それでも春になれば鳥たちは帰ってくる・3
6月3日の旗艦「ユリシーズ」はまさに「病院船」そのものであった。 革命軍は圧倒的多数の帝国軍を敵に回すのだから和平まで持ち込んだ事実はともかく失った生命とからくも 生き残った怪我人たちの巣窟になっている。いつもは伊達男よろしく洒脱なオリビエ・ポプラン中佐も頭部、左 下膊部(かはくぶ)、丁度肘関節から下あたりを包帯で巻き軍服の下にはゼリーパームをあてがわれてさす がに「敏捷なポプランさん」ではおれそうもなかった。 はい、と彼の愛妻であるダスティ・アッテンボロー・ポプラン夫人が紙コップに酒を満たして夫の手に渡した。 「これ一杯だけだぞ。ミキ先生、怪我人が酒を飲むなど言語道断だが仕方ないって。」 同じ席上にいるイワン・コーネフ中佐はおとなしくお相伴にあずかっている。夫婦の邪魔をしたくはないが船室 も重篤な患者の治療室になっているので今夜から高級仕官サロンで寝泊まりせねばならない。ポプランでさえ 二人の邪魔をするなとコーネフに言わない。 ここにはまだ沢山の蜜月の邪魔者がいる。 「ありがとう。ダーリン・ダスティ。キスして。」 ポプランは唇を尖らせた。 「観客が多いからだめ。」 アッテンボローは結婚して新婚をすぎても初心で晩生には変わりない。 「さっきユリアンがイゼルローンのヤン夫人と超光速通信(FTL)で話したらしいが叱られたんだって。」 アッテンボローがかわいいおしりをおろす席は丁度2大撃墜王の間であった。女性提督は言葉を続けた。 「ヤン夫人が裁可するまでもなく「ブリュンヒルト」に突入しただろう。・・・・・・でもあれで彼女はユリアンに礼を 言ったんだろうな。」 しみじみとアップル・サイダーを飲む女性提督。 彼女はあまりアルコールは得意ではない。 「「ヤン提督がお目覚めであればあなたを叱ったわ。」って。でもこれでハイネセンへ還れるのねって。なんだか 不思議な気がする。」 コーネフは黙って聞いていたがポプランは黙っていなかった。 「不思議なのはあの不良中年がまだこの世に踏みとどまってると言うことだ。要塞では戦死者リストに名前が のったくせに・・・・・・ま、あれだな。年寄りの冷や水だ。」 お前さんも30のくせしてとコーネフはウィスキーを煽りながら言う。 「こら。卑怯者。そのことは内緒にしておけって言ってるだろう。」口をへの字にしたポプランの頬にアッテンボロ ーははにかみながらキスをした。 「だって俺と誕生日が一日しか違わないじゃないか。俺の誕生日の翌日にお前さんは必ず一歳年をとる。」 あれ。 「じゃあ、コーネフの誕生日は12月25日か。」 今更アッテンボローは驚く。そうですよとコーネフもさして面白くないように呟く。 「そのシェーンコップ中将の訃報で要塞の女性たちがかなりの大人数涙に暮れたとか。あのひとは言っても 独身貴族だから37歳じゃまだまだもてるだろうね。生きてるとなれば要塞中の美女に歓迎されるだろう。」 あのな。コーネフさん。 「どんなに大人数の女に愛されても思う女に振り向いてもらえない人生なんぞつまらんだろう。」 ポプランが言うと「それほどもてたことがないのでね。ポプランさん。」と穏やかに言いかえされた。 あの二人。 「何とかならないのかなあ。ミキ先生は全く男に興味ないもんな。」 アッテンボローは呟いた。 なんせ人間の心臓をその手でわしづかみする女だからなとポプランはやっぱり一杯だけのウィスキーでは物 足りないなと大事そうにちびりちびり飲んだ。 まあ、ともかくさ。 「失った仲間に、手向けの杯を贈ろうよ。」 女性提督はソフトドリンクで。2大撃墜王は紙コップのウィスキーを掲げてメルカッツやマシュンゴたちを見送 った。生涯忘れはしないであろう同志。沈んでいったヤン・ウェンリーの旗艦「ヒューベリオン」。 「宇宙歴801年6月1日、ワルター・フォン・シェーンコップ。女を愛し女に怨まれる人生を送った男。真紅の 薔薇に埋もれ(うずもれて)てその傲岸不遜なる生命はつきた。最期まで娘の結婚の邪魔をして娘から嫌 われ続けた享年38歳。割といい墓碑銘なのに使えなくなっちまった。だから不良は困るんだ。手順が狂う。」 そんなことをポプランが言うのでアッテンボローは笑った。 