強き者よ、汝の名は女。・1




イゼルローン要塞には宇宙歴800年1月現在2大撃墜王殿がいる。一人は

妻帯者でもう一人も・・・・・・近々式を挙げる予定になっている。



とうとう。

「お前も嫁をもらうような甲斐性のある男に育ったな。俺も本当に苦労がついに

報われた気持ちがする。」

オリビエ・ポプラン中佐がしたり顔で言う。

「・・・・・・。何故お前が苦労したんだ。ポプランさん。」

イワン・コーネフ中佐が当然のようにその言葉の不快さに明らかにきれいな眉を

しかめた。イゼルローン要塞の士官食堂で女性提督とコーネフの婚約者である

帝国美人と4人で仲良く昼食をとっていた。



いやいや。



「俺はお前さんを少年時代から知っているが目も当てられない不良だった。あの

ころ俺という心の友がいなかったらお前はとんだろくでなしになりはてていただろう

と思うとな。これだけの女性が降嫁するんだ。やっと肩の荷が下りたという・・・・・・

まさに兄のような感慨深さがあるな。」

勝手にほざけとコーネフさんは言う。アッテンボローもテレサも苦笑した。



今更どちらが不良少年だったかなどあえて追求するに及ばない。アッテンボローは

不良であろうができが悪かろうがポプランのことが大好きだったし、テレサは自分の

婚約者の自分に対する誠実さを愛していたのでどちらの淑女もとくに何も言わない。



「お前さんが今日あるのは俺のおかげとは思わないのか。まったく不知恩な

やつだ。まあいい。お前もやっと世帯を持つ。それ自体はめでたい。」

まだいい加減なことをいい続ける亭主にかわってアッテンボローが話しを

継いだ。



「結婚式は一ヶ月後で二人はそのあと入籍するんだね。」

ええ、とコーネフはテレサをみてうなずいた。



「順序や秩序を重んじて式が終わったら入籍して新居に変わります。テレサは

育ちのよい女性ですから婚約期間を経た方がいいと思って。」

そうだよねとアッテンボロー。私は育ちががさつな家庭だけど。



アッテンボローの美徳は屈託のなさであろう。

「テレサは帝国貴族のご令嬢だものね。そうした方がよいだろうね。」

特に気を悪くするでなく笑顔でアッテンボローは明るくいった。

令嬢だなんてとんでもありませんとコーネフの婚約者は恥じ入って言う。

「本当に貧しい名前だけの家です。それに自由惑星同盟に私は亡命を決めた

以上祖国は・・・・・・。」



ここまで言ってテレサも一同も無言になった。

テレサ・フォン・ビッターハウゼン嬢が口元に小さな手を当てた。失言をしたと

思っている様子でコーネフは気にすることは何もないよと優しく婚約者に

語りかけていた。

自由惑星同盟からも追われた形になっているヤン不正規軍に属している

以上まさに「孤高の旅人」となっている一同である。




まじめすぎるんだよなあとポプランは唇をとがらせた。

「結婚するんだしそうそうに一緒に暮らして愛のある生活に入ればいいのに。

お前さんは本当に堅物でつまらぬ男だ。俺はそんな風にお前を育てた覚えは

無いぞ。」



当たり前だ。

「お前さんに育てられた覚えなど露もない。ポプラン。冗談は顔だけにしてくれ。」

食後の珈琲を口にしながらもう一人の分別がややあるクラブの撃墜王殿はいった。



みな追求はしないけれどハートの撃墜王殿にしてもクラブの撃墜王殿にしても常人

並みの分別など望めない。

まず軍人である以上まともな了見などあり得ない。

それは4人ともわかっていることだから誰も深く言わない。

そして分別の差にしてもコンマ単位程度の差しかない。ただオリビエ・ポプランや

ダスティ・アッテンボロー・ポプランなどはやることいちいち人目につくものだから

品格を疑われるがコーネフとて純然たる紳士とは言い難い。ヤン不正規軍きっての

紳士は誰もが賛同するであろう。

ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ提督であった。



当然、ヤン・ウェンリーでもあり得ない。



