。





情事が終わると男は無愛想に無口なまま背中を向ける。

避妊具だけはつけてくれるけれど愛の言葉も愛情のかけらもない欲望だけの情交。

こんなふうに無言で三日以上二人は夜を明かしている。

はじめのうちはアッテンボローは何が彼を怒らせているのかわからないで無視した。

つい先日までは2人でいろいろと笑って話していたのに、ある日突然男は不機嫌な面持ちで

彼女の部屋を訪れては何も言わずに口付けをして彼女を求めた。

何かわけを言ってほしいと女が懇願しても男は何も言わない。

時々、恐ろしく鋭い視線を向けられることがある。

でも男は部屋に来なくなったわけではないし女を求める貪欲さは以前より増している気がする。

よく彼女は自制していると思った。いつもの恋ならばもう彼女は男を追い返している。

でも抱かれる。

男を愛しているからだ。

それでも。






潮時かもな。






アッテンボローはその背中に言った。


「あきたんなら、あきたっていえばいいんだよ。オリビエ」

背中は返事をしない。






「怒っているとか、不満が有れば言えばすむことだろう。この数日ろくにお前の声も聞かない。

嫌いになったなら言えばいいんだ。そんなことは仕方がないことだ。あきたならあきたで

それもまた仕方がない。でも、私もこれで忙しい身ではあるし、あきて顔も見たくないなら

さっさと服きて帰ってくれ。お前のセックスフレンドまでしている時間はない」





アッテンボローは自分の声が冷静に聞こえるように努力した。

それは成功した。



ひとの気持ちはわからない。移り変わっても、これはもう仕方がない。

彼女はそう言い聞かして、こんな日のことも考えて、この男と関係を結んだ。

ずっと自分を愛してくれればうれしいと思ったけれどままならぬのは恋。

男を自由にする準備はいつでもしてきたつもりだし、

彼女はいつでも潔い女でありたかった。






彼女はオリビエ・ポプランを愛していた。

そのままのオリビエ・ポプランを受け容れていた。

ほかの女に恋をしても多分、男を愛していた・・・。







彼女は彼女で本気で恋をしていた。




男は、顔をこちらに向けないまま、気だるそうに服をきた。いつもの快活さがこの数日

なくなっている。それはきっと、いいことではないとアッテンボローは枕に顔をうずめたまま

男が服装を整えるのをじっと見ていた。短い付き合いだったな。

彼女は後悔はしていない。

きっとこの背中を忘れない。

ほかのどの男と恋をしてもこの背中を忘れないだろうと彼女は思う。








「あなたは、他に好きな男がいたんだな」

怒りと苛立ちと、わずかな悲しみの成分が含まれた彼の声にアッテンボローは少し驚く。

なぜ自分が怒られなければならないか。

枕から顔を上げシーツを胸元まで引き上げて体を起こした彼女は、はぁ?とこの場面にふさわしくない

とぼけた返事をしてしまった。





「25迄に3人の男と付き合った。それをお前が攻める権利はないだろ。」






ポプランは、ベッドの中のアッテンボローをにらみつけた。マラカイトを溶かした

きらめく眸が彼女の胸を貫く。まるで雷のようだ。






「過去はどうでもいい。今。あなた、ヤン・ウェンリーが本命なんでしょ」


















・・・おいおい。やめてくれよ、ベイビー、とアッテンボローは心の中で呟いた。



私のどこを見ているのだ?



彼女はあきれた。同時に今までの緊張感が抜けてもう少し冷静な彼女の思考に戻れた。







「あのなぁ。ヤン司令官は、上官で、私の先輩だよ?しかも、ヤン先輩には

グリーンヒル大尉がいるじゃないか。なんでそういう論理になるわけ?」

「最近、ヤン司令官とあなた、ずっと一緒にいるな」





要塞司令官と艦隊司令官は、連絡が密であらねばならない。イゼルローン要塞は

もとは帝国軍の作ったものだから、同盟軍が入ってきてまだまだ手入れをしないと

普通に暮らすのもままならない。これを戦略レベルで使うには手間隙かかる。

アッテンボローの艦隊だって、ほかの提督の艦隊だってまだまだ幼稚園のレベルから

抜け出していない。

だから、ヤン・ウェンリーと一緒にいることが多くなるのだと、彼女は言いたいが黙っている。









「お互い、目線がやたらとあってるってこと、最近気がついた。おれも大間抜けだ」






本当に間抜けだ。

といいたいところだが、呆れてものがいえないレディ・アドミラルである。









「おれこそただのセックスフレンド、ってことじゃないですか。だからそういう態度で接しているんですよ。

ほかの男を好きなくせによくまぁ、おれにだかれているよな。あなた。」

ほれてもいないのに黙って抱かれているわけがないだろうに。

ばかな男だ。

と彼女は思う。

しかし、吹きだしそうになるのだがさすが20代で閣下と呼ばれる地位の人物である。

アッテンボローは無表情だったらしい。(後日談)

しかも、彼女は、





『この、ばかっぷりが、かわいいじゃないか』

など思っているのだ。

悪い女である。






「なんだ、結構、悋気持ちなんだな。お前。セックスフレンドね。

それが最近のお前の荒れている理由か。なるほど、なるほど・・・。

結構なことだ。」

アッテンボローは、はったりが得意だ。

逃げるのも得意だが、はったりをかませたらこの銀河で彼女の右に出るものはいない。

左や前にいるかも知れないが。股の間にもいない。






すがって弁解するなど、彼女の性格じゃないしさて、どうしようかと考える。

結構相手がカッカきているので、彼女は冷静だった。

なんてかわいい小僧。

アッテンボローは無表情であったが、長い髪をしどけなくかきあげて

ふぅとちいさなため息をついた。

抱きしめてキスしてやりたいところだが、

ちょっとばかりやきもちを妬かれる心地よさに浸りたいと思う意地悪な女だった。




レディキラーから「俺だけを愛して」といわれているようなものだ。

あのオリビエ・ポプランから一人の女にここまで執着されているのかと思うと

彼女はあきれつつも女として、悦びを感じる。

「生憎、おれは少々しつこいたちですからしばらくはセックスフレンドとして

ここに参上させてもらいます。あなたに飽きたわけじゃないし、いっそ飽きれたら・・・

くそ!」

「いうことはそれだけか。お前さんはいったい私の何を見ているんだろうな。

まぁ好きにするがいいさ。」

彼女は男の目を覗き込んで挑発的に言い放った。

「かわいいな。オリビエ。」

男はそんな女に言い返す言葉もなく服装を整えていった。

「・・・今夜は帰ることにする。」








彼は珍しいことに夜中に帰っていった。





アッテンボローは、ベッドから起きてシャワーを浴びデスクに向かった。

男が喜んで買ってきたシルクのガウンを着てコンピュータの電源を入れた。

アプリコットシルクのガウンは2人のおそろいで、これを買ってきたときの男の無邪気な

まぶしい笑顔を思い出す。

色恋のシーンにちょっとしたシルクは必要だと。

男は夏のまばゆい太陽のように麗しい微笑を彼女に向けたものだ。

孔雀石のような眸が美しかった。







ともかく彼女に時間ができた。

これで今夜には、あのこともなんとかできよう・・・。

彼女はモニタを見ながら、すばやいタッチタイピングで何かを入力し始めた。






「まったく。南極2号程度では割に合わない。やれやれ。もっと先輩をいじめておくんだった。」

彼女は結局眠らないまま、早朝きちんと衣服を整えてヤンのオフィスに出頭した。











by りょう





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LadyAdmiral