Don’t you see!・3





「よくもやってくれたな。アッテンボロー。」





要塞司令官閣下のオフィスで朝っぱらから普段は温厚な先輩ににらまれている。

まぁ、言わせるだけ言わそう。

と彼女は考える。言いたいことはあるだろう。種は十分まいたのだから。

本当はアッテンボローにも言いたいことは山ほどある。



「あのね。グリーンヒル大尉に、妙なことを吹き込まないでくれないか?彼女からあんな質問をされて

その、私はとても困ったよ。いたずらにもほどがあるぞ。お前さんは一応将官なんだし言葉をみだりに

乱用するくせからそろそろ卒業しなさい。困った奴だよ。お前。」

「で、南極2号について、彼女に講釈したんですか?」

ヤンはあわてて副官が来ていないこととユリアンがいないことを確かめて

「するわけないだろう。妙齢のレディにはいえないよ」

といった。




「さぞ私が随分困っただろうとお前、笑っているだろう」

黒髪の司令官は苦々しい顔でいった。

「顔に出てますか」

彼女はしれっといってのけた。時々ヤンを困らせたくなるのはやはり甘えなのかもしれない。

「腹の中で思っていれば、おなじことだよ。アッテンボロー。忙しいのはわかるがこういう

ストレスの発散は悪趣味だ」

やれやれ、とヤンはアッテンボローの提出した書類に目を落とし、じっくり眺める。

「やっとできたか。今後の駐留艦隊の演習予定と、編成表。お前にしてはえらく

今回は時間を食ったね。これを私は待っていたんだ。これがいつ必要になるかひやひやしたよ。

恋人と仲が良いのは良いことだけれど・・・

・・・いや、こんなことはお前が一番よくわかっているな。私が口を出すこともないだろう。」






そう。




これが、あのことなのだ。

この書類の提出をヤンはいつになくせっついてきた。






というのはこの時点でデスクワークの達人アレックス・キャゼルヌはおらずヤンが

当然要塞の表も裏も処理しなければならなかった。

この要塞に人が住めるように手を入れる手順も準備もキャゼルヌが来るまではそういうことに

才能がない・・・というよりもこういう方面の力は本人いわくエル・ファシルで使い切ってしまったそうだが。

面倒でもキャゼルヌが来るまではヤンがしなければならなかった。

ぬくぬくデスクワークの達人が来るのを待っていられるご身分ではない。

ほかならぬ彼が攻略し落とした要塞なのだから。

居住レベル、産業レベル、そして戦略レベルに近づけることこそ要塞司令官の仕事。

艦隊指令に関してはおのおのの提督にまかせっきり。

イゼルローン要塞の物資に関してはフレデリカがこと細かくリストを作成して軍上層部からヤンに

つまらないことでいじめられないように水も漏らさぬ手配をしている。

フレデリカ・グリーンヒルは軍部がやたらにヤンを頼るくせに足を引っ張るところがあるのを知っているので

要塞物資の横流し疑惑がヤンにかからぬように心を砕いていた。





要するに肝心のヤン・ウェンリーが艦隊の云々を指示できる状態ではなかった。





そしていつもならさっさと書類作成をして提出しているはずのアッテンボローは、

ヤンが思っていたより3日は遅く宿題を提出した。

こんな一日でも早い情報が欲しいときに。

ヤンには今帝国軍ラインハルト・フォン・ローエングラム侯の出方をうかがっている事態である。

いつでも艦隊を整えておきたかった。いつでも戦闘配備につけれるような状態を

作り上げてほしいと望んでいた時期であった。

勿論陸戦部隊の統率、訓練はシェーンコップ准将が滞りなくすすめてくれている。




「これからもお前は手伝ってくれよ。私とグリーンヒル大尉だけで全てが賄えるとは夢にも思わんでくれ。

キャゼルヌがくれば私も少し楽ができるのだが・・・」

ヤンはため息をついた。








アッテンボローは、







