思い出に夢たちが騒いだ。・3
宇宙歴801年4月17日。 革命軍旗艦「ユリシーズ」以下巡航艦三隻と駆逐艦八隻の小艦隊で女性提督は共和政府主席 フレデリカと革命軍司令官代行ユリアンとともにイゼルローン要塞をあとにした。 「もう少し武装しておけばよかったかな。」 ユリシーズのブリッジでダスティ・アッテンボロー・ポプラン提督は独り言のように静かに呟いた。 イゼルローン回廊をでて宇宙の海原に出てみると。 帝国軍の船影がない。 「うちはこれでもメルカッツ提督に回廊内で艦隊を待機していただいている。帝国も回廊出入り口 付近で三個艦隊くらい配備していると思ったんだがなあ。艦隊の主力を持ってくるべきなのか。 何らかの策略も考えられる・・・・・・。」 アッテンボローの言葉に隣にいるポプランも「あまりに無防備で気色悪いもんな。」といい、シェーン コップもそのあたりの意見にまずまず同意した。 ユリアンだけは即断せず小艦隊の速度だけを落として情報を集めることにした。 「それがいいだろう。ハイネセンの状況もわかればいいんだがな。」 アッテンボローはユリアンの用心深さに感心した。 「レダIIの悲劇」以来、アッテンボローが見るところユリアンが軽挙に走ったことはない。 その用心は的を得ており次々とハイネセンでのラグプール刑務所の政治思想犯が大量に殺害され けが人も多く出ているという情報が入ってきた。戒厳令もひかれているらしくこれでは進路をすすめ るのはいささか無謀だとシェーンコップが進言し、ユリアンも全艦転進を命じた。要塞方面へ進路を 変えたのである。 巡航艦の修繕もしながら日付が翌18日に変わる。 帝国の艦隊数100隻ほどがこちらに向かっている。 「懐かしいシチュエーションだよな。ダーリン。ときめいちゃう。」 ポプランは口笛を吹き、アッテンボローは「この船はユリシーズ。歴戦の「闘志艦(ファイター・ ウォーシップ)だからこそ旗艦に撰んだ。心配いらないよ。ダーリン・オリビエ。」 彼女は20代で将官となり提督となった。 昇進スピードで言えばヤン・ウェンリーよりも早い。 自由惑星同盟軍がいまだ存続していれば元帥になり得た女性提督である。 ヤンとはまた色彩の異なる均衡の取れた元帥になったと思われる。 アッテンボローは自己評価が低い。だが彼女の艦隊運動や指揮はヤンもメルカッツも大いに認 めている。「黒色槍騎兵(シュワルツ・ランツェンレーター)」を相手にさんざんビッテンフェルトに悪 態をつかせ引き摺り回した手腕は「魔術師ヤン」に隠れているが恐ろしい女と言える。 ビッテンフェルトはアッテンボローを「醜女(しこめ)か性悪」とののしっているが・・・・・・戦後彼女を 見て一目で恋に落ちてしまう。 それは、先の話。 「お前さんは船の上で仕事をしていると神々しいまでに美しいな。ゆっくり拝見させていただこう。」 などとシェーンコップは形勢不利な状況でもこの女性提督の腕と強運を信じている。 「だから中将、うちのワイフを三秒以上見ちゃだめですって。小生だけの女神なんですからね。」 ポプランは唇をとがらしたりへの字にしたり抗議している。 12隻と100隻。 スケールは小さいが数では圧倒的に負けている。 女性提督はこの数の差を覆す「奇術」を用いることができる。 「うるさい奴らが多いが仕方ない。ユリアン、私の秘伝を教えてあげよう。」 アッテンボローは若き司令官代行に美しい微笑みを見せて静かに言った。 「はい。是非ご享受ください。」 青年はぎこちなく微笑んだ。彼はまだ会戦になれているとは言えない。 「全艦、転進しつつ全速で、逃げろ。」 硬質に見える彼女のヌードの唇はわずかにしか動かない。 女性提督は指揮を執る限りあわてず騒がず情報収集と分析計算をして緻密に、逃げる。彼女も 奇策を用いるのではない。ただ巧みなることは敵の突進をかわしながら抗体を速やかに行う技量 は見事といえる。 ユリアンが見るところちょっとヤン・ウェンリーと似ているなとも思うし静かに戦うひとなんだと驚きも した。 「二時間でメルカッツ提督の艦隊と合流しよう。」 突出する敵艦を巧妙に翻弄ししかも無闇に陣形は崩さない。 