星がみちる宙(そら)で・1



ポリスーン星系にたどり着きダヤン・ハーン基地に60隻のメルカッツ提督率いる小さな船団がたどり

着いたのは宇宙歴799年5月10日。

中破して放置された浮遊補給基地ダヤン・ハーンには幸い物資が手付かずで残っていた。



メルカッツ提督とアッテンボローでデータを照合し相談し残存物資の管理をベルンハルト・フォン・

シュナイダー中佐とラオ大佐の二人に任せた。そこから細分化する係りをそれぞれ人間を

出し任せることにした。最終的には食糧、燃料、武器弾薬などさまざまにわたる総合管理は

アッテンボローが統括する。

60隻の船の統括はメルカッツ提督に一任した。



「我らの司令官はウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ元帥である。これはヤン司令官の

人事である。司令部に意義の申し立てのあるものは私に言いにきなさい。」女性提督に誰も

反感を持っていなかったうえ、ヤンが出した人事であったから1万1820名の兵士たちは

アッテンボローの一言で納得した。



「20基の砲塔は修繕しますか。」

と女性提督は老練なる客員提督に伺いを立てる。いやその必要はないでしょうとメルカッツは言う。



「ここを拠点として戦うわけではないからそれより船の状態を維持すること、基地内での規律を

つくり違背者をださぬことが大事でしょう。60隻と1万余の兵士の集団に亀裂は避けたい。」

まさにその通りだと彼女は思い同盟軍軍規をもとに秩序と統制をはかることにした。



「こと人事に関することはいくら私がヤン提督から司令官として命を受けたとは言えど、兵士たちは

同胞のあなたから差配されたいでょうからその点よろしく頼みます。」

メルカッツはどこまでも人知に長けていた。



とはいえど「不正規軍中の不正規軍」であるので厳しい規律は設けず兵士たちに十分な休息と

食糧を補償すれば大きな問題は起こらぬであろうとも言い、アッテンボローに

「あまり深く思いつめぬよう」といっている。



「要するに遊軍と考えて兵士の自由は大目に見ることですね。」

と女性提督が言うと客員提督は微笑んだ。



そう。自由に泳がせいざというときの英気を養わせることも上に立つものは考慮せねばならない。



放置されていた基地であり、そこかしこ使えぬ空間もあるけれど1万余の兵士を居住するに

十分なスペースが割り当てることができた。



イゼルローン要塞を出てからヤン艦隊はほぼ強行軍の連続だった。

そしてランテマリオ、バーミリオンと戦ったので船に乗っている時間が長くなりすぎた。

宇宙の浮遊基地とは言えど個人のスペースと個人のベッドはありがたいものである。



「地に足をつけたというわけじゃないが少しは落ち着くな。」とカスパー・リンツ大佐は言う。

「おれは宇宙のほうが落ち着くな。」とポプランはいい、「それはお前がふわふわして

いるからだ。」とコーネフが押えた。

前線の補給基地ゆえに居住する部屋は一人部屋がほとんど。

司令官室にはメルカッツにおさまってもらいアッテンボローとポプランはひとつの部屋を

二人で使うことにした。



「本当にいつも一緒じゃないと気がすまないんですね。しょっちゅう顔をあわせていたら

飽きないですか。」などとラオはいう。



飽きたとでも言えば格好がつくのだろうがアッテンボローは「うーん。仕事にさわりがなければ

寝るときは一緒でいいよ。」と執務室以外の余分な部屋は断っている。



あまり部屋を持たされると掃除に困るというのもある。

ポプランはある限りのスペースをちらかすし、追いかけて片付けるアッテンボローからすると

そういう理由でもあまり余分なスペースは要らないと思っていた。ポプランのほうはそんな

彼女の気持ちはしらないで「やっぱりダーリンは狭いほうがすきなんだ。甘えん坊だなあ。

本当に愛い(うい)やつだ。」

と二人でいることにわずかにでも疑義はない。むしろ大いに喜んでいる。

無論アッテンボローはポプランと顔をあわせていて飽きることはないから広くても狭くても

