SAKURAドロップス・3




こんばんは。今日はお世話になりますと女性提督が連れて帰ってきたのは要塞のもう1人の

美人フレデリカ・グリーンヒルである。2月13日の夜のこと。「おう。フレデリカ姫。いらっしゃって。」

「今夜はありがとうございます。少佐も提督もプライベイトタイムにお邪魔してすみません。」



身長165センチのフレデリカは頭を下げた。制服姿ではなく女の子が着るような着丈の短いポロシャツ

にコートを羽織って、クロップドパンツをはいている。「制服はここに。」と大きな鞄を見せて微笑んだ。



「うーん。かわいいなあ。若いっていうのはそれだけで光るな。綺麗だね。ミス・グリーンヒル」と

ポプランは誉めた。



アッテンボローはま、いいかと見逃してやり「食事にしようよ。」といって私室にはいって楽な部屋着に

着替えた。ポプランのネルのシャツにスキニーをはいてでてきた。



「久しぶりですね。アッテンボロー提督のお宅に来るのも。なんだかうれしくって。」

と22歳のフレデリカは乙女である。女性士官がそもそもいないからアッテンボローと彼女は

大の仲良しである。

「そうだね。よくとまりっこしたのに。なんだかさみしいな。」

「素敵な恋人さんがいらっしゃるんですから仕方ありませんわ。」

と彼女は言う。

「交際が同棲とは思わなかった。」とアッテンボロー。

「プロポーズしてもいやといってるのはあなたでしょう。」とポプランはいう。

そんな二人をフレデリカはよいものだと思って眺めていた。



鮭のクリームシチュー、きのこをレモン風味で蒸したもの、そら豆のムース、チキンをガーリックでグリルした

もの。これに自家製のパン。ここまでが女性陣で少佐には牛レバーグリルとオムライスがつく。



「わあ。ご馳走ですね。素敵。」

とフレデリカは席に着いた。



「いつも思うんですけれど少佐はたくさんお食べになってもちっとも太らないんですね。うらやましいです。」

こいつは基礎代謝が高いからねとアッテンボロー。

「いつもチョコチョコ動いてないといけない人種みたいでまだ肋骨のコルセットもはずせないのに。」

アッテンボローは席に着いて隣の男を軽くにらんだ。

「もう骨は治ってるのに軍医がはずすなというし仕方ないからしてる。おれの肉体美を損なうんだよな。

この無粋なコルセット。」

フレデリカは笑った。



三人で仲良く食事を済ませるとアッテンボローはさっさと食器を洗い出した。フレデリカも手伝うと

隣に立つ。「食器洗い機のほうがコストや落ち方なんかを考えれば有効だとうちのは言うんだけど

やっぱり自分で洗うほうが好きだな。」

アッテンボローはいう。

「私もですよ。お皿洗いはだいすきなんです。・・・・・・この前ね。」とフレデリカは話し始めた。



10日にユリアン少年に料理のレシピを20種類ほどメモにしてもらったのだという。

「いつでもいいからというとユリアン、目の前でさらさらと20種類も作り方のメモを書いてくれたんです。

多分これを練習すれば・・・・・・いろいろといいかなと思って昨日作ってみました。」

ブラシでアッテンボローが皿を丹念に磨いてフレデリカはそれをすすいでいく。ついでに少佐もすすぎ

終わった皿を拭いていく。

「ユリアンが作る飯は当然ヤン・ウェンリーの好物だろうしな。的を得てるな。姫。」

ポプランにいわれて頬を赤くするフレデリカ。「・・・・・・でもやっぱり失敗したんです。」

アッテンボローはごくさりげなく何をつくったのと聞いた。

「カントリー風オムレツを・・・・・・青豆の濃いスープもですけれど、卵をこがして。スープは

味が出なくて。フライパンがだめになりました。閣下がお好きなメニューだそうです。私料理の

神様に嫌われていますね。」



ま、最初は誰でも鍋やフライパンをいくつかだめにしながら覚えるんだよとアッテンボローはグラスの中の

曇りを気にして磨いた。

「提督はでも10歳のまでにお菓子と卵料理はできたのでしょ。」

「うん。うちは女系家族でできないと馬鹿にされるんだ。2歳上のヴィッキーなんぞ腹立つことをいう。