隣でポプランとシェーンコップが妻がどうだの美女がどうだのとうるさくとも集中する力は目を瞠る ものがある。相手に包囲陣を作らせたと思わせてさっと後退してダスティ・アッテンボロー・ポプラ ン提督は二時間で回廊内に無傷で還ってきた。メルカッツ提督との合流を果たし事なきを得たの である。 「さすがアッテンボロー提督、うまく撤退しましたね。」 ユリアン・ミンツは賞賛した。 「うん。逃げるのは得意なんだ。」 白皙の肌にそばかすが魅力的に映る女性提督は若い司令官代行に輝くばかりの微笑みを見 せた。 「俺のかわいい奥さんはなかなか気持ちのいい戦い方をするだろ。惚れるなよ。司令官代行。」 主力艦隊と合流を果たしているので艦橋(ブリッジ)には緊張感はない。 「ポプラン中佐からアッテンボロー提督をとったら何が残るんですか。そんな愚かなことはしませ ん。」 ユリアンにしては毒舌を吐いたが悪気はない。 「そうだよな。俺からダスティをとったら何も残らないもんな。認める。」 認めるな。 お前は同盟史上最多撃墜王に一機負けているだけの撃墜王じゃないかとアッテンボローは苦笑 する。 「どうする。司令官代行。要塞へ帰投するか。」 艦隊指揮はアッテンボローに一日の長があっても司令官代行はユリアンである。 青年はしばらく考えて女性提督や仲間に言った。「いえ。要塞へ帰投はしないで用があればシャト ルで往来をします。船長の情報もここでなら受けやすいでしょう。ラグプール刑務所に収監されて いたはずの5000人の政治犯が殺されたとなると帝国の責任を弾劾する権利もあります。暴動だ としても死者が多すぎますし帝国の管理能力をこちらは追求していいはずです。」 交渉材料にはならないだろうけれど。 「だなあ。こんな状態で「ハイネセンへ出頭」するのは筋が違う。・・・・・・ヤン夫人には一度巡航艦 で要塞にかえっていただこう。あの船はこの先も修理する必要があるようだし政治状況的にも不穏 すぎる。・・・・・・いずれにせよ。」 風向きが変わるだろうとアッテンボローはダークブラウンの双眸を見つめた。 しかしなんだなとアッテンボローは呟いた。 「オーベルシュタインの人事といい秩序のない攻撃といいおよそ皇帝ラインハルトI世とは思えぬ 稚拙さだ。それには何か事情があるのか単に私たちが金髪の麗人をあまりに過大評価している せいなのであろうか。我々を拿捕してしまうつもりがあれば100隻といわず1万の艦隊があれば 十分といえるんじゃないか。結婚しておかしくなったというか・・・・・・。」 アッテンボローはさきの「第2次神々の黄昏(ラグナロック)作戦」を思い出した。 「あのときの引き際の良さも解せないんだ。」 女性提督はそれ以上はいわなかった。 ポプランも周りの人間も何も言わない。 皇帝には何かあるのではないか。 「奇術師アッテンボロー」はその大胆な政治・軍事的予測が的中するときがある。 銀河帝国皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムは病におかされしばしば発熱を繰り返して いた。このときは誰も革命軍では知るものもいない。アッテンボローにしたって何かあるとはふ んでいてもまさか不治の病におかされているとは知らない。 もちろんこれは機密中の機密であるから皇帝と幕僚しか知り得ないことである。 オーベルシュタインの人事はラインハルトの病が起こさせたものではないが巨大すぎる軍を徹底 的に支配、掌握しているとは言い難い。それが病気によるものかはわからない。 フレデリカはユリアンの提案を素直にくみ取り、彼ははシャトルで彼女には故障しかけた巡航艦 で要塞に還って来た。 「ムライ中将はどうしておられるかしらね。」フレデリカの心は晴れないしユリアンとて同じである。 情報をうるために青年はシャトルで要塞と「ユリシーズ」を行き来する日々が続いた。責任感が ある若き司令官代行は現場に自らを置かねば気が済まないたちでそんなユリアンをカリンは 「それが貧乏性っていうのよ。」 と食事を用意したり飲み物を差し入れした。 「ユリシーズ」では女性提督とシェーンコップが類を見ない頭脳の優秀さを発揮して必要な情報と そうでないものをより分ける作業をしている。 