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「薔薇の騎士連隊に1200人精鋭がいたとしても、オリビエ・ポプラン以上の撃墜王が出るはずがない。 おれの提督はさすがによくわかってる。今日はいささか無様な姿をさらしたが、慣れれば取り戻せる 感触はあった。むざむざ操縦席を明け渡すのは真っ平ごめん。この体でも天才の名に恥じないパイロットに なれる確信はありますよ。キャゼルヌのだんな。」 中身ポプランの撃墜王としての矜持が赦さないのであろう。 中身アッテンボローはすばやく支えてソファに座らせた。 「・・・・・・そうはいってもな。お前の気持ちはよくわかるが・・・・・・。」 キャゼルヌが口にしたとき、ユリアンが来訪してきた。 中身アッテンボローが招き入れて少年は、リビングに座っている中身ポプランが起き上がっており、 すごい形相をしていることにふと驚く。 だが、今ヤンの執務室でどのような会話がなされているかを告げた。 「薔薇の騎士連隊に反目も疑義もないけれどやはりコーネフ少佐は、「オリビエ・ポプランは艦載機 一機で敵戦艦を沈めることができる100年に一度の天才だから、あの体でも使うしかない」と 断言されました。」 そんな無茶なことをコーネフもよく言うなとキャゼルヌは唖然とした。 ユリアンは続けた。 「ええ。そういうことでシェーンコップ少将もリンツ中佐も、コーネフ少佐は無茶を言うと意見 してらっしゃいます。ヤン司令官はまだ決断できないからどんどん討議をして欲しいと。 そういう状態です。今はグリーンヒル大尉が入れ替わりで司令官執務室に入りましたから、また 話は聞けると思います。」 それを聞いた中身ハートの撃墜王殿は笑った。 「こういうきだけ奴とは馬が合う・・・・・・。」 おれの提督と、中身アッテンボローの目を見据えて言う。 「体借りるぜ。容赦なく、な。」 中身撃墜王が言うと、中身女性提督は頷いた。 「遠慮なく使え。後のことは私が責任を持つから。」 「お前たちは本当の馬鹿なのか。アッテンボローまで何を言うんだ。ポプランの状態を見れば 体がおかしいのはわかるだろう。何を2人で盛り上がっているんだ。無茶をとめるのがアッテンボロー、 お前の役目だろうが・・・・・・。」 キャゼルヌがあきれていさめると、中身アッテンボローはいいんですと言う。 「いいんです。こんな青臭いことを堂々と言い切りまた実行するのがこの男の本懐ですし、 私はそれをいつでも支持するつもりですから。オリビエ・ポプランに代わる空の英雄は、私には とても考えられません。」 中身ポプランが立ち上がり司令官執務室に行こうとして玄関へ向かった。 「少佐、ご無理が過ぎます。」 少年は駆け寄ったが、きつと中身撃墜王ににらまれた。 その目はアッテンボローの眸なのだが、ユリアンは自分の上官が時折見せる厳しい視線だと気づき、 一瞬躊躇した。 中身アッテンボローは付き添おうと、歩き出した中身撃墜王のあとをおった。 そのとき後方にふらついた中身撃墜王殿を抱きとめようとしたが、そこに少年もいたので うまくカバーできずにユリアン以外の2人は倒れ玄関の固い床に後頭部をしたたかに 打った。 「やっぱりご無理なんですよ。ポプラン少佐、静養なさってください。アッテンボロー提督 大丈夫ですか。」 頭をしたたかに打ったので、ポプランはアッテンボローを抱きかかえたまま頭を振った。 「くそ。頭ばかりぶつけやがるぜ。ハニー。大丈夫か。頭打ってないか・・・・・・。」 ユリアンもキャゼルヌもあいた口がふさがらない。 ダスティ・アッテンボローはいみじくも同盟史上初の女性提督で、言うに事欠いて「くそ」と悪態は つかない。彼女が言うとしたら、「ちくしょう」までだろう・・・・・・。 「・・・・・・ポプラン少佐、ですね。」 少年は、起き上がって女性提督の体を抱きかかえる撃墜王に問うた。 ポプラン少佐は「オリビエ・ポプランですら苦しんだ筋肉痛と胃痛および各関節部の損傷」で 声も出ない女性提督に気がつき。 「ユリアン!湿布だ。