LOVE GOES ON・1




寧日、安寧のイゼルローン要塞。



「なんだか申し訳ない気がします。お昼からこんなにご馳走していただいて。それにお2人の邪魔に

なってる気もして。」



1200時。ここはダスティ・アッテンボロー少将の自宅。

フレデリカ・グリーンヒル大尉は「ぜひうちで昼食をとおれの提督からの伝言です。」とポプラン少佐に

声をかけられて今女性提督の目の前にいる。

今日のランチはチキンと香草をオーブンで焼いたものと豆を煮込んだスープ。きのことブロッコリーの

サラダ。デザートにはチョコレートのムース。

「いいんだ。私は大尉が好きなんだ。仕事を休んでても大尉に会いたいからわがままを言ってこちらこそ

悪いと思っている。」

そう。ダスティ・アッテンボローは確かに美人。けれど当人はユニセックスな自分の容貌よりもはるかに

フレデリカ・グリーンヒルの愛らしく可憐な美しさにあこがれている。

ミス・グリーンヒル・ファンクラブのナンバー2なのだ。

ナンバー1になりたいというとユリアンが「だめです。僕がナンバー1です。」という。

小生意気なユリアンめとアッテンボローは笑ったものだった。

「でもこの料理は全部提督が作ったんですか。とっても美味しいですわ。

私、尊敬しちゃいます。」



誰もが知っていることではあるがいくら才媛だからとは言えどフレデリカの料理の腕は

ある意味すごい。マイナスの意味で。

ミス・グリーンヒルの料理でも食べるという男はイゼルローンでは三人。

ユリアン・ミンツ准尉。彼は顔色を変えないようにして食べるであろう。残さず。

ヤン・ウェンリー大将。誰もが料理の達人でなくちゃいけないということもないだろうといって

これもおそらく残さないで食べるはず。

そしてワルター・フォン・シェーンコップ少将。どんな味であろうとミス・グリーンヒルが美しいのは

変わりないと豪気に平らげると思われる。



「もともと料理を作るのは好きだし母や姉に叩き込まれたからだろうな。でもなにより

時間があるんだ。書類が回ってくるのは頻度も少ないし。ああ早く復帰したい。」

「結果がでないとな。だめですよ。おれの提督。」

ポプラン少佐が口を挟んだ。

フレデリカも頷いた。

「お体の具合はよろしいのですか。提督。お元気そうには見受けられますが。

検査結果がでない限りは閣下が絶対職場に復帰してはいけないと。」

「私は健康で今は・・・・・・普通の女だよ。男になると声がまず変わるからわかる。

おぞましいくらい・・・・・・。」

アッテンボローがフレデリカに自分が男の声を出していたときの気持ちを伝えようとすると。

「おぞましいくらいセクシーだったな。あの声は。」

ポプランはチキンを口に運んでいった。

「・・・・・・お前は私が男のままのほうがよかったのか。少佐。」

アッテンボローは金褐色の髪をくいっと引っ張る。フレデリカはそんな2人を見て笑った。

「女のダスティ・アッテンボローと男のダスティ・アッテンボロー。はかりにはかけられません。」

一応ポプラン少佐は勤務中。女性提督が勝手に出歩かないために警護中なのである。

ゆえに表向きは丁寧語。

いってろと女性提督はスープを口にする。



「今回の少佐はとても素敵でした。アッテンボロー提督が男性に変わっても全く動じなかった

ところがご立派です。愛情ですわね。女冥利に尽きるでしょう。提督。」

フレデリカはにっこりと微笑んでいった。

「・・・・・・・。うん。それはそうなんだよね。」

親しい人の前では表情にすぐ感情が出るアッテンボローは赤面。

否定できないし否定する理由もない。

「照れますな。ミス・グリーンヒル。恋人として当然のことをしたまでです。」

照れてないオリビエ・ポプランはフレデリカにウィンクをした。



今回というのは実にありえぬ話であるが同盟軍史上初の「女性提督」であるダスティ・アッテンボロー

少将が突然生物学上の男に変わったのだ。女性提督には年下の恋人がいてかつては名うての

「レディキラー」。突然原因不明で男になったアッテンボローはその恋人に自分の変化を知られるのを

恐れてイゼルローンの民間居住区にあるシティホテルに避難。

士官候補生時代からの先輩に当たる上官ヤン・ウェンリーを何とかメールで呼び出した。

「男になったら絶対に嫌われる。」

普段は明晰なる頭脳を誇る女性提督が心理的に追いつめられた上でそのように思い込んだ。

だが結局オリビエ・ポプランは「女性らしい女性が男の体を持った悲劇」を真摯に受けとめ

変わらぬ愛情でアッテンボローを擁護した。

「突発性性転換」など異例中の異例だし結局まずはアッテンボローの健康状態が大きな

問題になった。わずか一日で幸いにして女性提督は本当に女性に戻れたわけだがまだ

さまざまな検査結果がでていない。

ゆえに上官に当たるヤン・ウェンリーは「休養」をアッテンボローに命じているのである。

彼女のサインが必要な書類はラオ中佐から電話が入ればポプラン少佐がとりにいくという

奇妙な人事が発生もしているのであるがアッテンボローのお守りはオリビエ・ポプランが

