焼け野が原・2
第一飛行隊長にも出撃命令が出た。 部下を待機させていたが生命の塊であるような男はすばやく点呼を取り、愛機に乗って 宙(そら)の男となった。 酒の名前をつけた彼の各中隊に常に彼は戦闘中「余裕のある声」で死ぬんじゃないぞと 声をかける。 現にポプランは螺旋を画いて宙を舞う。 そして確実に獲物をしとめていく。 そして部下への声かけを忘れない。 器用に宙を自在に飛びながら部下を狙っているスパルタニアンを落とす。 発進後、わずか2秒で3機の敵機を撃墜している。 このときのオリビエ・ポプランには勝利の女神か、地獄の魔女がついている。 生命力に溢れ、体の代謝が上がりエネルギーが充満する。 光のビームが行きかう宇宙の中を、いとも華麗に飛翔する。 死をも嘲弄するかのように。 同じ性能の戦闘機である以上あとはパイロットの技量の勝負。 男には運命の三人の女神がついている。 そして人の生命の糸を切るというアトロポスという女神から深く愛されているに違いない。 大きな鋏を持つ老婆の女神アトロポス。 彼女は男のしとめる相手の生命の糸を 断ち切る。男の命の糸はつないだままに。 凡庸な敵機を容赦なく墜とす。 だが彼が撃ち落されることはない。 炎の中をスピンしながら彼の愛機は飛翔し続ける。 彼はそのとき、自分の生命を力強く感じる。 光の矢の中で彼は生死を越える・・・・・・。 戦端が開かれて8時間。 ヒューベリオンも敵側面を捉え分断までいたった。分断して前方に向かった敵艦隊はアッテンボローが 引きずり回してやろうとてぐすね引いてまっていた。 ヤン艦隊が圧倒的に優位に立っている。だが第11艦隊の司令官ルグランジュという男は 猛将で再三の「降伏勧告」を無視し圧倒的劣勢であっても撤退せずヤンやアッテンボローを てこずらせている。 「敵、突進します。」 との声が上がればアッテンボローは静かな声で 「よし。引け。」 と味方に損害を出さないようにする。あくまで陽動である。 敵がこちらに戦意なしと引こうものなら 「深追いはせず、前進だ。こっちにひきつけるんだ。気のあるふりをして相手を付け上がらせろ。」 と指揮を執る。 「まるで恋の駆け引きですね。」 など士官から声が飛ぶと 「そうだ。かわいい女との恋の駆け引きみたいなもんだ。傷つく必要はないぞ。こっちは 計算高い恋の達人。負ける算段はしていない。あっちが引けば押せ。あっちが攻めてきたら そっぽを向くのさ」 アッテンボローが冗談を言うと兵士たちは気持ちが楽になる。「トリグラフ」では ある意味「ヒューベリオン」以上の明るい空気が漂っている。 しかし、ベレーを胸元ではためかせて彼女はラオにだけ呟いた。 「存外粘られて困るな。なまじな闘争心は厄介だぞ。」 それはヤン・ウェンリーも思っていた。 圧倒的優勢にいながらにしてルグランジュの勇猛果敢な意味のない戦いで、味方にも敵にも 死者を出すのはヤンもアッテンボローも本意とはしない。 残存兵力がわずか10隻足らずになるとルグランジュ提督から通信が開かれた。 だが、それは提督の自殺で締めくくられた。 パトリチェフが空気を換えるかのように大変な戦いでしたなといってもヤンは、せめて ルグランジュがもう少し早く降伏をすればよかったのにと歯噛みをする。 「閣下。こちらが手がかかった分、アッテンボロー提督も苦心されていることでしょう。」 「そうだな。」 そうだった。 ヤンの旗艦を先頭にしてアッテンボローの陣営に合流し数に物を言わせて徹底殲滅に出た。 この宙域の救国軍事同盟の機動部隊は事実上機能を停止したといえる。 残存した救国軍事同盟別働小規模の機動部隊もエドウィン・フィッシャーが針路を見失わずに 追尾して叩いた。フィッシャー提督は戦いの指揮官としては平凡であったがその艦隊運動と けして損なわれない彼の位置感覚は特異なものであり、ヤンの手足であった。 結局この戦いにおいて全艦隊ヤン艦隊はほぼ無傷で潜り抜けた。 「まだまだおれとおれの提督との甘い日々はもどりそうもないな。」 オリビエ・ポプランは前線で出される栄養価だけはある味気ない食事をつつき頬づえをついた。 「シャトルでおこしになってもすぐ作戦が発動されますからお帰りになりますからね。 無理もありませんわ。」 食事のお相手を務めるのはフレデリカ・グリーンヒル大尉。