for you 3
上気して薄く赤くなった耳たぶに唇をつけ舌を這わせる。
ミキは小さく声を上げた。
身震いするほどかわいい声を上げる。
大きな手のひらで彼女の胸をまさぐる。小さな体の割りに胸は大きく
形がよい。彼女の息は小刻みで荒い。
豊かな乳房を服のうえからやさしくつかむと女は声を上げた。
何千ものキスを交わしつつも
手馴れた様子で彼女の服を剥ぎ取り彼も素肌の体を
彼女にかさねた。
彼の背中の傷に彼女が触れたときその指の動きが
ためらいではなく別の感情を持ったように彼には感じたが
・・・・・・もう止められはしない。
ゆっくりともう一度、彼女の瞳を見つめたままキスをする。
口付けるたび彼女の体は柳のようにしなった。
彼から逃げる気はない。
背中の傷を彼女は指で確かめていたがやがてその広いすべらかな
彼の背中をさまよい、彼を抱きしめた。
求めた形ではなかったけれど、
彼は彼女と体の関係を結んだ。
何度も何度も重なり合いながら、ただ抱き合い男は彼女の体に
ゆっくりと時間をかけてはいった。
女は拒まず、しかし身をこわばらせた。
けれども男の腰の動きにゆっくりとじれるように突き上げられ、
彼女は男を迎え彼は、彼女が達するまでは
執拗に愛撫を続けた。
彼女の体はまるで処女のようにかたくなであったが、
やがては彼を飲み込み、男は射精した。
幾度も肌を重ね、
幾度も女の中で男は射精した。
幾度も愛撫を繰り返し、彼女の感じる部分を執拗に攻め、
彼女はやがて彼の背中につめを立て、
果てた。
ミキは少し、眠った。
目が覚めてもシェーンコップの体から彼女は離れなかったし、
彼も彼女を離す気持ちはなかった。
「・・・・・・少し眠ってしまった」
「今日一日がこたえたんだろう。お前が思っている以上に」
「Jを思い出したの。Jが消えていく姿・・・・・・ちょっとこたえたわ」
彼の目を見つめたまま彼女は少し彼の胸の上に体をかさねて
いった。
「・・・・・・男が恋しい女なんて私らしくないでしょ。でもやっぱりだめ。
最近は本当に1人で生きることにこらえていくことができないの。
情けないわね。・・・・・・あなたの僚友は結局男に飢えている。自分ひとりで
生きていける強さなどもって無かったってこと」
「俺は何もせめてはいない」
「私は・・・」
彼の裸の胸に顔を伏せてミキは言った。
「ずっとさびしかったってことを思い知ったのは事実。でも誰でもいいから
セックスしたかったわけじゃない」
触れたことの無かった黒髪はしなやかでつやがある。
「・・・・・・さびしいのは当たり前だ。お前さんの体は女性の成熟期にあるのに
今まで男を欲しがらなかったことが不思議だ。・・・まるで処女を抱いた気分
だった。」
「・・・・・ごめんなさい」
「いや、謝る必要はない。あまりに敏感で魅惑された」
沈黙。
「嫌じゃなかった?」
「何が?」
「あたしと、寝たこと」
「嫌なら抱かない」
「後悔しない?」
しないね、と彼は彼女を引き寄せて唇をむさぼった。彼女の舌は
勿論ほかの過去の女性と変わらぬものであるが、彼女の意思で
その舌が彼の舌に絡まるのをシェーンコップは、いとおしく思う。
そう。
俺はミキ・マクレインを愛している。
白く美しい乳房を手のひらで包む。彼女は拒まない。
「あたしおかしいわよね。あなたに抱いてくれって頼むなんて」
「そうかな。俺はそうおかしくはないと思う。むしろキャゼルヌや
アッテンボロー。あの医者に言わなかっただけましだ。おれしか
お前の相手はつとまらない。幸運だったな。お互い。」
幸運?