「ダーリン・ダスティはともかく中将が秀才とは思いませんでした。」 オリビエ・ポプランは正直な感想を述べた。32%の皮肉も込めて。 「だから御前興行は将官クラスでいいといったろう。お前さんの女房殿の珈琲を入れるついでに 俺にも一杯頼む。砂糖はスプーンに半分。ミルクはなし。珈琲は薄目がいい。」 ワルター・フォン・シェーンコップ中将はいついかなるときも自分が飲む珈琲の味に妥協はしない。 野郎の珈琲まで入れるなんてありえねえと文句を言いつつもポプランは若い従卒よりは遙かに うまい珈琲を二人の将官殿に出した。 「コーネフ家の人間も万能じゃない。戒厳令が敷かれた中での情報入手は困難らしいな。バグ ダッシュの諜報行動もはかどらないらしい。だが十分帝国はこちらに負い目があるのだろう。こ れだけ情報を漏らさないということは要するにあちらの不祥事に違いない。」 などと眉を寄せてアッテンボローは難しい顔をした。 出された珈琲を口にして一口。 ポプランを手で「おいでおいで」と招き寄せ、うっかりと招き寄せられたポプランはキスを賜った。 「美味しいよ。旦那様。大好き。」 にへへと宇宙一の彼の女からキスをされてポプラン中佐の機嫌はあっという間に直った。アッテ ンボローの「亭主転がし」は健在。 こんなときにおめでたい夫婦だとシェーンコップは気にとめないが。 「ユリアンがこっちに帰ってきたらハイネセンへ出頭する意向は廃止してハイネセンへ乗り込むって 作戦に切り替える提案でもしよう。」 数日後、「ユリシーズ」に戻ってきたユリアンは一人の女性を伴って艦橋にあがってきた。 女医である。 フレデリカ・G・ヤンとキャゼルヌ、ユリアンとメルカッツと要塞では「ユリシーズ」からの情報を 分析し会議を持った。 おおむねはアッテンボローとシェーンコップのいうことと代わりはない。 戒厳令をしくこと自体がラグプール刑務所の暴動は帝国に落ち度があることを立証しているの だと。 せめて。 「せめてイゼルローンにいた人間の安否を知りたいものですね。」 ユリアンはムライ中将の安否が気になる。死者の数も正式な数はわからないし怪我の程度もわ からない。 「シトレ退役元帥もリストにあがっておいでだわ。気になるわね。」 フレデリカは頷いた。 ヤン・ウェンリーを支持してくれた人間の無事を願うのは彼女らにとっては当然のことである。 「あの誇り高い皇帝がいつまでも事実を隠蔽するだろうか。いかが思いますか。メルカッツ提督。」 キャゼルヌは年長の熟達した客員提督(ゲスト・アドミラル)に意見を求めた。 一度はラインハルトの指揮で戦った人物であるからウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツは一 番皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムを知っている人物といえよう。 「あくまで予測の範囲ですが帝国ではオーベルシュタイン元帥の管理不行き届きとして憤激している のは皇帝ラインハルトではないかと思われます。となれば彼の性質からいって正式な使者を立てて後 日こちらに改めて会談の場をもうけるのではないでしょうかな。もっとも。」 メルカッツ提督は言葉を継いだ。 「皇帝、戦いを嗜む。一戦を交えんと欲するとは思います。」 ほかのものも頷いた。 「しばらく「ユリシーズ」の連中はあちらで待機させてその正式な使者を待ってみるか。司令官代 行。」 キャゼルヌはフレデリカをちらりと見て、すぐにユリアンに視線を戻した。 「それによって主席には要塞にとどまっていただくことになります。革命軍との一戦を望む皇帝に 対峙するならば軍人ではない共和政府主席はこの要塞にいていただくことによって後日に備える ことができると僕は思っています。」 ユリアンはまっすぐフレデリカに向かっていった。 「・・・・・・ええ。わかったわ。司令官代行。私は後日の会談のために残留します。」 でも。 死んではだめよとフレデリカは口にしなかった。 