だいすきなひとは、センパイ。 国防軍士官学校。 なぜかここで2年ほど事務局の次長をしている。本来はアーレ・ハイネセン記念大学 経営管理学科に合格していたのに俺はいったい何を勘違いしたのか入学手続きの 日時をうっかり間違えた。 あるまじき。 俺の人生最大の不覚。 おかげで軍人になり不覚にも「未来の後方勤務本部長」などと不名誉なあだ名を ありがたくいただいて現在独身生活22年目を迎えている。 まだ結婚する気はない。 階級も大尉。いずれは結婚は考えもするが・・・・・・。 何を基準にどの女性を選ぶべきか検討しようと思わない。これはきっと時期尚早 なのであろう。 いずれは身を固めてできれば子供も授かって。 センパイ。 なれなれしい声だと思ったら士官候補生一年生基礎学科のダスティ・アッテンボロー とか言う数少ない女性士官候補生だった。一年生だからまだ15歳。 ・・・・・・こういう子供しかいない世界で22歳の俺が結婚計画を考えるなどそれは 犯罪に等しい。考えられるはずもない。 「なんだ。ヤンたちと一緒じゃないのか。」 戦略研究科の変わり者で怠け者なヤン・ウェンリーという上級生とこの少女は 一緒にいることがおおい。同じくジャン・ロベール・ラップというヤンよりできのよい まともな候補生もいるが。 あの二人は男同士仲がよい。 性格や性質など違うものを持ち合わせているくせに馬が合うのか。 ラップはどちらかといえば優秀な軍人になる資質もあれば有能な一般人になる 素地もある。 だが俺が見る限りヤンという少年にはそのどちらの片鱗も見えない。でも。 ヤンという少年は割合まともなやつだと思っている。・・・・・・俺がきっと今後長く面倒を 見続ける羽目になりそうな気がする。ラップは誰かよい女性と結婚生活に踏み切る 才覚があるように思えるけれど・・・・・・。 あの少年にはなさそうな気がする。 そうだ。 「そうだ。アッテンボロー。軍人になるよりヤンの嫁になってやれ。その方が大きな展望に 立てば人類のためかもしれん。一人の人間を救済できるぞ。文化的だと思わないか。」 俺がそういうと色白のかわいいといえなくもない顔をふくらませ明らかに不満そうな顔で こちらをみる。 美少女といってもいいが。言葉遣いや足癖が悪い。スカート丈が短いのに足をそんなに 広げてたつな。 まったく。 近頃の子供は・・・・・・。 「そういう無価値なことよりセンパイに救済です。」 とアッテンボローは長い髪を一つに結わえて・・・・・・もっと丁寧にできないものなの だろうか。アッテンボローは軍人にするには惜しいほどの頭脳の明晰さと安定した 気質、度胸を持っている。 そしてこれは言うと問題になるが容姿端麗である。 そんな彼女が派手なラッピングを施したはこをぐいっとこっちに押しやってきた。 「俺に救済か。俺はちなみに5月1日生まれだぞ。」 「・・・・・・。センパイ、ほんとデリカシーというか浪漫も何もないひとですね。だから いくらご面相もよくて将来有力株なのに恋人の一人もいないんですよ。今日はなんの 日かヤン先輩ですら知ってましたよ。」 2月か。 月末には決算だなと思ったらアッテンボローは「もう知りません。一応渡しましたからね。 あとでもらってないとか間抜けなこといわないでください。義理ですからっ。義理!」 と短いスカートをひらひらさせてとっとときびすを返していつも以上に足早に駆けだして いなくなった。 「あいつは台風だなあ。」 残された俺はど派手なラッピングの小箱を持ってあほうのようにその場に立ちつくした。 ああ。 2月14日。 世間で言うバレンタインとか言うものかと思ってちょっと笑みがこぼれた。妹でもいれば こういう風にチョコレートをもらったりするものだろうかなど考えると。自分は係累がいない から悪くないものだとひとの少ない中庭でベンチに腰掛けて開封した。 派手な包装をひもとくと小箱のなかに9個のチョコレートがはいっていた。小さなもので 一口で食べれそうだなと思う。俺は甘党ではないけれど。 たまにはいいものだと早速一口。 なかなかうまいのでつい三個続けて食べた。 ほろ苦い珈琲がはいっていたりリキュールがはいっているような味がした。けっこう高い ものなのじゃないかと15歳の少女の財政状況をつい心配してしまう。高価なチョコレート。 義理堅いやつだなあと思う。たしかホワイトデートか言うやつが3月にある。三倍返しと 言うのが目当てかもしれないな。どこのメーカーのものだろうと包装やはこをみるが記載 なし。やれやれ。 アッテンボローは大人になればかなりいい女性になりそうな気がする。 まだまだ15歳じゃ若すぎて想像の域を脱しないが生命力にあふれた自由闊達で情緒の 不安定もさほど見受けられない。 ・・・・・・。 正直あんな子供まで戦争にかり出すのは気が引ける。 うまいチョコを食べるとすこしさっきまでの仕事にも疲れが解消された。22歳の俺でも 子供にバレンタインにチョコをもらえばそれはそれなりに嬉しいし何せ味がよかった。 