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事実ワルター・フォン・シェーンコップは認めたくはなかったが、

好むと好まざるともやはり認めざるを得ない。









同僚のキャゼルヌは年少の青年提督にミキ・マクレインを目合そうとしている。











ユリアン・ミンツは,白兵戦の基本や銃の訓練で自分が育てた人材だし

実に人格ともに好ましい青年に成長した・・・・・・といわざるをえない。

男は思う。

そして遺伝子上の娘、カーテローゼ・フォン・クロイツェルと華燭の典を

あげるというのは、まずめでたいと思っている。

どうせそもそもが育てた覚えがない娘。

生きのよさと快活な美しさはとてもよい目の保養にはなるが自分の娘である以上

恋の対象にはならない。

誰と結婚してもかまわないのであるが・・・。









変わらぬ反抗的な部分はあるが以前のそれではない。

皇帝御前興行での背中の傷を知って以来わずかな「容赦」を与えてくれるようになった。

一度、死にかけてみるというものも美人が味方になるならシェーンコップはそう悪くないと

思った。








その二人の結婚式は一行がフェザーンからハイネセンへ戻ってきた

宇宙暦801年にささやかながら行われた。

それは秋のこと。









9月10日。




ヤン・ウェンリーやなくした同胞を記念墓地に埋葬し

弔ってユリアンはカリンに求婚したそうだ。

本当は散々邪魔をしてやるつもりだったシェーンコップだが。










「妊娠してるの」






との彼女のピシリとした一言で式はできるだけ早められるようにした。










「とうとうおじいちゃまになっちゃったわね。」













はれた秋空のもと再会した女医は誰が見立てたのか黄色のシフォンのスカーフ、

それに似合ったシンプルな薄い黄色のドレスをまとっていた。せっかく美人の部類に

生まれてきたのにこの女医が着飾った姿を見るのは12年ないことでシェーンコップは

ま、悪くないなと彼女のつま先から大きな瞳まで一通り無遠慮に見て。



悪くない。









「誤診、ということはないのだな。ミキ・マクレイン」

「失敬ね。今まで二百人以上の妊婦を見てきたし、三百人近くの赤ん坊を取り上げてきたわ。

カリンはユリアンの子を身ごもっている。間違いなくね」











面白くないとシェーンコップは思った。

36歳でおじいちゃん。








何の悪業か思い当たるものが多すぎて考える手間も惜しい。

・・・・・・生き残った罪なのか。






ミキ・マクレインは二の腕あたりの長い黒髪を今日だけ優美に巻いていた。

緩やかな毛先のカール。

脚はあいも変わらず細く一見肉枠的ではないが小柄な割には胸の高さ、大きさ、

腰のくびれ方、尻のあがり方。

自分よりわずか2歳年少の女性のものとは思えぬ若々しさがあり魅惑的である

には違いない。

いやかなり美しい。

男は思う。





悪くないどころか最上級の女であるには違いないと改めて思う。





古くからの知己で彼女の初陣を彼は知っている。

サイレンの魔女の娘であることもそして伝説の魔女以上の

恐ろしき戦闘能力を持つ軍医であったことも。

夫を早くになくして以来民間人になり開業医をしていることも

長い付き合いでシェーンコップは知っている。





ジョン・マクレインは彼女のよき夫であったしシェーンコップも

かの人物をどこかで敬愛していた。若くして死んだことを心から

惜しく思う。

そんな男の未亡人。






けれどミキと自分の関係は友人以外の何物でもない。




ミキは美しい女であるが・・・まれに見る美女であるがシェーンコップは

彼女とさまざまな話ができる友人としてのポジションを大いに

気に入っている。

とこの星に帰ってくるまでは確信していた。






そう。過去形。







「おい。ミキ。こいつがお前を振った男、ダスティ・アッテンボローだ」




確かにアッテンボローは傑出した人物だとシェーンコップは思っている。

女性関係に履歴がないのはともかくも現在民主主義の苗床を担っている

人物の一人で代表格である。仮定に過ぎないが同盟政府が続いていたとすれば

間違いなく30代で「元帥」足りえた才覚の男。

キャゼルヌはアッテンボローの女性遍歴の乏しさを嘆いた一人だったし、

同じく後輩のミキ・マクレインをいい加減未亡人から、「青年補佐官夫人」に

祭り上げたいと思っていることを、愉快だと思っていた。



この星に戻るまでは。






この星に生きて戻ると思わなかった自分。



どうせ拾った命。

シェーンコップも青年提督の恋の行方を高みの見物。としゃれ込む

つもりだった。





面白いことに思っていたが。











結果は面白くなかった。










アッテンボローの青二才にミキ・マクレインをとられるのが惜しくなったのである。





とはいえど人の恋路を邪魔するほど野暮ではない元『薔薇の騎士第13代連隊長』

ワルター・フォン・シェーンコップとしては愉快ではないが

勝手にやってくれと、32歳のアッテンボローが34歳のミキの手を長く握ったとしても、










わずかに不快になっただけである。











わずかに不快。













いや、かなり不愉快である。

色事の達人とも言われる自分が「美女」をほかの男に引き渡そうなどと

血迷うとは。



けれどもそれには少し事情もある。

彼はあまりにミキ・マクレインを知っていたし彼女もまた
ワルター・フォン・シェーンコップを

知っていた。お互い多くの友人知己を失いそんな心を互いの会話で慰めあっていたので

これは恋愛には向かないものだと二人は思っていたし少なくともシェーンコップはそう

思っていた。

だからこそ彼は佳人といえどミキ・マクレインを「友人知己」にとどめておいた。

佳人である以上に彼にはよい女といえる彼女・・・。











アッテンボローにくれてやるには惜しい。

しかし・・・。



現在、シェーンコップはユリアンの一書記官をしている。

要するに平時の時にはシェーンコップは政ごと云々ではなく

政ごとにかかわる仲間の生命を護れるポジションにいつでも

つけるようにフリーになっているのである。

二人の握手がとかれて男はひとつため息をつく。




女医は電話が入り、結婚式の途中であったが席を辞した。

政治が不安定かつ、秩序のないハイネセンでは日々貧困や教育の低下による

犯罪が多くけが人や病人が多かった。



ミキの戦争はまだ終わっていない。









2へつづく。