それでも春になれば鳥たちは帰ってくる・2
三人は走る。 かつて崩壊する地球教本部でもそうであったように亜麻色の髪の青年ユリアンを中心にポプラン、マシュン ゴはひたすら向かってくる敵をはらって「皇帝との和平」を目指して走る。 ポプランにすればシェーンコップの親父になんの義理もなく、あいつ格好つけやがってと内心悪態をついて いるのだがそのわずかな不機嫌さすらも敵への素早く確実な攻撃に変わる。 しかしあのときと完全に異なる事態が起きた。 猛烈な銃のシャワーが三人を襲い五人ほどユリアンたちの前に立ちはだかり荷電子ライフルが火を噴いた。 「マシュンゴ!」 チョコレート色の肌をした巨人はいつでもユリアンの味方だった。 ともに「レダIIの悲劇」を乗り越えて生き残った仲間。 どんなときも年少のユリアンに敬語を使い微笑んでいた。 実は三次元チェスの陰の実力者でもあった。 マシュンゴの背中をダース単位の銃創が走り背中は熱い鉄板のようだった。その大きな体でユリアンとポプラ ンの二人の生命をこの寡黙で優しい男は護ってくれた。 体を受け止めようとしたユリアン、敵をすべて撃ち殺したポプラン。 マシュンゴの体は重くユリアンの腕から地面へ沈んでいく。 ユリアンを見てマシュンゴは最期にこっと笑った。 そのまま愛すべき巨人は身を地面に沈め動かなかった。 青年は怒気を結晶化させたかのように重い装甲服に翼でもはえているかのごとく敵に飛びかかり戦斧を振り 下ろした。現れる敵を次々と青年は炭素クリスタルの戦斧でたたききった。ポプランは敵の急所を確実に押さ え彼もまた怒りを敵にぶつけるしか術がなかったのである。このとき二人の脳裏には復讐心を上回る目標が あり、間隙を見つけると二人は踊り出すように敵の流血の陣形を突破して走った。 目前には帝国軍将校らしき男が一人重厚な扉の前に立ちはだかっている。 銀と黒の制服をきた琥珀色の眸を持つこの男がギュンター・キスリング親衛隊長だとは二人は知らない。 彼はブラスターを構えユリアンにねらいを定めた。 「ユリアンだけは還してやる。愛してるぜ。おれの提督。」 「いけ!ユリアン!」 洒脱と冗談が主成分なはずの男がユリアンを突き飛ばし青年は走ると言うより転がった。 体勢を立て直すにも脚がもつれた。 ポプランはキスリングに飛びかかり軍用ナイフで一付きにしてやるつもりだったがキスリングは皇帝の親衛 隊隊長である。ポプランのナイフをはらい落としポプランはキスリングのブラスターを蹴り上げて落とした。あ げくは武器なき戦いになった。 お互い殴り合いつかみ合いになった。 「お前はいけ!この先にお前の望むものがある!つかみ取ってこい!」 乱闘のさなか14歳のユリアン坊やがイゼルローン要塞ではじめて「友達」になった年長のハートの撃墜王 は瞬間うろたえた青年にはっきりと叫んだ。 ユリアンは脳細胞は混乱していたが運動神経は混乱していなかった。 ポプランと別れて数人の敵と渡り合いなぎ倒していくつかの通路といくつかの階段を通過して・・・・・・・目前 の荘厳な扉が開いた。 混乱した記憶や感慨、感覚が整理できてくると青年は激闘の末の激しい鼓動と呼吸を整えた。 ヘルメットは乱闘のさなかに失い亜麻色の髪は秩序とはほど遠く乱れている。 いつ傷を付けたのか額から生暖かいものが流れてそれが血だと気付くのにユリアンにはわずかな時間が 必要であった。 落ち着け。 ここはどこなんだ。 視神経は疲労によりうまく働かずかろうじて精神の力で青年は立っている。 肺や心臓などの呼吸器は爆発するかのように脈打っている。 こんなに自分の体が言うことをきかないなんてことはなかった。 ここは・・・・・・皇帝の私室だろうか。 かすんで見える調度のたぐいを見て青年は思考回路を巡らせた。 足下が心許ないのは彼の疲労だけではなくセラミックの床とは大きく異なる上質の絨毯を踏みしめてい るからだとユリアンは気付く。