日常と非日常のはざまで・2



ダスティ・アッテンボロー・ポプラン夫人は、夫の急な呼び出しにもかかわらず仕事を切り上げて半日

休むことにした。電話は要塞事務監執務室から音声通話でかかってきたものだし何か事情があるので

あろうと察したのである。ラオ中佐には自分の携帯の番号は記録させているから何か危急の用事があれば

そちらに連絡をよこしてほしいと言っておいた。



こうしてアッテンボロー提督は、ミセス・ポプランに戻るのである。



1200時。



彼女が部屋に帰るとパイロットスーツのままの夫オリビエ・ポプラン少佐とその足元にくっついている

ちいさな愛くるしい幼児が彼女を出迎えてくれた。



・・・・・・5歳か4歳か。坊やは全体的に華奢な体をしている。4歳ではないかもなと女性提督は考えた。

髪は夫と同じ色。眸も夫と同じ色。しっかりポプランの太ももをつかんで彼女をじいっと見つめていた。



「坊や。こんにちは。お名前はなんていうのかな。私はダスティというんだ。」

女性提督は坊やの背に合わせてかがんで可愛らしい顔した少年に話しかけた。

小さな少年は「ぼくはニコラ・ジーリンスキーです。おねえさんがパパのおくさんですか。」とおずおずと、

けれど明敏そうな表情で尋ねた。

「・・・・・・うん。そうなんだけどね。坊やのママはどこにいるのかな。パパに会いに来たのは

ニコラ坊やだけなのかな。」と女性提督は始めてユリアンにであったときのような笑みを浮かべ聞いた。

こんなかわいい子供の前で夫に詰問できない。

「パパのおくさん」の人懐っこい笑顔に安心したニコラ坊やははにかんだ様子で、女性提督に

笑顔を向けた。



「はい。ぼくだけです。ママはどっかにいっちゃったの。そのあいだママがパパのところにいきなさい

っていったの。」でもそのあとは少し表情に陰りが見えた。

「ぼく。ママとパパがさよならしたってしらなかったから、おねえさんのこともしらなかったの。

おねえさん、ぼくのこときらいですか。」

女性提督は夫の顔を見て苦笑した。

そして幼児の愛くるしい顔を見て言う。

「どうして嫌いになる理由があるの。坊や。嫌いにならないよ。」

と天使のような巻き毛を優しく撫でた。

「・・・・・・えっとパパのことしからないでください。」と少年はアッテンボローに言う。

「だってぼくはママのこどもでパパのこどもだから。ふつうはつまっていうひとは「かくしご」が

きらいだってキャゼルヌさんいってたよ。ぼくは「かくしご」なんでしょ。おねえさんはパパの

おくさんで「つま」なんでしょう。ぼくが「かくしご」だからきらいでしょ・・・・・・。」



これを聞くとポプランはニコラ少年を抱き上げた。



「ベイブ。お前は隠し子じゃないんだ。ママとパパはさよならをした。そのあとにお前が生まれたけれど

パパはほかにいろいろと好きな女の人がたくさんいたから、さよならしたママと全然話をしたことが

なかった。だからお前のことをしらなかっただけで、隠し子なんてものじゃないんだ。ママがお前を

俺の子供だというのなら間違いなく俺の子供だ。隠し子じゃない。パパの子供だ。何も心配するな。」



とやさしくはっきりといった。

そんな姿を見て女性提督はまたも苦笑した。



「キャゼルヌさんのいうことは気にしちゃだめだよ。ニコラ。おねえさんは君が嫌いじゃないよ。

ママが来るまでここにいていいよ。パパの側にいなさい。」

「でもおねえさんは、パパがきらいになっちゃいますか。」と天使は半分涙を浮かべていう。

「ならないよ。君のパパが嫌いだったら結婚していない。」

「ぼくのママのこと、きらいになっちゃいますか。」

「ううん。ならない。おいで。おねえさんに抱っこされるのはいやかい。」と女性提督は

幼児に手を差し伸べた。もじもじとしているのは照れているのであろう。

甥っ子たちのことを思い出すアッテンボローである。



「ほら。ニコラ。パパのおくさんのダスティ・アッテンボロー・ポプランさんだ。特別に抱っこ許可して

やろう。ご挨拶しておいで。」とちいさな少年を彼女の腕に抱かせた。

