Kiss&Cry



寧日、安寧のイゼルローン要塞。





長期にわたる艦隊指令を終え、ダスティ・アッテンボロー少将は久々に要塞内の自室へ帰った。

「よ。おかえり。おれの提督。」

言うが早いかハートの撃墜王はさっきまでソファで寝転んでいたのに、

飛び起きて彼女を玄関まで出迎えて・・・・・・Kiss。

「そっちが先に帰ってるから、宇宙港まで迎えに来てるかと思ったのだけれど。」

3センチ背が高い恋人を少し上目遣いに見つめて、一時解放された唇で彼女は

ちょっとすねたふりをして見せた。

男は女の腰に手を回して額を彼女の額に当てて言う。彼の香りがする。

「すねてるな。キスしてほしかった?」

「べっつにぃ。いつもはT・P・O関係なしなのに今日は放置だっただけだ。」

彼女は男の声が懐かしくて、うれしい。

彼の声はなんだかキャンディボックスから転がってくる七色の

飴のよう。

甘くて、いろんな味がある。

「第一印象、大事だと思わん?」

「・・・・・・思うよ。今その話が出てくるのはどうしてなのかな。オリビエ。」

10月終わりにイゼルローン要塞にかえってきた。

艦隊が出動したのは4月。

結構はなれていたんだなと思う彼女。

やや尖り気味の彼女の唇にまた彼はキスをひとつ。

「宇宙港でお迎えしたかったのは山々なんだけどね。第一印象って大事だろ。」





だから、なにさ。





「帝国からの客員提督(ゲストアドミラル)がわざわざで迎えしておいでだっただろ。

ご老人には環境の急激な変化は気の毒だし、おれの提督の評価が下がるのはおれとしても

避けたかったんだなあ。出迎えていつもみたいにkissして「ごちそうさま。提督」なんて・・・・・・

してもよかった?」




・・・・・・そうだった。




船をおりたら略式でヤンとキャゼルヌから、ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ提督と

副官殿を紹介されたっけ。

正式な紹介は明日の会議でといわれた。

よそ行きの顔で彼女は挨拶をした。どうせヤンが手放しでお迎えした提督だから彼女もきっと支持するので

あろうが、帝国貴族の重厚な歴史をメルカッツ提督から感じ取った彼女は



『第一印象が大事だ。』



そう思ってきわめて普通に敬礼をして簡単なご挨拶をした。



「お前、時々シャープになるね。愛してるよ。撃墜王殿。」

にっこりと微笑んだ彼女は、やはり男のいとしの提督。

「でも第二印象って言葉がないくらいだし、そんなに重要じゃなさそう。だから

これからはいつもどおり見つけたらkissするから。容赦なく。」

「ばかかー!!」

だって。



「すごく好きだから。お前が。」

それはよくわかってます。はい。

彼女は男の鼻をつまんだ。このきれいなかわいい鼻。

きらきら輝くマラカイトの瞳。淡い金褐色の髪。

何度もシャトルで「ヒューベリオン」に出向いても、すぐに旗艦に帰らねばならなかったし、

まめに男は自分が会議から出てくると補足してくれるが、短いキスだけ。

会えないよりはずっと、幸せなご身分であるのであるがそれでも、後ろ髪は引かれた。

この男が駄々でもこねたら、ちょっと揺れ動いたかもしれないけれどいつもヒューベリオンから

「またな。おれの提督。」とキスして送り出してくれた・・・・・・。

一歩踏み出したときには振り返らずに歩けたし、前に進めた。



その明るい空気があったから彼女も、また自分の船に戻ってからは「提督」として

ベレー帽をかぶりなおして作戦実行できた。



「大好き。オリビエ。」

彼女は・・・・・・いわずもがな。

当然シュガーよりもブルーベリーのパイよりも甘い夜を過ごす2人。

書くまでもなく。至福のとき。







翌日。

幕僚会議で正式にイゼルローン要塞司令官顧問としてメルカッツ提督を紹介された。

それから議題は今後軍事クーデターに参加しなかった軍人や新兵が要塞に補充され、

