LOVE GOES ON・2
実はポプランは本が嫌いではない。 いかにも読書家に見えるのが嫌いなだけで本は嫌いではない。 頭がいいのだろう。かなり読むスピードが早くて次々ページをめくる。 膝の上に頭を乗せて下から男を見つめても彼の視線は文字列を追っている。 相棒のコーネフのことを馬鹿にする割りにたまに文字に取り付かれることがある。 ここのところ妊娠疑惑とか性転換だとか心配かけたから男にも 自分の時間が必要なんだろうなと女は思う。 いつか。 離れることがあるのかな。 知っているようで知らないことも多い。 一年付き合ってきたけれどまだまだ驚かされることばかり。 もっとも一年間の半分近く離れて暮らしていた日々があったから正確には半年あまり。 一緒に寝て一緒に起きて。 この男はいつか自由を欲するときが来るかもしれない。 もともと自由に生きてきた男が今たまたま居場所があるだけで。 そこにとどまる男ではない。 その時自分はついていくことができるだろうか。 ついていけない立場であるかもしれない。ついていけない状況かもしれない。 気持ちでは一緒にいたいと思ってもこうやって取り残されるときが来る・・・・・・そんな気がする。 それは幾度肌をかさねたところでぬぐえる不安ではない。 その時彼女は彼女らしく生きていくだろうか。 こういう気持ちになるのはよくないと以前もヤンにしかられている。 「アッテンボローは頭の回転がいいというか・・・・・・人の気持ちが読めるときがあるからね。 あまり先先のことを気にやむと苦労するよ。」 そう微笑んで彼女を叱った。 この男は自分を信じろという。信じるに値する男だ。 けれど自分に何かが起きたら・・・・・・この男に打ち明けるだろうか。 またヤンやキャゼルヌに甘えるだろうか。 ヤンやキャゼルヌは自分を妹分として無条件で受け入れてくれる安心感がある。 ポプランだって無条件で自分を受け入れてくれるだろうし疑いはない。けれど。 側にいて不安を覚えるのは自分の情緒が不安定な証拠であろう。 「オリビエ。」 本から目を離してアッテンボローの顔を覗き込む。 「・・・・・・どした。何が心配なんだ。」 「わからないけど情緒が不安定で。そんなの思春期のうちに解消させて おかなくちゃいけないのに私はどうして一人でもてあましてしまうんだろう。」 それはな。 「ほらおきて。抱っこしてやろう。」 「・・・・・・子供じゃないけど。」 「いろいろと頭が回るからだろうな。よっこいしょ。」 アッテンボローはポプランの首に手を回して。抱きしめられる。 「頭の回転が速いのと、このごろいろいろと考えることがありすぎた。お前は軍人としては まず優秀な人間だが女性として未成熟な部分も多い。姉妹の多い家庭で末娘だからこれは 仕方がない。それとキャゼルヌの兄貴やヤン・ウェンリーとか過分にお前をかばいすぎる。 副官もそういう性質だしおれがいなきゃシェーンコップが世話を焼いてるだろうな。 ある意味幸せな環境に身をおいていると今は感謝して。一人になっても生きる力をつけておけば いいんじゃないの。」 もっとも。 「キャゼルヌあたりはお前を一人にはしないだろうし俺もそのつもりはない。素直に寂しいとか 悲しいとか不安だとか。そういう気持ちを吐露できるのは人間としてまともな証拠なんだ。 それができるうちに力をつけることだろうな。だがお前は人間そのものに魅力がある。育った 環境もよかっただろうし年長者だけでなくユリアンみたいな坊やからも好かれる。大尉だって お前が好きだ。それはお前には人を裏切らない誠実さのようなものが見えるからだろうな。 まっすぐさ。素直さ。それは資質としてよいものだ。偽悪趣味を装ってもなおそういう 素直さが垣間見れる珍しい大人だ。そこがダスティ・アッテンボローのよいところだろ。」 「・・・・・・。」 なにびっくりした顔してるわけ。ハニー。とポプランが言う。 「・・・・・・あんまり遠くに行かないで。」 ワタシヲヒトリニシナイデ。 「わかった。ちょっと待ってろよ。泣いてもいいけど泣かなくてもいい。えっとな。つまり お前はいろんなおれの顔を見て戸惑っている。おれは複雑な男だしおそらくほとんどの女が おれのことはわからんと思う。そういうところみて寂しいと思うんじゃないの。」 でもな。本質を忘れるなよ。 「おれいつもお前の側にいるだろ。本読んでるとき隣に女がいるなんてことはおれだって お前が初めてだ。女を膝枕させる趣味もない。・・・・・・おれは変わった男だし平凡でもない からいろいろと先を読もうとするとお前苦労するぜ・・・・・・。 本質はおれはお前の馬鹿なところもかわいいと思うしやはりすげえ女だってびっくりして あこがれるときもある。