思い出に夢たちが騒いだ。・2
幼年期にワルター・フォン・シェーンコップに舌を出された・・・・・・と思われるパウル・フ ォン・オーベルシュタイン元帥が新帝国領ハイネセンへ降り立ったのは宇宙歴801年の 3月のこと。 革命軍の幕僚全員が絶対零度の帝国軍務尚書の評判は聞いていたのであまりよい感 触を持たなかったのは言うまでもない。 「皇帝に送り込まれたのがミッターマイヤー元帥だったら多少はハイネセンも安泰なんだ けどな。なんかいやな予感がする。」 ダスティ・アッテンボロー・ポプラン夫人、女性提督はそう呟いたことがある。 彼女は予言者ではないが。 事実オーベルシュタインがハイネセンへ赴任したことで大きな騒動が起る。 パウル・フォン・オーベルシュタイン元帥がハイネセンで実行したことは新帝国にとっては 正当であり人道的であった。 新帝国にとってはである。 けれど多くのものがそれに賛同できなかったのである。 フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト上級大将などは憤慨し暴挙にでたが故に元帥に軟禁さ れた。ビッテンフェルトが憤激した理由は主に皇帝を「侮蔑」する発言を元帥が「私心なく」明 言した故である。 皇帝にもっとも叱られた男であり、皇帝をもっとも敬った男。 それがフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト、彼である。 「オーベルシュタインの草刈り」と後日語られる。 惑星ハイネセンにいる共和政府主義者、元軍人、要人をラグプール刑務所に収監して彼らを 交渉の材料としてイゼルローン要塞の開城を迫るものであった。 皇帝の矜恃というもので新帝国の兵士の生命を戦いで喪うことが是なのかと元帥はラインハル トすら畏れぬ言葉をワーレン上級大将にも述べたという。 例によって4月10日にはボリス・コーネフ船長たちによってこれらの情報はイゼルローン 要塞に届けられた。司令官代行であるユリアン・ミンツは逮捕された人物リストを見て隣の アッテンボローに見せた。 「ふむ。実に流転の人生を歩まれることになったものだ。ムライ参謀長閣下は。見捨てる わけにはいかない・・・・・・。」 アッテンボローの言葉にポプランは「ムライのおっさんを捕まえるなんてさすがにオーベ ルシュタインともなるとレベルが違う。」 女性提督は夫の耳をつまんで引っ張った。 いててとハートの撃墜王殿はわめいた。 「ミキ先生のお父上がとらえられたんだ。不謹慎な。」 そんな夫婦げんかは犬も食わないとして。 一番の味方は。 「新帝国首都星フェザーンに最大のみかたがいるんじゃないか。」 ワルター・フォン・シェーンコップ中将は若すぎる司令官代行に語りかけた。 「皇帝ラインハルト・フォン・ローエングラム、ですね。」 5000余名の政治犯、思想犯の解放を欲するならばイゼルローン共和制府及び革命軍 代表者はハイネセンへ出頭すべし。 オーベルシュタイン元帥の正式な宣告である。 フレデリカ・G・ヤンは席上ではっきりと言った。 「女という理由だけで私を免責するのはやめていただきとう存じます。私は現に共和制府 主席という地位に属しています。私が赴かなければオーベルシュタイン元帥も納得しませ んでしょう。」 フレデリカにもしものことがあれば・・・・・・ヤンが目覚めたときになんとお詫びをすればい いのか青年にはわからない。 しかし。 民主共和を唱えるのであれば虜囚の生命を見殺しにはできぬ。まず人道的行為では ない。 そしてユリアンはオーベルシュタインがとった方法が正しいのであればなぜヤン・ウェンリ ーは皇帝と流血の戦争を繰り返さねばならなかったのであろうかと懊悩せざるを得ない。 ヤンは戦いを望みはしなかった。 けれどあえて多くの血を流す戦争へ身を投じたではないか。 オーベルシュタインが是とする回答で平和と秩序が宇宙に取り戻されるならばヤンはいっ たいなんのために苦しみ続けねばならなかったのか。 