ありったけの分をコールドウェルからかっさらってこい。鎮痛剤と胃薬もいるぞ。 キャゼルヌのだんなはオリビエ・ポプランは復活したがアッテンボロー提督が全治一週間の筋肉痛と 首のむち打ちだとヤン司令に言ってください。それと小官は操縦席を誰にも譲りませんとも。」 少年は駿馬のようにかけだし、キャゼルヌはわかったと司令官執務室へ急いだ。 走っている最中、全くあの2人の馬鹿によく翻弄されると毒づくキャゼルヌ要塞事務監殿であった。 結局コーネフ少佐の普段からの教訓。 「ポプランという男ははたいてい周囲に迷惑をかけ、困らせる。 オリビエ・ポプランが困ることは少ない。 しかしオリビエ・ポプランが困るとき。 実は周囲はもっと困惑する羽目になるのだ。」のとおり今現在の被害状況がもっとも大きいのは ダスティ・アッテンボロー分艦隊司令官殿であった。 ベッドに彼女を横たわらせて、姿も中身も撃墜王であるポプランは 「・・・・・ハニー。痛いだろ。すまん。今湿布かえるから待ってくれ。」 アッテンボローはあまりの筋肉痛と胃のむかつき、首と腰と関節の痛みに声も出ないけれど、 かろうじて「うん。」と声を漏らした。 ユリアンはコールドウェル少尉から大量の湿布薬や膏薬を調達して、すぐに部屋を辞した。 彼もまた司令官執務室へ慌てて走り出した。 あの2人には散々振り回されるとシェーンコップは憎憎しげに言うが、ヤンは安心した。 やれやれ。 空戦部隊というものを甘く見てはいけないな。近い未来に行われるであろう艦隊戦では 制空権の奪取が大事になる。制空権を簡単に明け渡せば、艦隊は敵艦載機の攻撃に さらされ艦砲以前に敗退する危険性がある。 完全なる制空権はおさえられずとも、陣形を建て直し攻撃のめどをつけるためにも艦載機の 存在と功績は大きい。特に私の艦隊は最前線であり・・・・・・ローエングラム公はたぶん 私を倒したという実感がなければ、帝位についてもその心に一点の曇りが消えることはない。 ・・・・・・ちょっとうぬぼれすぎかなと思うけれど。 それを戦略レベルに使う手立てはないものだろうか。 ローエングラム公は何をもって自由惑星同盟軍を討伐するであろう。 戦端を開くには「大義名分」が必要となる。どんなにくだらないきっかけでも宣戦布告を するのに、錦の御旗がいる。 そしてやはりイゼルローン要塞が要になるとは思えない。 戦端が開かれたとき・・・・・・これだけ絶対数に開きがあるが私は帝国を各個撃破 できるであろうか・・・・・・。 勝算があるとしたらそれは何であろう・・・・・・。 ヤンがすでに騒ぎの中、沈思黙考していることにフレデリカは気づき紅茶を用意した。 ユリアンは「あまり召し上がらないでくださいね。」とブランデーのボトルを用意してきた。 「ふたりとも、ありがとう。」 その言葉で、シェーンコップはもう我が司令官殿が次の布石を考えていると邪魔に ならぬように、静かに執務室をあとにした。 コーネフ少佐も一安心した模様である。 一両日中に解決を見ないと思われる難事が解決したのだ。 次の「より大きな課題」がヤン艦隊には山ほど待ちうけてる・・・・・・。 帰宅。要塞事務監宅。 「まあまあ。とても信じられないような騒動でしたのね。帰りが遅いから何事かと 思いましたけれど・・・・・・ともあれ、無事で何よりじゃありませんか。」 オルタンス・キャゼルヌは、夫が着替えた制服をきちんと型を整え、風通りのよいところに 一日出した。明日着せる制服はちゃんと用意している。 「笑い事じゃないぞ。・・・・・・それにしても久しぶりに走ったな。俺も筋肉痛になりそうだ。」 そんな年よりめいたことを言わないでくださいと、妻はにこやかに言った。 「もっともアッテンボローはむち打ちにもなっているらしい。ポプランだから痛いだの言わなかったが ・・・・・・ま、あいつも自分の言った言葉には責任を取らなければいかん。ポプランが 大言壮語をはき実行するのをアッテンボローは「責任を取る」といったんだ。かわいそうだが しばらく首を固定だろうな。」 オルタンスは小さな口を少しあけて手を当てた。 「あら。