「結婚式が楽しみだねえ。フレデリカの時は参加できなかったから今度は

嬉しいな。美人が花嫁衣装をまとう姿を見るのは気持ちがいいものだ。」

とアッテンボローはにこにこして言う。

年々彼女は天真爛漫になるなとポプランはそれもまた愛しいと思いアッテンボローの

頭を撫でた。



女性提督は30歳の成人女性である。



でもなあとポプランは口をとがらせた。「あのうちの司令官殿の花嫁自慢は

なんだか少し恐ろしいものがある。いくら野暮天がフレデリカ姫を得たからと

いえどあの二人の結婚式のビジョン何度も見せられた日には。」



そう。

イゼルローン要塞攻略を再び成功したアッテンボローとポプランはさんざん

キャゼルヌにこき使われ部屋で甘い時間を過ごしたけれど・・・・・・。

翌日出勤してみるとアッテンボローは亭主共々会議室に呼び出されまずは

ユリアンたちが地球から持って帰ってきた地球教の資料が入っているデータ

ディスクを幕僚で検証した。

後世の歴史家からそしりを受けるのはヤンがこのディスクの検証をイゼルローン

要塞攻略のあとにしたことであった。



おおむねの情報はユリアン、ポプラン、アッテンボロー、コーネフからヤンは

得ていたしその対策を後日に回したのは・・・・・。

ヤン・ウェンリーが未来を予知できた「万能の智将」ではないということを

物語る。すべての構想と今後の計画はイゼルローン要塞を無事再奪取して

からであるとヤンは目前の近い未来のためにそのもてる能力を遺憾なく

発揮した。



もしもヤンがすべて読み取ることのできる本当の魔術師であれば現在

ランテマリオ星域において行われている会戦に赴き・・・・・・還ることのない旅路に

ついたはずである。

まだその知らせはイゼルローン要塞には訪れていない。

ムライ参謀長たちが命からがら合流を果たして残存艦隊を率いてくるのは月を

超してからであった・・・・・・。



そして。

地球教のディスクの検証を終えるとポプラン夫妻は首根っこを押さえられ

「あの」ヤンからさんざんハイネセンでの結婚式の記録を見せられたのである。

「いやあ。フレデリカはアッテンボローに見せたかったと言っていたからね。

彼女のきれいな花嫁姿を見せたくて。アッテンボローだってフレデリカの花嫁姿は

みたいだろう。みたくないわけないよね。」と「いつものヤン・ウェンリー」と20万

光年ほどかけ離れたのろけをたんまりと拝聴しながら二人の結婚式の様子を

記録しているディスクをみっちり半日見せつけられた。



「ヤン・ウェンリーがああいう男だとは思わなかったぜ。」

ポプランは食後の珈琲がからになるとカップを器用に右手でくるくると拳銃を

回転させるように回した。それを横目でアッテンボローはみて行儀が悪いなと

思いつつでも、かわいいかもと思っていたりした。この二人は元来気楽な

二人であった。



「でも男だったらフレデリカほどの花嫁をもらえば自慢したがるだろう。私だって

もし男だったら絶対フレデリカに求婚するなあ。」

アッテンボローはまれにみる個性的な美女であったので没個性的な美人にすぐに

白旗をあげる。嬉々として。

テレサの衣装は。

「マダム・キャゼルヌと三人で選んだし。ああ。当日が待ち遠しいな。ひとの

結婚式はなんだかうきうきする。自分の時はなんだか忙しくてよく思い出せない。」

などととんでもないことを言うのでポプランはアッテンボローを軽くにらんだ。

冗談だってばと女性提督は撃墜王殿のご機嫌を取ったけれどアッテンボローが

自分の結婚式の記憶よりフレデリカ・G・ヤンの花嫁姿の方が頭に現在鮮明に

焼き付いているのは仕方がない。



エル・ファシルのブライダルショップでアッテンボローはオルタンス・キャゼルヌと

さんざんテレサのウェディングドレスから小物まで選びに選んだのである。

花婿のコーネフはこのころイゼルローン再奪取作戦に参画していたから過去の

ポプランのようにほいほいと花嫁衣装をともに選んでいる余裕はなかった。



「そもそもそういうことが好きな男はお前さんくらいなものだよ。花嫁は当日に