コーネフも苦笑した。 「お前さんの墓碑銘はアッテンボロー提督が考えてくださるさ。とびきり辛口のやつを。」 お前は絶対アッテンボロー提督に死ぬほど怨まれる亭主だとクラブの撃墜王殿は明言した。 2大撃墜王の冗談に聞こえない戯言が飛び交う中アッテンボローは一人思った。 おなかがすいた。 彼女の腹時計は正確。こんな状態だとなかなか食事にありつけない。 でも。 腹が減るのは生きている証拠だ。「黒色槍騎兵(シュワルツランツェンレーター)」の猛攻を受けたときは本 当に自分こそが死ぬのではないかと思った。恐怖はなかったが愛する男を遺していくのかという哀惜の念 が強かった。 閣下。 「お食事ですよ。といっても固形栄養食とプロテインドリンクだけですが。」 ラオ大佐がアッテンボローの目の前にトレイを差し出した。 「すまないな。お前さんだってろくろく生きた心地はしなかっただろうに。」アッテンボローは素直にトレイを受け 取った。 「あ、大佐。またうちの奥さんにちょっかい出してる。・・・・・・ん、こんな時間か。ごめん。ダーリン。食事の用意 してなかった。」 こら。 「いつも怪我人の夫に飯をせがむ女みたいに言うな。」 ラオは笑った。「中佐よりも閣下との腐れ縁は長いんでね。「黒色槍騎兵(シュワルツランツェンレーター)」を含 む無傷な艦隊とまだ諦めないで渡り合う閣下はそれはもう立派だった。・・・・・・正気を失ったかと思ったのは事 実だが。」 一言よけいだなとアッテンボローは思う。 確かにこの分艦隊主席参謀長との仕事は長い。 シェーンコップと年齢は同じだがもとは軍人ではなく商人だった珍しい転身組である。だが幾度も彼女はE式の この男を頼ってきたなあと思うし・・・・・・今後も仕事をする上で頼るだろうなあとも思う。 仕事。 まだまだ残っている仕事はある。 女性提督は根が女性なので。 怪我をしている夫には流動栄養食を。要塞に妻子を残しているコーネフにはアッテンボローと同じものを結局 こまめに動いて運んできた。 「ダスティはいつでも愛くるしいなあ。」 ポプランはアッテンボローにキスをした。コーネフは恐縮し礼を言った。 奇妙な三人はそれぞれ食事にありついた。 「しかしなんだな。ユリアンも19だもんな。キスの一つもするだろう。上出来なところを邪魔してしまった。」 アッテンボローはシェーンコップの心肺蘇生がなされて魔王が見事地獄から生還したことを傷心の女の子に知 らせたくて若い二人がおそらくは初めてのキスを交わしている最中に格納庫に飛び込んだものと思っている。 事実、そうであった。 「いいんじゃないか。パイロットスーツでユリアンを見送るところからしてあれは恋だ。戦いに征く男を美女が見 送る。古来からの恋人たちのならいさ。結ばれるべくして結ばれた二人ってことで。それに。」 邪魔をしたのはシェーンコップの野郎だぞ。 「徹底的に二人の子作りを反対するだろうがカリンは十代だろ。あっという間に産みそうだ。」 怪我が全く堪えないのかポプランは口笛を吹いた。「葬送行進曲(バイバイ・マーチ)」。 アッテンボローは隣のクラブの撃墜王殿の襟元をがばっとつかみ、言った。 「子作りの秘訣を教えてくれ。コーネフ。」 これにはイワン・コーネフ中佐も絶句した。 自分たち夫婦はポプランの色情狂とは違ってテレサとごく普通に夫婦生活を重ねた結果であって秘訣も何 もない。 「自分よりキャゼルヌ中将かシェーンコップ中将にきいてください。」 そう答えるほかにない。 これからは。 「たんと子作りに励もうぜ。ダーリン・ダスティ。だから。」 キスして。 うっかりしていたら怪我人に抱きしめられた。「人が沢山見てるからだめだって。」とアッテンボローが言えば。 トイレットだな。 「なんせ「ユリシーズ」のトイレットは幸運のトイレットだ。あそこなら格好の子作りの場になるぞ。古来からトイ レットを綺麗に掃除すると美しい娘が生まれるという。お前そっくりなベイビーを強く希望する。」 99%本気で言ったポプランに、アッテンボローとコーネフは「馬鹿。」といった。 まずは。 「ユリアンが皇帝との会見準備を進めている。とりあえずはハイネセンへ向かう。