お食事どうされるのかしら。あなたちゃんと聞いておいてくださいね。 用意をしないといけませんから。かわいい後輩の女性提督がお気の毒でしょ。」 「・・・・・・ポプランがつくるだろう。」 「胃腸が弱っているときの食事ですからね。私の手が必要なら言ってくださいな。」 ふむ。事務監殿は考えた。 明日でもポプランに電話で尋ねてみるか。 「うちの家内が食事を作ろうかといっているが、どうだ。」とでも。 帰宅が遅かったので、娘2人は父親が帰るのを待ちあぐねて眠ったという。 2人のあどけない寝顔をそっと見て、事務総監殿は簡単な夕食をとることにした。 娘たちの成長が楽しみで働いている世の父親とかわらぬ実像である。 「もう時間が遅いですから、あまり胃のもたれないようなものにしましたよ。 お酒は何になさいます。」 「・・・・・・ブランデーをもらおうかな。アッテンボローとウィスキーを飲んだから。」 はいはいとオルタンスは、まるで魔法の杖でも持っているかのごとく、あっという間に 酒と少量の酒肴を用意していた。 けれどアレックス・キャゼルヌはそれでは驚かない。 できのよい妻を持つと、亭主はだめになる。 だからオルタンスはときどき辛らつなことを、ぴしゃりと夫に言うのを忘れない。 結婚生活を継続させるコツは、料理の腕で胃袋をつかむこともさることながら、 夫を調教することだと彼女は知っている。 実は本質的に、帝国軍上級大将ウォルフガング・ミッターマイヤーの愛妻、エヴァンゼリンも 同じことを夫にしている。だがミッターマイヤーは人間性が伸びやかでおおむね素直な性質なので 妻が言うことは頭からほぼ、鵜呑みにする。純粋に妻の言葉を受け取る。エヴァンゼリンの物言いも 愛らしさがある。 対してアレックス・キャゼルヌは偽悪の趣味がおおいにある。 人間性は素直でもあるが、やや悪趣味な言葉を平気で使い言われたところでご当人は、 気にならない。実は妻が言いたいことを存分に言っているわけでもない。 言われるようなことをしているから、彼女はひとこと「いけませんよ。」と釘を刺すのだ。 「愛妻家」と「恐妻家」のわずかな距離。 キャゼルヌ夫妻に愛情が介在しないのではない。新婚ではない上に夫妻はそろって 現実的で合理性を重んじた。この2人は人のことをよく言うけれどやはり、似ている もの同士結婚したのだ。 「アッテンボローはもう少し思慮分別があると思ったんだが。2人とも立場をもう少しわきまえろといった ところで聞かない。あの2人に振り回されたのは1度や2度じゃすまないんだぞ。」 「でも、ポプランさんとよいご関係じゃないですか。仲むつまじくてほほえましいですよ。」 「・・・・・・結婚しないのかね。俺も似合いだと思うから、ある意味わかって振り回されて やってるんだ。」 オルタンスはキッチンダイニングで食事を取る夫の言葉に耳を傾けながら、明日の 料理の準備をしている。 「お二人が遊びにこられたとき、はじめてポプランさんとお話をしましたけれど・・・・・・。 あのひとは女の人もでしょうが、小さな子供もお好きみたいでしたよ。 女親には来客が子供好きなのかそうでないのか、瞬時に見極めて対応する必要が ありますからね。そういうことはわかります。娘たち、2人ともポプランさんにくっついて はなれなかったでしょう。むしろアッテンボローさんはご自分が末のお嬢さんだから、 シャルロットが生まれたときおっかなびっくり赤ん坊を覗き込んでましたよ。 ・・・・・・ポプランさんはきっといいパパになると思いますわ。」 キャゼルヌは頓狂な声を出した。 「パパ?あれがか。」 あなた。人様のことをそんな物言いをすると嫌われてしまいますよ。 「アッテンボローさんが気に入っているということが大事なんですよ。あのひとはヤンさんと 同じで普通の家庭人に納まるには、今の時代は不向きでしょうね。今までどんな方と お付き合いしたかは私は知りませんけれど、アッテンボローさんが振り回しても、それでも まだついてくる人しかあの方に似合う殿方はいないと思いますわ。ポプランさんなら、 どんな障害を越えてもアッテンボローさんについていらっしゃるんじゃないかしら。 