思い出に夢たちが騒いだ。・4


銀河帝国とイゼルローン革命軍との前面衝突は宇宙歴801年5月末に偶発的な事象が重なって始まる

こととなる・・・・・・。

表面上の事象だけを書き連ねれば。



「見捨てるわけにはいかないだろう。人道にもとる。「新世紀」号を要塞まで送り届けてやれ。名前だけは

華麗だがあれだけの老朽船なら動力が持たないだろう。」

アッテンボローは軽く爪をかんだ。






ユリアンとしても救援信号を出した「新世紀」号のおかげで帝国軍に通信を傍受されあげくあれよあれよと

戦端が開いてしまったことに忸怩(じくじ)たる思いはする。結句帝国軍のドロイゼン艦隊と艦隊戦を繰り広

げることになったが幸いにして局面的な勝利をドロイゼンは固執しない方がいいと判断し撤退をしながらけ

れど革命軍の動き次第ではいつでも呼応するという姿勢を見せたためユリアンたちも要塞へ帰れなくなった。



「うまくいかないものだ。華麗なる開戦とはならなかったな。」

アッテンボローは独り言のように呟き髪をかき上げた。

いずれにしてもと青年司令官代行はみながいる艦橋(ブリッジ)で言った。

「皇帝ラインハルトI世は講和なり和平を持ち込むとしても必ず我々と一戦を交えようとするでしょう。発端は

ともかくこのままハイネセンへ進みましょう。皇帝の価値基準は我々がどれだけのものをかけて戦うのかに

かかっている。となれば負けるわけにもいきません。必ず和平交渉に持ち込むまで持ちこたえねばなりませ

ん。」



待ち受けるのは真紅の宇宙。

千億の星と千億の光の海。

飽くことなく生命を焼き尽くす火焔の地獄。

星の大海を渡り自由と自尊の権利をこの手につかむまで。

青年に畏れも逡巡も、迷いもなかった。

「全艦隊、目指すは皇帝総旗艦「ブリュンヒルト」!」

ヤン・ウェンリーの被保護者であり、夢を託された青年は旗艦「ユリシーズ」で鬨(とき)の声をあげた。



5月29日0850時。

シヴァ星域にて終章(エピローグ)への戦いが開始された。



帝国軍艦艇数5万1700隻。将兵584万2400名。対するイゼルローン革命軍艦艇数9800隻。将兵56

万7200名。圧倒的に数で負けている。ヤン・ウェンリーは数において必ず自軍が不利であることを見越し

て巧みに各個撃破を謀って皇帝ラインハルトと戦ってきた。ユリアン・ミンツに残されているものは圧倒的

少数による詭計のみ。ここにしか勝機はない。



ヤンに習ってユリアンは総旗艦「ユリシーズ」を常に陣列の先頭に置いた。

最高司令官代行が隠れ味方を前に出すことはヤンがもっとも忌み嫌うことであるしユリアンもアッテンボロ

ーもよしとしなかった。このときはいささか猪突の色が濃い。

アッテンボローは「黒色槍騎兵(シュワルツランツェンレーター)」と駆け引きを繰り返し智謀で誘い込もうとし

たがビッテンフェルトもさすがに革命軍司令官代行と女性提督に警戒心を持ち無闇に挑発に乗らなかった。

「人間とは進歩するんだな。猪提督が猛進をやめてしまうとつまらん。」

アッテンボローは冷たく光る翡翠の眸と硬質の唇の美貌を損なうことなく面白くなさそうに長いつきあいである

分艦隊参謀長のラオにいった。

「閣下を恨んでいるんですよ。」

男に恨まれる覚えなどないよと冷たい月のような笑みを見せそれまで執着していた戦法を切り替えた。



そうそうあの女にいいようにされてたまるかと猪と呼ばれるオレンジの髪の猛将は敵総旗艦に「女性提督」

の「臭い」をかぎつけていた。うかうかとのせられればこちらに手痛いしっぺ返しが来る。

「あの醜い性悪女め。いつも同じ手が通用すると思うなよ。」



「ユリシーズ」は前進を続けた。白熱した艦隊砲撃のビームが行き交いスクリーンは真っ白になる。

アッテンボローは隣で指揮を執るユリアン・ミンツを見て思う。

もとから数では勝てるわけがない。だから開き直って進む。その間に勝機が見えれば容赦なく攻撃をする。

ヤン・ウェンリーの戦い方というより、むしろラインハルト・フォン・ローエングラムのそれに近いものがあると。

「小ヤン」ではなく「小ラインハルト」なのかもしれないなと感じた。

