愛してない
目を覚ますとまだ首が痛む。筋肉痛はともかく、首や関節を痛めたのは重力調整室での 訓練だろうとオリビエは言っていた。実際体が元に戻った瞬間、自分に何が起こったかわから なくて全身倦怠感と鈍痛、疼痛で声が出なかった。 幸いオリビエがすぐに気がついてくれた。 自分は飲まなかったくせに鎮痛剤と胃薬も飲まされた。湿布を変えてもらい・・・・・・。 首は固定ばかりでもだめでときどきストレッチをするように言われたけれど。 学生時代にあった10キロ障害物歩行訓練より100倍痛い。 あのときは軽い筋肉痛ですんだ。先輩は・・・・・・死んでたっけ・・・・・・。 「ハニー。気分はどう。」オリビエが覗き込んでくる。 「首だけまだ痛い。」 「・・・・・・すまん。」あやまる撃墜王殿。そんな悲しい、かわいい顔して。 本当に明日仕事に出る気なのかと聞くから、私には私の艦隊があり部下もいる。これ以上いらぬ不安は させられないと言ってみる。正直、分艦隊の連中は順応性が高いのか多少司令官の私が不肖でも、会戦 したときにきっちり仕事をしてくれる。親がなくとも子は育つじゃないが、今が平時に近いからだろうな。 何時と聞くと1830時という。夕方か。キャゼルヌ夫人のキャベツを煮込んだスープは美味しかった。 消化にいいみたいで、おなかもすいた気がする。 相変らず、困った顔してこちらを見る私の恋人。 「そういう顔をしないでいいよ。何もお前に悪いところはないだろ。すぐなおるから。」 指を男の唇にそわす。 「でも、お前の体なのにかなり無茶したと思うし・・・・・・。」・・・・・・無茶したんだ。くくっと笑いが もれた。かわいい男だな。初めてこの男のプライドを見た気がする。それはちょっと素敵だなと 私は思った。かっこいいとかじゃなくて、素敵。 「な。首が痛いと、えちは無理かな。」 ときどき私からあまりに彼がチャーミングだと、誘いたくなる。いとしすぎて思う先に声が出てる。 「・・・・・・無理じゃないけどさ。お前痛そうだしな・・・・・・。普通の女だったら口も利けないと思うし。 ほんと、悪かったなって思ってる。」 謝ってばかりだ。 じゃあいいやと私は不貞寝をすることにする。 女から誘ってるのにのってこないんなら、しばらくおあずけだ。かわいくない。 「ごめん。ハニー。愛してるから・・・・・・背中向けるなよ。」 「私は愛してないよ。」 言うに事欠いてちょっといやな女になってしまった。体が痛むからこそ、側にいて欲しいのに。 それに体が痛むのは恋人のせいではないから、もう謝らなくていいのに。 いつもの笑みが見たかっただけ。 愛してる。 でもいつまで側にいれるかわからない。 だからときどき愛していないと自分に言い聞かす。 けれどやっぱり愛してる。でもいつかはさよならを言わなくちゃいけない。 お互いきっと歩く道がちがう。 私にはそれが見えるから。 見えたくないけれど私には見える。 なぜ見えるのか。それは私がヤン・ウェンリーの背中を見ているから。 彼が何かにからめとられている予感を私は感じる。そうなったとき私はお前から離れて 彼を守りたい。彼は大事な友人だから。 でもお前はいつか言ったよね。「お前を置いて空で死なない」と。約束してくれたよね。 お前のこと誰もわからないだろうけれど私は愛してる。 仕草も、表情も、髪の色も、肌のぬくもりも。すべて手放したくない大事なもので。 こんな矛盾を抱いた私はお前に「愛してる」とは、いえないときがある。 首に気をつけて私を抱きしめるときの胸の鼓動も。 「お前のこと、ほんとに愛してる。多分お前が思う以上に、おれはお前がわかる。」 「離せ。」体が抗わないから、口だけで抵抗する。 「離さない。」