楽しみですわね。」 グラスを傾けて、一言。「そういう時代が来るといいな。」 こんなときはオルタンスは夫の気質のよさを、快く思う。素直さをいとしく思う。 ええ、と返事をして。氷は足りてますの?と伺いを立てた・・・・・・。 ベターハーフ。 よき伴侶。 ベストではない、1/2。 青臭くて結構じゃないですか。 ベストではないところに向上の余地があるとオルタンスは後片付けをしつつ思った。 後日談として。 翌日の0800時。 アッテンボロー提督、2日病欠となる。 コーネフ少佐が中身ポプランにかした訓練で、自称エリートであるオリビエ・ポプランの矜持と 意地があり筋肉痛と胃痛程度で弱音を全く見せなかったのであるが・・・・・・。 エリートの矜持も意地もない女性提督はひどい筋肉痛でずっと眠り込んでいる。 実は筋肉痛だけではなく首や腰を痛めている。筋肉がなかったから重力の加速で 打撃を受けている。重力加速度10Gのなかでトレーニングとブリーフィングを 「実質受けたのはポプラン少佐」であるが体が入れ替わったので、「実質後遺症に 苦しむのはアッテンボロー提督」となる。 通常10Gの重力加速度の中でブリーフィングはしない。 筋肉トレーニングもしない。 重力加速度10Gでの負荷は体重のおよそ大雑把に10倍近くになる・・・・・・。 単純に考えれば。女性提督がむちうちになるのは当然。 このメニューを考案したのはオリビエ・ポプラン少佐。 新兵の体に筋肉をつけるためにややこれよりハードルを下げた訓練を受けさせてきた わけであるが。 なにせ体は女性提督であっても、心は撃墜王殿であるからややハードルを上げた訓練でないと 彼の矜持が赦さない・・・・・・。オリビエ・ポプラン少佐はエリート軍人であるので痛みに強い。 ダスティ・アッテンボロー少将はいやいや軍人であるから痛みに強くなくていいと思っている。 さすがに、ぐったり寝込んでいる。 「ハニー。・・・・・・ごめんな。あさって仕事行くの、おれは休んだほうがいいと 思うな。えちなしで・・・・・・安静で休もうぜ。 そうそうマダム・キャゼルヌの食事がつくぞ。 ヤン司令官もキャゼルヌ事務監も一週間休んでいいといっている・・・・・・。」 ポプランがやさしくなだめても。 「提督なんて首から下は要らない仕事だから、いくさ。ちくしょう。」 いやいや軍人であれ、アッテンボロー提督はいみじくも分艦隊を預かる身。 そうたびたび週単位で仕事は休めない。女性提督にも彼女の仕事においては それ相応の、矜持と意地がある。 オリビエ・ポプランの言葉に責任を持つといった以上、女性提督は痛みに耐えるしかない。 ちょっとばかりお気の毒な結末でありました。 後日談のさらに後日談はまた、後ほど。 by りょう |
「1/2」
「唇と唇 目と目と 手と手
カミサマは何にも 禁止なんかしてない 愛してる・・・・・・。」
はて。
私は何が書きたかったのかわからないです。
バーミリオン会戦などのくだりを熟読したいがためにしばらくはこういう与太話を挟みます。
コーネフさんとポプランさんが書きたかったのかな。
本当は恋愛もののはずがなんかアッテンもポプランも相当ヤバイ人になってますね。
重力加速度くだりは正直わかりません。嘘です。
調べたけれど力学にも弱い私にはさぱーり。
こんなことを簡単に知っていてかつ、撃墜しちゃう2大撃墜王というのはすごいなとときどき
ポプランさんを尊敬します。
ヤンさんもアルテミスの首飾りで物理なんて知ってて当然でした。はうー。
自分は馬鹿だなと思います。比べる相手が悪いですが。
アッテンボローさんは女性提督になるとよくものが見える人みたいですね。ま、頭の悪い人が書く
駄文ですから参考にはしないでくださいね。(しないかw
あ、DB見てたからこんな感じになったのかな。ピッコロさん。
でも青臭いことを平気で言うポプランさんが好き。(ここはアッテンボローサイトでは?
それにしても中身とか姿とかそういう主語はやめようよ。私。
そしてまだ続くのか。いい加減にしない?私。