この際はそれもいいと女性提督は思う。

いずれにせよ自分たちは困難な途を綱渡りをするように進んでいる。

つけいる隙があればそこをたたくしかない。



生命が宇宙に還るまで。









そしてユリアンの大胆な詭計(トリック)。全艦隊の一割を無人艦にして左翼方面に配備して予備兵力があ

るように見せかけていた。本来であれば現在の帝国軍と対峙するなら100万の将兵が最低でも必要だっ

たが望んでえられるものではなかった。

この詭計が看破されればもうイゼルローン革命軍の命運はつきて宇宙の塵となる。そこまで大胆な青年司

令官代行を誰も止めはしなかった。

幸いにしてユリアンの策は今のところ有効であったしアッテンボロー、メルカッツにしろ反対材料がなかった。

煎じ詰めればこの策はヤン・ウェンリーの十八番でもあるしさかのぼればシトレ元帥も用いた策である。皇帝

ラインハルトはこのとき発熱していた。だがそれを周囲に知られれば革命軍が挑んできた戦いにおいて病に

伏すことになり、皇帝のひととなりがそれを赦さなかった。



ラインハルト・フォン・ローエングラムは己のままならぬ体を奮い立たせ覇者として戦場に立っていた。

彼が平時の洞察力があれば。

もしくは「第2次神々の黄昏(ラグナロック)」のときのようにオスカー・フォン・ロイエンタールという男が側に

いればアッテンボローもユリアンもとうの昔にこの世にいない。詭計(トリック)は看破されている。

それでもこの金髪の覇者は理性を常に持ち得た。

こちらが奇策を用いずとも消耗戦に持ち込めば自ずと革命軍は朽ちる。

病にあってもラインハルトは戦争の天才であり非凡なる男であった。



戦いが長引けば数が少ない革命軍は不利になる。

そんなことはユリアンもアッテンボローもメルカッツも痛いほど承知していた。

だが青年はやや疑惑を抱いていた。帝国軍の動きが想像する以上に鈍い。ヤン・ウェンリーとともに帝国

軍と戦ってきた青年は確かに自分が指揮をとっていたわけではない。けれど予想以上に遅いのである。

自分の錯覚かと隣の女性提督に聞くと

「そうなんだよな。砲火や攻撃は密だし奴さんらしいちゃらしいんだけどダイナミックにかけるな。」

と言う。



アッテンボローも不思議に思っているらしい。

かれこれ24時間持ちこたえてきている。青年は全く休息がとれなかった。瞬時に真っ白に光るスクリーンの

明滅を繰り返し見ているだけで高ぶって休むことができないのだ。

「長丁場はやっかいだな。」

アッテンボローが呟くとそれまでおとなしくしていた「黒色槍騎兵(シュワルツランツェンレーター)」が牙をむき

それこそ猪突してきた。



「あの男は馬鹿者だな。誘ったときに乗ってこない男は女からこっぴどく嫌われるんだ。怯むな。迎撃せよ。」

アッテンボローは身を乗り出して指揮を出す。

ずっと見守っている男は彼女がただ闇雲に攻撃をしているわけではないと知っている。彼女も24時間不休で

ユリアンとともに指揮を執っている。



四年前。

コーネフも参加させて彼女の艦隊訓練の折り当時の旗艦「マソサイト」にポプランはのって艦橋で指揮する女

を見た。

美しくて。

けれどどこまでも理性的で。

ユリアンには冗談の素地がなかった。ヤン・ウェンリーがいたからこそジョークを口にして手のひらでダンスを

踊ることができた。だがポプランの愛した女は違う。こんな苦境にいても士官を鼓舞するのは忘れない。



「キャゼルヌ中将がいないからといってやたらと発射するんじゃないぞ。コストがないのは事実なんだから確実

に計算をしてねらえ。安心しろ。ビッテンフェルト提督にはそのような分別はない。その程度だが全くこちらに

分がない訳じゃない。ねらえよ。」



実際はこのダスティ・アッテンボロー・ポプランをして冥界のものに肩をつかまれそうな錯覚を覚えている。

しかし指揮官たる自分が平静を失えば一気にこちらの軍は崩れるのを知っているから人生最大のはったりを

彼女は男たちに見せつけている。

振り返れば愛する男の胸で安堵もできよう。男は彼女を受け入れ抱きしめて心休まる言葉を囁くだろう。