拝んでこそ感動するものじゃないのかな。」イワン・コーネフ中佐は意外に

ロマンチストであった。

ロマンチストであるからこそ国境や星を超えた恋愛をしたともいえよう。

そこに浪漫とは50億光年ほどはなれたアレックス・キャゼルヌというひとが

通りかかった。

要塞事務監。中将。そして今回も媒酌人を買って出た愛すべきお節介である。



「おい。今度の花婿。こっちはいつでも準備万端だ。何せ喜ばしいことに今度の

挙式まで準備期間が一ヶ月もある。入籍して三日で式を挙げるどこかの馬鹿と

ちがってコーネフ中佐は分別があってよろしい。」

とさり気なくもなく堂々とアッテンボローとポプランの方をみて言ってのけた。

で、そのどこかの馬鹿夫婦の亭主に命令だと事務監殿はしゃあしゃあという。



「立会人代表者はお前さんだ。ポプラン中佐。亭主の方。よろしくな。」







・・・・・・。



「・・・・・・今何か小生に言いましたか。キャゼルヌのだんな。」

2秒後発言したオリビエ・ポプラン中佐は改めてキャゼルヌの方を向き質問を

繰り返した。



なんだ。頭の悪い男だなと容赦やデリカシーなど微塵もないキャゼルヌの

言葉がはっきりとかえってきた。「立会人代表者はお前さんがするんだ。

ヤンが今回は辞退した。コーネフの親友はどうも世間ではお前さんらしいし

ヤンは自分がこの艦隊の責任者であるということをことさら表立てたくない。

今更なことだがやつのあがきで一般的に結婚式の立会人代表者は親友がする

べきだと珍しく強弁に言う。だからお前さんがするんだ。」



そういわれてポプランはコーネフをみた。コーネフはさっと視線をそらした。

親友。

・・・・・・。

何か背中が薄ら寒い二人である。



「ヤン元帥がおっしゃるにはお前さんのためではなくアッテンボロー提督を

実の妹と思って立会人代表者を過日は引き受けたそうだ。もとから権力だの

立場だの重んじる気風が嫌いな方で今回は引き受けてくださらない。

ということですまんな。ポプランさん。」

お前さんはやるときにはやる男だ。

「一応信じているからな。」コーネフは柔らかい色の青い眸に笑みを浮かべ

言う。



一言付け加えれば。



「テレサの後見人としてメルカッツ提督がおられる。提督に恥じない言動を望む

と同時に。」

俺の花嫁は・・・・・・。「厳然とした淑女だからくれぐれも失礼のないように頼む。」

とにっこりとほほえんだ。

そ、そんな。「そんなご立派な後見人があるのであればメルカッツ提督が

式の立会人代表者をつとめればいいじゃないですか。うちのぐうたら元帥が

引き受けないというんだったら・・・・・・。」ポプランはキャゼルヌにあがいた。



ばかもの。

キャゼルヌは一喝した。

ポプランなどは一蹴される。



「ヤンが目立ちたくないというのにメルカッツ提督が引き受けると思うか。

あの方はヤンのような若造に大変思慮深く接しておられる紳士だぞ。

ヤンをさしおいてしゃしゃりでるわけがなかろう。」

コーネフの結婚式はな。いろんな事情が多く絡んでいるんだ。



キャゼルヌはポプランの隣に腰を落ち着けてこんこんと言った。



イワン・コーネフ中佐はもとは自由惑星同盟軍に籍を置く人間である。

アムリッツア会戦終了後第十三艦隊からそのままイゼルローン要塞

駐留艦隊に所属しヤン・ウェンリーが直属の上官にあたる。



そしてテレサ・フォン・ビッターハウゼン中尉はウィリバルト・ヨアヒム・

フォン・メルカッツがラインハルト・フォン・ローエングラムと対峙する

形となり長きにわたる敵であった宿将ヤンを頼って亡命、随行させた

部下の一人の女性士官である。



えもいわれぬ奇妙な縁で二人は恋をして当然の帰結として婚姻の儀式を

執り行う。



しかし。

現在ヤンは自由惑星同盟軍からも見限られていたしよしんば皇帝

ラインハルト一世があつく遇すると言ってもヤンの部下や幕僚まで

扶持にありつける保証がないので、独立宣言をしたエル・ファシル政権の

軍部におさまってしまった。