「パパ以外の男は俺のおくさんに抱っこさせないことにしているがお前は特別だ。役得だな。」と口笛を

吹いた。



「おねえさんはパパのことおこらないでいてくれますか。」

「うん。怒らないよ。怒る理由がないもの。」

「でもキャゼルヌさんは・・・・・・。」

「普通なら怒る奥さんは多いんだけどね。君のパパに関しては・・・・・・なんだか怒る気持ちが

なくなっちゃうよ。」

女性提督は腕の中で心配をしている子供には何にも罪の意識を持たせてはいけないと思っている。

このこには何の罪もない。



「ぼくのパパのことおこらないでいてくれますか。おねえさん。」

「うん。約束するよ。指切りしようか。」

ときれいな小指を出した。

「おねえさん、パパと同じことをする・・・・・・。」と小さな小指を絡めてやっと幼児は安心した模様

であった。



おなかがすいていないのかと女性提督は腕の中の幼児と亭主に聞いた。

「腹へった。」と亭主はいい、幼児は「・・・・・・ぼくもおなかがすきました。」といった。

「じゃあね。オムライスは好きかな。あれはすぐできるし。クリームシチューがあるけど嫌いな食べ物は

あるのかな。ニコラ坊や。」

「ぼく、何でも食べられるの。」

すっかりきれいでやさしいおねえさんになついた五歳児はポプランとアッテンボローの間を

ちょこちょこと歩き出した。



キッチンにたった女性提督にポプランは

「ニコラが言うには俺の子供なんだって。身に覚えもある。母親がとにかく留守の間、俺に会いに

いって来いと軍の事務局にあの坊やをひとり残していった。さっき荷物を見たら一通りの着替え

だの入っているからちょっと近所まで出かけたんじゃないみたいなんだな。となるとな・・・・・・。」

「うちで引き取るんだろ。」

フライパンでチキンライスをざくざく作りながらも柔らかな笑みを浮かべた横顔で女性提督は言った。

「父親思いのいい子じゃないか。あの子がいる以上お前をしかってはあの子が悲しむ。

あのこにはなんの罪もない。心に傷などできてはかわいそうだ。いいじゃないか。あの子の母親が

迎えにくるまでここで暮らせばいいよ。」



いつもと変わらぬアッテンボローの穏やかな答えにポプランはちょっと考えていう。



「・・・・・・おれのこと嫌いになったりした?」



「今まで三桁の女性とイイコトをしてきて子供の一人や二人いないのもおかしいだろ。お前が種無し

でないとわかれば二人の間にも子供も生まれそうなうれしい予感もする。・・・・・・もっともお前がいまも

その母親と今後よろしくしたいとなれば話は別。でもお前、私と離婚する気もなければもとの恋人と

よりを戻したいのでもないだろう。私のうぬぼれかな。」

「お前と離婚する気もないしおれの女はお前だけなんだけど。この際明言しておく。」

なら、と彼女は卵を割り手際よくライスをくるんでいく。



「ならあの子にときどき会いに行くとかそういうことは自由にしなさい。でもひとつ条件がある。」



とさっさと皿にオムライスを一人分作ってのせた。次々と手際よく三人分のランチを用意した女性提督。

「何。条件って。」と亭主は妻の頬にキスをして言う。



「あの子は特別だけど・・・・・・私のこともちゃんと・・・・・・愛してくれないといやだなと思って。

あの子には父親の愛がいる。愛も必要だし養育する義務はお前にはある。父親だからね。

・・・・・・でも私だって自分の亭主から愛情がほしいなって思う。今までどおりに愛情を注いで

ほしいなと思う。甘えてることを言うけどさ。・・・・・・大人気ないけど。」



ややはじらって眸をそらして言うけれど頬も赤ければ瞳の色も宙色の彼女。



「・・・・・・俺。やっぱりお前一人にして正解だった。お前みたいな女いないもん。・・・・・・昨日より

9割り増しで愛してる。」

と彼女の唇に唇を重ねた。

じっと見つめる幼児の不思議そうな視線を感じて「こら。オリビエ。子供がいるんだから。」と女性提督は

赤面してたしなめるが。