三倍返しかと思いつつ。 はてさて。15歳のティーンエイジは何がお望みなのだろうかと思案する。弟妹もいないし 当然甥や姪もいない。参考になる知恵を貸してくれる人間が俺の周りにいただろうか。 と考えていたら。 絶対俺の今の思案に関係がないと思われる小便くさいヤン・ウェンリーくんとジャン・ロベール・ ラップくんが現れた。丁度俺はブリーフケースを持っていたのでアッテンボローの「義理」チョコは 丁寧にそのケースの中へ。 ヤンはともかくラップなら少しはチョコレートももらっているだろう。 なかなかの正統派の美男子だ。 「どうした。今日は世に言うバレンタインとか言う日だったよな。さっきアッテンボローがこの 年寄りを哀れんでくれたのかチョコをくれた。お前さんらももらっただろう。案外うまい チョコレートだった。あいつ、趣味は悪くないな。これはどこのメーカーだろう。」 俺が言うとラップは「ええ。たぶん今この星でかなりうまいとされているチョコレートでしょうね。 でも・・・・・・アッテンボローの場合は色気がないんですよ。」 どうせ義理だからいいんですけどねとラップはいい「バレンタインの時期だと高くなるので 安いうちにまとめて家族の分もかっておくんですって。子供のくせにしっかりしてますよ。 あいつ。」 ・・・・・・。 15歳の小娘にしてはなかなか合理的だなと思う。あいつのその機転は評価できないことも ない。あいつが軍人になってうまくいけば事務仕事を教え込んでこき使うのも悪くない。 ・・・・・・。 こき使われる可能性もある訳か。 あいつは非凡なる優等生といわれた女性士官候補生だったっけ。 「アッテンボローはああ見えて料理はうまくて。でも菓子作りはきらいなんですって。 料理は大雑把ににできるけれどお菓子は計量など面倒だそうです。手作りなど義理人間は もらえないに決まっているのでこれはこれでありがたく頂戴してるんです。だってこの チョコレートうまいんですよ。バレンタインの時期になると女性はこぞってかって来るん ですって。」とラップは人好きのする笑みをこぼした。 ヤンはもらったチョコレートを口に一口つまんだ。 「私は義理でももらえたら嬉しいなと。今までもらったことがなくて。チョコレートとバレンタイン というものへの憎悪がアッテンボローによってたぶんに緩和されました。」とそう悪い気でもない らしい。 「義理はかまわないがお返しというものが来月ホワイトデーという形でやってくるぞ。」というと ヤンは少し考えてみて「ラップに何か探してもらっておきますよ。」といった。隣でラップは そう来ると思ったよ的な苦笑を浮かべた。 「事務局次長もアッテンボローの義理チョコもらったんですね。」ときくのでああと答えた。 隠す必要はない。 昔隣に住んでいた5歳の女の子がバレンタインにチョコレートの駄菓子をくれたんだし。 隠すことはないな。 「あのくらいの子供が何をお返しにもらえば喜ぶかわからぬところが義理チョコの罪では あるな。」と言い腕時計をみると。会議が始まるなと一息。俺はブリーフケースを脇に挟み まだひよこにすぎない士官候補生二人を残して会議室へと向かった。 会議自体は60分程度で終了。今後は議事録の整理をせねばならない。だがその程度の ことは片目をつぶってでもできる・・・・・・といいたいが俺はウィンクなどできない。無理だ。 いつもなら夕飯を食っている時間だがこれも宮仕え。端末に指をはしらせつつはらが減った と思う。かえったら飯を作らねばならん。面倒だしテイクアウトにしてしまおうかと考える。 あ。そうか。 だましだましまだチョコレートがあったっけと思いだし。 バレンタインも悪くないと思う。 ついつまんでしまっていると珈琲を運んできた事務の女性士官が 「あら。手作りですね。事務局次長、さすがおもてになりますこと。」 など言った。 ははは。「手作りじゃないよ。義理。当人が断言したので間違いない。」 あらあらと女性士官は言う。 「義理チョコで手作りをもらってしまうなんて事務局長、罪ですねえ。」 ・・・・・・。 アッテンボローのチョコレートは女性士官が言うには明らかに手作りだとほほえんで言う。 事務局次長が口にしているチョコレートは。 「包装もきれいなんです。わざわざそれを捨てて新しいはこに入れて渡す女性なんて いないと思いますわ。」 あいつ、義理を連発していたなと思い出し。 あいつ、お菓子の手作りは好きじゃないと聞いたことを思い出し。 長くてきれいなつややかな髪を色気もなく一つに結わえて長い脚で大股で歩く15歳の そばかすが愛らしい少女。 ああいうのをじゃじゃ馬というんだろうなともう一つ口に運ぶ。 ほろ苦いよい香りのリキュールを使って作っているチョコレートだった。 by りょう これはもしも・・・・・・でも使えるし娘に連結させることもできます。 VD企画の一本目。本当に短い話しですが初恋というやつでしょうか。 これを聞いたらポプランはなんと言うことでしょうね。 |