やがてかすんでいた目もわずかに回復して華美ではないが落ち着いた重 厚な室内にいることがわかる。 落ち着いた照明も通路のそれとは大きく異なる。 前方に目線をあわせれば銀と黒の装飾が施された軍服を着た上級軍人の姿をユリアンは発見する。 一人は・・・・・・ナイトハルト・ミュラー上級大将だ。覚えている。ではもう一人の小柄で蜂蜜のような髪の 色をした威風堂々たる武人が・・・・・・ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥か。こんなときにまでユリア ンは帝国の重鎮たる男になんと挨拶をすべきか考え、はじめましてではおかしいと度し難く小さく笑った。 はじめましてはないよな。 ユリアンは疲労困憊してよろめき、体のバランスを崩し赤子のように転がった。膝をつき己の装甲服や 戦斧におびただしい血の臭いをかぎ分けた。鉄のさびた臭い。 額から流れる血が左目にはいり片方の視界は紅く染まった。 これが自分の望んだ、途だと言い聞かした。 「来させよ。まだそのものは予の前にたどり着いていないではないか。」 二人の帝国上級軍人はユリアンに手を貸そうとしたが、大きな声ではない。だがえもいわれない覇気が 奥底(おうてい)に流れており、その静かだが覇者たる声が二人の動きを止めた。この声の持ち主は宇宙に ただ一人しかいない。 ひとを従えるまさに王者の声。 ユリアンは呼応するように疲労の激しい体を奮い立たせもはや矜恃でラインハルト・フォン・ローエング ラムの目の前に歩き出そうとした。幾度もふらつき膝を折りかけた。 だが。 民主共和主義者は専制君主に膝を屈することは絶対できない。 その矜恃だけがユリアンを起立させ、たどたどしい歩行をなさしめていた。 大事なものなら奪いに来いと豪奢な金髪の覇王はいった。 民衆が生きる指針を打ち出すことができる民主共和の政治体制を青年はなんとしても手に入れねばなら なかった。 すべての仲間の夢を青年は背負っている。 すべての仲間の生命を青年は背負っている。 だから。 民主共和主義者は専制君主に膝を屈することはしてはならないと己に言い聞かして皇帝ラインハルトのも とに一歩一歩途を踏みしめて歩いた。そしてたどり着いた。自分の肉体の疲れなどなんということはない。 確かにおぼつかぬ足取りであるがこの途を用意してくれた人々に応えるためにもユリアンはここに来なけ ればならなかった。 「立ったままで御意を得ます。皇帝ラインハルト陛下。」 強いダークブラウンの双眸をおもしろみもなくラインハルトは見た。 「卿の名前を聞こう。」 「ユリアン・ミンツと申します。陛下。」 皇帝不予と聞いていたがラインハルトは身支度を調えており背もたれの高い安楽椅子に王者らしく座って いた。蒼氷色(アイスブルー)の眸はヤン・ウェンリーの養子はさてその名に恥じない言動をするのかと観察 しているかのようにユリアンを見ている。 表情の変化はない。 「で、卿は何を予に提案するためにここへ来たのだ。」 「陛下がお望みならば平和と共存を。そうでなければ・・・・・・。」 そうでなければ。 覇王は質問した。 「そうでないときはそうでないものを望んでおります。少なくとも一方的な服従を誓いに来たのではありま せん。ローエングラム王朝が・・・・・・。」 膝を屈してはならない。 膝を屈してはならない。 ユリアンは乱れゆく思考を落ち着かせながら言葉を継いだ。 呼吸を整えて青年は頭(こうべ)を上げて畏れず進言した。 「ローエングラム王朝がやがて病み衰え疲れを見せたときそれを治癒する療法を私は陛下に教えに参り ました。虚心になってお聞きください。そうしていただければおわかりになります。ヤン・ウェンリーが陛下に 何を望んでいたのか・・・・・・。」 ここまで言い切るとユリアンの意識は途絶えて目前は真っ暗に暗転し彼は皇帝の目前で倒れ込んだ。重い 沈黙が青年を包み、室内を覆った。 「予に教えるとは随分大言を吐くやつだ。