頼むから黙って、ただ愛させてくれ。・1



地球教本部の医務室でしばし頭を悩ませていた6人。沈黙を破ったのは

ダスティ・アッテンボロー・ポプラン。



「なぜ帝国がここまで出張ってるんだろう。地球教徒は帝国で決定的な何かをしたんだな。」

決定的な何かとは何だとみなが聞く。



「まあ皇帝を暗殺したとか。・・・・・・あの坊やが殺されるとも思えないけれど。」

女性提督の勘は鋭い。



事実この年宇宙暦799年7月6日のこと。



ラインハルトI世は主席秘書官の従弟であるキュンメル男爵の邸宅を訪れたことに始まる

「キュンメル事件」と後日ささやかれる事件に遭遇した。男爵邸にて皇帝ラインハルト・フォン・

ローエングラムを暗殺しようともくろんだキュンメル男爵を結句はラインハルト自身で制した

のであるがその暗殺未遂事件の首謀者が地球教であったと憲兵総監のウルリッヒ・ケスラー

上級大将に進言したものがいた。



ヨブ・トリューニヒト。



ゆえに後日ワーレンを地球へと進攻させ地球教本部壊滅の勅命が下されていた。



もちろんアッテンボローたちはそんなことは知らない。



「ならいっそ帝国に手を借りようぜ。」

立ってるものは親でも使えって言うだろとオリビエ・ポプランは言い出した。

「そう簡単に貸してください、はいどうぞって穏当な会話が成立すると思うのか。

おれたちは150年も帝国と戦争をしてきたんだぞ。」

イワン・コーネフは淡い金髪をかいて言う。



われわれがフェザーンの自由独立商人だと身分を偽ればもしかするとと

ユリアン・ミンツはダークブラウンの眸に冷静な色をたたえていった。

「まあ地球教徒のまねもできたんだし商人も真似事もできなくもないだろう。」

アッテンボローはボリス・コーネフを見てウィンクした。



あんたにはかなわないからなあと船長はいい「ユリアン、交渉役はお前さんに

任せるぜ。どう交渉するか考えはあるか。」

ないこともありませんと青年はいった。

まずはこの巡礼服や僧衣は捨てて。「ぼくたち6人は地球教徒にとらわれてやむなく

ここにきたということにします。だったら民間人のわれわれに帝国の軍人も力を

貸してくれるでしょう。」

現場指揮官に面会しなくては。「さしあたり奥の院を案内するという名目があれば

いいのではないでしょうか。」出入り口の情報もこの際あちらには有効でしょうと

ユリアンは言った。



アッテンボローはポプランとコーネフたちはお互い顔を見合わせて

「かわいい顔して言うことがすごいよな。ユリアン。」

と四重奏を奏でた。

マシュンゴ1人もくもくと失神している地球教徒の衣服をまさぐっている。

「中尉、ブラスターがありました。お持ちになりますか。」

と手渡した。亜麻色の髪の青年はすっかりこの褐色の肌の大男を信頼していた。

「ありがとう。少尉。」



でも射撃の腕となると2大撃墜王殿のどちらかがお持ちになったほうがよくありませんかと

青年は言ったが二人の撃墜王殿は



「地に足をつけて戦う無粋なまねはしたくない。」とはっきりといった。

おれは妻帯をした自由商人の役ということでとポプランはアッテンボローの肩を抱いた。

どうでもいいけど「そろそろ動かないとやばくなるぞ。」とイワン・コーネフは

つぶやいた.。

こんなところで蒸し焼きはいやだもんねとアッテンボローも同意した。



6人は青年を先頭にして医務室を出た。



一時間後ユリアンは帝国軍コンラート・リンザー中佐との接触に成功し

とらわれの自由商人として救出されることとなる。

けれどその前に青年はどうしてもやり終えたいことがあった。

ゆえに地上で入り口の位置をおしえ奥の院をちらつかせそちらへ案内すると言った。

帝国軍の兵士の保護のもとかねてから足を運びたいと願っていた現地点より

地下にあると思われるデータバンクに行こうとしたのである。



しかし民間人にそこまで危ない案内をさせていいものかと律儀な軍人らしく

リンザー中佐は躊躇した。

「私どももすべてを知っているわけではございませんが進入禁止となっていた区域の

奥に幹部の部屋があるように見受けられます。そちらまでのご案内をいたします。」

ユリアンはわずかに微笑んでいった。



今ひとつの説得力に欠けるなとアッテンボローが

「実はお恥ずかしい話ではありますが手前どもはたいそう高価な積荷を探しているのです。

地球教の幹部に没収されたのですが・・・・・・金額に換算すれば相当な損害になります。

ぜひともその荷物を取り戻したいと存じます。」

と懇願した。

「わかった。フェザーン商人として信用が大事だのだな。ともかく協力を感謝する。」