いいのだけれど日常の掃除の問題を彼女はひそかに考えていた。



知らぬは亭主ばかりなり。男はロマンチストで女はリアリストなのだ。

この二人の間でも。



一応の規律では執務時間は0900時から1700時まで。残業は基本しないこと。

残業手当のふち代がない。



「遊軍といってもこんな基地では娯楽くらいないと何か起こっちゃいそうだ。いいアイディアは

ないかな。兵士たちのフラストレーションがたまらぬようにガス抜きが必要になるかもしれない

だろう。」アッテンボローは執務中ラオとシュナイダーに言った。

たしかにオリビエ・ポプランのように妻帯してきたものは1パーセントにも満たない。

ちなみにポプランは執務時間中もアッテンボローからまず離れない。




「帝国での娯楽というのはどのようなものがあったのですか。シュナイダー中佐。」と

アッテンボローは尋ねた。

ふむとかんがえて若き帝国の「ハンサムな士官さん」は答える。



「戦場で娯楽といえるものは飲酒程度ですね。士官クラブでダーツやビリヤードを愉しむか

カードゲーム程度です。」

それを隣で聞いていたポプランは純粋にいう。

「帝国軍では女性との恋愛は戦場ではないわけですか。」

はいとシュナイダーは頷いた。「そもそも帝国軍では女性士官はごく少数です。中佐のように

軍務で美しい女性を花嫁に迎えるような恵まれた軍人はいませんね。」と苦笑した。



おれはきっと帝国に亡命できないなとポプランはいった。そうだろうなとラオは納得した。



どれくらいの期間この1万余の人間の食い扶持を稼ぎ、心の閉塞感を払拭できるものであろうかと

女性提督は考える。

データ上の物資を見れば穏当に運べば5年兵士を食べさせられるだけの貯蔵があった。

しかし蓄積される鬱憤はどう晴らすのが適切なのか今後の課題だなとアッテンボローには思われた。



「同盟の連中がみんなシュナイダー中佐のように品位を持っていれば問題はありませんが

うちの気風は自由だった分、なにか息抜きを与える必要があるのです。」

アッテンボローはいった。

シュナイダーから見れば自由惑星同盟の、しかもヤン艦隊に属する人物たちの生活は開放感に

溢れ閉塞とは無縁に思われたが・・・・・・。



「自由に慣れているからこそしつけが必要なこともあります。ともかく下士官への肉体的暴力、略奪、

婦女子への性的暴力には厳罰を下すという旨は出そう。何なら実際に私が撃ち殺してもいい。

こういうのは公開処刑が一番だ。見せしめになる。」

と物騒に女性提督が言うと



「提督には無理ですよ。」と夫と副官が言う。



厳罰の対象の規律をもうけるのはよいにしても二人ともアッテンボローの稚拙なる射撃能力を

いやと言うほど知っているので「そういう穢い仕事は小官がします。」とポプランが申告した。

立案書をアッテンボローが作成しシュナイダーを通してメルカッツ司令官に渡した。



話の成り行きはシュナイダーがかいつまんで説明したので客員提督は納得し案は通った。

「たしかに女性提督の言う通りで自由になれているからこそより多くの自由を欲するだろうな。

この艦隊の兵士たちは。5年という長い時間たしかに飢えることはないにせよ充足感がなければ人間

とは疲弊する。女性提督はよく人の心の機微をよく知っている。」



「けれど兵士たるもの耐えることはできないものでしょうか。我々は将来、ヤン艦隊再編成の

中核になる部隊です。」

だが。

「それは机上の空論だ。シュナイダー。目にはっきりと見える目的があるならば5年は長くはない。

しかし当てのない5年はひとをすり減らす。・・・・・・まあ全く動きのない5年ではなかろう。60隻の

船では帝国と争うどころか一掃されるのがおちだ。おそらくはヤン提督は何かお考えがあるので

あろう。」



このときメルカッツにはひとつの予測図があった。

ヤン・ウェンリーともあろう人物が和約後の戦艦解体をみすみす見逃すはずがないであろうと。

どの宙域で行なわれるかわからぬし時期も未明ではあるが帝国は必ず、同盟軍の軍備解体を求め