向かい合って レディ・キラーと食事をしている。 「ま、それはしかたなしとして大尉、食欲はあるのかな?少しおやつれだ。何か消化のよいものを おれが見繕いましょうかね。」 少しどころじゃない。2キロは彼女は体重が減っているようだとポプランは思う。 「・・・・・・食べています。大丈夫です。少佐。ありがとうございます。」 フレデリカは救国軍事会議が発足して以来申し訳ない様子でヤンの副官を務めている。 いつもの明るい表情がなくヘイゼルの眸も輝きが見れない。今夜は特に・・・・・・。 「あの方が亡くなられるなんて。本当に残念で・・・・・・いえそれ以上に申し訳がないんです。 ヤン司令官に。」 ジェシカ・エドワーズの訃報は7月にはいってヤン艦隊に届いた。 スタジアムの大虐殺。 2万人もの市民が軍部の制圧で女性であろうが子供であろうが殺された。 彼女の父親が議長となっている救国軍事会議の起こした、市民弾圧。 涙が零れ落ちそうな彼女にポプランはハンカチを渡した。 「すみません。泣いたところでお詫びのしようもないことなのに。」 「あなたの罪じゃない。あまり思いつめることはないぜ。司令官だってお分かりだ。口さがない 人間は何か言うだろうがそれは大間違いだ。大尉の責任は何もない。」 「ポプランにしてはまともなことを言う。そのとおりだ。大尉。涙を流しているお前さんも 風情はあるがこの艦隊の気風には合わないな。ブランデーが入っている。少しは落ち着く。」 シェーンコップ准将がコーヒーにブランデーを入れてフレデリカに手渡し、彼女の隣の席に 座った。 フレデリカは少し驚きつつカップを受け取り、ありがとうございますといってゆっくり口にした。 「おいしいですね。光栄ですわ。准将のコーヒーを頂戴できるなんて。」 「不出来な司令官にかわっていうが、大尉には何のとがもない。グリーンヒル大将が市民を 殺戮した張本人ではなかろう。現場にいったクリスチアンという軍人が女史を殴ったことに 始まったらしい。こんなことは慰めにはならないがね。大尉が申し訳なく思うことはないさ。」 「横からくちばしを突っ込んできて。大尉を慰める役は小官が努めようと思っていたんだけれどな。」 ポプラン少佐は唇の端をあげて笑みをこぼした。 「美人の涙には弱い。見てみぬふりはできないんだ。」 シェーンコップが撃墜王殿に言った。 「こういうときは野暮天でも司令官がきっちりと部下を思いやる必要があるが、うちの司令官殿は からきし、だめだな。」 フレデリカは准将の言葉にうつむいた。 だって、司令官はあの方に思いを寄せておいでだったのかもしれない・・・・・・。 それはフレデリカの憶測ではあったがあの哀しみぶりをみるとそう間違いではないと思った。 「・・・・・・私、しっかりしなくてはいけませんわね。これがアッテンボロー提督なら気丈に なさっていますわ。きっと・・・・・・。」 「そうでもないと思うぜ。おれが言うのもなんだがおれの提督は鉄の女じゃない。 あなたのような立場にいたら泣き出して止まらんのじゃないかな。」 ポプランは言った。准将は頷いた。 「あいつはシャープに見える割に崩れると大きく崩れるだろうな。」 泣き出したら、止まらんというタイプだ。2人は声をそろえたかのように同じせりふを 同時に言った。 「ん?なんであんたが知ってるんですか?准将。」 「経験値さ。女を見てきた経験から言っただけだ。」 ここでフレデリカは少し微笑んだ。 「ありがとうございます。心強いですわ。お二方に励ましていただいて元気が出ました。 私、しっかりします。食事もとらなくちゃいけませんわね。食べることは基本ですもの。」 「うん。私も少し腹が減ったよ。同席していいだろうか。グリーンヒル大尉。」 野暮天司令官が今ひとつさえない顔はしているものの、現れた。 「・・・・・・・閣下、も、勿論ですわ。」 「少佐、もうしばらくアッテンボローとの逢瀬はお預けになるがそれも給料のうちだと 思ってくれ。」 ヤンはポプランの隣に座ってフレデリカの正面からすこしずれた位置に座った。 「了解ですよ。司令官閣下。今頃彼女は・・・・・。」 「お前がいなくてせいせいしてぐっすり寝てるだろうな。」 准将が口を挟んだ。 「あながち違うとも言い切れんところが、つらいな。」 ポプランがおどけて言うとフレデリカが噴出した。 