「ベイブ、パパが奥さんと仲良くしているのを見るのはいやか。」ときくと。

「ううん。パパ、しかられないでよかったね。」といった。



・・・・・・母親のしつけがいいのだろうなと女性提督は幼児の様子を見て思った。

話し方も丁寧だし、頭もいい。

「ニコラ・ハニー。きみも君のパパも食事の前には手を洗ってきなさい。洗ったらお昼ご飯ができている

から三人で食べよう。」

アッテンボローの言葉に幼い少年ははいと返事してパイロットスーツのままの「彼のパパ」のてをひいて

「ごはんのまえには手をよく洗うんだよ。パパ。ゆびの間もせっけんできれいにあらうの。」と小さなポプランが

大人のポプランに懸命に手の洗い方を伝授している。



そういう姿は実にほほえましい。

あの子が彼女の実子だったらこんな幸せなことはないと女性提督は思う。

けれど・・・・・・ひとそろえの着替え一式をもって父親に一人で会いに行かせるとはちょっと理解できない

ところがある。母親はどこへ行ったのであろう。そしていつ帰ってくるつもりなのであろう・・・・・・。



「おねえさん。手をあらってきました。」といとけない口調で幼児が手を差し出した。

アッテンボローはうん、きれいになったねとほめて

「さあ、いただきますをしよう。おなかがすいたね。」といって亭主とその子供を食卓につかせ昼食を

三人で仲むつまじくとったのである。







1330時。



イワン・コーネフ少佐は空戦隊のドッグに現れた僚友とその夫人の女性提督と、僚友に肩車をされている

彼とそっくりな幼子を見てさすがに目を点にした。



「・・・・・・この場合どういえばよいのやら判じかねます。アッテンボロー提督。」

とまず上官に当たる女性提督に敬礼をした。

「オリビエの子供なんだ。名前はニコラ・ジーリンスキー。母親の姓を名乗っている。5歳。なかなか

いい子だよ。」

「人間ができておいでなんですね。提督は。」コーネフは苦笑をした。

「こんな日もいつかは来るような気もしてたし。なついてくれているからいいんだ。な。ニコラ。おねえさんのこと

すきかい。」とポプランの肩に乗っている少年は「はい。だいすきです。」と丁寧な言葉と愛らしい笑顔でいう。



「だからユリアンにも絶対避妊具を持っていかせるべきだ。うちのワイフのような女はめったにいないぞ。

500人いや、1000人に一人だろうな。優しい女だ。」とポプランなどは何の痛痒もない。

大体において何か出来事が起こってもオリビエ・ポプランが困ることはない。

「ああ。お前が果報者だってことくらいはアッテンボロー提督と暮らし始めてよくわかってるよ。しかし

お前さんとこのこはさすがにそっくりだな。この坊やのほうが500万倍は愛らしいがな。」

とコーネフはいった。



「うちのベイブに本物のスパルタニアンを見せたくてな。おもちゃを持っているくらいだから好きなんだろ。

な、ニコラ・ベイブ。」

と「パパ」にいわれて少年はうんと元気よく返事をした。

「パパ」と呼ばれた撃墜王殿は小さな子供を肩車したままパイロットスーツ姿で戦闘機の近くに歩いていった。



「大丈夫ですか。アッテンボロー提督。」コーネフは僚友のお気楽振りにいささかあきれている。

「・・・・・・そうだね。子供には責任はないよ。オリビエがそれこそまいた種だし。・・・・・・本音を言えば

あの子が私が生んだ子供ならとってもうれしいけれど。・・・・・・そういう男と交際して好きになって。

結婚したんだからさ。くよくよしても始まらないだろ。」とアッテンボローはいう。



彼女はコーネフが思う以上に温和で・・・・・・優しいひとだと思った。



「優しいひとですね。提督は。これから何人もあの坊やのような子供が出てきたらどうなさいます。」

ちょっとお人よしだとも思えるのでコーネフは心配になった。

「お人よし過ぎると自分でも思うしほんとならもっと・・・・・・騒いだり怒ってもいい立場なんだろうけれどね。

でもさ、あの子やその母親がオリビエを父親だというのに逃げるような男じゃ、私は幻滅しただろうな。

