頼むから黙って、ただ愛させてくれ。・2
アウグスト・ザムエル・ワーレン率いる艦隊の末尾で「親不孝号(アンデューティネス)」は 銀河帝国首都星オーディンに向かって安寧なる旅をしていた。 コンラート・リンザー中佐を窓口にボリス・コーネフが算出した「商売上の損害額」の補償を 受けた「親不孝号(アンデューティネス)」の一同。ユリアンは前もってアッテンボローや ポプランに相談していて「商売上の補償」は船長たちに謝礼として贈ることに決めていた。 その上ユリアンとアッテンボローがそこをつきつつある食料や医薬品について リンザー中佐に相談すると物資を実に好意的に分けてくれた。 「帝国はさすがに富んでいるよな。あんな敵と戦ってたらそりゃ同盟は負けるよ。 食料だけでもこれだけの豊富な物資を民間人と偽っているわれわれに気前よく 分けてくれるんだもんな。・・・・・・圧倒的な差を感じる。」 十分すぎる量の物資を目の前にしてアッテンボローはつぶやいてしまう。 ユリアンも苦笑せざるを得ない。 荷物の運搬を手伝ってイワン・コーネフやマシュンゴも「親不孝号(アンデューティネス)」 の食料倉庫にきて複雑な面持ちをしていた。 事実上敗戦した本国の様子を知っている青年は女性提督の一言が身に沁みた。 「でも私は民主主義が好きさ。ビバ!デモクラシーってところだよ。」と アッテンボローはきれいな笑顔で言う。その隣には常にポプランがくっついている のであるが。別に荷物の運搬の手伝いではなく彼は彼の愛のままに 今いるところにいるのである。 「ビバ!デモクラシーか。悪くないけどインパクトに欠ける気がするな。今二つほど。」 ポプランはアッテンボローの唇を掠め取って軽口をたたいた。 「べつにスローガンでもないんだしいいじゃんか。」と赤面しつつポプランの耳を 軽くつねるアッテンボローである。 やっぱりギャラリーがいる前でキスされるとまだまだ恥ずかしい時もある女性提督。 ともかくこれで飢えている男どもに美味い飯を食わせられるよなとてれを隠し ながらアッテンボローは青年に言った。輝く翡翠色の眸。 ええと青年はうなずいた。 必要分を貯蔵庫からポプラン以外の男たちはキッチンへ運んだ。 いまさらだが。 「お前さんは本当に働かない男だな。」とイワン・コーネフはあきれていった。 安心しろコーネフと女性提督はいう。 「今から野菜の下ごしらえをするがそれはオリビエ・ポプラン中佐に任せようと 思っているから。」アッテンボローは微笑んで隣に立つ夫を見つめた。 ええとポプランは口をへの字に曲げた。 手伝ってあげますからとユリアンは笑った。 その光景を見た船長が口出しをした。「そんな危険人物に食い物をいじらせるのか。 毒でも食わせる気じゃないか。」 ちゃんと見張ってるから大丈夫とアッテンボローはいい結局キッチンで野菜の 下ごしらえをユリアンとポプランが「品性のない会話」や「品性のないジョーク」を 交わしながら・・・・・・もっともユリアンは相槌をうつだけであったけれど会話 しながら大量の野菜の下準備を二人はした。 アッテンボローは牧歌的なそんな二人を眺めて出来上がっていく下ごしらえで ピューレやソースを作ってどんどん食欲のわくような料理を作る。 この日以来「親不孝号(アンデューティネス)」のみなはおいしい三度の食事に 無事にありつけることができた。 「親不孝号(アンデューティネス)」で通路で窓から星星を見つめていた イワン・コーネフにダスティ・アッテンボロー・ポプランは声をかけた。 宇宙ばっかり見てると飽き飽きするぞとアッテンボローはいたずらっ子のように 微笑んだ。 「提督は星を見続けるとあきますか。」 「うん。たまにね。私はヤン先輩ほど宇宙に慣れているわけじゃないから。 地上が恋しいときがあるよ。オリビエは違うけどね。あいつは宙(そら)の男だし。 やっぱりお前もなのかな。」 淡い金髪をした温厚で端正な顔立ちのクラブの撃墜王殿は「ええ。不本意ながら 多分ポプランとそこは一緒かもしれません。」と言葉ほど不本意ではないやさしい 表情で答えた。 帝国で。 「女性用の衣類を買っておこうと思うんだ。」アッテンボローはコーネフに並んで つぶやいた。そういえば基地を出てからの女性提督の服装はユニセックスなもの ・・・・・・否オリビエ・ポプランと同じような衣服を着ていたっけとコーネフは思った。 「提督に似合いのドレスがあればいいですね。美人なんですからせめてわれわれに 目の保養をさせてくださいよ。」 くすっとアッテンボローは笑って。 違うよという。 