「少佐と准将が言うことが正しい。大尉、あまり気を落とさないで・・・・・・。君にはなんの 責任もないしお父上のことにしても、残念だと思う気持ちは私も同じだ。だから、といっても 説得力はないが少しずつ元気を出してほしい。」 黒髪の司令官殿がここまで言うなら、お任せしようかと少佐は思い。 「准将って一人で寝る夜ってないんでしょ。女にあぶれたことがないってことですか? それともあぶれたときは筋肉男連中と寝るんで?」 シェーンコップは撃墜王殿の意図がわかるので、座席を立っていった。 「おれは男には趣味はない。要するにあぶれたことなんてないんだ。お前さんとはそこが違うな。」 ポプラン少佐も席を立っていう。 「おれの場合はとびきりの美人がいますから。」 「一人の女に振り回されるとはご愁傷様だ。今夜も一人でおねんねだな。」 准将はフレデリカの肩をぽんとやさしく叩いてウィンクして退場。 「お。准将。おれに喧嘩を売ってるでしょ。何で勝負します?」 「ボトル3本賭けるか。」 「望むところ!」 ポプランはトレイを片付けてヤンに敬礼をして食堂をあとにした。 「気を利かせたつもりなんだろうな。」 「え?」 フレデリカはヤンが言った言葉がうまく聞き取れずに聞き返した。ヤンはなんでもないよと 穏やかに言い、 「生きているものはせいぜいうまいものでも食べよう。大尉。ユリアンも君をすごく 心配している。あのこがね、うまそうなケーキを作ってくれたんだ。なんのタルトといって いたかな?プリンかな。かぼちゃかな。ともかく一緒に食後食べないかい? 私とユリアンでは食べきれないし・・・・・・。三人で食べるほうが楽しいだろう。」 フレデリカはまだ少し傷が残る微笑だが瞳に輝きが戻ってきたようで。 「おいしそうなタルトですわね。ご一緒していいのですか?」 うん、とヤンは頷いた。 「すこしやせたね。何か食べたほうがいい。・・・・・・これはセクシャルハラスメントになるだろうか?」 彼女はくすくすと笑った。またひとつ涙が落ちた。 「すみません。わたしったら。」 「いいんだ。えっと・・・・・・。」 ヤンはポケットを探ってユリアンが持たせてくれた清潔なハンカチを取り出した。 「せっかくの美人が台無しだよ。使いなさい。」 本当はポプランに借りたハンカチもあるのだが彼女はヤンの差し出したハンカチを 恐縮しながら受け取って、目元を押さえた。 「ありがとうございます。閣下。」 にっこりと微笑んだフレデリカ・グリーンヒルを目の前にしてヤンは頭をかいた。 「さ、食べようか。ユリアンが紅茶を入れて待ってくれている。」 「トリグラフ」。 准将の予測どおり寝だめをしている女性提督。ベッドは広く、ぐっすり夢も見ないで 眠っている。一人で眠る幸せをひしひしと感じる日々。 それは何も彼女の男がいなくてすっきりするという気持ちとは違う。 隣にいてほしいとは思うけれど今は非常時。 男が元気に宇宙のどこかにいれば彼女はそれで幸せだった。 安心して眠るアッテンボローであった。 by りょう |
「焼け野が原」
coccoの曲ですね。これが一番すきかなと。
「言って ちゃんと 言って 聞こえないふりをしないで ここに居たいの 私は側に居るのよ。
抱いて ちゃんと 抱いて この体に残るように強い力で もう 泣かないでいいように。」
うーん。娘アッテンボローのための話のつもりがフレデリカ擁護になってしまいます。
第11艦隊との戦いがイゼルローンにきてからの彼女の久々の出動ですね。
原作とOVAではすこしアッテンボローの作戦が違う気がするので折衷案のような「捏造」
をしています。まだまだ8月を過ぎないと要塞に戻れない二人ですがきっと仲良しなはずです。
ポプランとアッテンボローはあれで結構しっかり(o(^-^)(^o^)o)なかよしぃ♪です。
フレデリカがOVAではいつもヤンの側で縮こまっている姿が目立ち、そういうときに色事の達人は
ぜひ騎士道精神で彼女を庇護して欲しい気がしました。で、サービスとしてヤン閣下にも
正直に「元気出してねー」役で登場していただきました。本当は部下の目などあるので表立って
反逆者の娘の立場にあるフレデリカにヤンは何もいえないようですが、うちの閣下は
言うときは言いますよ!!
まだ原作2巻から脱出できない私です。とほほ。