・・・・・・あんなふうに子供を大事にできる男なら、私が今後生むかもしれぬ子供を大事にしてくれるだろう。

・・・・・・平手打ちの2ダースほどくれてやってもいいけどあいつ、面の皮が厚いからね。堪えないだろ。

こっちの手が痛む。」

それにねと女性提督は言う。



「あいつにとって私が特別であるには違いないらしいしそれならそれで別にいいんだ。結構手前勝手な

女なんだよ。私は。」

「・・・・・・なかなかできることじゃないですよ。情のあついひとです。ところであの子の母親は今どこに

いるのですか。ポプランを返せといいませんか。」

とコーネフは尋ねる。あんな馬鹿亭主でも奪い返されるとなれば女性提督も気持ちがよくないに

決まっている。

「それがね。ちょっと腑に落ちない。普通なら子供をつれて母親が主体で「認知しろ」って迫るのが

世の中の相場じゃないかなと。ましてあんな小さな子供だろう。私が母親ならむしろ子供は

親もとなり、信頼できる人に預けて単身で男に談判に来ると思う。・・・・・・どう思う。コーネフ。」



ポプランの艦載機を間近で見ている少年は肩車されているから、いろいろと見るものがあるのか

とても愉快そうに笑っている。そして「パパ」も幼児を落とさぬように注意しながらさわってもいいところは

さわらせている。実の親子。光景としてはほほえましい。



「相場としてはそうでしょうね。5歳の子供に修羅場を見せたくないと思う母親なら、提督のようにする

でしょう。これ見よがしにつれてくる場合もありますけれどね。こんなかわいい子供がいるから認知

しなさいといえるでしょう。」

「あの子の場合は母親が軍の窓口まで来てあの子に「ポプラン少佐が父親だから帰ってくるまで父親と

いなさい」って着替えなんかも持たせている。それを保護したのがキャゼルヌ先輩なんだけどね。

世間的にそんな認知のさせ方はあるかな。5歳の子供に「認知」させるように父親に一人で会いに

行かせるかと。・・・・・・あの子数日分の下着のかえとか洗面道具とか持ってたよ。お金も少ないけど

でも5歳の子供に割合多い金額を持ってた。けれどIDカードも携帯も持っていない・・・・・・。社会保障

番号もわからない。ニコラ・ジーリンスキーという彼の名前と母親がソニア・ジーリンスキーという22歳の

女性であることしかわからないんだ。」



女性提督はこちらに手を振る幼児にむけて微笑んで手を振っている。

「・・・・・・変わった事例ですね。で、問題の母親はいつ帰ってくるのですか。何かメッセージや手紙など

ないのですか。」

うんとコーネフの言う言葉に女性提督は頷いた。



「認知が目的じゃないんじゃないかと思うんだ。・・・・・・どういう事情かはわからないけれどあのこを置いて

でた・・・・・・。どこにいったかわからないけれどね。そう思えるんだよね。」

それはでも随分とあざとい女性ですねとコーネフははっきりといった。

「理由はわからないよ。でも5歳の子供にいえない事情でどこかにソニア・ジーリンスキーはいるんだろう。

・・・・・・ホテルに滞在するにしても一週間はとまれる金額をあの5歳の子供に渡している。ということは

一週間は少なくともあの子からはなれることを意味するのではないかな。窓口で機転を利かせてくれたから

無事オリビエのところにこれたけれど・・・・・・あの子は置いていかれたんだ・・・・・・。」



男、でしょうかねえ。

コーネフは呟き、艦載機のコクピットにポプランの膝の上で無邪気に笑っている少年を見た。



「・・・・・・オリビエはソニア・ジーリンスキーが金髪碧眼の美人だったことしか覚えがないようだけど

あの子を見ているとしつけがきちんとできているんだ。言葉遣いも丁寧だしテーブルマナーは父親以上

にいい。頭もいいよ。まあ、オリビエの子供なら頭はいいかもしれないけれどともかくひとのこころの

綾をあの子なりに感じ取って言葉を選んでいるし、礼儀正しい。・・・・・・そういうしつけができる女性が

あんなかわいい子供を置いて出奔するかなって思うんだな。買いかぶりすぎか・・・・・・。」