「あたし、今日は壊れているの」
いつもはまるで正常だといいたいつもりかと冗談でも言おうと思ったが
シェーンコップは彼女の瞳から涙が溢れ出すのをじっと眺めてその言葉を
封印した。
「壊れているの。あたしは。ごめんなさい。あなたに甘えて。でもあなたしか
いなかったの。ごめんなさい・・・」
こぼれる涙をシェーンコップは唇と舌でぬぐう。
男は彼女を大事に扱った。
彼女はそれを心と、肌で感じた。
「あなたが女性に好かれる理由がようやくわかった。あなたって
意外に優しいのね。」
「今頃か?」
男はシニカルな笑みを見せる。
ありがとう。ワルター・フォン・シェーンコップ。
「一晩、過ごせばあたしはきっと大丈夫。一人でも生きていけるわ
今夜はごめんなさい・・・遅くまで引き止めてしまって・・・・・・」
そこまで言いかけてミキは口をつぐんだ。大丈夫という割りに
彼の腕をまだ離せないでいる。
男は笑って。
「こら。こんな夜中に俺を追い出すのか」
「・・・側にいてくれるの?」
「側にいるだろうに・・・」
少しうねりのある黒い艶やかな髪に指を入れる。
小さな頭を撫でる。
「俺は生きてこの星に帰ってひとつ思い知ったことがある」
「・・・なに?」
「アレックス・キャゼルヌやヤン・ウェンリーと昔はなしていたように
アッテンボローとお前を引き合わせて二人がなれない恋愛をする
のを楽しみにしていたが」
今夜はミキの涙は止まらないらしい。
頬にキスをしてシェーンコップはいった。
「楽しみにしていたのだが、大きく見当違いをしていた」
「なんの?」
「いざ、アッテンボローにお前をわたすと思うと無性に惜しくなった。
俺の女になれ。ミキ。悪いようにはしない」
少しだけ彼女の体が震えた。
シェーンコップの口元は笑みを浮かべていても眸は笑っていない。
「私、あなたを縛りたくて抱いてくれといったわけじゃない。ただ寂しかったの。
男とセックスがしたかったのよ。誰かのぬくもりがほしかったの。」
「わかっている」
女医は自分の額に手を当てた。
「私・・・明日の私が何をしたいかなんてわからない」
「そう思う」
「あなたを愛せるかなんてわからない」
「・・・・・・今はな」
今はって言われても、自分が起こした行動以上に相手の男のいう
言葉に彼女は動揺した。
彼は彼女を自分の体の上に乗せて、シーツを手繰り寄せた。
「私は・・・度し難い女だと思う」
涙が出るととまらないので人前ではなかぬようにしている。
ジョン・マクレインを忘れたことなど一日もありはしない。
それなのに誰かの肌が恋しくて。
それならばシェーンコップを、自然に選んだ・・・。
「わかっている」
男は辛抱強く時折しゃくりあげる女を静めるようにやさしく抱きしめて
キスをしたり肌を撫でる。
確かにこの女が涙に濡れるのを見るのは12年もの間なかった。
12年。
そんなに長く一緒にいるのに彼は彼女を愛していると自分で悟るのに
12年かかった。
もし、彼女の夫がジョン・マクレインでなければとうの昔に
彼女を自分の女にしただろう。
ジョン・マクレインを失って悲しみをすべて胸のうちに隠した女に、
さすがの彼も手は出せなかった・・・・・・。
「話を変えるけど・・・・・・かなり、深いのね。あなたの傷」
皇帝の旗艦「ブリュンヒルト」での戦闘で自分は死んだと思っていた。
背中に大きく深い傷を負った自分が大量の血を失い体が重くなる
感触と息もできぬほどの痛みに朦朧としながら兵士の屍を越えて
自分の眠る場所を探し階段を上った・・・・・・。
どうも辞世の句が決まらぬまま。
ローザライン・エリザベート・フォン・クロイツェルのはつらつとした
美しさを思い出した。
美しい少女だった。
とてつもなく長い名前で、どう呼ぶのがいいかと若い18歳の
シェーンコップがたずねればローザと呼んでくれと娘そっくりの律動感
鮮やかな愛らしい笑顔で微笑んだ・・・。
ローザという名の女だったのか。
そこでシェーンコップの時間は止まったと思っていた。
しかし奇跡的に彼は命を取り留めた。
かなりの重症で一時は昏睡状態だった。
意識がはっきりするにつれて、
カーテローゼ・フォン・クロイツェルの涙にぬれた顔が見えた。