なくなっていった魂はそれを赦すだろうか・・・・・・。 青年は師夫を愛するあまり、ハイネセンへ出頭することで皇帝との直接会談を望んだ。 みなはそのことに異を唱えなかった。 キャゼルヌは去年の「レダIIの悲劇」のようにハイネセンへの途上でなんらかの妨害を受 ける可能性を示唆した。ユリアンは帝国に護衛をしてもらえばいいときっぱりと席上言う。 「ふむ。悪くはないな。帝国の連中がすべてオーベルシュタインでもない訳だし。心当たりは あるのか司令官代行。」 女性提督は翡翠色の眸をきらめかせてユリアンに尋ねた。 「あちらにはあちらの言い分がありますでしょうがヤン元帥と面識があるミュラー上級大将など ありがたいのです。皇帝の名代でヤン元帥の見舞いにも来られたかたです。信用できると思い ます。」 なるほどとシェーンコップは満足げに頷く。 この典雅で傲岸な美丈夫の戦闘指揮官殿はこの夏・・・・・・7月が来れば37歳になる。 「この御前興行にはまあ参加できるのは将官クラスまでだろうな。佐官程度の人間がう ろうろしてはいささか見苦しい。」 とウィスキーをグラスに注ぎながらのたもうた。 だから聞き捨てならないって言ってるんでしょとさっき女房殿に耳を引っ張られていたいとわめ いたオリビエ・ポプラン中佐は断然抗議をする。 「小生は人格が将官クラスでありますゆえに是非ともお伴します。それ以前に妻が行くところは 必ず小生もいく。こんな美しい二人の愛を引き裂くなんて娘の結婚を邪魔する父親より無粋きわ まりないですよ。中将。」 と幕僚会議中隣のアッテンボローにキスをした。 ポプランの行いは毎度のことだが女性提督は目を丸くして真っ赤になってしまう。 ハイネセンへいけば・・・・・・生きて還れる保証は50%。到着して即効処刑という構図もあり得る。 それをみなこぞって揚々と我も我もと参加したがる。 ユリアンは思う。 困ったものだと。 でも、それが「ヤン艦隊」なんだと心の奥にあたたかいものを感じる。 お前さんは仕方ないとシェーンコップはポプランに言った。 「その女を護ることが民主共和より大事な男だし俺もそこまで野暮は言わない。だがほかのもの も血気盛んになりなさんな。キャゼルヌ中将は将官でも居残り決定だし、佐官でもコーネフ中佐 は残留してもらう。同盟史上最多撃墜王殿はスクランブルに向けて待機いただきたい。まあ、女 房子供がいる連中に楽しみを奪われてはたまらないってのが本音だ。」 それには合意ですとポプランはキャゼルヌとコーネフを見た。 キャゼルヌとコーネフは声も出せないまま互いに顔を見合わせ、何か抗弁しようとした。 「コーネフ。うちの亭主がお前さんの結婚式で言ったよな。「妻を愛している。妻がいなければ コンマ01秒も生きていけない。妻と出会うまでの時間すらとりかえして妻と恋したい。何度生まれ 変わっても妻以外の女はいらない。妻を全力で守り抜く・・・・・・このすべてをこの善良なる人々 を目の前にして誓えぬくらいなら、結婚などやめてしまえ」とね。お前、誓っただろう。テレサや娘 を置いてこんな乱痴気騒ぎに便乗する馬鹿じゃないだろうな。」 アッテンボローは美しい笑みを浮かべてヤン夫人に二歩ほど及ばぬがたぐいまれな記憶力で クラブの撃墜王に人前式の誓いの言葉を唱えた。 「なんなら多数決をとってもいいぞ。キャゼルヌ中将とコーネフ中佐の残留に異議のあるもの挙手 せよ。」とまでアッテンボローは一同に問いかけた。誰も手を挙げなかった。 多数決の範を垂れねばならんだろうなとキャゼルヌは自覚した。 彼は要塞事務監である。様々な残務整理はのち彼が行うことはわかっている。 イワン・コーネフ中佐はにへらと笑っているポプラン夫妻に顔をしかめた。 「多数決ですからね。コーネフ中佐。」 ユリアンは不承不承抗議をしないでいるコーネフに頼み込んだ。 あとメルカッツにも残留を青年は請うた。 艦隊指揮を一任する意味で老提督に要塞残留を願った。 