銀河帝国皇帝とも袂を分かつ形をとった。

結果。

皇帝の部下からイゼルローン要塞を力づくとペテンで奪い取った。

申し開きはもはやできない。



すべての旗に背き存在している。

「そんな政治も絡んでくるからヤンとしては結婚自体はめでたいがこれは

友人として祝福する形態をとりたいと尻込みをしている。まったくもって今更

悪あがきをするなと言うのだががんとして受け付けない。よほどドクター・

ロムスキーに文句を言われるのをさけたがっている。あいつは文句を言わ

れるのが好きじゃないからな。あくまで身内の大がかりじゃない式にしたいと

言うことでヤンが直々にポプランに立会人代表者を推した。」



なあに。

お前さんは洒脱で口は達者な男だろうとキャゼルヌはアッテンボローが

運んできた珈琲を満足げに飲みながら言った。

「うちの元帥以上にせいぜい皆を感動させる心のこもった開会の辞を期待

してる。司会はこの際便宜上アッテンボローがすればいいのじゃないかと

俺は思っている。」

蚊帳の外にいたと思っていたアッテンボローは自分とポプランの珈琲を

運んできて思わず。「え。」とこれまた間の抜けた声を出した。



「ちょっと待ってください。ふつう結婚式など司会は男性がするのではない

でしょうか。事務監殿。」アッテンボローが言うと。

「いや。提督だの閣下だの呼ばれている女はもはやふつうの女ではない。

お前さんは退役しなければヤンと同じ元帥になったであろう人材だ。

それにヤンやメルカッツ提督には司会も頼めない。ムライ参謀長でもいれば

お願いするが・・・・・・夫婦で「親友」の結婚式の進行をすればアットホームで

よいだろう。なあ。コーネフ。」



もう立会人代表者がオリビエ・ポプランというところでイワン・コーネフは

観念していた。「ええ。大変よろしいかと思います。」



アッテンボロー。女性提督は式典が得意である。

なにせ背負っている看板が同盟史上初の女性提督なのであるから。

それにアッテンボローはポプランより若干節度がある。司会進行役としては

悪くはない人選である。最前線で贅沢は言えぬ。



コーネフ中佐の心の奥底にしまった辛い心境であった。



テレサはコーネフさえ不平を言わなければ何も口出しする気はない様子である。

郷に入っては郷に従えとこの数年亡命してきて以来習い性になっている。

それに彼女は婚約者とわずかに違ってポプラン夫妻を全般信頼している。特に

アッテンボローとはダヤン・ハーン基地で駆逐艦「ウラヌス」の悪夢をともに

くぐり抜けた仲。

「アッテンボロー提督さえ引き受けてくださるのであれば身に余る幸せです。」

古典絵画の天使を思わせる豪奢な金髪をアップスタイルにして黒い禁欲的な

帝国の制服を身につけた「花嫁」は美しく可憐な微笑みを見せた。



アッテンボローは金髪碧眼の女性の願いに逆らえぬ定めを持つ。

彼女の母上、姉三人とも見事な金髪と緑の美しい双眸を持つ。アッテンボロー

一人父かたの祖母の若かりしころによく似た。それはそれはたいそうな

美しい女性だったと聞いてはいる・・・・・・。

ともかく。

アッテンボローがいくら何かを唱えたところで花嫁のテレサが喜んでくれるの

ならと。「わかりました。喜んでお受けします。」と夫のポプランを横目に

了解した。

となれば。



「やれやれ。小生一人立会人代表者を固辞するわけにはいかないですね。

ワイフも快諾したことですからお引き受けします。」

キャゼルヌにそういってポプランはアッテンボローをみてアッテンボローも

ポプランをみた。

参ったな。



ひとの結婚式を高みの見物でとほくそ笑んでいた二人であったが今後

アレックス・キャゼルヌ中将の厳しくも慎ましくあたたかい薫陶の日々が

二人を手招きしていた・・・・・・。



by りょう





書いているうちにすごいことになりました。

そっか。ムライさんが到着するのが早いかこの二人の結婚式が早いか。

どっちが話しとしておもしろいでしょうね。



LadyAdmiral