希望の轍・4
寧日、安寧のイゼルローン要塞。 「なんだかこうしてアッテンボロー提督と昼食をいただくのは、久しぶりのような気がしますわ。」 実際、久しぶりなんですよ。フレデリカ。 「確かに。なんだか司令官にこき使われているような気がする。いつも船を出しているような・・・・・・ 錯覚かな?どうも働きすぎだなと思う。」 ジョークのつもりで笑みをほころばせて女性提督は向かい側の席の佳人に話しかけた。 フレデリカ・グリーンヒル大尉はヘイゼルの大きな眸を輝かせて微笑んだ。 「きっと閣下はアッテンボロー提督をいずれ分艦隊ではなく、全艦隊率いてくださる司令官に とお考えなんですわ。愛の薫陶ですわよ。」 今日の昼食はズッキーニや野菜のラザニア。ロールキャベツ。 要塞だとおいしいものにありつける。 「まさか。全艦隊を率いるなんて私の似合いの服じゃない・・・・・・・。」 そんなせりふの途中に、一名、追加。 「実はそうなんだよ、アッテンボロー。・・・・・・えっと・・・・・・同席してもいいのかな。」 トレイをもって所在なくたっている「学生さん」「研究員さん」の風貌が抜けない黒髪の司令官閣下がいた。 大尉はすぐさま隣の座席の椅子を引いてこちらでもよろしいですかとにっこりと微笑んだ。 「ありがとう。大尉。すまないね。」 「いいえ。閣下。」 ふうん。 なんだかんだいってうまくいきかけてるわけかとアッテンボローは斜め前に座った青年に 意地の悪い笑みを見せた。それに気がつくと、ヤンは 「そういう顔をしていると一生そんな顔になるよ。アッテンボロー。」 「どんな顔ですか?」 「・・・・・・ま、いいよ。で、お前さんはいずれ全艦隊の指揮をとることには不満そうだね。」 不満に決まってるでしょうと彼女は言う。 「でもひとつ条件を飲んでくれればやりますよ。」 いやな予感がするねとヤンは言う。 「あなたが宇宙艦隊司令長官になればやりますよ。いくらでもね。」 この日、冗談で交わされた会話も後日懐かしく思い出す数年後のアッテンボローがいる。 同盟軍の全艦隊を率いて指揮をとる日は来た。といってもユリアン・ミンツ司令官の補佐として ブリッジに立ったのであるが・・・・・・。彼女はその時点では同盟軍の全艦隊の命運を影で 背負うこととなる。 「言うと思ったよ。どうして私をいつも上官にしたがるんだい。お前さんの下で私も働いてみたいな。」 ヤンはラザニアのズッキーニを口に運んで言う。ふざけているのであろうがあまり冗談に聞こえない。 「今回助かったよ。まさかFRポイントまで帝国軍が出てるとは思わなかった。新兵を連れての戦いは さぞやりにくかっただろうによくもたせたね。どういう手を使ったのか拝聴したいね。」 アッテンボローは顔を突き出していった。 「敵さんにこっちには「魔術師ヤンがいる」とだまくらかしてみました。どうです?なかなか いいアイディアでしょう。今回7時間程度もたせましたよ。」 それを聞いたフレデリカは口に手を当ててくすっと笑った。 そんな彼女を横に見て。 「それじゃ私には使えないアイディアだな。もっと独創性のあるやつを期待したんだけれど。」 食事中だったが彼は自分の髪をかいた。 「私は没個性の人間ですから司令官のような才気はないです。今後銀河帝国ローエングラム侯との 華麗なる戦いの指揮はあなたに願いますよ。」 そうでもないんだけれどなとヤンは思う。 要塞へ無事生還して、曹長になったユリアンがキャゼルヌ家で口にしたことを思い出す。 その日はキャゼルヌ少将がユリアンの昇進を祝って食事に誘ってくれた。 ・・・・・・ヤンとしては少年がいよいよ軍人家業に足を突っ込む姿をみるのは複雑なのだ。 自分が抜けられないようにいずれ少年がやめたくてもやめられなくなる立場になるのも怖かったし、 戦死も考えたくない。 けれどその日はとにもかくにも「無事生還した祝い」はするべきだと思い、少年はいつもなら乾杯のとき アップルサイダーなのであるが、初めてのワインで祝杯をあげた。 少しばかり頬が赤くなった程度でユリアンもきっと成長すれば酒を友人にするときもあるだろうと ほほえましく思ったものである。 そんなときの会話で少年は艦載機に乗っていて最初とても怖かったこと。 ビームを発射させるために正面モニターと側面のめまぐるしく変わる敵の艦載機飛行データを 見ながら照準を合わせるなんて絶対に無理だと思ったことなど、2人の年長の制服組に話をした。 