それで母親が教えてくれた。一番上の姉も。そういう環境だったからだよ。あなたはお母様がお体が

弱くて療養なさっておいでだったし。仕方ないよ。」

ポプランが口を挟んだ。

「姫のお母上はさぞ綺麗なひとだったでしょ。」

いい加減にふくとアッテンボローがあとでやり直しをするのでポプランも会話をしつつ皿を拭くのに

熱心だった。



「ええ。娘から見ても綺麗なひとでした。・・・・・・小さいころはいろいろ料理もつくってくれましたけれど

病気がちになってしまったので・・・・・・。父も忙しくしていたんでエル・ファシルの母方の伯母のもとで

療養していたんです。」

そこで英雄とであったというロマンスか。

アッテンボローは皿洗いの結果にご満悦。



ポプランはそんなにヤン・ウェンリーはかっこよかったのかと聞く。彼は噂でしかヤンの英雄ぶりは

知らない。



「大人でまともだったのは閣下だけでした。あとはみんな帝国の来襲にやけになったり慌てたりで

冷静に指揮をしていたのは21歳の中尉さんでした。・・・・・・中尉クラスで民間人を安心させ誘導して

帝国軍の攻撃をかわすなんてことできるでしょうか。できないと思いますわ。・・・・・・本当今と変わらない

学生さんという感じの閣下でしたけれど、とても素敵でした。」



フレデリカの話に誇張がないのはわかるからポプランもアッテンボローも顔を見合わせて微笑んだ。

「それじゃ恋に落ちるのも仕方がないよね。フレデリカ。」

アッテンボローがいうと「その、恋というか尊敬と信頼です。絶対的な。」とフレデリカはいう。



じゃあ。その尊敬と信頼の念をこめて今からチョコレートをつくろっかとアッテンボローはこえを

かけた。

はいとフレデリカは答えた。ポプランはそういうのが恋なんだよなと心で思って。



「まずは司令部、空戦隊、薔薇の騎士連隊、分艦隊に作るウィークエンドショコラをばばっと作ろう。」

そんなこと、ばばっとできないですとフレデリカは引いたが、あれこれ指図を受けながら作業が始まった。



「バターをゆせんでとかしてね。その鍋に水を張って湯を沸かして。そこのボウルにバターを入れて

湯がある程度沸いたらボールを入れるんだよ。沸騰させないうちに火は止めてね。」

ゆせんというものはそういうものだろとポプランは思っているが。



はいっとフレデリカ。

・・・・・・すごいレベルだなとポプランは思った。


その合間にアッテンボローはハンドミキサーを使わず華麗なる手さばきで

ばばっと卵と卵黄と上白糖を混ぜている。それにまたココアやオレンジの皮など入れて本当に

ばばっと当人は作っている。「バター溶けてるね。よしよし。」といってフレデリカやポプランを放置して

あっという間に型に流し込んでオーブンにほりこんだ。



「キッチンタイマー40分から50分。・・・・・・45分でセットしてくれる。」

あっけにとられたけれどフレデリカはタイマーをセットした。ウィークエンドに関していえば

フレデリカは今のところゆせんとタイマーセットしかしていない。

「これからいやというほどチョコレートを刻むからね。」

アッテンボローはウィンクした。まずは彼女がざくざくと早業のようにチョコレートを細かく包丁で刻む。

「今夜はチョコレートのにおいが部屋に充満するな。」

・・・・・・て、手際がよすぎます。提督とフレデリカはつい眺めてみる。



「チョコレートが細かくなってたらそれでいいんだ。見栄えを気にするのはこの段階じゃないし。」

ざっかざっかとチョコを刻んでボールに分けている。

彼女は生クリームを鍋に入れ沸騰させた。「今日は手首がつりそうだな。」といいながら

またざかざかとミキサーを使わないで混ぜる。

「ハンドミキサー使えばいいじゃん。ハニー。」とポプラン。

「うん。そうしよ。数が多いからな。」

確かに彼女が生クリームを混ぜている姿は愛らしいがさっきから見ていると右手の手首が

きつそうだ。彼女は手料理が好きであまり普段つかわないハンドミキサーを出して洗って

うーんと使い始めた。



「らくちんだな。」

「馬鹿と鋏は使いようだぜ。ハニー。」

「だな。手首がらくだ。」



義理チョコに手間をかけたくない女性提督である。