「あなたの

『書類よこせ、よこせ、よこさないと、私は泣いてしまうぞ、いや、もういっそのこと仕事なんか

やめてやるぞ。第一もとから軍人になりたくて軍に入ったわけじゃない。辞表を出してこんなややこしい

因業な仕事なんかやめてやる。あぁ、でも年金がもらえないのはくやしい・・・とにかく、はやく書類を作って

私を手伝ってくれ、じゃないと私はなくぞ。アッテンボロー的』視線が私の恋人のほんのコンマ単位の

理性を崩壊させているんです」

とも言いたかったのだが、やめた。







このひとに色事の話を持ち込んでも仕方がない。

そう思い直して、ヤンの部屋をあとにした。

いつかまた南極2号ねたはフレデリカに振ってやろうと思う。

悪気は全くない。


















女性提督は空戦隊のドッグへいってみた。

本を読んでいるコーネフが目に付いたので現在すねている彼女の男の居場所を尋ねた。

見事なストライドで歩いてくる女性提督に気づいてコーネフは敬礼をした。

彼女も気さくな笑顔で敬礼をした。

もうポプランと交際を始めてからはコーネフは彼女にとってもよき友人であったので

仮面のように怜悧な表情をつき合わさなくてもよい。コーネフは実際によい人物だと

彼女は思っていた。





「さっきまで、メカニックともめてました。最近やたら荒れてるんで困りますよ。提督」

「私が責任とれるところまではとる。前からバカだ、バカだと思っていたがあそこまで来たら、

天才的なバカだ。勘違いにもほどがある」

バカが三回続いたな。

コーネフがそれとなく尋ねた。

「確かに提督のおっしゃる通りあいつは大ばか者ですけれど、いったいどうしたのですか?」

「あいつ、私が他の男を好きだと勘違いしているんだ」

いまいましげにアッテンボローは唇をかんだ。

「・・・本当の勘違いですか?ポプランは提督が愛情を注ぐ価値がある男かわかりませんよ」

アッテンボローは切れ長の眸をクラブの撃墜王に向けた。

「恋愛経験が少ないからといって、バカにしないでほしい。 自分がどんな男を愛しているかぐらいは

私だってしっているさ。第一ほれてもいない男に私は毎晩、書類山積みの仕事を邪魔されながら

何度も抱かれるほど慈愛に満ちたマドンナじゃないぞ。私だって好きだからこそ相手している。

あのバカ、他の男と目線があって見つめあってるみたいなことをいっていたが冗談にもほどがある。

あれはね、あのバカ相手にしている間に私が遅滞させてしまった書類のせいで上官からそれはそれは

痛い視線を毎日浴びまくっていたんだ。一点集中砲火さ。仕事を遅らせたのは私の責任だから

あれには関係ない。 だがとんだバカ男に誤解されてやきもちを妬かれて困ってるんだ。全く、あの馬鹿が」





コーネフは、相変わらず、はっきりものを言うひとだと感心していた。

聞いていてうっとりするほど、かっこいいなと思う。














今日も一日一回のよいことをしようか。
















「じゃぁ、卑怯にもここに隠れて聞いている根性なしを進呈しましょう。今なら手数料は要りません。」

彼はクラブのスパルタ二アンのコクピットの中からオリビエ・ポプランを引きずり出した。

「御見事」

アッテンボローは言った。

「さぁ、今の話は全部聞いてたんだろう。一人で勝手に悋気を起こして。

こっちにこい。説教をしてやる。」

猫の子供のように襟首をコーネフにつままれている情けない恋人に

アッテンボローはウィンクをした。





「こいつをもらっていいのかな。コーネフ」

「ええ。差し上げます。」





全く。

バカもここまで来ればたいしたものだ。

アッテンボローは自分とたいして背の高さの違わない恋人に言った。



「もつべきものは、よき友人だな。ポプラン」






by りょう









LadyAdmiral