と中佐はうなずいた。



ボリス・コーネフはうまいことを言うなとアッテンボローに感心した。

あるはずもない荷物を探す時間が稼げたというものだ。



青年はリンザー中佐率いる二個大隊の案内を買って出た。

奥の院という場所を事実ユリアンは知らない。

とにかく地下に降りてみれば何かわかるだろうとエレベーターを使って降りた。

地下八階がもっとも深部でそこでは地球教徒の激しい抵抗が・・・・・・狂気と

サイオキシン麻薬に踊らされた死をいとわぬ狂信者の姿があった。

リンザー中佐は民間人と名乗ったユリアンら6名を下がらせバリケードを作り

兵士に銃撃をさせた。



「機会到来。」

ポプランはユリアンの肩をたたくと青年を促した。



帝国軍兵士の目を逃れて6名で単独データバンクを探す機会が到来したのだ。

通路を別方向に走り抜けるとなにやら機会音がする部屋がある。

ここにもしかするとコンピューターか本部の電力システムがあるのだろうと

青年は判断した。



・・・・・・はやる気持ちで部屋の中にはいろうとしたユリアンをイワン・コーネフがとめた。

そしてユリアンのブラスターを手にすると天井に向かって一度打った。



そのビーム音で内部の暗闇からナイフを持った地球教の狂信者が躍り出て刃先を

向け突進してくる。イワン・コーネフも射撃の名手であるのでナイフを振りかざした

男の眉間を打ち抜いた。

「こういうところはいきなり飛び込むとやられるから気をつけるんだよ。」とクラブの

撃墜王殿は青い瞳で優しく微笑んだ。

「ありがとうございます。コーネフ中佐。」



ちぇ。かっこつけやがってとポプラン憎憎しげに他称相棒に微笑んだ。

ユリアンを死なせたくないだろうとイワン・コーネフは言ってブラスターを構えつつ

敵が来ないか待機していた。



案外新しいシステムを使ってやがるなとコンピューターを見てポプランは言った。

「ユリアン、これはデータバンクだ。お前さんデータを持って帰るんだろ。来いよ。」

と青年をコンピューターのまえに立たせた。

「さすがにパスがかかってますね。」青年が言うとポプランはすばやく端末に

指を滑らせパスワードを解除してデータを画面に引き出した。

「後はお前さんが持ってかえりたいデータをブランク・メディアに書き込め。」と

ユリアンに指示をした。青年は胸ポケットからメディアを取り出しデータを

書き込む作業に移った。



「ポプラン中佐は・・・・・・相変わらず機器(メカ)にお強いですね。」

青年が言うと強いのは機器(メカ)だけじゃないぞとポプランは小さく笑った。

データの書き込みが終わってユリアンは帝国軍に地球教のデータが渡らぬように

すべて消去した。



「よし。逃げるぞ。」

アッテンボローは青年の髪をくしゃっとなでて駆け出した。

後の5人の男たちも女性提督に続いて走り出す。「うちのワイフは逃げるのが

得意なんだよな。」とポプランは苦笑した。

まだエレベーターが稼動していたので飛び乗り地上の出口に向かって6人は全力で疾走した。



地下8階の地獄のような迷宮ではいまだに帝国軍装甲服兵士団と狂気に満ちた地球教徒

との壮絶な殺戮が続いていた。

地球教徒は死を恐れない。

狂信ゆえか麻薬ゆえか。

圧倒的武力と火力を有している帝国軍装甲服兵士団は殺しても殺しても

次々現れ体に絡みつき抵抗する地球教徒の存在に精神を崩壊させられる

寸前であった。

すすんで殉教する信者たちを払いのけ帝国軍も撤退を余儀なくされた。



地球教本部の建物に地響きとあちこちで爆発が起こった。

岩盤や天井が落下する中を6名は俊敏に走り抜ける。

「ダスティ、走りぬけ。」ポプランはアッテンボローの背を押して落ちてくる岩をよけさせた。

船長をコーネフがかばい、ユリアンをマシュンゴがかばった。



6人が安全な地表にたどり着いたとき・・・・・・カンチェンジュンガの山が

崩れ行くさまを高山のいてつく風にさらされつつ見守った。







またも帝国軍の擁護を受けて6名の「自称フェザーン商人」たちは無事ナム・ツォ湖畔に

着水していた「親不孝号(アンデューティネス)」と連絡を取りマリネスクやウィロックと

合流できた。



まったくひどいめにあったが・・・・・・「女性提督が言っていた「たいそう高価な積荷」を

帝国軍に賠償してもらえるかもな。もちろん商売の損害額を計算するぞ。マリネスク

帳簿を出せ・・・・・・。」

ボリス・コーネフ船長は自分の城に戻るとすっかり元気になった。



「嘘からまことを生み出すフェザーン人の商魂たくましさには感服するね。」

