恋と戦では何でも許される・1
「神々の黄昏」作戦、ラインハルト・フォン・ローエングラム公(当時)が考案した華麗なる名前と 華麗なる作戦は宇宙歴798年の11月から開始された。最終の終了は翌年5月25日バーラトの 和約となる。これは書類上の終了である。 この作戦の間に行なわれた会戦は「第9次イゼルローン攻防戦」、「フェザーン侵攻作戦」、 「ランテマリオ星域会戦」、「ライガール・トリプラ両星域の会戦」、「タッシリ星域の会戦」、 「バーミリオン星域会戦」、「ハイネセン制圧作戦」。 宇宙歴798年11月にイゼルローン要塞にオスカー・フォン・ロイエンタール上級大将が司令官として 軍を率いた戦いは「第9次イゼルローン攻防戦」ということになる。 先手を取られたヤンはさらに艦隊を出したことで名将ロイエンタールの策にはまった。 これを有利に展開するにはと考えていると要塞防御指揮官が声をかけてきた。 二人で打ち合わせをしてフィッシャー、アッテンボローの艦隊をなんとか要塞に下げないといけない。 イゼルローン要塞から一隻の船が出てきた。「ヒューベリオン」である。 これをロイエンタールは喜んだ。ヤン・ウェンリーをうてば自由惑星同盟との戦況は大きく変わる。 それに気をとられているとワルター・フォン・シェーンコップ少将率いる「薔薇の騎士連隊」が ロイエンタール旗艦「トリスタン」に強襲揚陸艦をもちいて取り付き、喜劇ともいえる白兵戦が 展開された。 シェーンコップは装甲服を装着する前のロイエンタールを見て取ると一撃のもとトマホークの 餌食に・・・・・・できなかった。ロイエンタールという男の白兵能力はまれに見るものであり 確実に死者になるはずであったがシェーンコップの一撃をすんででかわした。 シェーンコップほどの白兵の勇士もいなければ、ロイエンタールの反射神経と運動能力も 類を見ない。ロイエンタールはブラスターで確実にシェーンコップの頭を打ち抜いた確信があったが 彼はトマホークで的確な射撃から自分を守った。拮抗した肉薄戦は帝国軍装甲兵士たちの 乱入で終焉した。カスパー・リンツ中佐の声をしおに「薔薇の騎士連隊」は撤収をした・・・・・・。 これをロイエンタールはとんだ茶番だと、自分を笑った。 二流のトリックであったが超一流の用兵家を陥れるには丁度よい作戦をヤンたちは実行した。 「アッテンボロー。いまの混乱に乗じて敵を削れるかい。」と黒髪の司令官殿は年少の 女性提督に尋ねた。 「いえ。無理ですね。付け入る隙はないです。」彼女はしっかりデータを読み相手の布陣を 分析したがやはり大きな乱れもなく撤退する機会しか自分たちは与えられていないことを 悟った。 ヤンでさえ苦汁を強いられている相手だ。自分では兵力保持が関の山だと女性提督は 思った。彼女もエドウィン・フィッシャーも要塞内に引き下がった。ヤン艦隊ではフィッシャーの 艦隊運動とアッテンボローの戦闘指揮が頼りであった。 「自分のワイフにも会えないとは不自由な職場だぜ。」 全艦隊で出撃する際には「トリグラフ」が旗艦になるのであるがオリビエ・ポプラン第一飛行隊長 率いる6個中隊は要塞内で待機している。パイロットの待機時間は長い。 「お前さんだけがじれているわけでもなんだから愚痴るな。ポプラン。」 第二飛行隊長のイワン・コーネフ少佐は言う。 「じれてるんじゃない。ワイフに会いたいだけだ。」とポプランは口を尖らせる。 「戦闘中によくまあそんなふざけたことがいえるよな。お前ってやつは。」 「昔からことわざにあるだろ。「恋と戦では何でも許される」ってな。おれの本職は恋愛 なの。くそ真面目に戦争なんぞやってられっか。あほらしい。」 敵の艦隊の動きは大きなものはない。ポプランたち空戦隊が出撃しても、もてあそばれたような 戦争ごっこの繰り返しである。コーネフも敵の目的が要塞攻略にあるのか疑問である。 安全な戦いではある。