寧日、安寧のイゼルローン要塞。
要塞防御指揮官(ディフェンスコマンダー)と空戦隊撃墜王(エース)のある日の午後の会話。
この2人、何かと似ている部分もあるが今回はやや要塞防御指揮官殿に軍配があがった。
女性提督の件では撃墜王殿に勝利の女神が微笑んだのであるが今日はそうは問屋が卸さない
ようである。
イゼルローン要塞内のとあるクラブにて。
「お前、おれに礼のひとつでももってこんか。不作法ものめ」
「ええと。タンクベッドで死ぬまで眠らせていただいたお礼でしょうか。お兄様」
淡い金褐色の髪をしたハートの撃墜王は今日もベレーを斜めにかぶりスカーフも規定の
結び方ではない。そんな細かいことでしゃれっ気を出そうというのが子供だなと
要塞防御指揮官などは思う。あきれてしまう。
制服をまともに着られないとは、ティーンエイジの不良でもあるまいに。
「いや。茶番につきあった礼だ。なかなかうまくいっただろう」
「まぁ、茶番といえば茶番ですが准将に小官が礼をする義務がありましたっけ」
要塞防御指揮官殿はぐいとグラスのブランデーを飲み干した。
「わざとだろう」
ここに来て、陽気な悪魔の手下は軽佻な口笛を吹くのをやめた。
悪魔というのはかの女性提督。
「上層部に進言するのはいささか野暮だし今回はボトルの5本で手を売ってやろう」
シェーンコップは右の手のひらを広げた。
5本。
そういうことだ。
「なんだあ。ばれたてましたか」
悪びれもなくエースはいってのけた。
彼もご愛飲のコーン・ウィスキーをくいっとあけた。
真昼間であったけれどもこの2人が昼間、カフェでお話などという姿はあまり誰しも
見たいとは思わないであろう。
昼間から酒を飲んだ程度で2人ともいまさら乱れる御仁ではない。
飲まなかったといって品行方正であるともいえぬ2人である。
そう。あの、「おれの提督・末期禁断症状」。
ポプランのペテンである。
「お前の考えることは、子供並だ。あれだけ騒げばうるさくてお前の提督が要塞を留守にするときは
もう今後は誰もお前が同行するのを止めない。散々こりてるからな。お前の禁断症状に」
「はははは。さすが准将」
ポプランの狙いはまさに、それ。
いくらさかりのついた彼でも数日くらい独り寝は耐えられるに決まっている。
本当の子供ではない。
ムライ参謀長や司令官が速やかにアッテンボローとの同行を公式に許可してもらうと
今後、楽だなぁというイージーな発想からでたポプランの芝居である。
ポプランにしてみればせっかく思い人のアッテンボローを手に入れたのに一緒の夜を過ごせない
夜がとてつもなくもったいないことのように思える。
今後はぜひとも恋人同士を安易に引き離さないでセットにしてくれれば問題などないではないか、
と思う。
軍の規律はわかっている。
だが、同じ命令されて死ぬならば。
あの美しい女にその命令を下されたいともうわけである。
愛する女に。
これは口にださない。
「わかりました。で、ものは相談ですが3本にまかりませんか?」
准将はため息をついた。
「・・・そういうお子様ランチのようなところがあの女が気に入ったところだろうな。アッテンボロー提督は
母性本能の強いお方に思える。お前さんのような子供っぽい未熟な男をかわいいと錯覚するんだ。
おれには到底真似できんし、したくもない」
「准将は業突張りだな。わかりました。5本。それで決済してください」
「そうそう。おれが味方してやったんだ。感謝しろ」
「でも、なぜ准将、茶番劇に付き合ってくれたんです。進んで邪魔しそうな御仁なのに」
要塞防御指揮官はさらりといった。
「おれはこれでも、女性には至極親切だし子供にだって割合親切なんだ」
女性提督と空戦隊撃墜王殿の会話。
女性提督の私室にて。
「私はジャーナリスト志望だったんだ」
女は途切れがちに男にいった。
「悪くない。美人という肩書きがつくと、何でもよく思える」
2人の情事のさなかの会話。
男は彼の上にまたがっている美しい女の細くくびれた腰を両手で支える。
腰を動かしているのは男。突き上げているのは・・・男。
背中を弓のようにしならせて時折、男の首筋に倒れこむ。
「情報合戦には強いほうだ・・・。」
「ほうほう」
彼女の声は少し硬い感じのする声で、それがかすれてまたいとしさが増す。
男は彼女の髪をすくいあげもてあそぶ。腰を動かしながら彼女の感じる部分を探しながら
女に入っていく。
「というわけではないが、人の話を小耳に挟むのも得意だ」
ポプランの腰の動きが止まった。
「お前、仕組んだな」
やはり悪魔はアッテンボローで、ポプランは手下にすぎない。
彼女はポプランにまたがったまま、いった。
そして、悪の大魔王がディフェンスコマンダーだ・・・。
「私は合計7時間、お偉方から説教をたまわった」
アッテンボローは自分の股下で泡を食っている男が嫌いではなかった。
「今さらあれはお前のこそくな芝居でしたといえば私はまたありがたい訓示を頂戴することになるだろう。
それはごめん被る」
腰を動かしたのは、彼女。
驚きつつ彼女のくびれた腰を抱く男。
「さすが准将はするどいな。はて私は母性だけでお前さんをかわいらしいと錯覚しているのかな?
オリビエ?どう思う」
腰を動かしているときの会話ではない。
「まぁ、いいさ。とりあえずは気に入ってるんだから」
彼女は彼に覆いかぶさって男の首に抱きついた。そしてキスの雨。
「性生活のことだけ?おれはこれでもお前を真剣に・・・」
ポプランが彼女の耳たぶをかるく噛んだときにささやいた。
「愛しているってのはわかってるさ」
子供が好きといわれれば否定できない。
彼女は自分の恋人を、幼さゆえに愛情を感じているのか?
そんなことから始まる恋があってもいいじゃないか。
かわいいと思えるんだから、仕方がない。
行けるところまでいってみて、回り道になっても、それはそれで悪くない。
計算ずくで、恋をするほど、自分は退屈な人間じゃないと、彼女は思った。
先のことは、誰にもわからないんだ。
そこまでは覚えているが、後は撃墜されっぱなしだったので覚えていない女性提督だった。
翌日、朝食を作って二人で食べているときに彼女は再び感じた。
『お前が調子づくから言わないがやはりわたしはお前が好きだよ。オリビエ』
こうして、また一日が始まる。
by りょう
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