それって恋だろ。サプライズがたくさんでおれは面白いけど お前はまだ恐いらしい。・・・・・・そう不安にならなくてもまずおれはお前を嫌いになることはない。」 アッテンボローは最近涙腺が壊れている。 「なんでそんなこと言い切れるの。嫌いになることもあるだろ。」 ぐずってるなとポプランは思う。女はたまにこんなときもあっていい。 いつもいつもヤン・ウェンリーに取られては恋人として立つ瀬がない。 「言い切れるんだ。あせって恋をしなくていいの。ゆっくりわからなかったらわからないって おれに言えばいいし不安なら声をさっきみたいにかければいい。こうして話し合いをしながら 恋は育っていく・・・・・・。いきなり完全無欠の間柄にはなれない。たまにはお前の兄貴たちに相談する のもかまわない。でも2人で話し合っていくのも大事だろ。恋してるのは2人なんだし。・・・・・・ 今は何が不安なんだ。」 ううん。大丈夫。不安なくなったとやっと笑ったおれの恋人。 目に涙をためて。 かわいいなと思う。 この女がかわいくてかわいくて仕方がない。 やや甘えんぼで実は傷つきやすくて。だけれど時折頑として曲げないものを持っている女。 「珈琲飲もうぜ。ハニー。うまい豆を買ってきてるから。」 「うん。」 そもそもえちーが足りないから不安になるんじゃないかと冗談で言ったら デコピンされるのかと思ったが額にキスしてきた、おれのかわいい恋人。 1605時。 定例の書類がアッテンボローの手元に渡ってきた。 さっきはあんなに甘えんぼだった彼女が書類を吟味するときのシャープさに惚れ惚れする。 どっちに転んでもおれはこの女にいかれてるなと思う。 「・・・・・・私だ。すまんな。確かにこの間の戦いでこっちの船が減ってるが私に考えがある。 分艦隊というよりもイゼルローン要塞駐留艦隊に益があることだと思う。うまくいくかわからんが ・・・・・・というよりもこちらがもっと配慮すべきだった。だが成功すれば精鋭戦力が増えるって 手はず。期待しないでくれよ。成功すればの話だ。それからなラオ・・・・・・。」 肩とあごで電話をはさみ端末を器用に操り書類に目を通す。やっている当人はこれくらいというが さすが制服組。事務処理はすごいよな。 それにさっきうちの艦隊の精鋭を増やすとか言ってたけどハイネセンから人間が沸いてくる わけでもなし・・・・・・。魔術師には及ばないが彼女もその一味であり明らかに魔術を使う。 ポプランはそんな風に仕事をしている彼女を見ていた。 やっぱりヤン・ウェンリーが大きくシンクロするな。二人はよく似ている。 ただの先輩と後輩というより明らかにあいつはヤン・ウェンリーを違う意味で愛してる。 敬愛という愛情。 恋慕ではないからおれはまだ冷静に見れるのだろうが分艦隊で演習に出たとき 新兵の集まりだったが補給の難点以外ではおれはあの女の戦いで十分 生き延びれると思った。本来補給は甘く見れないから身びいきしているのだとしても 旗艦が「ヒューベリオン」でも「トリグラフ」でもおれは安心している。 あいつだってスケールは小さいが魔術を使う。 情報収集の緻密さが「魔術」を生むんだろうけれど・・・・・・さっきまで泣いて はなれなかった甘えんぼはどこにいったんだろ。 どちらの顔も彼女の顔でおれはやはり悪くないと思う・・・・・・・。。 「何だ。オリビエ。」 仕事に集中すると時々おれを忘れる。 離れないでというけれどおれから逃げるのはこいつなんじゃないのかと 少し苦笑。 「いや珈琲でも入れましょうか。おれの提督。」 彼女は綺麗な笑みをこぼして。 「2人きりなんだから別に敬語なんて使わないでくれ。珈琲入れようか。 さっきの美味しかったし。」 席を立って彼女はキッチンへいく。 仕事はいいのかときくと小休止をして一時間で終わらせると彼女は言う。 どんな方法でこっちの「精鋭」を増やすのかときけば確実ではないけれど手持ちの兵力を「精鋭」にする 方法をヤン・ウェンリーは見落としているという。 見落とすというか男ではわかりにくい話と彼女は言う。 「それに意地汚い手だから先輩は思いつかないんだろう。とはいえど こっちの戦力がわずかでも上がればめっけものだし。元ではただだから キャゼルヌ少将も文句言わないと思うんだ。」 教えてくれよ。おれの提督。 成功するまで教えないよと女はいう。 「オリビエ。」 なんだというと。 「私はどこにも行かないから。いつも側にいるから。・・・・・・いつも一緒にいようね。」 さて。 早く彼女の仕事が終わらないかなとおれは珈琲を飲んで・・・・・・。 やっぱり彼女を見てしまう。 |