それはあまりにも当然のことだったしいまこの場で言うべき台詞ではないと彼女はよくわかって いた。 皇帝から正式な通達が訪れたのは5月上旬のことである。 ナイトハルト・ミュラー上級大将の名で正式なイゼルローン共和政府および、革命軍との外交が始 まる。フレデリカはここでもユリアンに全権をゆだねて交渉役にあたらせた。 ヤン・ウェンリーの意向には反するかもしれない。 民主政治のもとの軍人は政治に口出しをすべきではない。 だがイゼルローン共和政府は特殊な組織でもありフレデリカは今後の会戦を配慮してユリアン・ミン ツに交渉を任せることに決めた。 ヤン・ウェンリーは民衆が決めた政治家がいる限り軍人は政治に口を出すべきではないと戒めいくも の苦渋を強いられてきた。 ユリアンが今後皇帝と会戦するにあたって足かせになる政治家にフレデリカはなりたくなかった。 青年の銀の翼を手折るようなことは、フレデリカ・G・ヤンはしたくない。 自由に飛翔してほしいと彼女は願った。 それは夫の願いでもあるとフレデリカはわかっていた。 彼女は彼の妻だから、わかっていた.。 ユリアンの要請にこたえたミュラーはシドニ・シトレ元帥、ムライ中将はじめイゼルローンに関係する 逮捕者の無事を通達した。そして5月20日をもって皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラムの名に おいて政治思想犯を全員釈放する勅令を出した。新帝国領にいるハイネセンの市民がオーベルシュ タインをののしりラインハルトを王者として認める声すら上がった。 「今度はハイネセンへ捕縛されるためではなく和平のために行きましょう。使節として赴くんです。皇帝 のもとへ。」 ユリアン・ミンツは決断した。 前回は半ば処刑を覚悟していた。 けれど今回は違う。 確かに帝国軍の艦隊数は6万から7万ある。 鮮血の道には違いない。たやすく皇帝が同等の立場になって交渉に応じるなどヤン・ウェンリーなら ともかくユリアンたちにまで赦すまい。 それほど民主主義がすばらしいというのならば奪いに来い。 生命をかけて。 皇帝ラインハルトI世の人生が戦いによる覇権の略奪から始まっている。旧ゴールデンバウム王朝に 14歳の姉を後宮に奪われたラインハルト・ミューゼルはジークフリード・キルヒアイスとともに己の力を 頼りに宇宙を手に入れた。 そして善性をしき覇者として君臨している。 それほど大事なものならば奪い取りに来るがよい。 声は無いがユリアンにははっきりと聞こえるのである。 一戦交えることになるだろうという話は女医にも伝わってそこで初めて彼女はしばし考えて決断をした。 この要塞でヤン夫妻を護るか。イゼルローン要塞は難攻不落の要塞である。である以上治療方針もチ ームも出来上がっているヤン・ウェンリーは安全だ。もっとも、後日にユリアンたちがみな無に還ればこ の要塞が安全とは言い切れまい。 医師として生きるために。 前線へ行こう。 女医は決心した。 「前線の医療チームを組んで私が臨時の軍医長になって「ユリシーズ」に搭乗することにしたわ。怪我人 が出るのは目に見えるものね。」 フレデリカは夫の介護なら自分で十分だと女医を見送った。 それで。 「お前さんは今ここにいるのか。」 ワルター・フォン・シェーンコップ中将は新たに加わった女医や薔薇の騎士連隊の面々をみて不遜で怜悧 な表情も崩さず言った。 「閣下だけでは心もとないでしょう。なにせ今年の7月28日に38歳になられる。私はまだ二十代です。若い おともがいたほうが楽で愉しいのではないですか。」 カスパー・リンツはこちらも美丈夫であり白い歯をわずかに見せて笑った。 ふんとシェーンコップは鼻を鳴らした。 今度こそ・・・・・・。 今度こそ生きて還る保証など無いのに。 何のために戦うんだ。 生まれた国を捨て自由惑星同盟を捨て・・・・・・民主共和のために戦うのか・・・・・・と37歳の独善的とい われる男は口角だけをあげて薄く笑った。 「皇帝の首を落とすために戦うんです。あんな若造に支配されるなんて真っ平です。」 薔薇の騎士連隊長第14代目連隊長だった男ははっきりと断言した。 