舞台裏・2
地球へ向かう「親不孝号(アンデユーティネス)」のなかでは・・・・・・。 ボリス・コーネフが文句をいうほどオリビエ・ポプランとダスティ・アッテンボロー・ポプラン夫人との だめとお願いがくりかえされていた。 やかましい夫婦だなあと船長は辟易した。 イワン・コーネフやルイ・マシュンゴ、ユリアン・ミンツにはもうポプラン夫妻の声の大きさにはなれて いたしそれは喧嘩ではなく「お願い」と細君が言うと亭主が「だめ」というだけの「かわいい夫婦の揉め事」 であったのでしばらくは放置していた。 なにがふたりの争点となっているのか。 地球へ行くのはいい。 地球教本部に行くまでの旅程を聞いたポプランはアッテンボローの体の負担や身にかかる危機を 感じたのである。 ポプランいわくアッテンボローは深層のご令嬢であるのでこの行程が彼女の体に負担があるのでは ないかと気がかりなのであった。 ユリアンたちが目指すのは当然地球教を調査しに行くためであるから地球教本部のある 標高8000メートル級の山々にあるカンチェンジュンガという地点である。 そこへ行くために標高4000メートルのナム・ツォ湖近辺で三日ほど体を高山に慣らし、 カンチェンジュンガに登る。 地球教本部まではもちろん車で行くのであるが、高度の差がなあとご亭主は存外華奢な妻を 気遣うととてもじゃないが連れて行きたくないという。 「そんな。地球教のことを調べに行くのだから本部に行きたいよ。ユリアンたちみたいに。」 「ナム・ツォ湖周辺で俺とダーリンは忌々しいがウィロックとマリネスクとで留守番をしよう。 ダーリン・ダスティ。お前の体は俺がよく知っているといっても過言じゃない。高山病は怖いぞ。」 一度入れ替わっているからなとイワン・コーネフがしれっと言うとなんだその非科学的な話はと 船長はまた苛立ちが募った。 この二人は体が入れ替わったことがあるとイワン・コーネフは従兄に言った。 女性提督は時々男になるんですよとユリアン・ミンツがコーネフ船長に言った。 その二人にボリス・コーネフは「ふん」と鼻を鳴らし一蹴した。 本当のことだけれど一般には信じてもらえないようだねとイワン・コーネフは16歳の青年に言った。 「まあ、実際説明できないですからね。」とユリアンは苦笑した。 結句、ヤンの仲間はおかしな連中ばかりだから戦争で負けるんだとイワン・コーネフは ブリッジで大暴言をはく始末。 「地球教本部なんて面白くないって。このおれが興味持たないんだぜ。あえて留守番でも いいと思ってる。湖はきれいだし。ハネムーンとしゃれ込もう。・・・・・・邪魔者はいるけどな。」 マリネスクとウィロックはあきれてものも言えない。 あっという間に邪魔者扱いである。 「私だって軍人だし大丈夫だって。高度に慣れるよ。そこまでやわな体じゃない。お願い。オリビエ。 行きたいよ。」 だめと亭主。 「お前のかわいい頭に頭痛でも起こしたらどうするんだ。だめ。高山病にでもなったら かわいそうだ。眠れなくなったりいろいろと体に不具合が出てきたら・・・・・・だめ。絶対だめ。」 みなポプランが過保護だといっている。 アッテンボローはいみじくも中将閣下にまでなった軍人で制服組ではまずまずの体力を持っている。 コーネフ・・・・・・ボリス・コーネフは、地球教徒には老人も多く、かれらですら巡礼できるのにあきらかに 健康そうな女性提督を過分に心配するのはポプランが嫁と二人きりで過ごしたいだけなんじゃないのかと 非常に現実的な答えを出した。 でも女性提督は言う。 地球という人類が800年も前に捨てたはずの星を後生大事に奉る「地球教」という組織の実情を 見る機会到来だからぜったい今後のために行ってみておきたいと言う。そのためにダヤン・ハーンを 出てきたのだ。 「酔狂でユリアンにくっついてきたんじゃない。軍人として今後の方針を決めるにもできるときに 見聞しておきたい。」 女性提督は自分は自由惑星同盟しか知らないからいろいろな見地で物事を判断できる材料が ほしいから青年の地球行についてきているのであって、どうしても行くという。 