アッテンボローは微笑んだ。6名ともシャワーを浴びて服も着替えていた。

本部の大爆発の爆風からユリアンを救ったマシュンゴだけはアッテンボローが

船にかえったら早速ゼリーパームを当て包帯を巻いて手当てをした。

後のものはユリアンが顔に切り傷を作っただけで自分で消毒をして絆創膏を

はった。

アッテンボローは幸い女性にしてはかなり俊敏だったしポプランもかばって

くれたので怪我はない。ポプランやコーネフにいたっては無傷で帰ってきた。



このディスク一枚のために。

6名はあやうくサイオキシン麻薬中毒患者にされて廃人になっていたかもしれない。

ユリアンは深い感慨を持ってディスクを見つめた。



「そろそろ行こうか。ユリアン。向こうの提督を待たせるのはフェザーン人らしくない。

商人は大体が時間に正確な人種のはずだ。」

アッテンボローが青年に声をかけた。

今回地球教本部の出入り口を案内した功績に礼したいとアウグスト・ザムエル・ワーレン

上級大将が「亜麻色の髪の自由独立商人」たちを旗艦「火竜」に招待していた。

ユリアンに随行するのはアッテンボローとポプランでボリス・コーネフは面が割れると

この先商売がしにくくなるといってくれぐれも商売上の補償くらいは帝国にまかなってもらって

こいと三人を送り出した。



イワン・コーネフはあの三人で大丈夫かなといったが船長は女性提督がついていれば

そつなくことを丸めるだろうと問題にしていなかった。

「あの女性提督は亭主選びは最悪だが機転が利く。」

ボリス・コーネフはいつの間にか女性提督びいきになった。



「火竜」の会議室に時間より10分ほど早く着きワーレンという提督が現れるのを三人は

待った。リンザー中佐が先に入室して実は提督は重傷を負っているので体調が優れない

から長時間の面会はできないという。

「けれど諸君らの情報は大変貴重であったので司令官閣下は十分諸君らに酬いたいと

言っているのでその交渉の窓口は小官が任されているので安心してもらいたい。」

リンザー中佐が敬礼をして部屋を辞して約束の時間になるとワーレンは現れた。



確かにやや顔色がさえない。



だが男らしい精悍な面持ちに知性が伺える。言葉遣いや態度にもユリアンは

少なからず好感を受けた。

尊大さはなく懐の深さを感じさせる何かをアウグスト・ザムエル・ワーレンという

男は持っていた。

アッテンボローは「タッシリ星域の会戦」でワーレン艦隊と戦っているが姓名を

聞かれたとき「ダスティ・ポプラン」と名乗ったのでヤン艦隊の女性提督と結びつけ

られることはなかった。ユリアンは名前を偽って挨拶をした。自分をこの人物に

偽らなければならないのが少し残念なほど目前の敵将を青年は尊敬していた。



「卿らの情報のおかげで今回の攻略に成功した。礼を言う。その功に酬いるには

何がよいであろうか。商売上の損害をこうむったならば補償しよう。遠慮せず

申し出てほしい。ほかにも何かないか。」

上級大将という階級でありながら偉ぶった様子はない。といって風格がない

わけではない。ユリアンは無事にフェザーンへ帰る航路の安全を約束してほしいと

素直に礼儀正しく言った。

「それはわけないことだ。必ず無事に送り届けよう。リンザー中佐に聞いたがなにやら

たいそう高価な積荷を探していたと聞いているが見つかったのかな。」

それにはポプランが答えた。

「いえ。あいにくと。ずいぶんな損害になると思われます。しかしながらそこまで

ご好意に甘えてさてよいものかどうか・・・・・・。」とおもねるように言う。

ユリアンではあまりあざといフェザーン商人は務まらなかったのである。



「遠慮せず補償額を算出して申し出なさい。」ワーレンは鷹揚に請け負った。

青年はでは後日改めて損害額をご報告いたしますと礼をいいもうひとつ願いがあると

言い出した。帝国首都星オーディンに行きたいと。

「じつはわたしはまだ帝都見物をしたことがございません。この目で見事な帝都を

拝見したいと願うしだいであります。」

アッテンボローもポプランもそのユリアンの考案は悪くないと思った。

ワーレンもまったく疑わずに快く了解した。

「ではお体、ご養生ください。閣下。」と三人は「火竜」を後にした。



「親不孝号(アンデユーティネス)」に帰ってきた三人はワーレンとの約束を船長に

報告した。

次は帝都かよと船長はあきれたが。「さすが帝国は金の使い方がきれいだ。同盟とは

違うな。」と補償の件に関しては満足した様子であった。

アッテンボローとユリアンは早速キッチンにたって・・・・・・もちろんポプランもくっついて