実行させるであろう。そのポイントと日時さえわかれば軍備をこちらは増やすことも可能である。

客員提督は数奇なる自分の人生とまた数奇なるヤンとの出会いを不思議に思わざるを得ない。

いっときは敵として対峙したもの同士であるがメルカッツの予測は予測ではなくほぼ確信であった。



それだけ叛乱軍と称してきた国のもと元帥に信頼が置けることも不思議であった・・・・・・。






いまはね。



「みなまだ活力があるよ。この間まで戦争をして負けたと思ったら敗者復活の道ができた。

2年はこの空気でもつ。楽観的に考えて。けれどここはミクロな世界だ。

ローエングラム王朝・・・・・・・ってのが開かれたとして。もう開かれたかな。わからないけどロ王朝が

始まったとしてあのローエングラムのかわいげのない坊やが5年程度で揺らぐようなやわな体系の

政治をしくだろうかと考えると・・・・・・付け入る隙くらいはできても帝国そのものを覆すような

決定打はないな。3年も1万人以上の単身の男たちを軍の規律程度で一枚岩にしておくのは

難しいよ。」



アッテンボローはそう狭くもないベッドで枕を抱えて隣でうんうんと聞いているポプランに呟いた。



「たしかにな。絶対的に女が少ないってのは痛すぎる。食い扶持と睡眠が保障されればあとは

性欲だもんな。おれ本当お前の護衛毎日しようっと。危なくていけない。

・・・・・・それで枕だいてて楽しいのかな。奥さん。」



ポプランはいう。アッテンボローは続けた。



「考えたくはないけれど規律と性欲は別次元だもんな。まあいつまでもこの形態のまますすむ

わけじゃないわけだけどさ。帝国の警戒が緩んだときヤン先輩が何か手を打つとは思う。

何かわからないけど60隻の船じゃ何もできないものね・・・・・・。」

「うんうん。で、枕抱っこしてて枕のほうがいいの。おれより。」



そういわれてアッテンボローは自分がなぜ枕など抱きかかえていたのかわからなくなった。



「ううん。オリビエのほうがいい・・・・・・。」

ん。おいでと抱き締められる。制服の上からではわからぬ彼のきれいな筋肉にいまだにどきどき

するアッテンボローである。



「・・・・・・女性士官も何人かいるはずなんだ。もちろん少ないけど。リストでは56名ほどいた。」

「・・・・・・1万の男と56名の女?うち一人はお前だから差し引いて55名の女。少ないなあ。」

ポプランはアッテンボローの額にキスをしつつあきれていた。



「普通の女性ならハイネセンへ帰っているって。大体は兵士の妻で女性も軍人というケースさ。

テレサのような独身の妙齢の女性は本当に貴重なんだよ。彼女にも護衛が必要だな。

・・・・・・コーネフは強いよね。多分。オリビエくらい強い?」



腕の中でアッテンボローが宙色の眸でポプランにかわいらしく尋ねる。



「あいつと喧嘩すると生産的じゃないから殴り合いはしたことない。」あまりに彼女がかわいいので

ポプランは唇を重ねた。

「・・・・・・じゃあ。互角ならテレサにも護衛をつけよう。イワン・コーネフ中佐にしとこう。」

唇が解放されてアッテンボローは呟いた。



「にしても54人の女。そのほとんどが亭主もちか。」

んっとねとアッテンボローはベッドサイドに置いた端末に指を走らせた。

「子供もいるよ。9歳児が一人。4歳児、7歳児が一人ずつ。こういう世帯はなんでハイネセンへ

帰らなかったんだろう。事情があったのかな。やっぱり属領になった祖国に嫌気が差したのかな。

親が。」

「借金とか。」



ポプランはアッテンボローの肩に顔を乗せていう。

「ああ。借金ね。死ねば帳消しだもんな。何も高邁な理想や理念があってっていうわけでもないかも

しれない・・・・・・9人独身女性だな。たしかにすごい競争率になりそうだ。ねえねえ。15歳の

少女は男の恋の争奪の対象になるかな。15歳。カーテローゼ・フォン・クロイツェル伍長。

えらい若い軍人だけど・・・・・・。」



アッテンボローは恋の達人である夫に尋ねる。