それに地球に降り立ってナム・ツォ湖付近でポプランと滞在してもそこがすでに高度4000メートル 地点であるし十分酸素は薄い。ここでも高山病にかかる人間はかかる。 ポプランが心配するほどハードじゃないはずだとアッテンボローは思う。 老人や女性信者も多いのが地球教らしいし、それなら十分体力的にいけると彼女は思った。 まず危ないことはないと女性提督は亭主に言う。 「なんならオリビエはナム・ツォ湖で過ごしなよ。ゆっくり。私はいってくるよ。」 「あ、ひどい。俺お前が心配なのに。ダーリン・ダスティ。」 ポプランは一度アッテンボローと体が入れ替わっているので彼女の体が実は頼りないものだと 自分の感覚で知っている。ゆえに彼女が心配なのである。 まあ度を越しているといえば越している。 「心配してくれるのはうれしいけれど過剰な心配は不要だよ。オリビエ。」 アッテンボローには累々とジャーナリストである父親の血も流れている。 興味があることには彼女は首を突っ込みたい。 あぶないことはしないからとアッテンボローははたで見て根気よく亭主であるオリビエ・ポプランを 数日かけて懐柔してやっと「もう。ダーリンには逆らえない。」と白旗を揚げさせた。 そのかわり絶対危険だと思うことはしないことを逆に今度は亭主からこんこんと説得され アッテンボローはむやみやたらに好奇心に任せて見聞しないことを約束させられた。 「どこへいくにも俺のそばから離れたらだめだぞ。」 「うん。わかった。」 もう、本当にわかってるのかなあとポプランは唇を尖らせる。 アッテンボローは時々無茶をする。 それもポプランが過保護にならざるを得ない理由である。 とにもかくにもオリビエ・ポプランは自分の妻になったアッテンボローに傷ひとつつけさせたくないわけだ。 あんな過保護な亭主がいてアッテンボローはよく艦隊を指揮できたなとみな思う。 危ないことは特に感じられないとユリアンも思うけれど地球教がやや不気味であることは 青年も否めない。救国軍事会議のクーデターの折、ヨブ・トリューニヒトを地下組織にかくまったのは 地球教徒であった。デグスビィという地球教の男のいまわの言葉も忘れられない。 オリビエ・ポプランの危機察知能力が優れているという見方もある。 女性のアッテンボローが確実に無事にすむか断言できるかといわれればできない。 マリネスクやウィロックは地球教徒自体はおとなしい集団だと評するがそれは旅客としての ことで地球教本部に何があるかまでは疑問である。 「でもね。そう心配ばかりしていてはどこにもいけないだろう。おとなしく随行するだけでもいいから ここまできたら総本山とやらは見ておきたい。」 女性提督も地球教の存在とトリューニヒトの関係が気になっていたし、あらゆる局面で取り上げられる この組織の内部を垣間見たいという気持ちがある。 「うちのかみさんはこういうことになると、絶対おとなしくないもんな。」 ポプランはアッテンボローの頭を撫で回しつついう。 「とにかく俺のそばから離れないことだ。ユリアンやコーネフなんぞ心配する気も起こらないが ワイフとなれば話が別だからな。」 奥さん思いですよねとユリアンはさも感心したふうに言う。 アッテンボローがいなければポプランは生きていく甲斐がないという。 「あのな。ユリアン。お前も一人の女を抱えてみればその重責ってものがわかる。彼女は宇宙に 一人しかいない。ほかの女で交換できる程度の浮ついた気持ちで俺は結婚してないからな。 お前も本当に女にほれたらわかる。」 激しい恋のしかただなと青年は思う。ユリアン・ミンツの個性とオリビエ・ポプランの個性がそもそも 違うので青年ははたして一人の女性と恋をして、将来結婚してもそこまである意味執着できるのか まだ16歳の彼ではわからなかった。 「オリビエは危険を感知する能力があるのかも。何かあるかもな。地球。」 当のアッテンボローはうきうきと青年の耳元でうれしそうにささやいた。 ・・・・・・彼女は危険の中にいることが嫌いではない。 「ポプラン中佐が心配なさるのもわかる気がします。・・・・・・・危ないことはしないでくださいね。 アッテンボロー提督。」 