しかしポプランには気に入らないのだ。 こう着状態が続けば彼は自分の妻であるダスティ・アッテンボロー・ポプランに会うことは ままならない。 おさえ役を買って出ているけれどイワン・コーネフも事実じれている。 要塞の砲台は200台破壊された。 ここでロイエンタール艦隊は戦陣をさげた。しかしヤンは看破している。 陽動としてそこそこイゼルローン要塞の浮遊砲台を破壊したのだからさがったふりをして 第二幕が展開されることを。 12月9日。まだまだ「神々の黄昏」作戦は続く。第一陣のミッターマイヤー艦隊が出陣した。 「第9次イゼルローン攻防戦」はさもロイエンタールは失敗したように演技する。 要塞攻略のための増援と称してフェザーンを武力進攻するべく帝国ラインハルト・フォン・ ローエングラム公はこまを配備した・・・・・・。 12月。 気がついたら女性提督は29歳になっていた。誕生日どころではなかった。アッテンボローの誕生日は 大体戦争が多い。要塞内の中央指令室と自分の家とを往復している生活ではあったけれど常に ロイエンタールの艦隊は要塞の前を封鎖している。・・・・・・気持ち悪いなあと思うのである。 「相手の船を200ほどこっちも破壊したけど。ロイエンタールは陽動でも手を抜いちゃくれなかったな。 多分あの御仁とは気があわない気がする。」 士官食堂でアッテンボロー提督は彼女の夫とフレデリカ・グリーンヒル大尉と、その上官とで 仲はよいがあまり軽くない空気で食事を取っていた。 「ロイエンタールという男性はかなりの美男子らしいよ。アッテンボロー。」 ヤンは相変らず少食で カキのグラタン にやっと手をつけただけであった。 他のものはくわえて若鶏のフリカッセにトマトサラダ。パンとスープを食べ、さらにポプラン少佐は 牛ヒレ肉ベーコン巻きペッパーソースとタリオリーニのジェノヴァ風をいただいている。 「顔がよくても漁色家と聞きます。女が近寄って情事のあと女を捨てるという趣味はまったく いけ好かないです。まだシェーンコップのほうがましですよ。」とアッテンボローがいうと 「ダーリン。一番は俺だよな。」と食事中チャーミングなウィンクをした。 「うん。美男子ではないけどね。お前が一番好き。」 バターロールをちぎりアッテンボローは口にして、夫ににっこりと極上の笑顔を見せた。 なんか余計な一言が混ざっているがおおむねポプランはよしとした。 「フェザーンのユリアンが気がかりですわね。」フレデリカが浮かぬ顔をしているのは ラインハルトのフェザーン制圧が時間の問題であるので青年を心配しているのである。 「ユリアンにはいろいろと前もって話はしている・・・・・・。ローエングラム公は武力で たしかにフェザーンを制圧するだろうけれど向かったのはウォルフガング・ミッターマイヤー 上級大将の艦隊だと聞く・・・・・・。理想と予想なんだがミッターマイヤーというひとと なりの風評は実に公明正大な人柄らしい。彼なら無血でフェザーンを落とせるのではないかと 思うんだ。であるならユリアンがすることは・・・・・・。」 ヤンがグラタンをフォークで混ぜているのを見ながらアッテンボローはいう。 「トンズラですね。」 うんと黒髪の司令官殿は頷きマカロニを口にした。 「その前に弁務官事務所のハイネセンのデータをコンピューターから消去してくれたら もっといいけど。・・・・・・いや、この際贅沢は言わないからうまくフェザーン商人を金で買って こっちに戻って来れればいいんだがと思っている。」 「ちゃんと金は持たせたんでしょうね。先輩。フェザーン人は占領されても商魂たくましいですよ。」 アッテンボローは尋ねた。 「50万ディナールじゃ足りなかったかな。100万渡せばよかったな・・・・・・。」 その金額にあとの三人は絶句した。 「いや、この間のポプランの子供登場で思ったんだよ。