「死のうなんて甘いんですよ。格好つけてくれちゃって」
いつもは瀟洒な身なりの撃墜王もあちこちに包帯をし、病室に顔を出した。
やれやれ。
あとでアッテンボローが教えてくれたがシェーンコップが戦死した
ニュースが入ってときにイゼルローンの多くの女性が涙に暮れたと。
生き返ってさて歓迎してもらえるものかなとキャゼルヌにまじめに聞くと
あきれたやつだ、とそっぽを向かれた。
あまりに重い怪我だったのでユリアンがカリンをつれてフェザーンへいく
邪魔もできず。
「中将が負債をおっておられるのは事実ですが私もそうです。
死んでご自身の負債を返上するのはあの人だけで十分です」
フレデリカ・G・ヤンの言葉がシェーンコップに、響いた。
ユリシーズからイゼルローンへ帰還してすぐフレデリカは彼を見舞った。
薔薇の騎士連隊の生存者もわずかでもし、皇帝の玉声が
ミッターマイヤー元帥にわずかでも遅れていればカスパー・リンツも
この世の人ではなかっただろう。
オリビエ・ポプランは帝国軍の近衛連隊長キスリングと危うく
お互いを殺しあうところであった。
比較的傷が浅かったのはオリビエ・ポプランでフェザーンへ
皇帝と会見するユリアンについていったきり、どこぞへ旅に出たようだ。
そんな話をミキにした。
「私だって、あなたがいない世界なんて」
「なんだ?」
「とてもさびしいわ」
女はいつも見せるような快活な美しさではなく魅惑的で妖艶な
女の顔だった。当人は意識していないようだが実に男の心を
揺さぶる。
「キスして」
狂おしい誘惑。
悪くない。
「愛している。ミキ・マクレイン」
熱い吐息が漏れるようなキスを交わす。
互いの汗や、唾液や体液をむさぼり欲情という嵐の中で
彼女は溺れた。
彼も溺れた。
溺れてはいたものの彼はひとつだけ確かな感情をいだいている
ことを忘れなかった。
この腕の中であえぎ体を弓のようにそらせる女を・・・
宇宙で一番いとおしく思っている自分がいることを
彼は確信した。
「あたしを、はなさないで」
強くつながっていても、彼女は泣きながらシェーンコップに
懇願した。こんなに彼女の中にはいっているのに。
「目をあけてよく見ろ。ミキ。お前の男は今目の前にいる。
お前から離れたりはしない
よく、見ろ・・・」
狭いベッドで、彼女を落とさぬように抱きとめて。
何度も抱きしめあって、何度も口付けを交わして。
素肌が乾かぬくらい密着しても、彼女は、一人にしないでという。
夜明け前。
まださびしいのかと女に聞いた。
女の小さな耳たぶに自分の唇を寄せ少し、唇でかんでみる。
よくわからないと女はいった。
「でも、ありがとう。シェーンコップ」
「ワルターと呼べ」
彼女は、うつむきつつ、彼のファーストネームを呼んだ。
「わかるまで側にいる。わかったところでお前を手放す
気持ちになれん」
「でも、シェーンコップ・・・・・・」
「ワルターだ」
「ワルター。私は、あなたを愛しているのか本当にわからない。
あなたとこうなったことは後悔していない。あなたに抱かれて・・・
あたたかくて。でもそれは愛じゃないわ。欲情ってものでしょ。」
「・・・・・・そうだな」
長年の親友とも言うべき男に、裸のまま抱かれて女はいう。
「あなたに抱かれたら私はすべてを失うと思っていたけれど
じゃあ私は何かを失ったのかしら・・・」
いつもの強気な女じゃなく臆病なことを言うのでシェーンコップは
美しい唇の口角だけを上げて微笑んだ。
「さあ。わからん。だが俺を手に入れたことは事実だ」
白い闇の中で、まだ少し眠りに落ちそうな女を残して彼は一人
ベッドから降りた。自宅に帰ってシャワーを浴び新しいシャツに
着替えて出勤する。
しばらくはそういう生活がつづくだろうが男はそれを悪いこととも
思わない。
そして幸いなるかな、朝帰りはなれている。
女はうっすらと目を開けて男の背中を見つめる。
「一夜の情事にするつもりはないし、間違えてもほかの
男に抱いてくれなどというなよ。ミキ・マクレイン。愛しているよ。」
彼女の髪に優しい口付けを落として男は静かに
部屋を出た。
4へつづく。
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