「15歳は俺の守備範囲外だ。子供じゃないか。」と肩に顔を乗せているのをいいことに

彼女の頬にキスをする。

「証明写真でこれだけ美人に写ってるってことは実物もっと美人かもな。この

カーテローゼ・フォン・クロイツェルって女の子。帝国風の名前だ。長い名前だなあ。舌をかみそうだ。」



美人というのでどれどれとポプランは端末を見せてもらう。

「うむ。まあ美形だな。おそらく写真写りは悪いな。けどかなりの美少女だろう。」でもおれは

お前が一番好きだとポプランは重要な言葉を忘れない。そしてキスも忘れない。



「・・・・・・いいなあ。赤毛。お前と似た髪の色だね。・・・・・・お前の娘?」

アッテンボローは冗談で言ったが・・・・・・ポプランは考えてみる。

「おれが12のときの子供ってのはありえない。おれfirsttimeは17歳だもん。」

「うん。前に騒動があったから言っただけ。赤めの金褐色で美人。こんな美人に生まれ

たかったな。・・・・・・お友達になれないかなあ。」



でた。



アッテンボロー提督のかわいい女の子好きである。

彼女は自分が没個性的美人でないことを重々承知していたので典型的な美女に弱い。

フレデリカ・グリーンヒル然りテレサ・フォン・ビッターハウゼン然り。



「・・・・・・15の女の子と話が合うのかな。ダーリン・ダスティ。」

とポプランはやさしく妻の髪を撫でる。

「・・・・・・14歳も年が離れちゃ無理か。ユリアンとはなじめたけどあの子はある意味特殊

だからね。」



特殊だなとポプランも賛成する。

「16歳の青二才が帝国の駆逐艦を奪取して戦線に合流するなんぞ聞いたことないぜ。

ユリアンは昔陶器人形のようにかわいかったよな。」



二人は顔を見合わせてぷっと吹き出した。



14歳でイゼルローン要塞に来たユリアンはヤンの後ろをちょこちょこ歩き「迷子になるなよ。」と

子ども扱いされていた。そしてげんに子供だった。アッテンボローは12歳のユリアンを知っているが

もちろんもっと幼かった。そのユリアンは今、大人の階段を上ろうとしている途上にいた。



「年のころならユリアンにぴったりだね。美男美女。つりあいも悪くない。」

とアッテンボローはいう。

そうだな。「キャゼルヌのだんなは令嬢のシャルロット・フィリスをユリアンと娶わせるつもりらしいが

どこまで本気だかわからん話だしな。この子のほうがユリアンにいいかもしれない。」



・・・・・・でもこれだけの美少女がなんでここにいるわけ。とポプランは呟いた。

「この子は係累がない。親もいないのにこの集団にいるっておかしくないか。あまりに酔狂すぎるぜ。

なんか事情がありありなんだろうなあ。」



ポプランは不思議がる。そういわれるとアッテンボローも気にかかる。

いずれにしても独身女性の9人とはあっておいたほうがいい。女性同士連携はとっておく必要は

あるし重要だ。アッテンボローは決めた。



「明日はこの子を探そう。カーテローゼ・フォン・クロイツェル。身上調査も兼ねて面談しよう。」



・・・・・・それはただ単に女のこの友達がほしいからではとポプランは思うけれど。

かわいい男の子に夢中になるよりは全然いいので同意した。



「任務はもともとヤン艦隊では砲撃担当か。いまは廃棄物処理課事務・・・・・・極端な人事だな。

上官に嫌われたかな。彼女も。」

アッテンボローは士官学校卒業だから少尉で初任務を迎えるが上官に嫌われて飛ばされる

女性士官の多いことといったら・・・・・・それを思い浮かべてポプランにいった。

「軍って言うのは男社会だからね。穢いんだよ。」唇を尖らせるとまたキスをされた。



ねえねえ。オリビエ。



「こんなかわいい女の子が上官にいじめられてたらかわいそうだから、明日絶対この子を

探そうね。オリビエ。」

とアッテンボローはいう。



そんなお前が一番かわいいぞとポプランは端末を取り上げて彼女をやさしく押し倒した。



by りょう




カリン登場です。わーい。



LadyAdmiral