やさしい気持ち・4



アッテンボロー提督の私室。



そういえば。



「そんなこともあったね。なんだかすごく昔のことのようで忘れていたよ。」

首の痛みも治まり元気溌剌と職場復帰を果たしているアッテンボローは仕事を終えて夕食の支度をした。

「わすれてたのか。ハニー。反省の色が見えないな。あのころってハニーのはじめて手料理を食べたりさ、

ここで過ごしたのもはじめてで。手もはじめて握っちゃったな。無意識で・・・・・・。で、あのあとまた一回

ふたりで飲見みに行ってさ。・・・・・・んでおれ結構気張って薔薇とシャンペン持って「告白」

したら・・・・・・・。」



「私が膝蹴りしたんだよな。でもお前腹筋が見事だから痛くなかっただろ。」

などとにっこりと微笑むアッテンボローである。



「腹よりハートが痛かったな。おまけにあのあと変な噂が流れるし、不良のあの野朗がお前に

キスするし。もうげんなりしたぜ。」

ローストチキンを切り、温野菜サラダを用意している彼女を後ろから抱きしめる。



『要塞きっての、いや、同盟軍きっての若く生命力に満ち溢れた女性提督ダスティ・アッテンボロー少将と、

空戦隊エースでレディ・キラーのオリビエ・ポプラン少佐が・・・「男女の仲になっているらしい」』



淡い金褐色の髪を撫でて顔を引き寄せ、アッテンボローはキスする。こんな美味しいことあの当時は

絶対ありえなかったことだなとポプランは思う。翡翠の眸がすっかり宙の青い色。それは彼女が恋人を

思うときの眸の色。自分からキスしたことにばつが悪くなったのか、アッテンボローはそっと唇を離して

「なかったふり」をする。・・・・・・照れているのだ。



「続きは食事してからね。ミネストローネを温めて・・・・・・パンはいい感じにできてるからいっか。

なんか一品欲しいな。こういうときの圧力鍋だもん。ロールキャベツ作ろう。オリビエさん。食べる?