次は「じゃあこの間でヤン提督とユリアンにおくる紅茶トリュフを作ろうね。フレデリカ。」

チャーミングな笑みでアッテンボローは友人に言った。

あまりにめまぐるしい状況であったがフレデリカははいっと思わず敬礼をした。

ポプランはキッチンに椅子をもってきて二人を眺めている。



麗しい光景だよなと微笑む少佐である。






「まずはココア。あけて振るいにかけよう。ここに落とすんだよ。私は口出しだけだからね、フレデリカ。」

「はい。大丈夫です。」フレデリカはふるいにかけたココアをバットにおとす。

まるで今度はスローモーションをみているのかとポプランは思うほど見事な手際の悪さである。

普段のミス・グリーンヒルの快活さは霧消しておどおどと粉をふるってあちこちにココアを落とす

女性の姿。

・・・・・・笑ったりからかったりしたら絶対に赦さないからとアッテンボローから釘を刺されている

ポプランは、笑うとかのレベルではないなと思う。

「ごめんなさい。周りにたくさんこぼしました。」

「うん。あとで拭くからバットに落とすことに集中。」

「はい。」



アッテンボローはまるでフレデリカの姉である。

次は市販のスポンジケーキを細かくちぎらせる。これはあくまで「フレデリカ・グリーンヒル」から

「ヤン・ウェンリー」に対する贈り物だからアッテンボローはあえてスポンジケーキを焼かなか

った。

「次は私がさっきやったみたいにチョコレートを包丁で刻むんだ。」

アッテンボローはフレデリカに包丁を渡した。・・・・・・ポプランはこわいなと思ってみている。



がっくん。がっくん。・・・・・・・ごつっ。

フレデリカは力がないわけではないがおそらく力点だとか支点、作用点が包丁では理解

できていない様子。

「チョコレート硬いですね。でもがんばります。」

うんうんと隣でアッテンボローは見ている。幸いに指を切らぬように左手は添えられてある様子。



激闘20分が経過して。



「削れました。」



明らかにアッテンボローが削ったものより形はまずい。けれどどうせとかすのだからこの程度は問題

なかろうと。ちょっと均一性にかけるのが恐いけれど。

「じゃ次はね。そのチョコレートをボウルに入れて。アルーシャの茶葉2グラム加えるの。

さっきのようにゆせん。バターをとかしただろ。あれを今度コレでするんだよ。」

「はいっ。」



フレデリカは削ったチョコレートを触ろうとしたが「ちょっと待って。かなり手が熱を持っているからこの

氷水で手を冷やして。で、拭く。はいいいよ。」

フレデリカは冷たい手でチョコレートをボウルに入れる。

紅茶の扱いには最近ユリアンの薫陶が生かされ危うさはない。きっちり2グラムを入れた。

「このオレンジエッセンスを茶さじ半分入れてね。」

よい香りのする小瓶を渡されフレデリカはそれを入れる。

ゆせんはさっきしたから彼女は何とか何も言われずに「のろのろ」と行っていた。

「お湯の温度は55度キープ。温度計。さしているといいよ。」

温度計を見ながら湯の温度の調整をするフレデリカである。

あんまり熱を高くすると風味が飛ぶのでゆせんの湯は熱くならぬようにしている。



ヤン・ウェンリーは罪な男だよなとポプランは思いつつ眺めている。ともかく指を切らなくてよかった。



アッテンボローはごむべらをフレデリカに持たせてボウルのチョコレートが綺麗に溶けているか

見せている。それくらいは手伝ってもよかろうとアッテンボローは思った。

「うん。チョコが溶けてきたでしょ。だまができないように気をつけて。さっきちぎったスポンジをあとで

入れるからね。うんいいだろう。鍋の火を切って。ボウルを持って。そうそう。ここにおろす。じゃ、

スポンジ入れて。」

フレデリカはちぎったスポンジをいわれたとおり入れる。



はきはきしたあの綺麗な声がでないのは余裕がないのかなとポプランは思う。

アッテンボローは気にしていない。



「ごむべらでくずしていくんだよ。ボウルを抱えて。うん。つぶすんじゃないんだ。そうだなちょっと

スポンジだと食べたときにわかる程度にならして行くんだ。」