あちらの言い分ではイゼルロ ーン要塞は返してほしいとさ。至極当たり前な言い分だよな。我らの愛すべき要塞事務監は塵一つも残さず綺 麗さっぱりイゼルローン要塞の後かたづけをしてくれるだろう。」女性提督は食事も終えて軍用ベレーをただし立 ち上がった。 コーネフ。 「悪いけど私のかわいい夫の遊び相手になってくれ。私はこれから仕事が残っている。ユリアンともまだはな さねばならぬ所用もあるし。越権行為で悪いんだがよろしく頼む。」 誠に遺憾ですが。 「俺はオリビエ・ポプランの扱いにはなれています。暴走せぬように監視しておきますから。」などとにこやかに 手を振る。綺麗な後ろ姿を見せて女性提督は人混みに消えた。 要塞には。「お前、女房子供がいるし早く帰らないとシモーネから「お帰りなさい。おじちゃま。」っていわれ るぞ。」ポプランなりにコーネフを思った言葉、である。まだ六ヶ月の女児である。コーネフは笑う。綺麗な碧の 眸をした妻と同じ色の眸を持つ赤子の娘を思い出した。 「アッテンボロー提督はずっとお子さんをほしがっていた。でもそれは表面には表さないで黙々と水面下の戦い に身を投じてこられた。まだやることはさすがに多いだろうが・・・・・・お前さんたちにも子ができて特にアッテン ボロー提督だけは幸せになってもらいたいな。」 ふむ。 「おれやっぱし一度ミキセンセに診てもらおう。彼女は健康体だし彼女のせいじゃないと思うんだよな。」 ポプランがまじまじと露骨に自分の股間を見つめる。 「多分お前のせいだろうな。」コーネフはみたくないので目をそらした。 いくら避妊をしてきたとはいえど数百名の女性と浮き名を流した自分にご落胤が一人もいないことが不思議 である。ワルター・フォン・シェーンコップには不釣り合いなほどできのよい娘がいるのに。 そんなポプランさんの脳裏によぎった野生と典雅を併せ持つ戦闘指揮官の男はまだ意識は回復したもののた いした文言も言えず遺伝子上の娘から懇々と説教をされていた。 「スープなら飲めるだろうってミキ先生に教わったから飲みなさいよ。」 わかった。 「何よ。わかっちゃいないくせに。あんたは格好ばかりつけて死に急いだけどあんたが死ねばなく人間だっている んだから。わかっちゃいないじゃない。」 わかった。 わかったから。 「・・・・・・怒鳴るのはやめてくれ。傷に響く。」 シェーンコップは娘とは小うるさいと思った。 でも、悪くはないものだと思い始めていた。 「あんたには復讐してやるんだから。」カリンはうっすらと涙を浮かべて顔を合わさずに言った。 「大いに結構だ。美人の願いは聞き届けようと務めている。」 「今年のうちには子供を産むわ。おじいちゃん、あんたの孫よ。40代になる前におじいちゃんにしてやる。」 ・・・・・・。 「それは強烈な復讐だな。・・・・・・降参するからやめてくれ。」 「だめよ。赦さない。」 「気の強い娘だな。」 やれやれ。 白旗を揚げてもどうにもならないようだとシェーンコップは目を閉じた。 そんな様子を女医はみて「年貢を納めなさい。フォン・シェーンコップ。」と微笑んだ。 一行は6月10日に旧惑星同盟首都星ハイネセンに降り立った。 ユリアンがハイネセンを旅立ったのはヤンとフレデリカが結婚してからだ。故国の荒廃ぶりをこうも目の当たりに するといささか暗澹たる気持ちに傾いた。 同行したアッテンボローはさらにその以前のハイネセンしか知らない。 「ともかくユリアン、ムライ中将にお会いしてこよう。久々に秩序ある説教を賜りにね。」 薄手のミリタリーコートを着た女性提督とならんでもユリアンの身長は軽く彼女を追い越した。 ムライは未だ病床にあったがそれでも6月末には退院できるという。 「さんざんな目に合われましたね。」アッテンボローが言うと「そちらもな。」とムライはとげのない口調で言った。 ユリアンに話を聞きたいとムライは二人を歓迎し「おや。中佐はおらんのか。」とアッテンボローに微笑んだ。 「当人曰く逃げてるんじゃないらしいです。それなりに怪我をしていますしまだやすませてます。逃げたんじゃない ぞと夫から是非伝えるよう言われております。」 ムライは小さく笑う。 そうか。 「イゼルローン要塞を放棄する、か。