どうやって巡航艦を完全破壊したのかキャゼルヌは聞くが少年は、なんともいえぬ表情をした。 「ちょっと思い出すと怖いんですよね。こんなことを言うと臆病と思われますが。」 ヤンはそんな言葉に安心をした。 怖くなかったなどといわれてはこれからの戦いを甘く見て、足元をすくわれてしまうかもしれない。 「最後のほうは燃料の補給も20%しかできなくて・・・・・・ちょっと危なかったんですが 分艦隊司令部から指令が出ました。」 「司令部からなんと命令がでたんだい?」 ヤンは少年に尋ねた。 「死なない程度に逃げ回れ、です。」 キャゼルヌはそれを聞いて、ヤンの顔を見る。 「アッテンボローはヤンの相似形だな。死なない程度に逃げ回れか・・・・・・。お前さんも 立場が同じなら言っているだろうな。」 ヤンは頭をかいたものであったが・・・・・・。 彼は思う。 凡人にはあの新兵の集まりを率いて援軍が来るまで9時間も艦隊を維持できないであろう。 アッテンボローは少なくとも良くも悪くも「普通」の用兵家ではない。兵士を生かすことに関して彼女は聡く それはヤンとしてはよい資質だと思える。もっとも、彼女が全艦隊を指揮することを本気で望んでいる わけではないが、彼女にも自分を手伝ってもらいたいという気持ちは大きい・・・・・・。 とはいえど彼女が「結婚」したらそれはそれでめでたいと思う。 「これは司令官閣下、うらやましい限りですな。美人に囲まれてお食事とは。 小官もお供してよろしいでしょうか。」 と女性提督の恋人が返事を待つことなく彼の恋人の隣に座ってトレイをおいた。 「さすがに美人がいるところには現れるね。ポプラン少佐。」 ヤンはフレデリカとアッテンボローを見比べて言う。 「小官のレーダーが反応するんですよ。それはもうよい感度なんです。美人に関してはね。」 くだらんことを言うよなと女性提督は横目でちらりと恋人のハートの撃墜王殿を見る。 「ユリアンを助けてくれたそうだね。少佐。私からも礼を言うよ。ありがとう。」 ヤンは少年から初陣のとき、追ってくる二機のワルキューレをポプランが沈めて少年を助けて くれたのだと聞いていた。 「礼なら形のあるもので返してくれるようにミンツ曹長にはいってますよ。司令官閣下。」 もう。 なんて浅ましいことを言う男だとアッテンボローは恋人の尻をつねる。 男は知らん顔をしている。 「私からもお礼をするよ。ウィスキーを届けさせる。」 ヤンはポプランにいった。 「それはそれは。話のわかる司令官閣下だ。閣下からいただいたらミンツ曹長からは 受け取れませんな。」 「当たり前だ。ワルキューレ二機でウィスキー1本は高いよ。二重取りなんてせこいことは やめてくれよ。ポプラン少佐。」 そうアッテンボローが言うと目の前のフレデリカがくすくすと声をあげて笑う。 「お言葉ですが小官は欲の深いフェザーン商人じゃありません。提督。 保護者から礼をされれば被保護者からもせしめてやろうとはさすがに思いません。」 そういうとヤンとフレデリカを前にして女性提督の唇にひとつ、キスをした。 「勤務中だぞ。」 「え?食事中ですよ。おれの提督。コンソメの味がしました。」 「ロールキャベツを食べたんだ。そういう味付けがしてるだろう。ばか。」 さすがにここまで堂々とされるとヤンもフレデリカも笑うしかない。 赤面するのは女性提督だけ。 「確かに食事中だ。邪魔はしないよ。少佐。」 さすがヤン・ウェンリーは出来がいい上官だとポプランは言う。 オリビエ・ポプランとこの女性提督の組み合わせも今では「イゼルローンの風物」のようなもので ヤンとしては、食事中にまで2人の間を邪魔することはないと思う。 この2人がいずれ結婚するとしたら。 それはそれで悪くないとヤンは思った。 革命だのゲリラ、陽動を得意とする女性提督が花嫁におさまるとしたら そのときはこころよくこの戦争から解放してやりたいなと、アッテンボローのことを思うヤンであった。 「アッテンボロー」 彼女の上官にやさしく声をかけられて、真っ赤になっている女性提督は顔を上げた。 「プロポーズを受けたら私にも教えておくれ。そうすればお前の下で働きたいとは言わないで 祝福するからね。ご祝儀もはずむよ。」 ヤンは2人にウィンクをした。隣でフレデリカも微笑んでいる。 さらに赤面する彼女と、どうもとにっこり笑顔を振りまく彼であった。 彼女の部屋にて。1900時。 