My Sweet Darling・4




売店でも歓声がこだましている。一杯の紅茶と珈琲を買ってアッテンボローは席に戻ろうとすると

コーネフ少佐とばったりであった。



「空戦隊は強いな。余裕があるから応援しないのか。コーネフ。」

「というか、もともとこの競技にそれほど興味がないんです。うちの人間が怪我さえしなければいいんですよ。

提督はポプランを見てやらないんですか。今大活躍ですよ。」

やわらかい色の淡い金髪をした青年が言う。

「勝つとわかるゲームは面白みがない。1人で点を入れてばかり。ああいうスタンドプレーは

鼻につくな。嫌いだよ。どうせならこっちでみないか。ヤン司令もいるけどさ。」



コーネフは笑った。相変らずはきはきしたひとだと。



結局コーネフもヤンのところに一緒に来て見物することにした。



「美人提督に一緒に試合をみようといわれて断れるほど野暮でもないですよ。」と青年は言う。

ヤンに紅茶を渡すと「空戦隊は結局23ポイントポプランが入れて7ポイントえっと誰かが入れたよ。」

とあいまいなことをいう。スコアがいえただけたいした記憶力だとアッテンボローは思った。

「うちのコールドウェルかな。」コーネフも熱い珈琲を飲んでいる。

そう、そんな名前だったなとヤンはコーネフにブランデーを勧めた。

「アッテンボロー提督は酒、入れないんですか。」と青年が聞くのでアッテンボローは

「実はそんなに飲めないんだ。」と苦笑した。



確かに美しい笑顔をする人だとコーネフは単純に思った。でもどちらかというと辛らつなことを平気で

いうときの口ぶりに魅力を感じる青年であった。



試合が開始されて再び司令部の登場であった。

「ミンツ君は心配ないですね。」コーネフが言うと

「うん。いささかびっくりしているんだ。話には聞いていたけれどね。ここまでとは。」

ヤンはアッテンボローをはさんでコーネフに「ユリアン自慢」をしている。

そもそもユリアンはヤンの所有物ではないから、自慢というのも妙な話だが本当

親ばかだなと中心で上を飛び交う会話を、アッテンボローは珈琲をすすりながら聞いていた。



「さっき1人で15ポイント、ユリアン君は入れましたね。見事でしたよ。」

「そうだろう。あのこは年間得点王だからね。」・・・・・・うれしそうなヤンである。

それを知らなかったくせにと女性提督は以前フレデリカに聞いたことを思い出した。



彼女の父上と当時ヤン中将とグリーンヒル中尉とユリアン少年の四人で食事をしたときに、

グリーンヒル大将にユリアンを文武両道で結構だと誉められてはじめてヤンは自分の

被保護者がこのスポーツで有名な少年であると知ったのだ。



この試合でもユリアンは21ポイントをいともたやすく入れてしまう。



「えっとさっきとあわせると36ポイントか・・・・・・。」

ヤンがもはや「親ばか」丸出しで興奮した面持ちで言う。

「この調子だと最多得点賞を取るかもしれないですね。ユリアン君。」コーネフが言うと

「司令部はユリアン一人でもっているようなものだな。」とアッテンボローは言った。

スタンド・プレーに関して提督は何かお言いでしたねとでもいいたそうなコーネフの視線を感じた。



「嫌味がない人間がスタンド・プレーしても赦せる。むしろかっこいいよ。あーあ。ユリアンが

私とおなじとしだったらなあ。絶対告白するのにな。」

女性提督がこれ見よがしにヤンに言うと。



「うーん。ユリアンにはシャルロット・フィリスがいるからね。あきらめなさい。アッテンボロー。」

と言われた。それにお前にはかわいい坊やがいるだろうとまで付け足されてアッテンボローは

黙った。



しかし。



「・・・・・・やっぱり薔薇の騎士連隊も強いよな。ブルームハルト大尉が主将だよな。確か。」

というアッテンボローの言葉に「強いでしょうね。普通の同盟軍の陸戦部隊じゃないですから。」

と、コーネフはさらりといった。



「あれ。素直に誉めるんだね。空戦隊と薔薇の騎士連隊は仲が悪いと思っていたよ。」

女性提督は隣の青年に聞いた。

「誤解です。アッテンボロー提督。正確にはオリビエ・ポプランと第13代薔薇の騎士連隊長の仲が