「0.2ミリ程度でしょうか。」

・・・・・・適当でというのが苦手なフレデリカ・グリーンヒルである。

「うん。いいよ。そんな感じ。均一にね。」

「はい。均一ですね。」



かわいいなとポプランは思う。もちろん一番彼にとってかわいいのは女性提督であるが姫の懸命さが

心を洗う。こういう光景は幸せだよなと彼は見つめている。

「よし。半分以上は終わったよ。フレデリカ。このチョコレートをね。20個丸めよう。大きさは一個当たり

直径1.8センチほど。」

アッテンボローはウィンクしていう。

「まあ。本当にトリュフって感じになりますね。がんばらなくちゃ。」

フレデリカもうれしそうである。

「20個1.8センチ・・・・・・。」を呪文のようにチョコレートを丸めるフレデリカ。



「提督、手にチョコがべたつきます。」

「じゃ、手を冷やして。すぐ手の温度でチョコが溶けるからね。こまめに手を冷やしなさい。」

「はい。わかりました。」

氷水で手を冷やし水気を綺麗にとってまたフレデリカは「20個1.8センチ・・・・・・。」とつぶやく。



あれを唱えるといいことがあるのかなとポプランは感心してみる。今度どこかでまねしたら

アッテンボローに嫌われるだろうかなど思いながら。



通常5分で丸められるはずのものが軽く30分かかった。けれどなんとか丸いチョコレートの塊が

20個できている。

「あと一段階だよ。さっきココアをバットに入れたでしょ。このチョコレートをスプーンで転がして。

まぶすんだ。均一にね。」

「はい。提督。」

こういう作業になればもう安心であった。どう転がしても失敗できないだろうとポプランは思っている。

数分後、すべてのチョコレートにココアパウダーがまぶされた。



「おめでとう。完成だよ。フレデリカ。」

まあ・・・・・・とフレデリカは自分の両手で顔を包み込んだ。

「か、完璧なトリュフですね。お店で売っているものみたいです。私がつくったうちにはいりますか?」

もちろんとアッテンボローはいう。

「私はチョコレートのだまがないかだけチェックしただろ。あとは口出ししかしてないよ。」

素敵ですわと22歳の才媛といわれたグリーンヒル大尉は頬を上気させてアッテンボローの

手を握った。

「提督、サンドイッチ以外ではじめて成功しました。ありがとうございます。うれしいわ。」

いやいやとアッテンボローはいう。



チーンとタイマーがなった。「おっと焼けたな。こっちにかかるか。」とアッテンボローはウィークエンドを

すばやく作り上げ冷蔵庫に入れた。

その合間に「フレデリカ、味見してごらん。紅茶トリュフ。」といわれてフレデリカは「一番形が悪い」

トリュフを口に運んだ。



「・・・・・・紅茶の味がして普通のトリュフよりさくっとしてますわね。」

「スポンジを入れてるからね。でもそのほうが男は食べやすいかなと。」

アッテンボローはウィークンエンドチョコケーキのコーティングもして冷蔵庫に入れた。

20個あるから。「提督も味見してください。うまくできているか。少佐も。」

おれも?と頓狂な声を出してポプランはその貴重なるチョコレートを口に入れた。



「ヤバイクライおいしい。ほんとうにおいしい。姫。ヤン・ウェンリーより先に食べてすまんが役得だな。」

と絶賛した。アッテンボローも、これなら上出来だと誉めた。



フレデリカ・グリーンヒル大尉のチョコレート戦争は無事終焉を迎えた・・・・・・。

彼女はアッテンボローがマカロンをつくっている間に9個をヤンに8個ユリアンに箱に詰めて

綺麗に包装した。こういうことになればもう彼女は全然いつもの有能さを取り戻して

実に愛らしくつつんでいく。

「いいな。フレデリカ。ラッピングうまいから他のもあなたに頼もう。」

アッテンボローはいった。



「はい。提督。喜んで。」

フレデリカは微笑んだ。



by りょう





うちの少佐は「あたる」でもあるけどカイにも似てるかなと。そんなのしらねーといわれそうだけど。

「いらっしゃって。」なんかカイっぽいな。ガンダムですよ。古川さんの声は好きです。

ピッコロさんなど特に。




LadyAdmiral