けれどそれはけして赦されない。

革命軍補佐官として将兵の生命を預かっている現在はアッテンボローは女性提督であり、一個人の女を捨て

ねばならない。そして彼女はこの戦いが終わるまで女性提督であり続けると決めている。愛する男が側にいて

もアッテンボローは振り向いてはいけない。

ポプランならアッテンボローが女であることを赦せるだろうがアッテンボローがそれを赦さない。

「崩れた陣形を立て直せ。猪に食いつかれる隙など与えるな。こちらが人間である以上けだものごときに負ける

訳にはいかないからな。」

死にものぐるいで女は戦っていた。





閃光がひらめく。

その先に業火に焼かれ生命が消える。

「黒色槍騎兵(シュワルツランツェンレーター)」に迎撃を果敢にすることで相手にも損害を出しているがまさに

こちらも次々と艦が撃沈されてゆく。



激烈を極める砲撃戦は一時的にやんだが損害の多さにアッテンボローは唇をかみしめる。

日付が変わって5月31日である。



砲撃戦をやめたビッテンフェルトは皇帝に挟撃戦の機会到来と直訴を願い出ていた。

だが思いも寄らぬ長い時間ビッテンフェルトは皇帝の玉声を聞くことはかなわなかった。

皇帝は昏倒していた。



それは帝国軍に一番近い位置にいる「黒色槍騎兵(シュワルツランツェンレーター)」には通信できない理

由であった。傍受されれば格好の機会を与えることになる。

だからこそビッテンフェルトは波状攻撃を繰り返していたが5月31日0515時にメルカッツ率いる艦隊に

巧妙に打撃を与えられアッテンボローはその45分後には艦隊再編成をなす事ができた。



オリビエ・ポプランはアッテンボローの背中が妙に儚いものに見え幾度も、幾千回も抱きしめたい気持ちを

こらえていた・・・・・・。





シヴァ星域の会戦は膠着状態を迎えて5月31日0920時。



膠着状態といえどこちらはスパルタニアンを出しあちらはワルキューレを出し制空権の争奪戦を繰り返し

ているし、艦隊砲撃も繰り返したがいに行われていたがやはりダイナにズムからはほど遠いものがあった。

2大撃墜王の指揮のもとスパルタニアンは優位に戦っていた。

そのうちハートの撃墜王と呼ばれる男の方が「ユリシーズ」に帰投すると通信して技術士や整備士に迎え

られドッグにはいってきた。



ポプランはドッグにある緊急連絡用電話をとって指揮をしているユリアン・ミンツに話したいことがあると取り

次ぎを急がせた。

「どうなさいました。中佐。また愛機の調子がよろしくないのですか。」

ユリアンはうまくない冗談を言ってみた。

隣で女性提督は聞き耳を立てたが通話はさすがに聞こえない。

「おう。ユリアン。耳を貸せ。俺だけでは判断しようのない通信を傍受したんだ。お前さんの判断を仰ぐつも

りで話すぞ。」

「僕で解決するようなことでしょうか。」

青年はそのあと発せられたポプランの言葉に強い衝撃を受けた。



皇帝不予。

まさか。青年は思った。

艦載機同士は非常に接近して戦うため敵味方の通信を傍受することが可能だからポプランが言うことは

事実であろう。けれどユリアン・ミンツの脳裏にはあの豪奢な金髪の覇者に病というものが符合しなかった

のである。

「幕僚会議を行います。こちらから直ちに艦載機回収を指令します。」

わかったとハートの撃墜王と呼ばれる陽気が主成分の男はいつになく深刻な声で電話を切った。



「全艦載機を回収します。それとアッテンボロー提督、幕僚会議を開きます。お手数ですが・・・・・・。」

わかってると女性提督は微笑んだ。

「いま伝令シャトルを出させてる。メルカッツ提督もこちらにおいでになる。艦橋でいいな。」

提督としての才能だけがダスティ・アッテンボロー・ポプランの才覚ではない。副官や参謀を務めさせても

彼女は優秀である。シェーンコップ、リンツ、ポプラン、コーネフ、メルカッツと主要人物が「ユリシーズ」艦橋

に集った。



「皇帝不予といってもどこまで深刻なものか通信だけでは計り知れないのですがこれは千載一遇の機会か

もしれないですね。いかがしますか。」