いつでもとけるような優しさで抱きとめてるだけ。 じゃあ離さないで。今は離さないで。いずれ別れゆく二人だから、離さないで。 ・・・・・・先にお前と出会っていればよかった・・・・・・。迷わず側にいて離れないで生きれたと思うのに。 そんなことお前になんかわからない。私のことなどわからないよ。こんなに普通に恋に堕ちるなんて 私は、予測してなかった・・・・・・。 頬に唇を感じる。 「泣いてないよ。」 腕の中で言ってみるけれど私は泣いてるんだろうな。 「・・・・・・おれはお前が思っている以上にお前を見てる。だから何も心配要らない。」 「じゃあ心配しない。」本当に心配なんてしたくない。疲れるよ。 「じゃあ。キスしよ。」恋人が言うので。 「勝手にしろ。」と私が言う。あ。でも唇がかさかさでヤダナ。自分。 「やっぱり勝手にするな。」というつもりだったけれど遅かった。 恋人の体が覆いかぶさって・・・・・・やっぱりだめ。昨日風呂に入らないで寝たから、絶対 やだ。女としてそれはいやだ。 「え。なんでいまごろ抵抗するの。」 「やだ。だってお風呂はいってないから・・・・・・。困るよ。」 「においとかきにするわけ。いまさら。」 「にへらと笑うな。気にするんだよ。いまさらとか言うな。」 じゃあいいことがあるとオリビエ・ポプラン少佐は言う。 「風呂で綺麗にしながらイイコトシヨウ。」簡単に抱き上げる。ま、私も奴の体のときに自分が そう重い女ではないとわかった。179センチの女はそれなりに心の傷を持っている。 「痛くしないから安心して。ハニー。」 ・・・・・・。ときどき。この男の言葉を心から信じたいときがある。 本当に私が思っている以上に私のことがわかってるのかな。私の視線の先に何が写っているのかまで わかるのかな・・・・・・。 そんなわけない。 「愛してる。ダスティ。」 「I guess so.」 多分ね。 お前がとてもかっこよく見えた。ついていきたいなと思った。だから自分の体がつぶされても ぜんぜんかまわなかった。I guess so.やっぱり自分はかわいくないよ。愛してるといえない。 愛してないよ。でも、愛してるんだ・・・・・・。こんな気持ちは、お前にはわからないよ・・・・・・。 by りょう |
「愛してない」
-Acid Black Cherry-
本当V系じゃないです。本当はピアフの曲をタイトルにしようかすごく迷いました。
アッテンボローはうちでは女性でヤンのことをとても尊敬しています。兄としてか
用兵の先輩なのか。恋愛ではありません。これは彼女の性質としてつくしたがりなので
ヤンが相手だと他のことができないから無理だと語らせているはず。
ヤンの場合は足の指のつめも彼女なら切るだろうので手間がかかりすぎで恋にするには
大変だと娘は思っています。
彼女はヤンの背中を見ていますし取り巻く環境も見ています。明晰なる推察力をもち
同盟軍が帝国と互角に戦えるかすら危ういと思っています。それは同盟政府の妙な
動きを感じているから用兵で負けるというものでなく、政治で負けるのではと心配です。
そんな彼女が本気で恋をしたのが撃墜王殿。
足の爪を切らせるどころか、マニキュアまで施してくれそうな彼。
旧娘を読んだ記憶がある方はご存知ですがバーミリオンがきっかけで二人は別れます。
「コーネフの戦死」はポプランの大きな傷となり、
「ヤンの停戦」はアッテンボローが覚悟したことです。
でもラストは必ずハッピーエンドというのが私流なので悲劇にならないです。
あまっ。って感じで。
二人が思っている以上に2人はお互いをよくわかってますよと。
今度は首なし幽霊事件かな・・・・・・。(バーミリオンを回避しようとする私。)