本国の超光速通信や船の便に影響が 出るなら民間船の一台買えなくとも借りるくらいは持たせないとねって。フェザーンに帝国が 進攻するのは眼に見えていたからね。・・・・・・いまから銀行には振り込んでも意味がないし。 50万でも多いと思ったんだけれど・・・・・・。だめだったかな。大尉。」 とヤンはフレデリカを見た。彼女は安堵したのかやさしい笑みを浮かべて言う。 「いいえ。ユリアンならうまく逃げおおせそうですわ。軍資金がそれだけあれば安心です。 マシュンゴ准尉もいますから大丈夫ですわね。」 子供に持たせる金額じゃないよなとポプランは思うけれどたしかにそれだけあればあの青年の才覚 ならば問題なくこの要塞に帰ってくるであろうと思った。 アッテンボローも同じように考えていた。 フレデリカの言葉に安心してヤンはなんとかグラタンを完食した。「ああ。よく食べた。」 などとヤンがいうのでアッテンボローは心配で尋ねるのである。 「朝と晩つくったもの、食べてますか。先輩。まさか残したものは生ごみいきじゃないでしょうね。」 とんでもないとヤンはいう。 「アッテンボローの食事は美味しいから全部食べてるよ。だから余計昼におなかがすかなくなった。 ちゃんと食器を返してるから見ればわかるだろう。食べ物を粗末にはできないよ。」 夜アッテンボローが作った食事をポプランがヤン家に持って行き、朝の食器を返してもらうわけである。 勿論洗っていない。食器くらい洗える人間に回りも酔狂でこまごまと世話など焼かない。 ヤンはそのくらい、ものぐさである。そしてさらにユリアンがいないことが彼にとっては、精神的に よいものではなかった。ユリアンの厳しい監視がないけれど酒の量も増えてない。むしろ アッテンボローの作る食事を本当にきちんと取っているので酒を飲む気も起こらない。 何をやってもうまくいかないなら酒を飲んで寝てしまえばいいのになと思うのであるが司令官だから そうもいかない。言葉を交わす・・・・・・。それもこちらがうてば響く相手との会話は迷う心や悩む 心を昇華できるときも多い。特にヤンはユリアンと話していると自分で整理しきれなかった部分を うまく組み立てることができたことが多かった。青年は利発だったしよくヤンを見ていた。 アッテンボローはポプランの耳をちょいと引っ張った。ごにょごにょと夫婦で内緒話をして。 ポプランが「うん。いいぜ。」とオッケーを出したので女性提督は言い出した。 「今晩、敵襲がなかったらヤン先輩の家で4人でご飯食べましょうよ。この4人。」 え、とかあとかいいながらもヤンは承諾してフレデリカも頷いた。 どうせダスティ・アッテンボロー・ポプラン夫人が三人分の夕食を彼女の家で作るのだ。 ひとりフレデリカの分が増えて、キッチンがヤン家になったところでアッテンボローは かまわなかったしそれがよい気がした。 たしかに警戒態勢中ではあったけれど食べなくては戦にならない。 四人は食べないといけない。 情報は思うようにははいらない。 帝国は出兵をしたであろうしその先陣は疾風ウォルフであるということまではわかった。 けれど、この要塞に情報が入るのは遅い。できるだけの準備は整えているヤンであるが 画期的に打つ策はないのでロイエンタール陣営に見張られながらその日は四人で 美味しく楽しい夕食をとった。 12月24日。フェザーンを無血占領したのは情報どおりウォルフガング・ミッターマイヤー 上級大将でありみごとな統制のもと制圧を果たした。この一報がイゼルローン要塞に入るのは 年が明ける前であった。 by りょう 結局ディナールって各国でレートが違うのでうちは1ディナール100円ということに。 ヤンがユリアンに渡した金額が50万ディナールですから日本円で5000万円。 掛け金10ディナールは千円。ヤンは半年で5000万円もらうんです。基本給。年給だと 1億円。ハイネセンは国力が衰えているのでこれ以上は無理じゃないでしょうか。予測。 |