青年司令官代行ははやる心を抑えながら年長の歴戦の勇士たちに伺いを立てる。

「決まってる。「ブリュンヒルト」に陸戦の兵を送り込んで皇帝を襲撃する。それこそ千載一遇だろう。司令官

代行。」

ワルター・フォン・シェーンコップ中将は傲岸不遜の面持ちのまま不敵に薄く笑う。

「ロイエンタールの首は取り損ねたが変わりにローエングラムの若造の首なら採算も合う。ラインハルト・フォン・

ローエングラム・・・・・・まさに王手じゃないか。迷うことはない。」

シェーンコップが言うことはもっともであるという気持ちとまだ判断を決めかねる気持ちがせめぎ合いユリアン

はメルカッツに教えを請うた。

「今のまま戦っても負けない戦は可能でしょう。皇帝不予と言うことであればこの鈍い攻撃も納得がいきます。

そうであれば追撃をかけてくる様子もありますまい。ただしイゼルローン要塞に帰って後日戦端を開くとすれ

ば今回以上我々は数の上で不利になるでしょう。」



機会到来だなと戦闘指揮官は手を大きく打った。

「虚空に浮かぶ美姫(ブリュンヒルト)に野蛮なる我ら革命軍が突撃をする。ラインハルト・フォン・ローエングラ

ムの首を取ってやろうじゃないか。」

ワルター・フォン・シェーンコップが言うとこぞって我も我もとみなが陸戦を希望した。



「待ってください。突入は認めます。けれど僕もいきます。それとこの作戦にコーネフ中佐の参加は認めませ

ん。これが必須条件です。」

ユリアン・ミンツはいつになく強く言い張った。

イワン・コーネフは「司令官代行。ここまで来てそれはひどいでしょう。」と懇願したが。

いいえ。

「父親がいない女の子はかわいそうです。絶対赦しません。コーネフ中佐。」

ポプランはざまあみろといわんばかりに呵々大笑した。

コーネフの件はともかくと戦闘指揮官殿は苦言を呈した。

「司令官代行の仕事じゃない。これは現場の仕事だぞ。ユリアン。肉体労働者に任せて高みの見物としゃれ

込め。ヤン・ウェンリーならそうしてる。」

シェーンコップは笑っていったがユリアンの答えはさらに厳しさと「覚悟」がくわえられた。



「僕が参加できないなら突入は赦しません。僕の目標は皇帝と話しをすることで彼を殺すためではありませ

ん。誤解なさらないでください。あくまで和平のために戦いに行くのです。」



・・・・・・14歳の子供は「大脳にも小脳が必要だ」と32歳の男に自分の存在を認めさせた。

シェーンコップにとってユリアンは娘以上にかわいい息子同然の存在である。

「よし。そこまで言うなら了解した。だが先に俺が皇帝にたどり着いたら容赦せずに首をはねる。豪奢な金髪

を血で染め上げて・・・・・・お前さんが先に皇帝とであえば好きにすればいい。」

それと。

ユリアンは続けた。

ポプランは彼が何を言うかわかっていた。



「僕は生きて還るつもりでいます。けれどこれは僕の言い分であちらには通用しないかもしれません。僕が

死んだときはアッテンボロー提督に革命軍司令官代行を引き受けてもらいます。」

有無を言わせぬ「男」の言葉にアッテンボローは唇をかみしめ、了解したと呟いた。

もう彼は坊やじゃない。

自分が祭り上げた司令官代行の命令に背くわけにいかない。

アッテンボローは小さな吐息を漏らした。



ユリシーズの控え室で男たちは装甲服をまとい炭素クリスタルの戦斧の感触を確かめ高揚する気持ちを

隠しきれないでいた。特に陸戦の雄「薔薇の騎士連隊」の人間は白兵戦と聞くと血が沸き立ち肉躍る。まさ

に彼らの本懐である。男たちは次々と着替えを終え通路に出る。そこには・・・・・・。

「中将。」

ダスティ・アッテンボロー・ポプラン提督がシェーンコップを呼んだ。

装甲服の男たちは美女と戦闘指揮官のならぶ姿を冷やかした。

「お前さんの亭主がだだをこねるぞ。どうした。この期に及んで俺に宗旨替えするか。」

アッテンボローはシェーンコップの唇にたった一度、接吻けをした。

驚いたのはオリビエ・ポプランではない。

ワルター・フォン・シェーンコップであった。

「考え違いはするな。私は未来永劫オリビエ・ポプランの女だ。お前さんのように運命の女が側にいても