了解了解とそばかすの極上の笑顔で女性提督はいう。 俺が心配性になるのもわかるだろとポプランはアッテンボローを抱き寄せて接吻けた。 「おれの奥さんは色事以外怖いものがないんだから。」 危険が怖くて提督なんかやってられないものとポプランの腕の中にいてもアッテンボローは思う。 あまり調子に乗ると本気でポプランがごねるので地球教本部行きさえお許しがでればもう 余計なことは言わないダスティ・A・ポプラン夫人。 彼女は参謀を務めることもできる頭脳派であるので船や兵士の操縦も巧みであり亭主の扱いも なかなか巧みであった。 ワルター・フォン・シェーンコップはそのころ女の家にいた。 旧知の女医をヤン家に送り、ヤン・ウェンリーが陥れられることがあればすぐにでも薔薇の騎士連隊 およそ1000人を動かす準備もしていた。 高等弁務官ヘルムート・レンネンカンプがヤンという人物の考えを理解することは おおよそ不可能であった。 戦場で一時的に勝利したとしても「神々の黄昏作戦」のときヤンは最終的に狙いはラインハルト・ フォン・ローエングラムであった。ゆえに無傷の艦隊をできるだけ維持するためにシュタインメッツの 艦隊をブラック・ホールを利用して片付けると来援に来たレンネンカンプの艦隊をヤンはあえて 敵の心理を見抜いて逃走したのである。 ライガール星系に悠々と。 レンネンカンプはイゼルローン要塞攻略戦でアッテンボローにこっぴどく艦隊を奇計にかけられ 2000もの戦艦を失っていたので、シュタインメッツの来援に向かったもののヤンに心理を読まれて みすみす取り逃がしている。 一提督であるレンネンカンプは一時の勝利を重んじた。 しかし自由惑星同盟の命運を担っていたヤンはきたるべき最終決戦、ラインハルトとの戦いに備えて 無駄な戦闘を回避した、いわば「作戦」があった。 それをいまだ高等弁務官は理解できない。 理解しようともしない。 ヤンを「勝ちながら逃げる男」と評価を下していた。 それならば。 新居で美しい妻と歓談して暮らし本を読み、ときおり出す当てのない歴史著作をしたためている ヤン・ウェンリーの日常は擬態にしか見えなかった。ヤンとしては安寧に妻と過ごす日々が貴重で あったがミスター・レンネンは軍務を重んじる気質ゆえに、安寧に暮らすことを「元帥」ともなった男が 甘んじるとは到底考えなかった。 ヤンに言わせれば「はなはだ迷惑だな。」と頭をかくしかない。 しかしながらヤンは確かにメルカッツを司令官にして軍備を確保しているのは事実。 高等弁務官の考えはある意味正鵠を得ていた。 シェーンコップは高等弁務官の出方や同盟政府の崩壊寸前ぶりを見抜いていたので メルカッツ生存説が流布すると自分の頼りない上官が近日どちらかの手に落ちるかは 目に見えていた。 銀河帝国のレンネンカンプにとらわれるか、同盟政府にとらわれるか。 その上レサヴィク星系でメルカッツ独立艦隊が戦艦を奪取すればヤン・ウェンリーの生活 ・・・・・・ごく普通の一市民としての生活はもろく崩れると彼は見ていた。 「ヤンが出かけるときには「超小型短波装置」を彼の服につけるように厳重に言っておいたけれど。 何かつけたしたほうがいいのかしら。」 ヤン家でさんざん結婚式のディスクをみせられ「花嫁自慢」とのろけを聞かされて帰ってきた ミキ・M・マクレインは自分の家のリビングで悠然と生活しているワルター・フォン・シェーンコップに 声をかけた。 なかなかいい忠告をしてきたと中将は女医をほめた。 女医は夕食を作る準備をしながらシェーンコップに話した。 ヤン家も帝国軍の監視が始終ついており彼自身も軍の動きを知るためにキャゼルヌと 話をしたいのだがどうしたものか思案していたらしい。 「なにせ手紙も電話も全部帝国に筒抜けだろう。同盟政府だって多分私の事情を知りたい だろうしね。こうなるとどう軍に残ったキャゼルヌからどう情報を集めてその話し合いの機会を 得るか。問題だったんだ。でもね。」 そこでヤンのフレデリカ自慢が始まった。 「フレデリカはやはり賢くてね。マダム・キャゼルヌに料理を習うという「大義名分」を思い ついたんだ。