「ダヤン・ハーンでいろいろと困っているであろうテレサのために彼女のサイズにあった 衣服や下着を買っておこうと思うんだ。なんと言っても年頃の女性だし軍服ばかりで 不自由もあるかなと思ってね。」 アッテンボローはコーネフに視線を合わさないで広がる宇宙を見つめていった。 ・・・・・・やはり。 「妙齢の女性でしょうしよい土産になるのではないでしょうか。」 少しの間をおいてイワン・コーネフは答えた。 服のサイズはどうするのかとコーネフがきけば。 「私の夫は天下の色事師オリビエ・ポプランだからね。女性のスリーサイズ から何からわかるんだ。見ただけで。」 達人とはそういうものだと自慢していたよとアッテンボローは小さく笑った。 なるほどとしか言いようがないコーネフである。 「誰かのものになってから実は好きだったんですって言うのではいつまでたっても 大事な女性を逃してしまうよ。・・・・・・・。」 私のときのようにねと女性提督は無表情を装っている青い眸をじっとみて 言った。 ・・・・・・。 「・・・・・・提督、気づいてらしたんですか。小官が・・・・・・あなたのことを・・・・・・。」 一度恋焦がれたこと。 そうだよとアッテンボローはつぶやいた。「実は一度は相思相愛だった。でも。」 私はオリビエ・ポプランに恋に落ちた・・・・・・。 「私は恋愛が得意ではないけど・・・・・・まったく鈍感でもないよ。鈍感では 提督なんて仕事は勤まらないんだよね。」 オリビエ・ポプランのものになってから「実は好きな人がいたんですよといわれたら それは私だったんだと思うよ。・・・・・・うぬぼれにちかいけれどね。」 テレサはいいこだから。 「誰かのものになる前に思いを伝えたほうがいいよ。おせっかいで言うんだけどね。」 おせっかいですよねとコーネフは遠慮なく感想を述べた。 おせっかいついでに言うけどさ。 アッテンボローは宇宙の見える窓を背にしてクラブの撃墜王殿に人懐こい笑みを 見せていった。 「彼女の豪奢な金髪をまとめいている髪留めは私は買う気はない。指輪じゃないし 気軽に「初めてのプレゼント」にはちょうどいい気がして。誰かさんが見立ててやれば いいなと思っているんだ。・・・・・・テレサは上品な髪留めが似合うよね。コーネフ。」 そこまで言うとアッテンボローは亭主ではない撃墜王殿をおいて大きく見事なストライドで 通路を自室の方角へ歩いていった。その後ろ姿を少しの間見つめてイワン・コーネフは 「観念」した。 帝都オーディンなら・・・・・・テレサ・フォン・ビッターハウゼン嬢に似合いそうなシンプルで 上品な髪留めがあるだろう・・・・・・。 また誰かのものになってしまうなんて。 もういい加減人よしのポーズをとっている余裕のなくなったコーネフであった。 ダヤン・ハーン基地を離れて一月は軽くたち。彼がふと思い浮かべるのは あの生真面目な大きな淡いグリーンの眸のまっすぐな帝国女性士官・・・・・・。 過去の女性提督へのつかの間の恋慕すらばれてしまった。 もうこれ以上いくら恥をかいても同じかと品行方正な撃墜王殿はまたも 宙(そら)の星星を見つめ覚悟した。 お前も何かドレスを買えばいいのにと洗濯を手伝いながらポプランは彼の愛妻に言う。 「帝国の貴族風のひらひらドレスか。私に似合うはずがない。」 あちこちランドリーのなかで洗濯物が回転するのを眺めながらアッテンボローは 夫の発案をいともたやすく却下した。 俺一回だけ。 「あのふんわりしたドレスの中にもぐりこんで見たいなあ。」 やっぱり動機が不謹慎だとアッテンボローはあきれて笑った。 いまさらスカートめくりでもあるまいにとポプランをからかうと「だから一回でいいんだよな。」 と悪びれずににっこり微笑んだ。 冗談はさておきさ。 「じかに金髪の坊やを拝見したいものだな。新無憂宮にいるのかな。平時のときは。」 アッテンボローがつぶやくとええ、あの坊やなどお目にかかりたくないなあとポプランは あっさり言った。 「むしろ傾国の美女といわれるグリューネワルト大公妃にお目見えしたいぜ。 この別嬪な姉ぎみを父親に売られたせいで坊やはとうとうゴールデンバウムを倒し ついには新帝国の皇帝にまでなっちまったんだもんな。」 歴史的にも興味がわくよなと取り出した洗濯物をつめた大きなかごを持った アッテンボローから受け取ってポプランは洗い上がりの衣類を丁寧に たたんでいく。 アッテンボローはその隣で腰を下ろしてきぱきと衣類を整頓してクロゼットに入れる。 「なかなか会える人じゃないだろうね。麗しの大公妃は。弟の皇帝と不仲だと聞くけど。 ・・・・・・10代の若さで後宮に納められて弟が皇位を剥奪したとなるとどんな気持ち なんだろうね。」 一般人の私には想像つかないやとアッテンボローはにこっと微笑んだ。 お前って一般人かなとポプランはアッテンボローのランジェリーをしげしげ眺めて 「インナーの趣味はハイセンスだよな。」ともらした。 こら。 「女房のパンツを昼間からじっくり見るな。恥ずかしい。」 アッテンボローは本気で恥ずかしかった。 「よかったら俺のパンツ見ていいよ。」とまだポプランはアッテンボローの下着をまじまじ 探求している。 交換条件じゃないだろうとアッテンボローは思う。 「片付かないから返してくれ。」とポプランの手からもぎ取った。 いや考えたんだけどさとポプランは至極まじめな顔で言う。 「プロのフライング・ボールの選手とか女性のインナーをつけてプレイすることも あるんだよな。動きやすいからって。お前のショーツははき心地がよさそうだし 俺の勝負パンツに何枚かくれ。」 ・・・・・・。 おれのこと。「変態だって思っているだろう。」 ポプランがアッテンボローを覗き込むと彼女はぶんぶんとおもいっきり首を縦に 振っている。稚い(いとけない)様子が愛らしいとポプランなどは思う。 「前から少し変態だとは思っていたけど、女のパンツをはきたいとまで言い出すとは 思わなかった。」 変態じゃなくてな。 「飛行機のりは縁起を担ぐんだよな。お前って運がいい女だしさ。お守りにいいよなって 思うわけ。やらしい気持ちじゃないんだけど。」 まじめに言うポプランを見ているとアッテンボローのほうが不真面目に思えてくるから 不思議だ。 そんな話「聞いたことないぞ。それにお前のパンツだって・・・・・・見事に尻が出て はきごこち悪くないだろう。縁起って・・・・・・そんなのありかよ。」 夫婦になっているのにいまだにこんな話題になると恥らうアッテンボローがかわいくて ポプランは「そんなのありだ。」と言い切ってみる。 案の定アッテンボローは真っ赤になりながらそういうものなのかなあと首をしきりに かしげている。女性提督の大事なだんな様はパイロット。 パイロットが縁起を担ぐのは知っているけれどだからといって妻のショーツをはいて 飛ぶというのは・・・・・・。疑問が大いに残るけれど・・・・・・当のポプランはいたって まじめな顔しているし・・・・・・。 「・・・・・・わかったよ。あげる。でもかぶっちゃだめだよ。」 今二つほど説得力のない発言だが夫が言うのだから間違いないと思わなくちゃと アッテンボローは頬を染めてしぶしぶ了承した。 第一交際期間も含めればもう三年一緒にいる女のショーツなぞ酔狂でほしがるはずは ないだろうとアッテンボローは解釈した。 彼女は自分では古女房だと思っている。 でも彼は今でも彼女がジャストタイムでおいしい。 ショーツの収集癖があるわけではないけれどアッテンボローのはじらう愛らしさが 垣間見れるならたまにはこんな話題も悪くない。 アッテンボローが幸運の持ち主でポプランにとってのラッキーガールであるには 変わりない。ショーツの一枚や二枚は自分の勝負パンツにいれても悪くない。 ただここでにやっと笑おうものならアッテンボローから「戦利品」を没収されて しまうのは女性心理に長けていなくても理解できる。 「これで俺も無敵で飛べるな。」 この一言があって、さわやかな笑顔なら・・・・・・シャイな奥様も赦してくれよう。 うん。 「私をおいていっちゃだめだからね。」 柔らかい唇がポプランの頬を掠めた。 まだ真っ赤になっているアッテンボローを見ると。 欲情する。 「・・・・・・欲情した。」 しっかりホールドされて耳元でポプランからささやかれて。 まだお昼だよとアッテンボローは言うけれど。 帝都へ向かう旅路で女性提督とハートの撃墜王殿夫妻が食事以外で 船室から現れることはなかったそうである。 口に出すと下世話だがと船長はブリッジではっきり言った。 「あいつらが船室で何をしているかは言わずもがなだよな。話題にするほどのこと でもない。あほらし。」 ユリアンはあの二人には免疫があるのでくすっと笑っただけである。 マシュンゴとイワン・コーネフは顔を見合わせて失笑した。 あのお二人は自称新婚ですからねと青年は弁護しておいた。 彼はアッテンボローもポプランもどちらも大好きだから。 二人が仲良くしていることを青年は懐かしく幸せな気持ちになる・・・・・・。 「親不孝号(アンデューティネス)」の安寧かつ甘い?旅路は続く。 by りょう 地球で欲求が不満したんでしょうね。 |