・・・・・・それにしても予の目の前で失神したものはこれで二人 目だ。そうであったなミュラー。」 御意とナイトハルト・ミュラーは神明に答えた。皇帝には一切の怒気はない。 「予には全く役には立たぬがこのものには役に立つだろう。軍医を呼んで手当させよ。それとミッターマ イヤー、卿はこやつの大言に免じてここまで生き残ったものたちに戦闘をやめさせよ。十分生き残る資 格があろうからな。」 御意と返答して二人の上級軍人は動き出した。ミュラーは軍医を呼び、ミッターマイヤーは大理石のテー ブルの上におかれた電話をとって全艦体に勅命を伝えた。 「私は宇宙艦隊司令長官ウォルフガング・ミッターマイヤー元帥である。皇帝陛下の勅令を伝える。戦闘を やめよ。和平こそが皇帝陛下の御意である。」 戦うのをやめよ。 和平こそ陛下の御意である。 この勅令があと一分遅ければ冥界へ確実に送られていたであろうオリビエ・ポプラン中佐、カスパー・リン ツ大佐は死を司る大鎌をふりかざす死に神の切っ先がひやりと首筋を撫でて消えた感触をぬぐえなか った。わき上がる血の臭気を体に浴びながら二人の男は冥界の門扉が目前で閉ざされるのを見た。 「・・・・・・ユリアンは・・・・・・いったんだな。」 ポプランはキスリングともみ合い・・・・・・互いにつかみかかっていた手の力を緩めるのに苦心した。 ちっと舌打ちをしたのはポプランである。 「早くはなれろ!マネキン野郎。男と抱き合う趣味なんか俺にはない。」 キスリングにしても同じ気持ちであったに違いない。 宇宙歴801年6月1日0413時のことであった。 女医が要請して出した小型艇が皇帝総旗艦「ブリュンヒルト」に到達したのが6月1日0422時で ある。 装甲服を着ての戦闘はほぼ二時間前後が限度であることを知る尽くしている女医は皇帝の勅命が 出る前には小型艇に医療チームの半分を乗せて「ユリシーズ」を飛び立っていた。 無茶は承知していた。 いまだ帝国軍の猛攻は続いているさなかである。 アッテンボローでさえ反対したが女医の整然とした訴えに根負けして小型艇を発進させた。 強襲揚陸船「イストリア」に小型艇を着けミキは「ブリュンヒルト」の壮絶な地獄絵図を見た。 装甲服を着ていたが空気があるのが確認されてヘルメットをはずして屍の山に叫んで生存者を探した。 彼女は初陣でワルター・フォン・シェーンコップとともに血まみれの洗礼を受けている。 だがほとんどの軍医たちはあまりの凄惨な光景に嘔吐するものさえいた。 脱落しなかったのはイワン・コーネフ中佐くらいである。 医療の知識はわからぬが彼とて白兵戦の技術は陸戦部隊のものより秀でている。 階段があり、ミキはその上で座り込んでいる黒い影を見つけた。 「・・・・・・先生、気をつけてください。」 「ええ。敵の装甲服じゃないわね。」 彼女は一歩一歩階段をあがりそこで・・・・・・長年の僚友である男の安らかな眠る姿を見つけた。 首に触れ拍動をとろうとしたが心停止している。背中には大きな裂傷が走り大量すぎる血液が体内か ら流れ出たことを知る。 女医は重くなった男の体を背負って階段を足早に下りてきた。 「連れて帰る。」 コーネフは絶句した。ワルター・フォン・シェーンコップ中将・・・・・・。この男が死んだ? 「死んでるんですか。先生。」 「今はね。コーネフ中佐、この男の心肺蘇生をしているからほかの医者を連れて仲間を回収して。生 き残っている男が何人かはいるはずよ。」 「でも中将は・・・・・・・。心肺蘇生ですか。」 ご託を並べてないで動けと女医は軍医たちとコーネフをしかりとばした。 女医はその場でシェーンコップを横たえ「死のうなんて甘いのよ。」と胸骨の上から直接圧迫をはじめた。 見たところこの男が心停止したのは0400時前後。 そこからの蘇生は幾度か試みている見ているミキは直接圧迫を続けた。 「あの女は狂っている。」 軍医の一人が死体を相手に心肺蘇生をやめないミキをそう評した。 