ユリアン・ミンツ曹長がヤン提督と2人で買ったウィスキーを1本、うやうやしくポプランに差し出した。 「お邪魔しました。」 「おう。気にするな。司令官閣下によろしくな。」 少年は敬礼をしてきびすを返してアッテンボローの部屋から出て走ってかえっていった。 本当はヤンがウィスキーを贈るつもりだったのだがそれでは実際に助けてもらったユリアンが 気がひけるというので「折半」ということで一瓶進呈してくれた。 「司令官閣下はおれたちがいつ結婚してもいいと思っていてくださるようだな。」 ちゃんといつも彼が飲む銘柄のウィスキーだった。ユリアンはこういうところも落ち度がないなと 瓶を見ながら男は言う。 食事の準備を終えてテーブルに並べている女は 「結婚なんてものはいつでもってわけにはいかないよ。第一私はプロポーズを お前から受けたことがない。」 今夜のディナーはサーモンとシーフードを白ワインで蒸したもの。かぼちゃのサラダ。根菜の スープを彼女は用意した。 「お、プロポーズしちゃおっかな。」 「それより飯を食え。片付かないよ。」 ちえ、と男は食卓に着く。何か心に残るような結婚の申し込みをしようと思うから 時を逃すのかも知れぬと着席して、男は言う。 「おれたち結婚しない理由がないと思うんだけれど。なんかある?」 そういう聞き方はずるいと女は思う。 「あるんだけれど理由をいうと、なんかお前、嫉妬すると思うんだよな。」 彼女は普段飲まない白ワインを口にする。確かに性にあわない気がする。赤ワインがすきなんだが 今夜は魚だから白を選んだけれど。 「ようはヤン・ウェンリーと戦いたいってことだろ。」 図星。 「それはみててわかるぜ。今に始まったことじゃない。それに嫉妬を起こす気に今はならないぜ。」 男はスープを口にする。案外きれいに食事をする男。そういうところは実は彼女はお気に入り。 「昔は嫉妬したじゃないか。」 一年前とはぜんぜん違うだろと男は言う。 「そりゃ付き合いだしたころはまだまだお前をよく知らないし、ちょっとばかりはやきもきさせられたんだよな。 このおれ様が。」 おいしいなと男は料理をほめた。基本的にアッテンボローは食べることを大事なことだと思っているから 一人であれきちんと自分で調理できるときは、する。そして味も妥協はしない。 「ぷりぷりに怒ってたな。」 まね。 「でも今は違うぜ。お前はある意味ヤン・ウェンリーと縁が深いんだ。男女の愛情恋慕を越えて あの黒髪の司令官閣下と、切れない間柄なわけよ。おそらく出会ったときからあの御仁にお前は 傾倒したんだろうな。ここまでは正解だろ。」 もう一度白ワインを口にする女。・・・・・・あんまり口に合わない。 「ほれ。お前はすぐに顔に出る。こっちを飲めよ。」 男はワイングラスをすぐに取ってきて赤ワインを注いだ。 「どうも白は私は苦手なんだな。今後料理だけに使おう。」 残った白ワインのグラスを見つめて呟く女。そのグラスの残りを飲んでしまう男。 「そんなに顔に出るかな。ラオからはよくいつも冷静な顔ができますねって言われるんだけれど・・・・・・。」 また他の男の名前を出して。 男は軽く女をにらんでみる。 「ま、仕事のできる女だよ。いやこういえばいいかな。お前はやはり並の女性ではない。 軍部上層部や戦争支持派の政治家の思惑とはこの際違うだろうがお前の判断力や度量は 今の仕事に適している。だからヤン・ウェンリーとも波長が合うんだろう。それに関してはおれは それもいいとおもっている。嫉妬という感情はないな。これが他の男なら事情が違うわけだが。」 つまりな。 「おれとヤン・ウェンリーとどちらをとる?」 男は彼女の眸を捉えて。 女は言葉の重みを感じて、2人の間にわずかな沈黙。 「なんて、愚問はしないんだ。答えられないだろ。息を吸うか水を飲むかってくらい比べること自体が おかしいわけ。世の男はこういう詰まらん質問を女にするからさっさと女に捨てられるわkだ。 おれはそういうやからとは違う。お前はおれを愛しているのは疑いようもない。そしてあの司令官閣下と この戦争を何とかある程度カタをつけたいと思っているのも事実。二者択一できない問題があるわけだ。」 彼女の恋人はにっこりと微笑んで言った。彼女はうう、とうなった。 「うなるなよ。ハニー。おれは百戦錬磨の恋の達人だからお前とはそもそも経験が違うわけ。 ・・・・・・俺としてはお前以外の女と今後暮らしたいとも思わんし、今のところほかに心を移す女もいない。 