LOVE GOES ON・3
テレサ・フォン・ビッターハウゼン少尉という女性士官がメルカッツ提督の連れてきた部下にいる。 帝国で女性が士官に登用されるのはまれなのでよく目立つ。 数日前アッテンボローは休養以前に彼女と廊下で会い敬礼を交わした。 豪奢な金髪に薄いグリーンの大きな眸。かわいいなというのが第一印象で試みに話しかけてみた。 そのときのことが彼女の知恵を生んだ。 もっともこれは知恵というよりももっと気を配るべきであったと思う。 「書類は終わったんだけどちょっとキャゼルヌ先輩に電話するから。」 えちーえちーとうるさい恋人を無視して事務監にテレビ電話で相談する。 「なるほど。それはこちらの不手際だな。気づかなかった。すぐ手配する。」 キャゼルヌは受けおった。 「お前さんの「女の子好き」が幸いしたな。元手は確かにかからんことだしまったく うかつだった。ヤンには話したか。」 「女の子好きって。人を誰かみたいに言わないでください。キャゼルヌ先輩に先に話しました。 まだ司令官閣下にはこのことは。私からではなく先輩からいってください。私は休養中です。 ものはすぐに用意できますか。」 アッテンボローはサマーウールのルーズなセーターを着てジーンズ姿。 好事家(こうずか)のように言われてもな。 私も女の子なんですけれどというと。 「男を部屋に住まわせているものはもはや女の子とは呼ばないものだ。1730時か。 準備はすぐできるが引渡しはどうするね。それ次第だ。」 「それはヤン司令と決めてください。でもできれば早く。遅いくらいです。」 女性提督は年長の要塞事務監にいった。 「そうだな。遅いくらいだ。ヤンと決めよう。そのフロイライン・ビッターハウゼンにはお前さんが 復帰したら非礼を侘びておいてくれ。」 じゃあ頼みましたからね。と女性提督。 「なるほどねえ。」と彼女の背後でポプランが感心したように言う。 「そうたいしたことじゃないから効果がどれくらい出るかはわからないけれどでも こちらとしては亡命を受け入れているんだしすべて引き受けたとヤン・ウェンリーがいうなら そういうことにも注意は払わないとね。結果はともかくこちらの不手際だし。」 アッテンボローは通話を終えて恋人の首に手を回した。 「確かに配慮すべき点だ。うちの司令官は案外抜けてるな。」 「メルカッツ提督の薫陶が行き届いているから問題が大きくならなかっただけだろうな。 つつましい人格者だと思わんか。あの方は。でもいるものはいるだろ。」 そのとおりとポプランが女性提督にキスをしようとしたとき。 テレビ電話が入ってきた。 「野暮だな。全く。」 くすくすとアッテンボローは笑って電話に出た。ヤンからだった。 「うっかりしてた。お前よく言ってくれたよ。メルカッツ提督に私は甘えていたんだな。 ・・・・・・あれ。何がそんなにおかしいんだい。」 忍び笑いが止まらぬアッテンボローを不思議そうにイゼルローン要塞司令官が見ている。 「いえいえ。キャゼルヌ先輩に聞きましたね。ここはもともと帝国の軍事要塞ですから 帝国軍の軍服など予備はたくさんあると思います。メルカッツ提督は控えめでいらっしゃるから 多分先輩に言うのをためらわれている間にいろいろとあってお困りだと思います。軍服に 軍靴。武器以外の軍部予備品が不足している。亡命をされて半年ばかりになりますから 修繕している兵士が多いとビッターハウゼン少尉が話してくれました。食には困らないけれど それでは捕虜扱いに等しいです。亡命者をお引取りになったんですからこちらはできる限りの 裁量を図るべきでしょう。」 ビッターハウゼン嬢は控えめにそのとき言ったものである。 それもアッテンボローがかなり促してやっと口にしたのだ。 「亡命してきた身です。贅沢は申せません。私は貴族とは名ばかりの家のものですし かまわないのですがもう半年以上制服の予備がないので・・・・・・。汚れは落とせても いたみがでてきてあてるものに不自由します。こちらでは食事や衣類には配慮 いただいていますから本当にこれはただ小官の愚痴です。聞き捨てください。 閣下。」 これを聞いたアッテンボローは司令部のうかつを思い知る。 食物・衣類・住居に不自由はなくともメルカッツ提督の率いた兵士たちは自由惑星同盟の軍服を 着るわけにもいかない。一応キャゼルヌはそれなりに過去打診はしていたのだろうがメルカッツ提督は 慎みもあり思慮も深い人となりをしているので着替えが一そろいあれば十分と思って 帝国軍装備まで要求しなかったのだと思われる。 「今夜には備品は提督に引渡しをするよ。その女性少尉は偉いね。本当に心苦しい 余計な事を煩わせて申し訳なかったと私からも非礼を謝っていたことを伝えておくれ。 お前が現場復帰したら。」 