0413時にミッターマイヤーによる皇帝の勅令が出てコーネフたちは先にリンツを見つけた。軍医は怪 我のひどい薔薇の騎士連隊第14代連隊長の手当をする。 息のあるものが数名はいた。 途中でルイ・マシュンゴの遺体を見つけたときさすがに胸がいたんだ。 コーネフは先を進み廊下で文句を言って座り込んでいた「相棒」を見つけた。 「お前、元気そうだなあ。ポプランさん。」 まさかの「僚友」の声にポプランは目を丸くして驚く。 「なんだ。お前、今更のこのこと現れやがって。」 「嬉々としてメンツからはずしたくせに文句を言うな。」といって肩を貸した。 「「黒色槍騎兵(シュワルツランツェンレーター)」の猪が「ユリシーズ」に猛攻をかけてきた。」 そのコーネフの声にポプランは心臓が凍ったかと思った。 「アッテンボロー提督が死ぬわけなかろう。「ユリシーズ」も健在だ。・・・・・・メルカッツ提督をはじめ多く の犠牲はでたがな・・・・・・。」 二人の前にミュラーが現れた。 コーネフは武器を構えずポプランも砂色の髪をした上級大将をにらむにとどまった。 「ヘル・ミンツは無事だ。我が軍の軍医が診たところ額に傷があるだけであとは疲労という所見である。」 「ユリアンが動ける状態なら返してくれ。あいつが生きて還るのを待っている女の子がいる。」 ポプランは相手が階級が上だろうがこの際体裁はかまってられなかった。 ミュラーは頷いて。 「革命軍より医療班ならび死体を回収するものをこちらに送ってはくれまいか。」 落ち着いた口調でポプランに言った。 「医療班は来ています。私はその一員です。」とコーネフが答えた。 随分素早いとミュラーは思った。 つい先刻皇帝より勅命が出て戦闘中止が発布されたばかりであるのに。 「そちらにはよほど勇敢な軍医がおられる模様ですね。」 ちょっとばかり危険な女ですけどねとコーネフはいわず頷いた。 「革命軍補佐官であるアッテンボロー提督に艦を出すよう改めて要請します。なにとぞ攻撃のなき よう願います。」 コーネフがいうとミュラーは厳粛な面持ちで約束した。 「和平こそ皇帝の御意です。お約束いたしましょう。」 ミュラーの裁可によりアッテンボローは通信を受け改めて救護班を非武装艦にのせ「ブリュンヒルト」 へ送った。 軍医たちは小型艇で執念深く心肺蘇生を繰り返しているミキを見て驚くがつながれた生命データを表す 機器の心拍の数値がわずかにあることを確認するとさらに仰天した。 「こいつはね。」 簡単に死ぬ男じゃないの。 装甲服を脱ぎ額から汗を拭きだしてミキはシェーンコップの胸を律動感(リズム)正しく圧迫している。 「除細動器の準備!」 女医の怒声が鋭く飛びそれに反応を素早くできたのは若い女性の看護師だけであった。 準備を終えて看護師がミキに用意できましたと叫んだ。 「若いのに肝が据わってるわね。名前はを聞くわ。」 「ニ、ニコール・アナ・スペンサー准尉です。中佐。」 ミキは男はこういうときに役に立たないと内心毒づきながらシェーンコップの心肺蘇生を続けた。 「准尉、バイタルサインは?」 心拍数、呼吸、血圧、体温、意識レベルを准尉は読み上げた。 「こいつ、助かる。」 それを聞いた軍医たちはあり得ないと叫んだ。 どのデータをとってみても回復するどころか数値は徐々に下がってきている。 「これ以上は患者に苦痛を与えます。マクレイン中佐。」 小型艇に収容されたポプランとコーネフ、リンツはその様子を見ているだけだった。ユリアンは眠って いる。 胸部切開。 「開胸心マします。輸血続けてください。外傷性および出血性ショックを起こすかもしれないけどこれし かない。」 一同がどよめいた。 「そんな!絶対死にます!中佐、やめてくださいっ。」 軍医たちはこぞって反対した。 けれど女医はシェーンコップの胸をイソジンで消毒して左第4と第5肋間の前側方開胸を目にもとまら ぬ早さで終えて直接シェーンコップの心臓を優しく揉んだ。 あんたは人殺しだ。 