僕の中にあるすべてをかけて



一度はお前ときたかったとダスティ・アッテンボロー・ポプランはハイネセン

ポリスからわずかに郊外にある彼女の生家にオリビエ・ポプランをつれてきた。

お産を控えたアッテンボローに両親はあわてふためきけれど喜び娘むこと

仲むつまじく暮らしていた。



宇宙歴802年5月。



すっかりおなかが大きくなったアッテンボローは元気でおなかの子供も元気。

落ち着かないのは亭主のポプランの方。



「そんな草むらに座っちゃだめだ。敷布を用意するから。冷やしちゃだめだろ。

ダーリン・ダスティ。」

ポプランは防水と起毛を施してある敷布を車のトランクから出して臨月の妻に

急いで用意する。

彼女は無茶だから。女性提督時代から無茶だった。

アッテンボローはポプランと一緒にいるときは安心して「無茶」ができた。

いつでもアッテンボローに何かあればポプランが守ってくれた。



「ここはシロツメクサがたくさん咲いてるだろ。昔姉たちとよく首飾りや髪飾りを

作った。私の大好きな場所だ。・・・・・・ここにお前と来られるなんて嘘みたい。」



防水布に座ってアッテンボローはあたりの緑と白の可憐な花畑を見つめた。

それでは腰が冷えるとポプランは5月の陽光の中なのにアッテンボローの母親が

編んだ手編みの膝掛けと手作りのクッションをあてがう。



オーバーだなあ。



「生まれてくるのは私とお前のDNAを持った丈夫な子だぞ。こんなにうららか

なのに冷えやしないよ。」

アッテンボローは元々鷹揚な性格をしているからアッテンボローの手取り足取り

世話を焼く小うるさい亭主がおかしかった。

オリビエ・ポプランと自分との間にできる子供が軟弱であろうはずがないと

アッテンボローは春の日差しを浴びながらほほえむ。



けれどポプランさんは気を抜かない。



「ダーリン・ダスティは困っちゃうくらい大まかなんだから。土は湿っているから

冷えるとよくない。あと少しで出産なんだし無事に生んでほしいから尽くしてるのに。」

ポプランはバスケットを車から降ろして熱いしょうが入りの紅茶をアッテンボローに

そそいで渡そうとする。

大きなおなかをしたアッテンボローは・・・・・・そんなポプランの心配をよそに

シロツメクサで少女時代に作った首飾りを作ろうと身を乗り出して気に入った花を

摘んでいる。



母親になるのに子供っぽさが抜けないなあとオリビエ・ポプランは苦笑して

アッテンボローがあまり変な姿勢をとらぬように見守る。

あれえとアッテンボローは素っ頓狂な声を上げて首をかしげている。

膝の上にはぱらぱらとシロツメクサの花が落ちてくる。



「うーん。むかしすぎて作り方、忘れちゃったのかな。」



そばかすの愛らしいもと女性提督は唇をとがらせた。

「さすがに33才ともなると物忘れがひどくなるな。」

もと撃墜王殿は夏草を思わせるきらめく眸で冗談ぽくいってアッテンボローの

唇にキス。

「こら。31才のお前に言われたくない。・・・・・・シロツメクサだめにしちゃうの

もったいないな。かわいそうなことをした。」



あんなに姉たちと競って作った首飾りなのに。

そうさも残念そうに呟くアッテンボローの仕草にポプランは笑みがこぼれる。



かわいい女。



あのな。と過去レディキラーであったポプランさんにできないことはあまりない。

アッテンボローの膝の上に落ちたシロツメクサを一つ一つうまく編み上げて見事

首飾りを作ってアッテンボローの首にかけた・・・・・・。



オリビエってすごいと無邪気にアッテンボローが笑顔を見せた。

春の柔らかな光よりもまぶしくてあたたかな笑顔・・・・・・。



自分の中にあるすべてをかけて。



アッテンボローと自分とそして生まれてくる子供を大事にしようと想えた。

これからの人生。

この先何が待ち受けているのかはわからないけれど自分のすべてをかけて

アッテンボローとのすべてを守ろうと彼女のきらめく宙(そら)色の眸を見つめ

熱い紅茶を優しくて渡す・・・・・・。










パパと呼ぶ声がして3年前の5月を思い出していたポプランは息子の存在を思い

出し現実に引き戻された。

「ぜんぶのおはな、ばらばらになっちゃうよ。パパ、お花の首飾り作って。」

赤めの金髪に自分と同じ孔雀石を思わせる色の緑の眸。

ただ愛らしい頬にうっすらとそばかすが浮かぶ幼児がポプランの膝に抱きついた。



「男の子は花の首飾りなんてしないんだぞ。」

「ちがうよ。ママにだもん。ママはこのお花が好きなんだよ。」



パパはオンナノヒトヲヨロコバスコトニカケテハ宇宙一だってママがいってたよと

天使のような坊やは父親の膝に座って早く作ってと目を輝かせる。



ふむ。

まあ将来恋をするにあたって花飾りの一つくらい小粋に作れるに越したことは

ないとおやポプランは子ポプランを膝に乗せて器用に首飾りを作っていく。

できあがった首飾りをみて子ポプランはアッテンボローそっくりの微笑みで

大喜びしてぴょんとポプランの膝から元気よくはね起きた。



「おーい。二人とも。ご飯作ったよ。手を拭いてこっちにきて食べよう。」



少年はママと小さな手にシロツメクサの花の首飾りを握って美しく優しい

母親のもとにはしっていく。

アッテンボローは息子から首飾りをかけてもらって少年を抱きしめた。そして

抱き上げて少し遠くにいるオリビエ・ポプランの方を見つめた。



この二人のために。



穢い世界であろうとはかなき未来であろうと生きていこう。

戦後の傷はまだ深い。

それでも生きていこう。

自分の中にあるすべてをかけて。

この愛しき世界を微力であっても守っていこうとポプランは思った・・・・・・。



この幸せのために・・・・・・。

「飯食おうぜ。ダーリン・ダスティ。」



fin





すみません。散歩していたら浮かんじゃった作品です。戦後。娘では

割合二人は幸せでございます。

後日少し加筆しようと思います。ちょっと短かすぎかなと思うので。

LadyAdmiral