一番適しているのである。



「今の医学で原因なんてわからないと思うな。暇だ。仕事行きたいよー。フレデリカ。」

1300時。食事を終えたグリーンヒル大尉はそういう女性提督に

「いけません。閣下から厳重に言われています。私もアッテンボロー提督のお目付け役なんですのよ。」



ヤン・ウェンリーにはかられた・・・・・・。

フレデリカは食事の礼を言って仕事に帰った。

残された女性提督は恨めしげに撃墜王殿を見つめて。

「皿でも洗おうか。ハニー。」ポプランはにっこりと微笑んだ。







休養。

休暇ではないんだよとヤンに釘を刺されているアッテンボローはベッドで休まなければならない。



「休暇じゃないからアッテンボローを一人で眠らせる時間を作るんだよ。少佐。野暮を承知で

言うんだからね。」

ヤンは小声でポプランに釘を刺しておいた。

だから「えちー」は昼間は我慢して彼女が眠るまで添い寝をするだけである。



「というか夜寝てるし眠れないんです。それに昼寝をすると夜ねにくくなるしかえって

健康に悪いですよ。」とさすがに二日目アッテンボローはヤンに電話で噛み付くと。



「ああ。私ならいつでも眠れるんだけれどな。かわってやりたいなあ。」

といっている。隣でユリアンとフレデリカが苦笑をしている姿まで見える。

ともかく自律神経が乱れるから昼間は起きていたいと当然女性提督が主張するので



家のことならしてもよしとお許しがでた。自由惑星同盟ヤン・ウェンリー大将から。



ということで普段できないこった料理や恋人が散らかしていく後片付けを

昼間ダスティ・アッテンボロー少将はこなしていたのである。

「ということは昼間から何をしてもいいわけだ。」

「いいわけない。給料泥棒だな。お前。」

ポプランはアッテンボローから離れないのが仕事だから何をしてもいいという。

けれどアッテンボローはそれは詭弁だと突っぱねている。

「散歩も買い物も休暇じゃないからできないのか。不便だな。こんなに健康なのに。

つまらんつまらん。船に乗りたい。何か動かしたい。喧嘩がしたい。」



・・・・・・ついこの間男になったショックでびーびー泣いていた女性とは思えぬほど

アッテンボローは活力に満ちていた。

「ねえ。オリビエ。艦載機のシュミレーションやってみたいな・・・・・・。」

「だめ。」

間髪入れないポプランさんであった。

「お願い。暇で死んじゃう。」

アッテンボローは両手を合わせて拝み倒す。

「体のどこに不調がでるかわからんようなまねをさせれるか。だめだ。」

かっこいいです。ポプランさん。男ですね。

「キスしてあげるから。」



「・・・・・・。」

4秒遅れで、だめがでた。



「うちの執務室でえちする?」

すごい誘惑をかけるアッテンボローにポプランは・・・・・・12分間考えて

「惜しいけど今は絶対だめ。」

かっこわるいですね。ポプランさん。男ですね。



さて本当に三日目ともなると昼の女性提督はお暇であった。夜は勤務を終えた恋人が

狼に変わるので忙しい。1700時になるといつでもえちーオッケーなのだそうだ。

問題は0800時から1700時までの間。ほぼ二週間分の料理は作り冷凍保存している。

洗濯や掃除などはその日その日に気がついたらしている彼女。この機会にヤンを見習って

戦術の本を読み漁るのもいいかなと思うけれど元は彼女はあまり読書家ではない。

基本的に体を動かすのが好きな彼女にはあまり休養は必要じゃないと当人は思っている。

けれど周りとしては「性転換があるのだし万が一」という不安を払拭できる材料がない。

だからやはりまだ検査結果がでる一週間だけはやすませたい。

急な心筋梗塞や脳の異変など現れたらしゃれにならないのだ。



けれど病人というものは苦しみがなければ退屈なのである。



「これじゃ外にでたがる室内猫だな。」

ポプランも頭をかく。

「盛りのついたメスねこのように言うな。盛りがついているのは私じゃなくてお前だ。」

やけくそでソファにごろんとなる女性提督。

「夜えちーができるならさ。仕事いってもよくないと思わない。ダーリン。」

「昼もえちーできれば仕事いってもいいと思うぜ。ハニー。」

それもいやだなと思う女性提督。

性生活から離れた文化的なことがしたいなとアッテンボローが言うと。

「あのな。戦争のどこが文化的だ。えちーのほうがよほど高尚で人類で大事なことだ。」

とポプラン少佐は三つ子の魂百までで読書三昧。

・・・・・・そだよね。「ごめん。私馬鹿なこと言ってた。仕事文化的じゃないよね。」

わかればよろしとポプラン少佐はソファに座って本を読んだまま「ぽんぽん」と

自分の膝を叩く。

女性提督はおとなしく今度はごろんとポプラン少佐の膝枕。



「早く結果がわかればいいな。シュミレーションだっていくらでもお相手するのにな。

10回のうち10回落としてやる。・・・・・・お前の体が心配なんだ。おれも。みんなも。」

やさしくポプランになだめられてアッテンボローは膝枕で猫になることにした。






LadyAdmiral