124・葛藤



アッテンボローとてイレーネが考えるようなことはとうに

検討済みであった。




バーラト星域およびハイネセンの今後の産業。



現在ハイネセンの衛星である月『アルカディア』にドームを作り、

そこでイゼルローンのようなシステム・・・・・・もちろん武装基地で

なく産業ベースの施設をつくることはできないだろうかと

以前から思案を巡らせていたし調査もしている。







「衛星基地を銀河帝国が武装配備とみなさなければいいけれどな。

そこがまず大きな問題だろうな。」


以前の会議でもキャゼルヌが指摘した。



まさにそこが難点である。150年戦争をしてきたのだ。帝国としては

疑念を払拭しえないだろう。




器である建造物を建ててしまえば内部で何があっても実際は

わかったものではない。技術や総顧問として帝国の人間を迎え

てもいいとアッテンボローは思っている。

帝国の属領に成り下がっていると言われてもいたずらに自治を

内政干渉されたくない。



戦争が数百年続いた上で蜜月期間は

わずか数年。

信頼関係はガラス細工のようなものである。

軍備強化ととらえられてしまえば・・・・・・。







「戦争か、帝国軍侵攻だな」

ええ、とアッテンボロー。



「しかしながらハイネセンの資源というものも些少です。これで

この敗戦による国債をいかに帳消しにしていくか。しかしね。早急に手を

打たねば帝国の侵攻より深刻な問題があります。」




アッテンボローはいった。

「経済破綻のために現在犯罪が右肩上がりで増えています。サイ

オキシン麻薬を製造している地下組織は100は軽くこえますし麻薬

は簡単に金になりますから手を出す人間は増加する一方です。

麻薬は実際フェザーンに密輸されており帝国側からも規制を厳しくせよ

とのお達しです。悲しいかな、自治権はあっても金がない。治安も

軍を解体しているので警察機構という新しい組織で取り締まるしかない。

けれど人民が実際に食うにも困るという背景があるから治安を維持

するのも金と人間が必要です。自治というのは民衆が政治に参加すること

である以上、ハイネセンは復興のための産業を持つべきです。

祖国が荒廃しているのは火を見るより明らかです。『アルカディア』に

産業施設を早く建設して国内の経済を活性化させないと共和政府も

瓦解です。」




それではいってしまった僚友たちに申し開きができないなと

アッテンボローは思っている。




今回ハイネセンからタイラー主席とアッテンボローが帝国に交渉する

問題はそこである。『アルカディア』に自家栽培システムを取り入れた

施設を作ること。あくまでも平和のための施設であり必要に応じて

いつでも帝国からの査察を受け入れることをアッテンボローは申し出ようと

思っていた。







「産業をたたせようと思えばアルカディアに基地を建造する必要がある。

けれど内政干渉をおそれれば麻薬。・・・・・・実に嫌な葛藤だろ。」


夫のひとりごとをミキはきいていたがあえて何もいわず熱い珈琲を

入れた。

ブランデーをたっぷりめにして。










「たとえ宇宙の誰もが先駆者であるあなたをせめても・・・・・・

私はあなたの味方よ。一生ね。ダスティ。」




彼女の言葉があたたかった。

彼女の言葉がありがたかった。




by りょう

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