おれのほうはいつでも歓迎だから、「逃げたく」なったら迷わずおれのもとに飛び込んでおいでと今は それしかいえそうもないな。」 ・・・・・・。 「それはプロポーズ?」 「うーむ。亜種ではあるがまだプロトタイプだ。試験段階だな。さらに推敲を重ねて今にもっと気の利いた 申し込みをしようと思っている。お前って女はおれがどうこうできるとは思っちゃいないんだ。ほれた弱みで おれはついていくしかないわけよ。お前だって指揮をとりながら誰かが自分に代わってくれないかと 思っただろうし、そういうときにはいつもおれが控えているという意思表明を今はしておこうと思って。」 いささかへりくだりすぎてはいるんだけれど、と男は呟く。 「おれはお前に首ったけだからな。この際お前が納得いくまで好きなことをすればいいと思っている。 それくらいの甲斐性がなければ、ダスティ・アッテンボローという1000人に一人の女を手には入れられないし、 手に入れてもすぐに手放すことになるだろうな。」 食事をおえた男はナプキンで口元をぬぐう。女は私生活、とくに恋愛の場面ではすぐに頭が回転しない。 「・・・・・・つまりお前に甘えていていいわけだな。」 そう。 「お前はおれに甘えたりすがったり、引きずり回す権利があるわけ。なぜならおれがそれを許すから。 愛してるよ。ダスティ・アッテンボロー。」 彼女は食事中だったがナイフもフォークも皿においた。 「どうした?まだ半分もくってないじゃん。具合でも悪いわけ?」 そういう男に女はいった。 「参ったんだ。」 彼女は額に手を当てた。 「お前がほしい。行儀が悪いけど、お前にすがりたい。」 こういうときの男の行動は早く。すぐさま彼女の側に回りこみ熱い口付けを落とす。 「でも、私だってお前を・・・・・・愛しているんだぞ。」 女は抱き上げられて男に赤面しながら言う。 「それがわからないおれだと思う?」 2人が出会い、恋をして一年以上がすぎて。 男は女の生き方も好きになってきたし、何より彼女が好きだった。 今は結婚云々はおいておくとしても。時が来れば二人がウェディングベルを鳴らすことも あるだろうと思っている。 ことさら今にこだわることはない。 なぜなら男を見つめる彼女は、男を誰よりも愛しているのはよくわかっているから。 今の彼女には・・・・・・彼女こそ「逃げ場所」が必要なのだ。 それを男はよくわかっていたし、そんな男に甘えきっている女をいとしいと思うのだから、したがない。 深いキスを重ねながら。 またも2人の夜が始まる。 男はつくづく自分は奇特な男になるのだろうなと思うが。 かわいい女がすがりたいと甘えるのはひとえに男を愛しているから。そんなことは承知。 何も結婚はゴールでなし。 今は二人が互いに必要で、そしていとしく思っていることが大事で。 いずれ女が「逃げたい」と思ったときの「逃げ道」になることを男は決めた。 いずれ女は「逃げたい」時も来るだろう。それはどういう事態かは想像できないが、 宇宙のどの男が女を一人にしても、彼は彼女を一人にする気はないと決めている。 それでいいのだろうと男は思うし、無防備に男に甘える女を見ているとその思いはより強くなるのであった。 前途は遼遠でも、2人が恋に落ちていることは事実。 希望は見えないわけじゃない。 女は口には出さないけれど・・・・・・やはりだんだんと男に毎日恋していっている自分を再確認した。 そう。彼女は毎日、毎時間、毎分、毎秒。 オリビエ・ポプランによりいっそう心ひかれ、恋に落ちている。 歳を重ねるごとに、彼が彼女の隣にいてくれたら、幸せだと思っている。 残した夕食はラップして冷蔵庫に。 熱い恋は、ゆっくり確実に育っているそんな二人の、恋愛事情。 by りょう |
「希望の轍」
銀DVDをみたりいろいろとイラストを描いているうちに
アップが遅くなった作品です。
ユリアンの初陣をアッテンボローの目線で書くとどうなるかと
書き出すと、む、難しかったです。
銀DVDではポプランさんは地球でもオーディンでもいろんな意味で
大活躍です。
なぜこのタイトルになったか今もって不思議ですが・・・・・・。
次の話はおふざけの話なので私の低レベルなおつむに
ぴったりです。
最近はポプランさん£ονё【☆´・∀・`】【´・∀・`★】£ονёです。
追記:寝てしまい校正推敲せずアップしていました。素もませんすみません。