その新兵の訓練に当たる必要があるとの話や等云々・・・・・・。

ヤンは長い会議は好きじゃないので短時間で切り上げてそれぞれの仕事に

みな戻るわけである。

ユリアンとともに出待ち(ユリアンは見張りである。)していたポプラン少佐は、いとしの

女性提督のお出ましを待ちつつ。

シェーンコップ少将のあとにつづいて出てきた彼女を見て。

「ずるいなあ。アッテンボロー提督。ペテンだ。」



「ペテンじゃないぞ。ちょっとのどがいがらっぽいし風邪かもなと思って。

みんなにうつすわけにはいかないだろ。マスクしなきゃ失礼じゃないか。」

彼女は白いガーゼのマスク。当然キス予防である。

「風邪なんてひいてないでしょう。少なくとも今朝まで。」

ポプランがやれやれという顔をして、彼女のすっとぼけた顔を見た。

「会議中、なんだか寒気がしたんだよ。マスクを用意しておいてよかったよ。

ごほごほ。すぐ治さないといけないな。」



ヤンやキャゼルヌは思った。



アッテンボローは大根役者だが、「色狂い」とみられるより提督として「やや病弱」と

ゲストアドミラルにみられるほうがまだよいのかと納得した。



ポプランのキス対策をしたことは、苦しいところもあるがまず及第点を与えた。



「でもいつも風邪というわけには行かないぞ。アッテンボロー。知恵熱が出ないように

知恵を絞るんだね。」

ヤンが彼女の肩をぽんと叩いた。彼女は思った。先輩は頭
だけはいいから知恵を

貸してくださいよと。

「風邪なんかひいたことがないくせに。次は何の病気だ。ご苦労なことだ。」

キャゼルヌがあきれて彼女の肩をぽんと叩いた。彼女は思った。先輩は家庭人だから何かいい対策は

ないんですかと。

「愛される女もなかなかつらいな。アッテンボロー。女冥利に尽きるじゃないか。」

シェーンコップがしたり顔で彼女の肩を叩いた。彼女は思った。百戦錬磨の色事師にだけは

借りは作りたくないと。






ゲストアドミラルとその副官が女性提督をみて。



『自由というものだろう。この和やかさも。若いシュナイダーの目には毒だがこれも経験のうち。

美しい花を蜜蜂は好むのは自明の理であるのだ。自然なことだ。』

・・・・・・さすがブラウンシュバイク侯を「ご病気」と哀れんだお方だけに、アッテンボローごときが

想像する以上に彼女がどれだけ男に愛されているのかを別に取り立てて騒ぐことではないと、

達観しておられた。



「おれの提督。いつまでお得意な逃走ができるかちょっと愉しみだな。おれ

おにごっこは大好きなんだ。おれに勝てると思う?」

・・・・・・思わない。

結局、やけを起こした彼女はマスクをその場ではずして。



「愛してるぜ。おれの提督£ονё【☆´・∀・`】【´・∀・`★】£ονё」

あっというまにハートの撃墜王どのに愛のキスの三重奏を見回った。



ヤン「ま、長い間恋人同士が離れていればこういうことは想定内だ。」

キャゼルヌ「また、あいつらに仕事の邪魔をされるんだな。おれ。」

シェーンコップ「・・・・・・レベルが同じもの同士、仲がいいのだろうな。」

ムライ「・・・・・・(もう困ることもないらしい。)」



アッテンボローは早くも第二印象を大きく崩したと悔しいが。

ポプランのほうは早くも自分のペースで楽しそうである。



「私も背伸びはやめよう。身の丈で十分だ。」



ベレーをかぶりなおして翡翠の怜悧な瞳を輝かせて。

「ラオ中佐、早速編成表を作るぞ。お楽しみの時間だ。」

分艦隊主任参謀長は了解ですよと彼女を追いかける。

女性提督は撃墜王殿のあごを一撫で。

「では。またな。ぼうや。」



新兵の訓練で彼女は艦隊を編成して、訓練と哨戒に当たることが決まっている。

女のスイッチは切り替わってまた、そら(宙)を思い浮かべていた。



「おれの提督って、仕事熱心だよな。」

彼女のきれいな後姿を見送りながらポプランは思うのであった。



fin

by りょう



LadyAdmiral