当然の要求でもあり結果だね。よい時代だった。などと私などは楽隠居を はじめるが君たち若者にとってはこれも未来への序章にしてほしいと願う。」 やや説教めいているとも言えるがユリアンもアッテンボローもこの人物がヤン艦隊で不均衡きわまりない司令 官に一般人のものの見方を例としてあげるムライの助言が非常に有効であったことを思い出す。 「楽隠居とは何をなさるおつもりですか。」とアッテンボローが尋ねると「私は田舎暮らしがすきでね。野菜でも 作ろうかと妻に話している。シトレ元帥は養蜂を趣味でされていたようだがそこまでまねはできないだろう。君た ちの手伝いを何もできないですまないと思っている。」 ユリアンもアッテンボローもそんなことはないと言った。 ところで。 「ミキ先生のおかげでヤン元帥をはじめ多くの将兵の生命を救えました。」 ユリアンはシェーンコップの話しをムライにした。 役に立ったかとムライははじめて父親らしい笑みを見せた。それまでも穏やかに接してくれたが一人娘のことと なるとさすがの参謀長もうれしさを隠せない様子だった。 「あれが軍人になることを反対した。義理の息子も。あれは気の優しい娘なんだがどちらに似たのか頑固でね。 ・・・・・・困ったものだ。」 病院を出たユリアンとアッテンボローは同日アウグスト・ザムエル・ワーレン上級大将と「駐留」した革命軍艦隊 の待遇の交渉に赴いた。 「卿とは一度どこかであった気がする。フロイラインともだ。・・・・・・地球か。」 ユリアンの容貌はともかくアッテンボローの美貌を一目見た人間は記憶から消去しがたかった。 「申し訳ありませんでした。ワーレン閣下を頼るほかに道がなかったもので身分を偽りました。」 青年は素直に陳謝した。 「いや。情報は確かに頂戴したしあれが戦時下というものだ。気にかけることでもない。」 義手に変えた左手を軽く挙げて重厚だがおもしろみがない訳ではない懐の深い男と青年は改めて友誼をあた ためた。敵将と親交をかわすのは喪った兵士やその遺族からなんとそしられるだろうか。それは甘受せねばな らないと青年は思っていた。 「しかし名前に聞こえた女性提督がこれほどの麗人であったとは。下世話な話をして申し訳ないことだがわが帝 国軍には女性の高級軍人はいない。さんざん我々を翻弄した女性提督のことを性根がよくないと評した男がいる が・・・・・・。」 ワーレンはビッテンフェルトのことを考えていっている。 いえ。 「それが戦時下というものです。閣下。」アッテンボローはにっこりと微笑んだ。 それにしても・・・・・・。「互いに多くの知己を喪ったものだ。」感慨深げに言ったワーレンの言葉を粛々と青年は 受け止めていた。 その後ナイトハルト・ミュラー上級大将とも二人は会っている。彼はユリアンにこれから皇帝を喪う己たちの業を 思い悩み、「生き残ったものは心の飢えを満たすためにまた死ぬ日が来るまで生き続けねばならない。」と言葉 少なく述べた。皇帝の病は篤い。死病であったのだと青年は思いもし去年の6月1日にヤン・ウェンリーをなくして いたら自分はどう生きて来れたであろうかと深刻に考え込んだ。 だめだ。提督は生きておいでだ。不吉なことを考えるな。青年は自身を戒めた。感傷だけでミュラーに同情しよう とした自身の不心得にわずかに憤りを感じた。流血しか平和を開く術がなかったとはいえど死んだものたちがそ れを赦すはずもない。 生き残ったアッテンボローもユリアンもまだあくまで道の途上にあって旅の終わりではない。 ワーレンからの許可が出て翌日にはハイネセンへ帰還したい兵士たちを二人はまた手続きをしそれぞれの家 路に還す作業にいそしんだ。 なんでお前さんと三次元チェスをせねばならんのだとこれまた傷ついた戦士であるカスパーリンツ大佐が逗留 中の安ホテルの一室でポプランに憮然として言う。 「イワン・コーネフを知ってるものはイワン・コーネフとチェスはささないさ。」オリビエ・ポプランは自分のことをよく 知っている。「一番強かったのはマシュンゴだったな。」コーネフは二人の手がまずいなあとぼんやり考えながら 見ていた。 ノック音がして。 「なんだ。三下(さんした)ばかりが不景気なつらぶら下げてこんな狭い部屋で辛気くさい。