勢力を二分することによりハイネセンへ出頭したものが処刑されて露と消えても民主共和のエッ センスはまだ宇宙に存続する。 残留組を説得したのはまたしてもダスティ・アッテンボロー・ポプラン夫人であった。 青年は思い出す。 女性提督と初めてであったときのことを。 ヤンからあわせたい人物がいると聞いていた。もしやそれはヤンの恋人であろうかと12歳のユ リアン・ミンツは思った。ヤンは全然違うと紅茶を飲みながら笑ったものだった。 ヤンの休暇でハイネセンの高原地帯にあるペンションでヤンは確かローザス提督の回顧録を 読みながら大きな木の木陰で敷布に寝そべっていた。 「少佐になってしまいました。」 現れたのはユリアンも見たことがないほどの笑顔が美しい美人であった。 コットンシャツにローライズのコットンパンツをはいてジャケットを肩にかけた・・・・・・絶世の美女。 「大佐、本当に恋人じゃないんですか。」と少年は思わず聞きそうになった。 彼女の名前はダスティ・アッテンボロー。ヤンの二年後輩だと紹介された。 「少佐昇進よかったね。給料が上がっただろう。」 「給料は上がったに違いはないですけど昇進はそれほど嬉しくないです。」 ユリアン坊やが作ったローストチキンを遠慮もせず口に入れて。「これは美味しいな。ペンション の夫人の料理が楽しみです。」 それはうちの子が作ったんだよとヤンはユリアンの髪をくしゃっと撫でた。 ああ、そうだったんですかと彼女は高原の緑よりもさわやかな笑顔を見せた。 「昇進よりよほどこの子の料理の方が私は嬉しいですよ。」 もう先輩に料理を作りに行かなくていいんですねと付け加えた。 「アッテンボロー。私が生活無能力者のように言ってはいけない。ユリアンが誤解する。」 ヤンは悪びれもせずいったものだ。 12歳なら真実を知ってもよい頃合いですよとアッテンボローはまた綺麗な笑顔を見せてくれた。 思い出にしたくない。 今この会議室でともに笑い、ともに口論をかわす仲間たちを思い出になどしたくない。 ユリアンはそう願った。 必ず還ってきます。ヤン提督。 今度こそお約束を必ず果たして還ってきます。 青年は時代が大きく変わる瞬間に立ち会っている自分を自覚した。だからこそ。だからこそすべ てが終わったそのときには青年はヤン・ウェンリーに語りたかった。 歴史を愛する師父だから。 きっと喜んでくれるであろうと思うのであった。 ペテン師夫婦。 といつになく・・・・・・僚友に対しては全く遠慮しないがその奥方には敬意を表していたはずの イワン・コーネフ中佐がアッテンボローとポプランに会議が終わったあと声をかけた。 こら。 「コーネフ。うちのワイフにまでペテンとはなんだ。」 「アッテンボロー提督もペテンです。キャゼルヌ中将は事務監というお仕事もありますから残 留はともかく小官はあなたの亭主より陸戦でも役に立つ人間なんですよ。・・・・・・必ず還って きてください。ポプランは殺しても死なない男ですしあなたもそういうたぐいの女性ではありま す。お守りできなくて非常に遺憾です。」 コーネフの言葉をアッテンボローは黙って聞いていた。 「お前にはお前しか護ってやれない女がいて子がいる。そしてこの要塞にはヤン元帥がいる。 一人出立をするレディ・ヤンを考えてやってくれ。イゼルローン要塞を護ってほしいんだ。お前 さんたち残留組にはね。」 ただの居残りじゃないんだぞと女性提督は遙か昔に互いにひかれあったはずの男を見つめた。 アッテンボローはポプランを撰んだ。 それで悔いはない。 コーネフもテレサを撰んだ。 なんの戸惑いもない。 こら。 「コーネフ。おれのワイフを見ていいのは三秒までだ。減るじゃないか。」 オリビエ・ポプランは冗談を真剣に言う病癖がある。 「あのなあ。四年前に仲を取り持ったのは誰だったのかお前はすぐに忘れるんだなあ。なんて 学習能力が乏しいんだ。ポプランさん。」 コーネフが言うと。 「そういえば私がヤン元帥と目が合いすぎるとか言って悋気を起こしたときもコーネフが助けて くれたよな。」 