115・心



この当時のアッテンボローを悩ませたのは二つの問題。

一つはハイネセンの経済的独立。













もう一つは・・・・・・

せっかくフェザーンにいるのだからよいマリッジリングを

手に入れられないかということであった。




本当はスマートに

「これをきみの指に・・・・・・」

などと演出したかったがなにせ彼は妻の指のサイズを

知らない。










しかもマリッジリングとエンゲージリングの違いも知らないの

だから度しがたくここは素直に女房殿に指のサイズを伺うこと

にした。

そしてそれをきいて買いにいくことにしたのだ。

ミキは一緒にいきたいといったけれどアッテンボローは

やっぱり・・・・・・少し格好をつけたかった。







びっくりさせたかった。



一緒に選びにいくと、びっくりさせられない。

サプライズにならない。

ロマンチックにもならない。










アッテンボローはミキがびっくりした顔をあまり見たこと

がない。一事が万事彼女は肝が座っている。

シェーンコップが手だししなかったのは無理はないと最近

思う。かわいげがないわけではない。

そんなことはあるはずがない。






ただあの大きな眸を瞠るさまが見てみたかった。

けれどアッテンボローは白旗を揚げた。

指のサイズはあれこれミキの薬指を触ってみたところで

わからない。

これがオリビエ・ポプランやワルター・フォン・シェーンコップ

ならわかるのだろうか。




問題はどんな指輪がいいだろうかということだ。

指輪のサイズは聞いた。

ミキは笑ってアッテンボローが選んでくれるものならなんでも

嬉しいという。



逆にこれは難しい。

忙しい公務のあいまに貴金属店を回っては品定めを

アッテンボローなりにした。



実は生まれて初めて。

緊張と恥じらいの一日であった。















「おかえりなさい。あなた。」

ホテルに帰ってきてしょげている夫に妻はそれ以上いわない。

彼の髪を優しく撫でて秀でた額に唇を当てる。







「あなたの心がとっても嬉しい。あなたの時間が空いたら

こんどは一緒にさがしましょう。ね」




心のこもらない冷たいジュエリーよりも

忙しい時間をさいてでもさがしてくれた

彼の心がミキには一番嬉しかった。




by りょう

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