とびきり悪いだけです。多分余計こじれたのは提督が原因ですよ。どうも先にあなたを口説いたのは

要塞防御指揮官だけれど・・・・・・。変わったご趣味ですよ。ポプランを選ぶとは。」



空色の眸をしたコーネフにからかわれてアッテンボローはうーんとうなった。

「私の責任じゃないよ。」とは言うもののヤンとコーネフは笑う。

「説得力に欠けるな。アッテンボロー。」ヤンは明晰なる女性提督をからかう。



「提督、あなたのカウボーイのご登場ですよ。・・・・・・でもこの女性の歓声は・・・・・・どうにもならない

ですね。あいつがこういうところに出るとこうなるな。」



わが軍の綺羅星である空戦隊のご登場。

当然あの御仁もいる。

「アッテンボローのカウボーイ」殿は、会場の女性たちに惜しみなく投げキスをおくっている。

360度ご丁寧にキスをおくっている。





「・・・・・・あいつ。不特定多数の恋人の元に返してやったほうが幸せじゃないか。

水を得た魚って感じだよな。」

アッテンボローがボソッと言うので、コーネフは苦笑した。「提督の幸せのためにもなりそうですね。」



またも大歓声。今度は・・・・・・薔薇の騎士連隊。



「メインイベントだな。薔薇の騎士連隊と空戦隊か。どっちが勝つだろうねえ。」ヤンは興を覚え

観戦を愉しんでいる。「確かに好カードだな。空戦が負ければ私は賭けに負けるけど。」

女性提督は言った。「いずれにせよ。ポプランにとっても美味しい試合です。公然と薔薇の騎士連隊と

けんかができますからね。さっきまで反則は使ってないけど、今回はおそらく存分にその能力を

発揮するんじゃないでしょうか。」

コーネフの言葉にアッテンボローは、物騒だなと呟く。

ともかく女性の嬌声とエキサイトした観客の歓声がすごい。



試合が始まり、確かに先ほどのようにポプランはスムーズに得点できないようにマークされている。

動きも薔薇の騎士連隊であるから早い。

「・・・・・・クラフトとゼフリンにああも、はさまれてはポプランも動けないな。」

コーネフが感心して言う。



ポプラン少佐はなんとか8ポイントをゲットしたものの、先ほどの試合のように流麗な動きではない。

ややダイナミックなものとなっている。乱戦になってきた。乱闘気味にも見える。



アッテンボローはちょっとまずいと思った。

「これまずいな。」長い髪をいじる。「多分。薔薇の騎士連隊は「ポプランつぶし」にかかるみたいですね。

あいつをおさえれば勝てる見込みがありますから。鎮圧や武力制圧の基本でしょうね。」



え、とアッテンボローがフィールドを見ると薔薇の騎士連隊の一人と空戦隊のポイントゲッターである

ポプラン少佐が空中で壮絶にぶつかり合った。



コーネフは立ち上がりアッテンボローの腕をつかんだ。

「医務室いきますよ。提督、他の女性にポプランをとられたいですか。あいつは多分、肋骨を

おりましたよ。退場は眼に見えてます。いまなら他の女性より早くあいつのところへいけますが。

どうします。ポプランを見限るチャンスでもありますが。」



ヤンはアッテンボローに「ほら、早く行きなさい。とられたくないんだろ。」と促した。



コーネフに腕を引っ張られて走っている間、アッテンボローは他の女性にとるとられるじゃなくて、

ポプランの怪我のことが心配になってきていた。







案の定、いち早くコーネフがアッテンボローを医務室に入れて封鎖したので彼女は肋骨を3本おった恋人の

もとに来ることができた。軍医が処置して気を利かせてくれたのか、二人きりにしてくれた。



「くそ。ブルームハルトのくそがき。あいつらよってたかって攻撃して来るんだもんな。まったく。

いくらおれが反則王でも数でこられるとな。卑怯なやつらめ。」

などといってベッドに腰掛け興奮し、憤慨しているポプラン少佐の隣に座ったアッテンボローは、

人差し指でポプランの額をぴっとはじいた。



「・・・・・・ばか。」



馬鹿とはなんだといいそうになったけれど彼女が涙をこらえて自分を見ていることに気がついて・・・・・・。



「・・・・・・泣くなよ。ハニー。」

「泣いてないぞ。ばか。」