ユリアンや女性提督 はおらんのか。」自由独立商人でありイゼルローン革命軍に多大なる情報を提供して貢献したボリス・コーネフが 顔を出した。 「いたらポプランはリンツ大佐と三次元チェスなどしないよ。ボリス。」コーネフは突然の従兄の訪問に驚きはしな かった。そうそうとポプランはうなずき投了した。 「ああ。辛気くさい。よう。フェザーンの辣腕商人。お宅のルビンスキーはどうしてる。元気なのか。」 アドリアン・ルビンスキーの行方は杳として知られていなかった。 「死ぬだろう。病院関係者からの情報だ。脳腫瘍で運ばれたが食べ物の摂取を受け付けないらしい。餓死す るつもりだ。金と権力を思うまま裏でほしいままにしてきた男がハンガー・ストライキとは。」 一番不機嫌なのは言っている張本人である。 「ハンストねえ。ひとの飯まで奪って食うやつなのに妙じゃないか。」 ポプランは首をひねった。 ただで死ぬ男には思えないというのがその場の男どもの出した結論である。 ボリス・コーネフは今までの情報提供代を精算してきっちり革命軍に支払わせようと思ってきたのだが結局その 話でその場は終わった。 男たちの予測は6月13日「ルビンスキー」の火祭り」として歴史に残る。 6月20日にユリアンは皇帝と第一回目の会談に出席すべく仮大本営に一人赴いた。午後30分の会見の間 に青年は帝国に「立憲政治」という療法をすすめた。ラインハルトはそれにはすぐ回答せず青年をフェザー ンへ誘った。 「予を待っているものもいる。それに卿のいうところに予はすぐに是とはできない。それに今後のことは皇妃に話 すがよい。予の皇妃は遙かに識見があり政治的見識に秀でている。予は未来を皇妃にゆだねている。」 青年は後日述懐するにこの言葉こそ皇帝ラインハルトの惚気(のろけ)ではなかったかと。一度の話し合いでは 満足できたとは言えない。けれど皇帝が如実として自身の死を近くとらえていることを痛感した。 こうして会見は終わりユリアンはアッテンボローたちにそれを告げた。 その夜、自称「蜜月」の二人はベッドの上でピロー・トークをしながらフェザーンへ行こうと決めた。 「ルビンスキーも最期まで帝国を引き摺り回した。フェザーンでも地球教徒の残党でも現れて何らかの蠢動 を起こさないとも言えない。トリューニヒト、ルビンスキー。あの二人は死んでもなんか含みがあって素直に 喜べない。仕事はスールに任せてフェザーンへ行く。」 素肌の指と指を絡ませて。 傷、痛いよね? アッテンボローはポプランに抱かれながら思いをはせた。 「いや。そうでもない。遠慮せずに・・・・・・。」 ダキアオウ。 唇を重ねて女は男を受け入れた・・・・・・。 二人が甘い夜を過ごしていたころ一つの歓送の歌が静かに流れていた。 ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツの遺品をシュナイダーは旧帝都へ持ち帰り遺族に最期を伝えたいと 新しい旅路に出るという。 「しばらくは傷が癒えるまでハイネセンにとどまるがメルカッツ提督にお伴をしてきたものたち皆の意見だ。時期 を見てオーディンへ還る。」 ベルンハルト・フォン・シュナイダー中佐は年少のユリアンにそう語った。 長い旅だった。 「メルカッツ提督は旅を終えられた。俺の旅はまだ終わらない。また会おう。ユリアン。」 固い握手を交わした青年はともに生きてきた愛する同志の新たな旅をわずかにあふれる涙と熱い思いで見送ろ うと誓った。 夢を殺すな。 夢を追うんだと熱い涙と汗をともに流した仲間。 「いつか必ずお会いしましょう。そのころにはヤン元帥も眠りから覚めていると思います。おこがましいことですが ヤン・ウェンリーに変わりましてメルカッツ提督に心より感謝申し上げます。」 青年はシュナイダーに深く頭を下げた。帝国の亡命者である青年士官は目頭に熱いものがこみ上げるのを押さ えその言葉で十分だと言った。 宇宙歴801年6月27日。 ユリアン・ミンツ並びにアッテンボローたちは皇帝の旗艦「ブリュンヒルト」に客人として搭乗しハイネセンを飛 び立った。傷ついた美しき白い艦は修復され最期の宙(そら)を飛翔する。 by りょう |