なんにしても気苦労が多いのはオリビエ・ポプランではなくいつも周囲なのである。



「でも女性は恋をするとどんな行動にでるかわからぬものでしょう。賢母であっても22歳ならまだ

これからっていうお嬢さんじゃないですか。でも提督がおっしゃるようにあの子が置いていかれたのは

真相みたいですね。理由はわからないし期限もわかりません。だってね提督ならお分かりでしょうけど

ポプランは子供が「ぼくの本当のお父さん」といえば無条件にああやって引き受ける男ですよ。少なくとも

ミズ・ジーリンスキーはそんなあいつの性質を知っているようですね。」



でもさ。

「あいつはソニア・ジーリンスキーと1週間ほど交際しただけといったよ。1週間程度の付き合いで

息子を預けてかまわぬほどオリビエが信頼できる男だってわかるかな。・・・・・・日数は関係ないのか。

いずれにせよなぞの女だよな。ソニア・ジーリンスキーって。」



・・・・・・というかよくまあ親ともあろうものが、かわいいだろう我が子をいくら実の「父親」だからと、あの

「オリビエ・ポプラン」という不条理極まりない男に預けるようなむちゃをするなと、コーネフは思う。

「・・・・・・じゃあもしも母親が現れなかったらどうなさるのですか。」といまさらな質問をアッテンボロー

にしてみた。



「私がステップ・マザーになるだけのことだよ。あの子相手なら何とかやれるだろう。あの子には今

ほかにいくところがない。・・・・・・ムライ参謀長殿にはじつは養子と実子の二人のお子さんがいらっしゃる

そうだ。奥方が妊娠しているときに仲のよかった軍医夫婦がなくなったとかで引き取ったのだそうだよ。

うちだってそういうことを思えば子供一人増えてもいいよ。私は四人姉妹で育ったし。兄妹がいるって

いいと思わないか。コーネフ。」

・・・・・・アッテンボロー提督って繊細なところもあるけれど大きいところは大きいなとコーネフは

感心してみた。

「提督は本当に家庭向きですね。いいお母さんになりますよ。基本的に優しいひとなんですね。」



そこへ眠ってしまった少年を抱えてポプランが歩いてきた。

「興奮して疲れたんだな。おなかもいっぱいだったし眠った。昼寝をさせよう。ダーリン・ダスティ。」

まさに古典絵画にある天使のような寝顔である。上気した頬が柔らかそうでゆびでつつきたくなるのを

女性提督はこらえた。その代り額にかかる赤みの金髪の巻き毛を撫でた。

「いろいろと疲れたんだな。」その麗しい笑顔を浮かべた女性提督を見ているとコーネフは一言だけ。



「ポプラン、お前。提督に不実をしたらイゼルローンの連中を全員敵に回したと思えよ。いいひとだ。

アッテンボロー提督は。・・・・・・なぜこんな破廉恥な男がこんなよい女性を娶るのか、ますます

世の中理不尽に思えるよ。・・・・・・提督を死に物狂いで大事にしろよ。お前、甘えすぎだ。」

そういうと彼は敬礼をしてその場を離れた。



「・・・・・・甘えてるのは承知なんだけどな。」

と言われたポプランは苦笑して女性提督を見つめた。

「いいよ。お前だけはときどき私に甘えても。小憎らしいけどかわいいから赦すよ。オリビエ。」



男は女性提督のキスを掠め取って。「うん。またいつでも俺に甘えて。ダーリン・ダスティ。

愛してるから。」

「パパ」のうでのなかですやすやと眠る5歳の少年をやさしく抱きかかえながら、パイロットスーツのまま

歩き出す撃墜王殿とその隣を歩く女性提督。当事者はなんともないのであるが周囲は少佐の腕の中の

彼そっくりな少年と、隣で微笑んでいる女性提督を見るとしばらく呆然とした。



部屋に帰ると「う」とポプランは困った顔をした。

「俺以外の男をダスティのベッドに寝かせたくないな・・・・・・。」

・・・・・・。「いや、それはね。違うと思うよ。お前の実の子供だからね。いいじゃないか。」

アッテンボローはそんなことをぐだぐだいっているとニコラが目を覚ますのではないかとひやひやした。

「俺の息子であろうがそれは全然問題が違う。もう一個の寝室で寝かせよう。掃除してるしきれいだし。」

