「宇宙はいいなぁ.。胸のつっかえがなくなったきもちがする。」
「なくなってもらわんと困る。で、撃墜王殿。不機嫌は治ったのか?」
女性提督は3センチだけ身長が高い恋人の眸を覗き込んで尋ねた。
「もう、すっかり」
朗らかな男の笑みを見てお調子ものめとアッテンボローは微笑んだ。
彼女のそばかすがとても男にはかわいく思えた。
彼と、彼女の目の前には数多の星の海が広がっている。
軍港を見下ろす展望ゾーンでは宙の星星があざやかに見える。
2人ともこの場所が好きだった。
いつもの陽気なオリビエ・ポプランを見て、アッテンボローは目を細めた。
「私はな、オリビエ」
アッテンボローがファーストネイムで彼の名前を呼ぶのは勤務中はない。
なかった。
「25までの間に3人の男を好きになったよ。今は3人とも死んでいる。そういう世界で
生きているんだ。私たちは」
彼は隣の彼女の肩に手をかけた。
「喧嘩は嫌いじゃないさ。でもこういう喧嘩はあまりいいものじゃない。
どちらがいつ死ぬかわからない。それならせめて好きなもの同士仲良くしたほうが
いいと思わないか?私はお前が好きなんだよ。オリビエ・ポプラン。
何度もいっていると思うけれど。」
彼は彼女を優しく引き寄せる。彼女はそれをいやがらなかった。
周りにギャラリーもいないこともあっただろうしアッテンボローも実際
心のない抱擁に寂寥感を覚えていた。
男が女をいつもの愛情で包んでくれるのは彼女の、「幸せ」のうちのひとつにもなっていた。
「変わった趣味ですね。提督はおれのどこが気に入ったんです?」
「さぁな。気楽だし、安心する。バカでせこくて、情けない。かわいいよ。」
「えらいいわれ方だな。ほめてるつもりですか。」
彼の方は、やや、呆れて呟いた。
「ほめてるんだよ。これでも。」
彼女は彼の腕の中で安心したように甘えた。
彼の前にいると常に自分が「一人の女性」でしかなくて
でもそれがまた幸せに感じられる。
「ヤン・ウェンリーという人物の、ものの考え方は私は好きだ。だからあの人と仕事をするのは
面白い。けれど異性としてはあまりに手がかかりすぎて私はやりたいことをやれなくなって
しまうと思う。
私は面倒見が悪いほうじゃない自分を知っているからね」
やれやれ、誰がレディ・キラーだ?
ヤン・ウェンリーの名前を出した途端、手に力がはいったじゃないか。
こんなやきもち焼きとは。
かわいいじゃないかと思う彼女。
「お前は違う。そうだな・・・きっとお前は違うと思う。私がどんな私でも、
結局お前は私が好きだろう?」
あまりにストレートな物言いにポプランは答えを一瞬遅らせた。
「そういう提督はどうなんですか?」
「どう転んでも、オリビエ・ポプランはオリビエ・ポプランだろうし。私は今のところ好きだよ。
そうだな・・・かなり気に入っている。でも無言でセックスするのは勘弁してくれ。なんだか寂しいから。」
ポプランがはじめていつもの笑顔を取り戻していった。
「了解です。俺の提督。」
彼はいつものように彼女にキスをして言った。
「ごちそうさまでした。提督」
「オリビエ。」
何だと男が言った。彼の頭に載っているベレーを直しながら彼女は言った。
「ちゃんと私を見ていてくれ。そうすればなにも誤解する余地なんかないんだから。」
女は美しい唇を彼に重ねた。
仲直りした二人。
しかし、新年のお祭りに行こうとしたアッテンボローとポプランの間で
またもや一騒動が起こっていた。
「なんだ?お前が私のスカートがはいている姿が見たいみたいというから
このくそ忙しい中わざわざこの日のために買ったドレスだぞ!文句あるのか。」
彼女が選んだのはフレデリカと二人で選んだもので露出度が高いわけでもなく
色も控えめに淡いシャンパン色の膝丈のウールのドレス。前スリット入り。
どうも前スリットがいけない理由らしい。
「だめ。その姿では部屋から出さない。」
男はそれほど力を入れていないようだが抱きしめられて女は身動きが全く取れない。
たった3センチの違いで・・・。と彼女は思う。
「何でだ?このバカ。」
「脚が見えすぎる。こんなかわいい女を祭りになんかにだしたらイゼルローンの男どもが
狼の群れになっちまうだろ。見ていいのはおれだけ。」
あまりの低次元な発想と発言に女性提督は大いにあきれて文句を言った。
「お前、本当にせこいぞ?私だって幹部なんだから司令官のスピーチくらい聞かないと
いけないんだ。せっかく化粧もしたんだぞ。行かないとあとでムライのおっさんになにを
いわれるかわからないんだからな。それでなくてもお小言ばかりなのに。」
一応分艦隊の指令を任されている幕僚の一人としてアッテンボローは形式であれ
司令官のスピーチを聞く。
これが彼女の給料のうち。
「何が何でも絶対だめ。なぁにヤン司令官殿のスピーチはものの3秒でおわるさ。」
「押し倒すなー!行かせろー!」
「はいはい。別の意味でいってもらいましょう。」
この男、改善だの、改良だの、できないだろうな・・・・・・。
レディ・アドミラルはそう思った。
どっちがより、相手にほれているのか。
多分自分かも知れないと彼女は感じた。
なぜなら、こういう度し難い恋人が好きで好きでたまらないから。
一番度し難いのは彼女かも知れない。
ヤンのスピーチは2秒で終わったし二人がどこで何をしていたかなどあほらしくて
誰も話題にはもちだすことはなかった。
by りょう
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