ペテン師といわれたアッテンボローもかわいい顔に手を添えて考える。 「ダーリン、コーネフの味方をしてはいかん。油断は禁物だ。」 などというポプランのベレーをまっすぐにしてやりアッテンボローは「お馬鹿さん」と馬鹿だがか わいい夫にキスをした。 公私混同もいいところだと戦闘指揮官殿は通りすがりに要塞一の馬鹿夫婦を冷やかした。 「おい。中将。ミキ先生にはなんと言うつもりだ。」 ムライ参謀長が帝国の虜囚になっていることを。 「そのまま言うさ。あれは隠し事をしても喜びはせん。」 シェーンコップは怜悧な印象のある肉がそげた頬を撫でる。 「・・・・・・ヤン元帥は要塞にいる。・・・・・・でもフレデリカはハイネセンへいく。しかし・・・・・・。 いずれにせよ先生にはおつらい状態でしかないな。ムライ中将がご無事ならいいんだが。」 だからこそ。 「だからこそすべての事情を話してあいつ自身が決めねばなるまい。後日悔やむことなどな いようにすべて話す。」 前が見えない分女医の選択は難しい。 ヤン夫妻を護るために宇宙へ還ってきた。 現実、冥界へ足を踏み込んでいたヤン・ウェンリーをこの世に踏みとどまらせたのは女医。 三ヶ月以上もなんの変化も見せなかった眠れるヤン・ウェンリーが今年の1月に妻の声に反 応を見せるようになった。 そして。 フレデリカは政治代表としてオーベルシュタインの宣告に従いハイネセンへ出頭する。 もしかすれば・・・・・・永久の別れになるやもしれないのにフレデリカは夫の代わりにハイネ センへいくと決めた。 フレデリカ・G・ヤンの決意をしたあとの強さは余人が口を挟めるものではない。 そしてその虜囚の一人が女医の父親。 運命とはこの二人の女性にどこまで残酷なのであろうか。 などと考えているアッテンボローとて明日の保証はない。 みな、歴史の大きな潮流に翻弄されながら今日一日を生き延びている・・・・・・。 女は強い。 シェーンコップはため息とともに呟いた。 「お前さんはもとよりヤン夫人もミキも強い。おれなどよほど惰弱に見える。せいぜい実力行使 の必要があれば力を振るって汚辱を雪ぐことにする。それがせめてもの男のつとめだろうな。」 そこまで言って戦闘指揮官の男は医務室に足を向けた。 「・・・・・・恋してますね。」 イワン・コーネフがシェーンコップの遠ざかる後ろ姿を見つめぽつりと言った。 「うん。見事な片思いのようだが恋してるんだろうな。」 アッテンボローはコーネフに同意した。 「不良中年が今更恋かよ・・・・・・。」 ポプランはアッテンボローの腰に手を回したまま呟いた。 あれって案外。 「当人は気付いていないのかもな。」 アッテンボロー、ポプラン、コーネフの三人は異口同音にいった。 ワルター・フォン・シェーンコップ中将。 恋の教主(カリフ)とまで呼ばれた男である。 けれど彼は女性が彼を望むから夜をともにして愛を交わすだけ。 愛した錯覚と愛が交差した長い月日。 「ありゃ永遠の片思いだなあ。」オリビエ・ポプランは運命の女にであうまで恋の嵐に翻弄され 続けた若き日の自分をふと思い出した。 運命の女。 今、彼女は彼のうでの中にいる。 さんざん小馬鹿にしてきたアッテンボロー夫婦たちが何を言っているのか知らぬ戦闘指揮官 殿はミキ・ムライ・マクレインと会い、ムライ参謀長が帝国にとらわれたことを正確にすべて伝 えた。 女医はヤン・ウェンリーの生体データーとカルテをみて考えた。 「ヤン夫人が留守にするなら私はここに残る。」 ヤン・ウェンリーの担当医である女医は娘としての感傷より医師としての責務を撰んだ。 もう投薬方針も治療方針も医師団で決め軍医長をはじめ誰もが女医の代わりになり得たのであ るが彼女は生きる限り医師であり続けたいと願っていた。 「父は案外しぶといのよ。でもそっちは任せたわよ。フォン・シェーンコップ。」 任されましょうと男はいって部屋を出て行った。 シェーンコップ自体は誰にも自分の胸中は知られたくなかった。 本当に欲した女はただ一人。 