とヤン家ではユリアン・ミンツが眠っているであろうところの寝室を少年に提供した。



「ひどい父親だな。お前。このこを夜一人で寝かせるなんてかわいそうだろ。三人で寝ればいいじゃないか。

まだ五歳だぞ。」

と妻は抗弁をしたがそれに関してはポプランは一歩も譲らなかった。

「おねえさんきれいでやさしいねってこの坊やは6回はいったんだ。絶対お前をかなり気に入っている。

5歳なら一人で寝るのを練習するのにいいころあいだよな。あの坊やは俺の子供。でもお前とは

血はつながっていない。一緒に寝るなんてとんでもないぞ。」



・・・・・・ひどいやつとアッテンボローは馬鹿なことを言う亭主を放置して少年が眠っている寝室に

そっとはいった。赤みのかかったにんじんの色のような金髪の巻き毛。白くてややピンク色した頬。

空調は一定で快適なはずだが風邪は引かぬように上掛けをかけて部屋を出た。



ポプランは珈琲を入れてアッテンボローに差し出した。二人はリビングのソファに隣同士で座って

しばしのティータイムである。

「・・・・・・ごめんな。ダーリン・ダスティ。」

「ん。なにが。」と彼女は突然の謝罪に彼の顔を見る。

「・・・・・・ソニア・ジーリンスキーのことは本当に思い出せない。わりと小柄でってとこまでしか浮かばない。

でも絶対身にに覚えはある。だからあの子は俺の子供だと思う。それと、最終的にはニコラは俺が引き取る

ことになるやもしれん。それを思うとお前に悪いと思う。」

まじめな面持ちで言うのでアッテンボローもまじめに尋ねた。

「それは他の女性との子供だからかな。私が母親になる子供が。」

うんとポプランは頷いた。



「じゃあね。オリビエに約束してほしいことがあるな。」

アッテンボローは宙色の眸で彼の顔をじっと見つめていった。

「何を約束すればいいんだ。ダスティ。」



小指出して。

そういわれて口をへの字にしながらもポプランは小指を出した。アッテンボローも小指を絡めて。

「どんな戦いになっても無茶はしないで生き残って。別に昇進なんかしなくてもいいから。私や

あのこのこと思い出して・・・・・・絶対死なないでね。これでも・・・・・・すごく頼りにしてるんだからね。

約束して。」と彼女は言った。



あのさ。とポプランは女性提督を抱き寄せて「すごくお前がほしいんだけど。」と耳元でささやいた。

まじめに言われて真っ赤になりながらアッテンボローは頷いて彼の唇にキスを・・・・・・。



「あれえ。パパ、おねえさん、どこにいるの。」と寝室から小さな天使がリビングに。お目覚めのようである。

おあずけだよと彼女は彼の鼻にキスをして、「こっちにおいで。ニコラ・ベイブ。」と優しい声で天使を

呼んだ。少年はほっとしたような表情をして「パパとおねえさん」の側に駆け寄った。

「ダスティ。俺は自分の息子が我が家でのびのび育とうがおれはお前にキスもするしイイコトモするからな。

今だけおあずけにするけど今度はおあずけなしだぞ。」

と幼児を抱きかかえたアッテンボローをポプランはぎゅっと抱きしめた。



「パパとおねえさんはいいことをするの。」とニコラ少年が意味もよくわからず尋ねた。

「おう。勿論だ。イイコトをする。ニコラ・ベイブ。それって素敵だろ。」

とポプランに髪をくしゃっと撫でられた幼児は笑った。



「いいことはしていいんだよ。おねえさん。わるいことはしちゃいけないけど、いいことはしていいんだよ。」

と天使はまじめな顔をしてアッテンボローにいった。

・・・・・・。

それでいいのかと悩んでいるアッテンボローにそれでいいんだよとポプランはかまわず

キスをした。



by りょう





ジーリンスキーという名前はクリスティの小説にでてくる人の名前です。イギリス系ではなさそうですね。

アメリカからの客だし移民じゃないかな。作中に出てくるオリジナルキャラの名前はほぼ実在のもの。

さがすのも楽しいです。ハニーとかダーリン、ベイブなどこの人たちは外人だからいいんです。きっと。



LadyAdmiral