きたが・・・・・・食事を整えてみな久々に人間らしい食べ物を味わった。



さっきはシャワーと着替えだけでゆっくりできなかったが今度は部屋に帰ってきて

アッテンボローもポプランもどちらからともなく抱き合い、接吻けを交わした。

ついばむような、お互いの吐息が漏れるような甘いキスから濃厚な接吻けに変わると

ベッドになだれ込んだ。もどかしいほど互いの衣類が邪魔をしてじれる。溶け合うような

情交を二人は幾度も幾度も重ねた・・・・・・。



「・・・・・・脳みそがとけそう・・・・・・。」

ポプランを体内におさめたまま腰を動かすアッテンボローがあえぎあえぎ言った。

おれもきっととろけきってると苦しそうにポプランも言う。

発射しっぱなしだ・・・・・・。

禁欲的な生活は10日あまりであったけれどこの二人には長すぎた。

手を伸ばせば触れ合うほどの距離にいながら甘い接吻けすらろくろく交わさず

互いの素肌に唇もあわすことも赦されない日々。



「・・・・・・もう離れたくない。ずっと・・・・・・。」



ツナガッテイタイ・・・・・・。

泣き出しそうなほど息も絶え絶えにアッテンボローがポプランの耳元であえいだ。

ポプランは彼女の懐かしい、いとしい感触やあたたかさを堪能し

指と指を絡めて愛してると何度もアッテンボローにささやいた。



ポプランの腕の中でアッテンボローはきれいな猫のようにまるまって彼に

寄り添っていた。彼も彼女のさらさらと流れる髪をなでて何度もアッテンボローの

唇に唇を重ねた。

「・・・・・・・やっぱりよほどの事情がない限りはお前と触れ合えないのは男として

ちときつい。今後は絶対お前をはなさない。・・・・・・いいよな。」

抱きしめた素肌の肩に唇をつけたままポプランは言った。

うん・・・・・・。



「・・・・・・女だってきついよ。」アッテンボローは微笑んでポプランの頬を細い白い指で

なぞった。



女だって愛する男がほしくなるんだとアッテンボローが宙(そら)色の眸で

ポプランに言った。「そりゃそうだよな。」とポプランも笑った。



帝都見学ってのは悪くないねとアッテンボローは言う。

「やっとまともなところに新婚旅行ができる。」

「150年も戦争をしてきた国に行くのがまともな新婚旅行か疑問だが。」

二人が誰に遠慮することもなく抱き合うことができればこの際かまわないと

ポプランはアッテンボローの額に自分の額をくっつけて言った。



これから先は大丈夫だよとアッテンボローは絡めた指にキスをした。

「帝国の首都星で何か事件をやらかせば身元が割れてアウトだもの。おとなしくする。」

じゃじゃうまは微笑んで約束した。

帝国といえば。「帝国美人がきっとたくさんいるよね。」

アッテンボローは無邪気にポプランに言った。

「相変わらずかわいい女の子が好きだよな。お前って。」



お前が一番かわいいのにさとポプランはアッテンボローの唇にキス。

あとは黒ビールとかウィンナーとか・・・・・・「帝国料理を覚えるチャンスかな。」

おれあのすっぱいキャベツはそれほど好きじゃないなとポプランが言うと

アッテンボローは「お前はどちらかというと肉食獣だからね。」と額にかかる赤目の

金髪を指でいじる。いとしげに。



好き嫌いしてたら大きくなれないよとアッテンボローは子供を相手にしたように

ポプランにささやいた。

「でも大きな男は好きじゃないんだろ。」と彼。

うん。「今のお前くらいが一番好き。ちいさくてかわいいもの。」

・・・・・・自分は一応身長が182センチはあるんだがとポプランは思うけれど。

アッテンボローが179センチだから3センチしか変わらない。

小さい男といわれても別にいいよなと彼は考え直した。

今の二人は服のサイズがほぼ同じ。



やっぱりこれ以上大きくならなくていいとアッテンボローはポプランの唇に唇を重ねた。

帝国暦487年ものか490年もののワインを手に入れようなと

アッテンボローはささやいた。

ああ、それは名案だとポプランも微笑んで同意した。



二人が出会った年と結婚をした年。



そんな甘い二人をよそに「親不孝号(アンデューティネス)」は地球をワーレン艦隊とともに

旅立った。



by りょう




帝都にみんなで行きます。

コメディチックになればいいなと思うんですが。

ちなみにポプランさんは原作やアニメでは人妻を寝取って撃ち殺されかけています。

やりますなあ。撃墜王。うちのポプランさんは愛妻家なのでそれはなしで。(笑)

頼むから黙って、ただ愛させてくれという格言があるようです。

追記マシュンゴは少尉でしたね。間違ってました。


LadyAdmiral