自由に生き続けるために。 「我々は閣下のもとに馳せ参じた忠実なる薔薇の騎士(ローゼンリッター)です。」 柄にも無く典雅に、恭しくシェーンコップに一礼をしてリンツ大佐は役者のように言う。 はたで見ていたポプランは「薔薇の騎士連隊は馬鹿ばかりだな。」と感想を述べている。 アッテンボローはそれもいいさと新たなる旅路の準備に忙しい。 「今度こそ皇帝ラインハルト旗艦「ブリュンヒルト」を射程に入れて見せよう。」 などと物騒なことを女性提督ですら言うのでユリアンは困る。ムライもキャゼルヌもいないからユリアン が自然とこの二人のお目付け役になってしまう。 「アッテンボロー提督、僕はあくまでも皇帝と講和をしに行くんですからね。」 と釘をさすが。 「その前に帝国軍と一戦交えるんだろう。負ける戦は嫌いなんだ。」 アッテンボローは冗談ともまじめとも思える表情で言ってのける。 負けない算段に忙しいと追いすがるポプランに目もくれず分艦隊主席参謀長とスール少佐を伴ってあれ やこれやと作戦を考えたりいつもの仕事に熱中している。 その喧騒がまたすさまじい。 「・・・・・・アッテンボロー提督って指揮をとっておいでのときのほうが静かですね・・・・・・。」 19歳になったばかりのユリアン・ミンツはポプランに呟いた。 「おれの奥さんは負けるけんかが嫌いでね。」 ともっともらしく言っている。 そこへ。 「お前さんだって女性提督と同じ口だろうが。ポプランさんよ。」 ハートの撃墜王殿の肩をぽんとたたいたのは。 長年の腐れ縁とも言うべきなのか。 「何でお前がここにいるんだ。コーネフ。」 イワン・コーネフ中佐も「ユリシーズ」に現れた。「お前さんだけでは心配でね。」 テレサと娘はどうしたんだとポプランが言うと。 「テレサは結婚して子を生んだからメルカッツ提督のお供ができないことを苦にしている。せめて夫で あるおれは軍人として戦ってほしいと・・・・・・妻に送り出されたんだ。」 彼女らしいなとアッテンボローは思う。 ダヤン・ハーンで死をともに覚悟したテレサ・フォン・ビッターハウゼン。彼女の働きがなければアッテン ボローはこの宇宙のどこにも居ない。メルカッツとともに征きたくても大事な子を置いていけない彼女は 軍人の矜持を夫のイワン・コーネフに託した。 豪奢な金髪を結い上げて大きな緑の眸でいつも軍務に励んでいた帝国の佳人。 ふと懐かしさを覚えアッテンボローは目の前のスクリーンに広がる宇宙を見つめた。 ポプランに言わせれば。 彼と二人きりのときは自分の眸の色はあの宙(そら)の色と同じ色になるらしい。自分の体だが実に不 思議だ。普段はさめた灰色がかった緑の眸なのに。 ポプランは「翡翠の石の色」という。 ふと振り返るとポプランは自分を見つめていた。 いつも彼は自分だけを見ていてくれる。 それがどれほど心強かったか。それがどれほど愛しいことだったか。 新しい飛翔。 血塗られた道であろうと彼がいてくれれば。 ポプランがアッテンボローのそばにさえいてくれるのであれば。 彼女は彼女として生きていける。 にっこりと夫は夏の緑を思わせるきらめく眸を向けて微笑んだ。 アッテンボローは・・・・・・ポプランをとても愛している自分に気がついた。 それでいいやと女性提督は満足した。 お前がいれば、それでいい。 「提督。お聞きになってますか。」 最初同行を赦されなかったラオ大佐がもう提督のおそばを離れないですからねとあくまで軍務上敬 愛している上官にさんざん文句を言い・・・・・・上官に先立たれるのは自分とてもういやですと新たに 部下になったスール少佐も何かと口やかましくアッテンボローはその倍の声量を使って四の五の言う 男どもを叱りつけ仕事に没入した。 「それがどうした!仕事するぞ。」 日に日に随行する人間が増え革命軍は大所帯になった。 といっても宇宙で言えば圧倒的少数である。 銀河帝国とイゼルローン革命軍との前面衝突は宇宙歴801年5月末に偶発的な事象が重なって始まる こととなる。 by りょう |
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LadyAdmiral