何もできないでいる晩生の親父に惚れたりしないよ。」



なんのことだとシェーンコップは言い。

「お前は見て見ぬふりをしている。生きて還ってきたらお前の運命の女に男らしく愛を伝えろ。らしくないん

だよ。ほら行ってこい。私のキスはアトロポスのキスだ。強運がつく。」

何のことだかさっぱりわからないぞと男は言うが。「まあ、我が軍一の美女にキスをされれば快諾するしか

あるまいな。ありがたく頂戴した。ところでアッテンボロー。耳を貸せ。」

と女性提督を抱きしめて耳元で囁いた。



「ユリアンとお前の亭主は生きて還してやる。お前に惚れてたのは事実だ。」

と言葉を終えるとアッテンボローの体を引き離してポプランがそれを受け止めた。



ひとのワイフを乱暴に扱わないでくださいよねと言っただけでポプランはそのままアッテンボローを抱きし

めた。男たちの熱い血潮と鼓動が渦巻く中、二人は人目をはばからず抱きしめあって唇をあわせた。

「やっぱりお前の方がいい。」

アッテンボローは額をポプランの額にくっつけて囁いた。

「あんなまねは二度は赦さないからな。帰ってきたらお仕置きだ。・・・・・・ダスティ。心配するな。お前を一人

にするなとお義父さんにも約束した。男との約束は守る義務はないがお前が還ってこいと言うなら宇宙の

果てからでも俺はお前の元に還ってくる。・・・・・・必ずな。」

再び接吻けをかわして夫は言った。

「ユリアンだけは還してやる。愛してるぜ。おれの提督。」



その声はアッテンボローの翡翠の髪をざわめかせ、風のように消えた。

耐えろ。

耐えろ。

ダスティ・アッテンボロー・ポプラン。

あいつを信じろ。

あいつは私を一人にしない。

殺しても殺しても死にはしない。

必ず自分の元に還ってくる。



・・・・・・魂となっても。

戦いに征く男たちが去ってしまうと冷たい空気だけがアッテンボローを包んだ。

泣くな。

これはすべてお前自身が決めたことじゃないか。ダスティ・アッテンボロー・・・・・・。

膝を折って崩れ落ちそうになる自分を歯を食いしばり、唇をかみしめ女性提督はその場を耐えた。もし涙を

流してしまったら。

本当に男たちは還ってこない気持ちがして彼女は一人で嗚咽をこらえた。









強襲揚陸船「イストリア」があるドッグには鮮やかなオレンジ色のパイロットスーツを身にまとったカーテロー

ゼ・フォン・クロイツェルがわきにヘルメットを抱えて男たちが騒ぎ立て冷やかす中を無視してユリアン・ミンツ

にまっすぐ向かって歩いて目の前に立った。口笛と浮かれた声が交差する中カリンははっきりと言った。

「あんたってどこか要領が悪いからみんなあんたをほっておけないんだわ。気をつけるのよ。ユリアン。」

君は。

「君は征くなって僕を止めないんだね。」

ユリアンはぎこちなくわずかに笑顔を作った。

「止めないわよ。女に止められて逃げる男、いざってときに自分の家族だって護れやしないもの。」

カリンは面白そうに見ている遺伝子上の父親をちらりと見ていった。

「地に足をつけて戦うときにはワルター・フォン・シェーンコップほど頼りになる男はいないって。あの男から離れ

ないようになさい。母が言ってたことよ。」



今日はよくもてますね、閣下とリンツにからかわれてシェーンコップは口を開いた。

「美人に頼まれてはいやとは言えない。・・・・・・そうだ、俺にも一つお前さんに頼みがある。カリン。」

シェーンコップはカリンが気に入ったようだ。美人が嫌いだったわけではないが男を見送る女にしては上出来

で感心したのだ。

「なんでしょうか。中将。」

カリンは怖じず、父親に問うた。

「恋愛は自由だし大いにやるべきだ。だが子供を産むのは二十歳を超えてからにしてくれ。俺は30代でお

じいちゃんと呼ばれたくない。」



ぶっと吹き出したのはポプランとリンツ。あとははじけたように男たちは爆笑した。



by りょう



ひとつめの隠し球を披露しました。知っているかたは知っていますが・・・。

まだまだこれから隠している伏線がたくさん?あります。最期までおつきあ

いくだされば恐悦至極に存じます。


LadyAdmiral