「肋骨おっただけだからな。たいしたこっちゃない。ほらこっち向いて。」

アッテンボローの右頬に触れて、まだ近づくと傷が残ってるなと思う。キスする距離じゃないとわからない

薄い傷。彼女の髪に指を差し込んで引き寄せて唇を重ねた。



「・・・・・・お前が頬に傷を作ったときのおれの気持ち、これでわかるだろ。」と頬にキスした。



「・・・・・・うん。少し。でも傷の度合いが違うじゃん。私のはかすり傷でお前は骨折だぞ。

・・・・・・心配するよ。」といってしまったら右目から涙が落ちた。

「綺麗な涙だな。かわいい女。もっとキスしよ。ダスティ・アッテンボロー。」



隣でうつむくアッテンボローを引き寄せた。

「・・・・・・・あまりきつく抱くとお前が痛いだろ。」

「お前が遠慮して甘えてくれないほうが男として痛いもんがある。おれのことまだまだ信用してないんだ

もんな。女1人の体の重みに耐えれないならおれは生きてる価値はない。ほらちゃんとおれに

甘えなさい。ハニー。お互い愛し合ってるんだし。おれはお前が思う以上に頼りがいはあるって。

おいで。」



・・・・・・おいでっていわれてももう腕のなかなんだけれどとアッテンボローは思う。



指で恋人の頬をなぞってみて。少し頬骨が高い男の顔。ゆっくりくちづけをする。

はじめはおっかなびっくりの触れるようなそれだったけれど深く、いとしむような甘いくちづけに変わる。

「な。おれ。全然元気だろ。」二歳年下の恋人は小憎らしいほどCUTEなウィンクをした。

・・・・・・うんと頷いてそっと男に寄りそってみる。温かな体温とやさしい鼓動が聞こえて幸せな気持ちに




・・・・・・。



「・・・・・・一つ疑問があるんだけど聞いていいかな。」アッテンボローは男から少しはなれてじっと相手を

見つめた。

「何。ハニー。」

「ポイントをゲットしたらなぜ観客席に投げキッスをするのかな。そんなに不特定多数の女性との恋がいいなら

・・・・・・いいなら・・・・・・・。」



別れてやってもいいぞという言葉が出ない。また右目から涙が一つ。



ぎゅっと惜しみなく抱きしめられてアッテンボローはそのままポプランにしがみついた。



「だってお前がどの席にいるのかわからなかったんだ。とりあえず四方八方におれは

お前だけにキスを送ってたんだけどな。わかんないんだな。それでやきもちおこしておれのこと

捨てるのか。かわいいなあ。泣かなくてもいいのに。鈍感でやきもち焼きのダスティ・アッテンボロー。

おれ、別れてやる気ないぞ。こら。」



今度はアッテンボローの額にこつんとポプランが額を当てる。



「な。おれたちこんなに愛し合ってるんだからさ。仲良くしよ。・・・・・・よくすぐここにこれたな。」

「・・・・・・コーネフがつれてきてくれた。お前を他の女の子にとられたいんですかって。」

「とられたくないだろ。ハニー。」ポプランはアッテンボローの顔を覗き込んで言う。

「うん。・・・・・・・いや。」



素直な返事によしよしとポプラン少佐は満足してアッテンボローの頭を撫でた。



でもさ・・・・・・。とアッテンボローは言う。

「あの時はとられるとかそんなんじゃなくて、骨を折ったってコーネフが言うからそっちが

心配で・・・・・・。」

「そかそか。ういやつだな。」

「・・・・・・ばか。」



「地獄だろうが天国だろうがお前の行くところ、おれはどこでもついていくって。愛してるよ。ダスティ。

すこしずつわかってくれよ。急がなくてもいいから。ゆっくりでいいからさ。もっともっとなかよくなろ。

誰も入る余地がないほどくっついて生きてこうぜ。」

うんと言おうとしたら優しい唇が重ねられて、今度こそ幸せな気持ちになる女性提督。温かな体温や

やさしい鼓動もかわいい彼も彼女は独り占めしていいらしい。







肋骨の三本くらい撃墜王殿にはへでもないらしく。恋人の女性提督との甘い夜を

お過ごしになったとか。

いつもより、甘い夜。



フライング・ボール大会でのポプラン少佐の得点数は41得点。これに対し三試合で54得点をあげた

司令部のユリアン・ミンツ軍属が最多得点賞と敢闘賞を手にした。