食べたくない?」

「食べたい。そのあとハニーが食べたい。」



邪魔はしないけれどいちいち耳元でささやかれるのでアッテンボローは赤面する。もう一年以上もたつと

いうのに。そんな彼女の顔を間近で見れる唯一の男がオリビエ・ポプラン。



初めて一緒に過ごしたベッドの中でも右頬に薄く、ほぼわからぬ傷がのこっていた。それでも彼女が

一番大事な存在で。そして一年半過ぎてもなお、綺麗になった素肌を見ても愛情は募る一方で。



「・・・・・・なんかついているかな。顔。」

ううん、とポプランはいう。



「かわいい唇と綺麗な眸と愛くるしいそばかすがついてる。」

ばか。

ほほを朱に染めたアッテンボローはうつむいたままあっという間に料理をこなす。



そんな彼女を見ているとオリビエ・ポプランはやさしい気持ちになる。

アッテンボロー1人になかなか決めることができなかったけれど今は彼女がいれば心が

あたたかくなる。これは心地のよい、幸せ。



食後。ポプランは用意していたものを振舞う。

「ベイリーズ:20mlにカルーア・コーヒー・リキュール:20ml。ディサローノ・アマレット:15mlと

生クリーム:15ml、牛乳:15mlをステアして。」



「本職じゃないから色や感じは違うけれど、ハニーが好きなカクテルだ。」

大き目のグラスに氷を浮かべ・・・・・・。

「・・・・・・あのときのカクテルだね。」受け取るアッテンボローはやわらかいやさしい微笑を浮かべる。

このカクテルの名前がいえなくて。

「お味はどうかな。ハニー。」とポプランが聞けばアッテンボローはピースサインを出す。

「美味しいよ。甘くて。」近寄って頬をみてもあの傷は残ってない。よかったなと思うポプラン。



傷。



「残らないっていったじゃん。家の猫に引っかかれた傷だって消えるんだし。オリビエ。心配性だ。」



白い指をポプランの金色に近い赤毛に手をのばし、アッテンボローは触れる。

「いつでも、お前が守ってくれるんだろ。信じてるよ。・・・・・・・あの日からずっと。」

宙(そら)色の眸の周りの白い頬がほのかに染まって。髪を撫でていた指が耳をなぶってポプランの

頭に添えられた。



「・・・・・・あれはお前の手を私が・・・・・・握りたかったから。なんだかね。口説かれるとかそういうの忘れて

お前の手、つかみたかったからね。その時いったよな。おれより前に行かせませんだっけ・・・・・・。

覚えてていいのかな。」



戸惑いがちにアッテンボローはポプランの顔を引き寄せる。

キスをすると珈琲とクリームの甘い味。彼の指が銀の髪をすいて彼女を抱き寄せる。

「・・・・・・もちろん。これからも忘れなくていい。何か危険なことがあれば必ずおれを呼ぶ

こと。そしておれの前にたたないこと。いきてる限り忘れるなよ。ダスティ。」

頭をポプランの肩に乗せてアッテンボローは頷く。目を閉じて寄り添う彼女の肩をポプランは

抱いた。






そういえばさ。



「香水は「eliotropio」だよな。ヘリオトロープの香り。いつもこれだけど何か理由があるわけ。

ハニー。それは姉上のブランドでもないしな。」ベッドで肌を重ねたあとまだ残るそのかすかな香りが

ポプランには心地よい。



本当は邪道なのだろうが彼女は胸元に香水をつける。手首や足首、ウェストが一般的だが彼女は

日に当たる髪の毛や、胸元にもつける。シャワーを浴びても時々その香りが残る。

それはかすかで心地よい香り。



「「eliotropio」にとくに思い入れもないけどね。はじめて買ったのがこれなんだ。勤務中にプンプン

させるのもよくないだろ。いろいろと試したけど私は割りと早く香りが飛ぶものでも香りが残るらしい。

なにかいい香りってないかな。香水は好きなんだ。お化粧は・・・・・・あんまり好きじゃないままだよな。」

彼の腕に顔をうずめて耳だけ赤い彼女。流れる長い髪が美しい。



こういう女はまれにいる。



何も手入れしていないのに美しい女。アッテンボローなどその類で体毛がまず薄い。だから無駄毛の

処理というものもしなくていい。髪も癖がないし、普通の女性以上に食べるけれどその分動いているから

太りもしない。素顔が綺麗だから化粧も必要ない。たまにいる。



「香水かえるの。気分転換に。」ポプランがアッテンボローの前髪をすくって眸を覗き込む。

「探すのが大変だな・・・・・・。化粧品売り場苦手だから。・・・・・・つきあってくれる。オリビエ。

化粧品売り場には綺麗な女性がたくさんいるぞ。」



行こう。今度の休みでも明日の仕事が終わってからでも。



「どんな香りにするのかな。ハニー。愉しみだな。愛してるぜ。」

抱きしめられてアッテンボローはう、とうなって。



「・・・・・・なあ。これはある御仁のいう言葉なんだが。女っていうのは17歳から30歳までが熟れごろとか

耳にした記憶がある。随分昔だけれどな。私はあと2年すれば女として終わりなんだろうな。それをいった男

っていうのは、空戦隊のやつで赤毛っぽい金髪で・・・・・・緑の目をした色男だ。今年の11月で29になるし

ちょっと気になるんだ。なあどう思う。オリビエ・ポプラン。」