狂ってる! 患者への冒涜だと軍医たちはこぞって言い立てた。 「うるさい!何もしないなら出て行け。この男は生きてる。まだ生きてるから措置を行っている。まだ生 きているのに諦めるなっ。こいつは最期まで戦ったんだからこっちも最期まで生きてるこいつを見捨て たりしないっ!」 と医師たちを恫喝して女医はリズムと感触を確かめながら慎重にマッサージを続ける。 まだ死んでない。 「患者が死んでからいくらでも裁きは受けるわよ。」 ミキは背中を向けて作業をやめなかった。 側にいるのはニコール・アナ・スペンサー准尉だけであった。 不良中年・・・・・・・。 「あれで生き返ったらもう女医には頭があがんないぞ。心臓を鷲づかみだぜ。」 ポプランは呆けて呟いた。胸部と腹部にゼリー状の薬を貼り付け包帯で体を巻かれている。 怖いひとだったんだね・・・・・・先生ってとコーネフも放心していた。 「・・・・・・だから怖いっていったでしょ。」リンツも手当を受け口を開ける状態にまでなっていた。 この三時間後女医の健闘が実を結びワルター・フォン・シェーンコップ中将は一度は死の女神の抱擁 を甘受したものの見放され鋭い胸の痛みと鈍い背中の痛みで意識を回復した。 ミキは仰臥位で男の心臓をマッサージし終え心拍が戻ると緊急の止血だけしていた背中の裂傷を横臥 位で縫合。 「ユリシーズ」医療室で輸血を続け意識を回復させた男にいった。 「死ぬなんて甘いのよ。」 とワルター・フォン・シェーンコップの頬を冷たい細い指でちょんとつついた。 医療機器や患者の様子、生命データを一通り見て女医は「痛いだろうけど堪えなさい。」といって部屋を あとにした。 男が意識を回復したのは6月3日だった。 一度はイゼルローン要塞で死亡者リストに挙げられた男。 カリンは父親を亡くした傷心の女の子でユリアンはそんな彼女を抱きしめて慰めた。 一通りカリンは泣いてしまうとユリアンにいった。 「あたしのこと、好き?だったら黙って頷いたりしないで好きっていって。」 と大まじめな顔でいった。 ユリアンは彼女が大好きだったので「好きだよ。」と答えた。 民主主義って素敵ねとカリンは雨上がりの空のようなきらきらした輝きを見せて青年に言った。 なぜとユリアンが尋ねたら。 「だって伍長が中尉に命令できるんだもの。専制政治じゃこうはいかないでしょ。」 ととびきりの笑顔を見せて言った。 少年は青年となり、彼のこれからの未来図にはカーテローゼ・フォン・クロイツェルが常に側にいると 確信した。初めてのキスの最中に 「いいところ邪魔してすまん!カリン!シェーンコップが蘇生したぞっ。」とアッテンボローと怪我をして いるポプランがが駆け込んできて無粋を承知で叫んだ。 それでも春になれば鳥たちは帰ってくる。 それでも春になれば鳥たちは帰ってくる。 ユリアンはカリンの手を引っ張って行こうと言った。 カリンはうんと頷いて二人の恋人同士がシェーンコップの病室に入った。 チューブで繋がれある意味ヤンより痛々しい姿の父親を見てカリンは止まった涙がまたあふれ出して お父さん。お父さんとシェーンコップに取りすがり泣き出した。 あの御仁。 「なんだか徹底的に二人の結婚を邪魔しそうな気がする。」 アッテンボローは還ってきたポプランに呟いた。 なに、とポプランは白桃のようなアッテンボローの頬にキスをして言う。 「不良中年はあのせんせの奴隷に成り下がったも同然だしあのせんせがうまく事を運んでくれるだ ろう。」 ワルター・フォン・シェーンコップの心臓をつかんだ女はさすがに睡眠不足になってスタッフルームの 仮眠ベッドで眠っていた。 「シヴァ戦役」と後日語られる会戦でイゼルローン革命軍の死亡者は約20万人といわれている。参加 者の40%が死に至結果となった。「薔薇の騎士連隊」に至っては5年前イゼルローン要塞攻略時に19 00余名だった隊員数が生存者205名。その全員が負傷するという壮絶なる死闘となった。 by りょう |