空戦隊はコールドウェル大尉が主将退場後チームを束ね見事優勝を手に入れた。

アッテンボローは賭けに勝ち、ヤンは司令部にかけていたから負けた。けれど。



試合後無事な少年を目にしてヤンは安堵し、とても上機嫌だった。少年を連れてレストランへ

繰り出した。



「お前は本当にいい子だよ。ユリアン。怪我もないし。よかったね。」

「はい。ありがとうございます。提督。・・・・・・でもポプラン少佐が怪我で退場さえなさらなければ間違いなく

少佐が賞を独り占めできたと思います。」

ユリアンは殊勝にヤンにいった。

ヤンは微笑んで言う。



「いいんだよ。それぞれに大事なものがあるんだからね。私はお前が元気であれだけ動けることが

うれしかったし・・・・・・ポプランも賞よりもっと大事なものを独り占めできたと思うし。いいんだよ。

冷めないうちにお食べ。今夜は家事から解放だ。なにせ我が家にはスーパースターがいる。」

と注文した料理を二人は仲良くいただいた。少年は少佐が何を独り占めしたかは理解できないけれど

少年にも、賞より大事なものがあり今独り占めしている。



少年はヤン・ウェンリーの人としてのあたたかさや、やさしさを何より大事に思っていた。








翌日。空戦隊の休憩室。



「肋骨をおられたわりに幸せそうな顔してるな。ポプラン少佐。」

コーネフは読んでいた本から顔を上げて僚友を見た。

「ま、人生薔薇色だな。お前にはかりを返しておこう。受け取れよ。」とコーンウィスキー一本。

薄く笑ったコーネフは「一本じゃ足りないほどお前さんたちの仲裁に入っている気もするがま、

ありがたくいただいておくよ。・・・・・・ところでお前右の眉の上になんかできてるぞ。虫なんて出る

季節かな。色男のくせにそういうのは隠さないんだな。」

色男だから隠さないんだとポプラン少佐は言ってのけた。そして口笛を吹いて紙コップの珈琲を

席に着いて一口。



なんだそれとコーネフはまた本に視線を戻した。「神曲」。

「またえらくセンチメンタルな本を読んでるんだな。」ポプランはあきれた様子で言う。

「うん。ま、自分でも読む気はなかったんだけどたまにはこういう本もいいかと思ってね。」

コーネフはよくわからないが読んでいる模様である。

「恋愛物語だからな。お前もよく読むべきだと思うぜ。」

「・・・・・ジャンルは幻想文学でサイエンス・フィクションの棚にあった。」

「でもただ1人の女が出るだろ。愛の物語だぜ。」



「・・・・・・まさかお前読んでるのか。」

とんでもないとポプランは言う。「おれは本が大嫌いだ。生身の女が好みだな。」

やけに機嫌のいい僚友を横目で見たがまた本の世界に没入するコーネフである。



肋骨をおり右眉の上の傷も隠さずに機嫌よく鼻歌を歌うポプラン少佐を目撃したものがその日一日

首をかしげた。



「なんでそんなに機嫌がいいんだろう。」



その理由はオリビエ・ポプラン少佐と、ダスティ・アッテンボロー少将しか知らないとか。

いや、1人要塞防御指揮官殿だけが呟いた。



「馬鹿なやつらだ。」





甘い夜の真相はまた後日・・・・・・。



by りょう




LadyAdmiral


My Sweet Darling

いったい何がスィートなのかはらはらしながら「もう、わしかけないかも」と思いつつ

最後スィートにまとまりましたね。(後日談がうまくいきますように。

小説を書くときお題に困ります。娘ではうっかりうたのタイトルにしようと決めたから

普段音楽を聞かぬ私が聴く羽目に。



いささか古いですがヤイコチャンデス。大阪出身だから応援しよう。

とかいいながら違う曲聞いてますけれど。

昨日から祭りをしていたので小説の勘が戻らなかったんですね。

・・・・・・・いつもかんをつかんでいるともいいませんが。



しかしダンテの神曲まで出てくるのか。染血の夜で焼かれているかもですが

ベアトリーチェに導かれてください。コーネフさん。(うそうそ

私はクリスチャンではないですし。ポプランと同じくあれは恋愛小説だと思っております。

それにしてもおまえら、仲がいいなとアッテンとポプランに告ぐ。

・・・・・・甘いよ。(苦笑。


LadyAdmiral