けれど僚友の妻で、よい僚友の未亡人で。 自分がもっともかわいがって育て薫陶してきた若い青年士官が女に恋心を抱いた。 どの面を下げて愛してると言えるのだろう。 あの女が医師として孤高に生きるのはひとえに喪った良人が優秀な人格も安定した医師だっ たからではないか。 今更、愛などまぶしすぎて言えない。 女医が心を開きかけた青年をみすみす死なせた自分に何が言えるというのだ。 シェーンコップ自体は誰にも自分の胸中は知られたくなかった。 死んでも誰にも知られたくなかった。 あの女にも。 センチメンタルな思考を一万光年先にシェーンコップは封印してもとのシニカルで独善的な男の 顔に戻る。 私もいくわよと17歳の少女は若すぎる司令官代行にはっきりと言った。 彼女とはよく「ヤン提督のベンチ」で話しをする。 森林公園は若葉が輝いている。 「・・・・・・。」 ユリアンはただ困った表情をして薄く紅茶を入れたような色をした彼女の綺麗な巻き毛を見つ める。 「危ないからだめだって言うかと思ったわ。」 「危ないからだめだよ。」 「いやよ。ここは自由と民主主義の苗床でしょう。私もいくわ。」 止めても無駄だと思ったからユリアンはカリンを止めることはできないと思っていた。 律動感と躍動感が見事に調和したこの美しい少女は自分で自分の生き方を決めることができる。 もちろんユリアンは思う。 まさか自分が一人の少女の生命を命がけで守ることになるとは思わなかった。 けれどそれでいいと青年は思った。カリンがいくというなら自分が護りきればいいとユリアンは心を決 めた。 「わかったよ。でも危ないまねはしないでくれよ。」 危ないまね・・・・・・。 彼女は艦載機に乗って飛ぶ。 あの重力加速度の螺旋をくぐり抜け敵機を墜とす。 自分が今更馬鹿なことをいっていることをユリアン・ミンツは気づき苦笑した。 あんたは苦労性なのよ。 「世の中を甘く見なさい。ユリアン・ミンツ。生きてヤン元帥とお会いするんでしょう。弱気じゃだめ。 あんたはヤン元帥を護れなかったと思っているかもしれないけれどフレデリカさんの呼びかけで ヤン元帥は体を動かせるようになったわ。それがフレデリカさんにとってどれだけ幸せなことかあん ただってわかるでしょう。あんたは立派に元帥をお守りした。しゃきっとしなさい。」 カリンの双眸はユリアンをしっかり見つめている。 青紫色(パープルブルー)の眸が。 「無茶でもいい。笑うなら笑いなさいよ。でもね、生きて元帥夫妻にお会いしてお話をなさい。だからあ んたは戦うの。その日のために生き抜くのよ。ユリアン。」 少女・・・・・・大人になり始めた一人の女性とも言えるカリンの言葉にユリアンは黙って、頷いた。 正直、すべて彼女のように考えられない。 けれど。 彼女の勇気はユリアンにとって得がたく、至高のものに思えた。 だからもう一度信じてみようと思った。 希望という美しきものを。 同じ空を見つめて人々は旅立つ。 宇宙歴801年4月17日。 フレデリカ・G・ヤン主席、ユリアン・ミンツ革命軍司令官代行は革命軍旗艦「ユリシーズ」に乗り 巡航艦三隻と駆逐艦八隻の小艦隊でイゼルローン要塞をあとにした。 フレデリカは出かける前に夫に声をかけた。 「ウェンリー。要塞を留守にします。宇宙で二番目の美男子に会ってきます。」 最期の時を迎えてもあなたの夢を誰にも渡しはしません。 いついかなるときでも。 「あなたの側にいるのよ。ウェンリー。あなたの心と寄り添って生きています。」 無様な姿をさらしてでも必ず還ってきますからねとフレデリカが言うとヤンは震える右の手で重ね られた妻の手をしっかりと握った。 その生命力に安堵してフレデリカは夫の瞼にキスをした。 私に勇気をください。 ヤン・ウェンリー。 大いなる時代の流れが静かに、けれど確実に彼ら、彼女らを包み込んだ。 by りょう |
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LadyAdmiral