いっておくが私の妻は料理が下手じゃない。まだ不慣れなんだ。でもそれで キャゼルヌの家に行くいい口実になるだろう。まあどのみちミスター・レンネンには胡散 臭がられるけれど同盟軍の動きはこれでキャゼルヌから得ることもできるからやっぱり 私の妻は明敏なんだ。」 しかもうきうきした口調で「フレデリカはその上美人だ。」とも言っていたと女医は付け加えた。 「・・・・・・やれやれ。当人はいたってのんきなんだな。うちの元帥閣下は麗しい奥方を 得て実に喜びに満ちた日々を送っていると見える。こちらは軍備を整え情報を集めて、 忙しくしているのに。」 ソファでよこになりブランデーをあおっている男がそう忙しくしているように女医には見えない。 「いろいろとおれなりに策を練っている。うちの司令官閣下は4万隻の戦艦に囲まれようが 苦にならぬようだが、はてさて自分の生命の存続に関してはあまりに無頓着だ。 ブルームハルトが薔薇の騎士連隊連隊長代理をしている。薔薇の騎士連隊はいま1000人 ほどいるがもとは帝国の師弟。同盟政府にどう帝国に売られるのか戦々恐々としている。 ・・・・・・間違いなくわが英雄殿に味方をする準備を進めている。何をするにせよヤン・ウェンリーを 宇宙に戻すときには軍と対峙するわけだ。ならこちらも軍備がいる。それなりにな。」 どちらの軍と対峙することになるやらと戦闘指揮官であるグレイッシュブラウンの眸と髪の持ち主は グラスを見つめて独特のアイロニーを含んだ声で言う。 「あなたが動くとき、もう戦闘体制が整っているという仕組みなのね。」 女医は物資がないこの星でも男が十分満足する食事を整えた。 Xデーは見えているんだがなとシェーンコップはつぶやいた。女医は特に返事もせず僚友と自分の 食卓を整えていた。 「7月16日にレサヴィク星系で同盟軍空母、戦艦をすべて解体することになっている。1000隻以上の 軍艦をみすみすつぶされては困る。うちの司令官はそれをある人物に「奪取」するようにユリアン坊やに ことづけている。・・・・・・強奪集団の中心者が誰かとうわさでも流れればまず帝国弁務官も見逃しはしない であろうし・・・・・・ガラスの靴よりも壊れやすい同盟政府がどう動くか。16日以降の情報が重要になる ・・・・・・。」 「ヤンを陥れる密告や流言が政府や帝国の高等弁務官に飛びそうね。」 体は小さいが女医は食事をよく食べる。新陳代謝が活発なのである。そして男はそのテーブルマナーと 見事な食欲を目で愉しむ。 ああ。確実にそうなるだろうなとシェーンコップはミキに言った。 「現在でさえもメルカッツ提督生存説が流布している。そうなれば強奪の中心者が メルカッツ提督で黒幕がヤン・ウェンリーであると祭り上げるにはいい機会だろう。 国民的英雄でもうちの司令官殿は同盟政府はいとわしく思っている。結局内政干渉を 恐れて・・・・・・現議長のジョアン・レベロはおそまつな蠢動をはじめるだろうよ。 ・・・・・・「反和平活動防止法」とやらが同盟憲章にある。このあたりを罪状にして・・・・・・。」 逮捕、拘禁の恐れがある。 自由の国だから裁判もせず死刑にすることはないとでもヤンは考えているかもしれないが シェーンコップはさらに悪い事態を考えていた。 情報部の人間、バグダッシュを動かしてシェーンコップは刻々と変わる情報を女医の家で収集 していた。 「アッテンボローがいないから船の手配から帝国高等弁務官、と我らが議長のご招待をどうやら おれが手配せねばならない。どれか手伝う気はないか。ミキ。」 まったくないわよとグラスになみなみと赤ワインを注いだ。 「帝国としては内政干渉をして自由惑星同盟を完全支配したい。「完全なる統治」と平和的に 言い直してもよい。しかしもちろん同盟政府はつけいる隙を与えたくない。けれどヤン・ウェンリーが いる限り弱みは常にわが愛すべき同盟政府には抱えなければならない。・・・・・・となるとうちの 頼りない司令官をどうにか帝国の干渉なしに消したいよな。」 でもそれこそが銀河帝国の思う壺かもしれないとシェーンコップはつぶやいた。 