男を組み敷いて女はいう。腕も筋肉だからきつく抱かれると苦しいのでアッテンボローはそれから

逃げ出した。



「ううむ。どうもその坊やはいい女に出会ったことがないようだ。20代は少女期を過ぎて大人の女性

への階段をこれからのぼる時期だろ。で、30代の女はまだ女の門扉をくぐったばかりといえる。

40代でやっと本物の女になるんじゃないか。俺はそう思うな。そいつは女を知らないあまっちょろい、

ぼうやだな。気にするな。忘れろ。ハニー。」

「お前がその坊やさ。この野朗。忘れないぞ。ばか。」

アッテンボローは笑って男の鼻をつまんだ。



流れる銀の髪が綺麗だなとポプランは思う。銀に翡翠を溶かし込んだようなすとんと流れる、

アッテンボローの髪。

「ここまで長くて枝毛とかないのが立派だ。ま、おれの努力の賜物でもあるよな。毎日洗ってトリートメント

してちゃんと乾かしてスタイリングするのおれだもん。」



そういわれると困るアッテンボロー。

ただ伸ばしてきたから、結果そうなっただけなのである。

「そうだ。今度コーネフにシュミレーション習ってみよう。」

「どうしてすぐそう意地悪なこというかな。ハニー。ここにいるでしょ。空戦隊の飛行隊長が。天才の。」

「・・・・・・もしお前が用兵を習うときヤン・ウェンリーから習うか。メルカッツ提督に教えをこうか。」



・・・・・・堅苦しいけれど。

「うちの司令官に教わってもな。あれは変わった人だし。基本から習うなら堅苦しいけどあの、帝国の

客員提督かな。無難そうだ。」ポプランは認めた。

「だから私はコーネフといっているんだ。彼も天賦の才はあるけれど・・・・・・お前は模倣の対象に

ならない。第一お前の真似なんぞできないよ。」

アッテンボローはポプランの額にキスをしていう。

「一番だいすきなのは、お前だよ。オリビエ。」



そうかわいい笑顔でいわれるとな。「でもコーネフとふたりきりになるな。」

「シェーンコップともだろ。・・・・・・でもコーネフはユリアンくらい安全じゃないか。」

「ユリアンもそろそろ危ないがあいつは別の美人を好きだから、特別に赦す。コーネフはだめだ。

あいつはおれよりまじめに見えるだけで十分不良なんだぞ。」



・・・・・・そんなに自分が男性諸氏からもてるとは思わないアッテンボローは困るばかりであった。



「コーネフに告白してたら、今となりにいるのはあいつかな。でも振られてるかもしれないし、

1人で寝てるかもな。」



そんな女のたわごとを聞きつつ。コーネフがアッテンボローに告白でもされようものなら速攻子作り

して軍人を辞めさせているような気がした。本当は自分もそう出たい気もしたのであるが、やはり

彼女が仕事をこなす姿も好きなんだろうなと思う。そんなことを考えているとぴとっとアッテンボローが

くっついてきた。



・・・・・・体温が高いな。



「ハニー。寝るか。ほら背中向けて。だっこしてやろう。」

うんと彼女はポプランに背を向けて丸まって寝息を立てる。その体を抱きしめる。



子供と一緒だよな。体温が高くなると眠いっていうのは。



本当は腕枕で寝ていいというのにアッテンボローはそれではポプランの腕がかわいそうだと

いつの間にかこんなふうに二人眠ることが多くなった。アッテンボローの寝顔は覗き込まないと見えない

けれど。・・・・・・これもありかなとポプランは思う。



いろんな女性と恋をして。

今彼女と一緒にいる。それは何となく彼をあたたかい気持ちにする。どこか無垢なところを持つ

女性提督。



やさしい気持ちになり撃墜王殿もまどろむ・・・・・・。



by りょう




LadyAdmiral


「やさしい気持ち」


絶対書き直すな。予感がします。



「なけない女のやさしい気持ちをあなたがたくさん知るのよ

無邪気な心で私を笑顔へ導いてほしいの。ぎゅっと私をだきしめて」



何となく続きで二人が飲みに行ったりヤンに見つかったり憲兵よんだりって

いうところが抜けてたので書き足そうと。

当人は3までは楽しくかけたけれど4はうーんこれでいいのか私と

一日考えるも次の話に移ったほうが得策だと。

結局ね。うちのポプランさんはアッテンが好きなんです。

美人だからだけじゃなくて鍋が欲しいとか(そんな友人がいました)

そういうことが大事と思っている女の人。

で、同盟憲章をそらんじれちゃう。

ビリヤードのくだりは昔を思い出して考えましたが3ショットで全部落とすのは

物理的にできるのかなぞ。

6時間ごとに抗生物質を飲ませるのに有無を言わせず電話したいポプランさんが

ちょっとかわいいなと。私の脳内ではこのふたりはできている。(いやもう十分できてるでしょ

後日きっとポプランさんが圧力鍋を買ったんだと思う。

カクテルに関しては今回やたら調べて面白かったです。

もうすぐ幼帝誘拐だな・・・・・・。(引き伸ばそうとする私。

アッテンボローがヘリオトロープの香りをつけているのは原作で

ポプランさんがエレベーターに乗ったユリアンとそんな話をしていたような。

ヘリオトロープな。私はバニラとか白檀が好きだ。


LadyAdmiral