また復帰したら、か。アッテンボローは苦笑したが。 テレビ電話を切って今度こそ恋人との時間を過ごす女性提督であった。 「かわいいフロイラインとの約束は何とか果たせそうだから今日はちょっと充実したかな。」 1930時。 この数日アッテンボローはベッドで食事をしている。1700時になるとポプラン少佐が 狼に変わり襲ってくるからテーブルにつけないのである。 せっかくこった料理をつくってもポプランは一番のご馳走がアッテンボローでひっついて はなれてくれない。それはそれでちょっとうれしい彼女。 「今度男になったらしてみたいことがあるんだ。」 アッテンボローはポプランの髪をいじって遊んでいる。小さいころのポプランは天使のようだったんだろうなと 想像する。淡い金褐色。やや赤毛。緑の眸。これで赤ちゃんだったら母性本能がくすぐられるというもの。 「また男になるつもりなのか。ハニー。」 女の細い手首を握ってその手の甲に唇をつける男。 興味深いな。男になってあんなに困っていたのにとポプランは笑う。 「で、何がしたいわけだ。ハニー。」 「いつも私が受身だろ。」 にこやかにいうアッテンボロー。はい?とポプラン。 「ウケミジャナイホウヲしてみたい。」 CUTEな笑顔で言われてもなと男は苦笑する。 男だったらできるじゃないかという女。 「まじめに言ってるの。ハニー?」 「まじめに言ってるんだ。オリビエ。」 入れられるほうの苦労を一度味あわせてみたいな。 とベッドでお姫様が言いました。王子様は絶句・・・・・・。 「・・・・・・さすがにおれもいれたことはあってもいれられたことはないな。ふむ。 今度お前が男になったら考えてみましょ。新境地が開けてマンネリズムからは 解放されそう。」 「・・・・・・私たちってマンネリなのか。」 アッテンボローが腕の中で心配そうに聞いてくる。 「おれはそうは思わないけど。ウケミジャナイホウガしたいって言ったのはお前だぞ。」 「ちょっとした冗談だもん。」 これはいわないほうがいいと思われるのでいわないのだが。男は心で考える。 女性に戻ったら戻ったで異常に色っぽいアッテンボローも美味しいし 男性になったとしても異常に妖艶なアッテンボローも美味しい。 何となく得した気持ちになるのはおれだけだろうなとポプランは考えた。 ねえねえと今度は耳をくいくいと軽く引っ張ってくるアッテンボロー。 こいつは仕事中とそうでないときの精神年齢が著しく変わるなとポプランは微笑む。 「あれ買ってきてくれた。あれ。今日頼んだだろ。買い物で。」 アッテンボローはまるでキャゼルヌにまとわりつくシャルロット・フィリス嬢よろしく ベッドの中でポプランに抱きついてくる。 「あれ。あれってあれな・・・・・・。」にやにやとポプランはわざととぼけた。 「こら。いやらしい言い方しないでよ。クリームウィスキーかってきてって頼んだだろ。今日は 飲みたい気分なんだ。」 ブランデーだとすぐ体が熱くなり酔うがウィスキーだと酔いが丁度いい。けれど彼女は 苦いというか味がそっけないという。 「味覚が子供なんだよな。お前。」 「その人間が作る飯を食らってるのは誰だ。それに私のほうが年上だよ。素直にちょうだい。」 買ってきたのはいいんだけれど。 「酒を飲ませていいのかなとか考えるんだよな。今療養中だろ。」 頬をつねられたままポプランはいう。 「そういうのはえちーしない人が言ってください。お酒飲もうよ。」 こうなるとポプランはアッテンボローに従うしかない。キッチンに行こうとベッドを降りた。 「ポプランさん。我が家で真っ裸で歩き回らないでください。・・・・・・うちは禁止です。」 アッテンボローは目線をあわさぬようにバスローブをポプランに投げた。 「わがままだなあ。自分の家で裸で歩き回ったら文句を言われる。」 ・・・・・・。 「ここは私の部屋だ。」 「わがままだなあ。固いこというなよ。ハニー。愛してるぜ。」 彼女もしっかりガウンを羽織って。 「それにしても飲みたいというのは珍しいな。何か憂さがあるのか。」 ううんと女はいう。 「憂さがあるわけじゃないけどお前と飲むと楽しいから。」台所で氷を出したり酒の用意をしている ポプランの後ろから3センチ背が低いだけのアッテンボローがそっと抱きしめた。 「・・・・・・そういうのは男の特権かと思ってた。」 「べ、別にヤラシイコト考えてるんじゃない。かわいいからぎゅってしたくなっただけだから・・・・・・。」 さっと身を引くアッテンボローを捕まえるのはポプランは得意中の得意だ。 ぎゅっと抱きしめ返されて熱いキス。 「・・・・・・・でも飲むんだからね。」 女はいうがおそらく4杯を越せば彼女は酔うしそのあとは撃墜王殿のお楽しみの時間になる。 療養とは程遠い、優雅なる恋人たちの時間。 |