そして女医の出した料理に口をつけうまいなと一言付け加えた。 ミキはそれはどうもとにっこりと微笑んでシェーンコップの話を聞いていた。 「銀河帝国は事実上の占領ではなく名目もともなった同盟の統治をしたいでしょうね。」 そういうことだ。 「しかし往生際が悪い愛するわれらが政府首脳どもはヤン・ウェンリーをメルカッツ提督に軍備を 与えた風聞や流言で処罰したい。風聞自体は実は事実だが問題は「噂話程度」で帝国の干渉が 入らぬうちに政府の安泰を守るために処罰したいってところがまずい・・・・・・。だがな。 ヤン・ウェンリーを今処罰して自由惑星同盟の反帝国の気風が黙っていると思うか。・・・・・・俺は 思うがヤン・ウェンリーの処罰は銀河帝国の知恵が多少回る男であれば銀河帝国の未来の禍根となる ヤン・ウェンリーそのものとと反帝国主義者を一網打尽にできるよい機会だろう。帝国はそれを狙って いると考えるのはいささかうがっていると思うか。」 いったんブランデーのグラスをワインに変えてシェーンコップは僚友の女医に言う。 「そうね。あながち悪くない線だと思うけど。何事も最悪の場合を考えるのはいいことだもの。」 ミキの言葉にシェーンコップはまず満足した。 「ヤンはいいいけにえの羊ね。」 そうさと男は言う。 「帝国がうちの司令官閣下を処断せよとの旨を発令すればあのバーラトの和約がある以上従わざるを 得ない。戦艦強奪の首謀者がヤン・ウェンリーであるといううわささえ流れれば。高等弁務官の ヘルムート・レンネンカンプはヤン・ウェンリーの処断を政府に求める。従わなければ同盟政府は 帝国の内政干渉をどっぷりと賜る。レベロ議長あたりは慌てふためくだろうよ。悪い時代に最高評議会 議長になったものだ。ジョアン・レベロ氏は。同情するほど俺はやさしくはないからこの際は 無視する。」 赤ワインを飲み干すと女医は彼のグラスにワインを注いだ。 二人とも酒で乱れることがない。 同盟政府では。 ともかくバーラトの和約をたてにとって帝国に完全に入り込まれたくない・・・・・・。 「おそらくシナリオを組み立てることになるだろうな。」 稚拙な三文芝居並みのシナリオをだ。 「ヤン・ウェンリーという国家の英雄すら消そうという腹積もりだからまず俺などは「陳腐な喜劇」の 配役が決まっているだろう。愛する同盟政府の稚拙なシナリオではもと幕僚であった俺たちは仮に 反帝国過激派あたりの役どころが与えられているはずだ。」 過激派ゆえに同盟政府の苦労など知らぬと英雄であるヤン・ウェンリーを奉るお祭り男が俺の配役だと シェーンコップは怜悧な口元をくいと上げて不敵な笑みを漏らした。 「でもヤンは民主政治を重んじているから政府転覆など認めない。反帝国過激派の思惑通りには 動いてくれない。だから・・・・・・あなたたちは逆上してヤンを・・・・・・背信者呼ばわりして抹殺。 同盟政府は表向きヤン退役元帥を救出しようとしたけれど間に合わなかった・・・・・・ってシナリオなの かしら。」 頭のいい女は嫌いじゃないぞとシェーンコップはいい、下半身に責任を取らない男は嫌いだとミキは言った。 「その反帝国過激派の中には民間人である私も入っているのね。」 ため息をついた女医。 俺も在野の人間だと戦闘指揮官殿は言う。 ともかく。 「この診療所は新人の医者にでも任せてお前は荷物をまとめておけ。俺には医者だけでなく そういう打てば響く、ついでに見目美しい女が必要なんだ。下半身ではなくこちらでな。」 とシェーンコップは自らの頭を指で指した。 そう遠い日じゃないからなとシェーンコップはいい、強引な僚友にミキはひとつため息をついて。 「一度あなたとは決着をつけるときがきそうね。」ときれいに食べ終わった食器類を片付け始めた。 女医の小さな後姿を見つめつつシェーンコップはまたブランデーのボトルをてにして思案に暮れた。 「陳腐な喜劇俳優」としていかように派手に演じてやれば効果的であろうかと稚拙なシナリオに 劇的なる赤を入れる頭脳作業に戻った。 by りょう 多分アッテンボローと本来話すことを話しているだけなんですけれど。 いろいろと脱字がありすみませんでした。 |