ラブラブ・ギルティー
宇宙暦797年の新年パーティはイゼルローン要塞駐留艦隊司令官ヤン・ウェンリーが 最前線であろうが盛大にやってもかまわないと言い切り、フレデリカ・グリーンヒル大尉と ユリアン・ミンツ軍属が中心に796年末から準備と実行がはじまった。 要塞の100フロアをぶち抜いて花火を打ち上げたり、兵士、民間人一人ずつにシャンペンを 一本振舞う、軍楽隊の配置などなど。 ユリアンは14歳の少年だったのでおもにフレデリカが計画書を作って、上官に提出。 彼女の上官が副官の意見を退けることはないから計画書を見て、あまり美味くない署名をする。 「ヤン・ウェンリー了承済み。」 ヤンは当時29歳の若者であったけれど帝国の軍事拠点であったイゼルローン要塞を わずか半個艦隊で攻略し司令官として任務についていた。 30歳になりたくない一青年でもあった。 そして愛すべき女性提督ダスティ・アッテンボロー少将はせっかくこの新年のために購入した 淡いシャンパン色のドレスを特別に恋人のオリビエ・ポプラン少佐に「お披露目」したところ。 そのドレスで外に出歩いてはいけないといわゆる押し倒された。 「脚が見えすぎる。こんなかわいい女を祭りになんかにだしたらイゼルローンの男どもが 狼の群れになっちまうだろ。見ていいのはおれだけ。」 「お前、本当にせこいぞ?私だって幹部なんだから司令官のスピーチくらい聞かないと いけないんだ。せっかく化粧もしたんだぞ。行かないとあとでムライのおっさんになにを いわれるかわからないんだからな。それでなくてもお小言ばかりなのに。」 「何が何でも絶対だめ。なぁにヤン司令官殿のスピーチはものの3秒でおわるさ。」 「押し倒すなー!行かせろー!」 「はいはい。別の意味でいってもらいましょう。」 という不毛な展開にあいなりせっかくフレデリカが計画した楽隊も、ヤンが苦心したつもりの 2秒スピーチも女性提督は耳にすることも目にすることもかなわなかった。 という新年。 アッテンボローの頭に浮かぶのはムライ参謀長殿の深いため息と 「・・・・・・困ったものだ。」と妙に間がある意味の深い言葉であった。 こういうラブラブなときに湿っぽい面を思い出すものじゃないと付き合い始めたばかりの 年下の恋人は甘いささやきの中で言うけれど。 司令官のスピーチだって聞くほどのものではないと。 甘い接吻をたまわりつつ拝聴するけれど。 「新年のパーティかあ。ちょっとどんな感じか見たかったんだけどな。」 ポプランのうでまくらはまだアッテンボローに馴染まない。 彼女はあまりうでまくらをされることに慣れていない。いままで三人の男性とこういう関係に なったけれどうでまくらをしてくれる男はいなかった。 人間の頭は重いからしかたがないよなとアッテンボローは思ったものだ。 まず「うでまくら」を眠るまでしてくれるひとなぞこの世にいないと思っていた。 ときどき、そんな状況もあこがれていたのは女性的な性格も持ち合わせていた 女性提督。 今、アッテンボローの目の前にいる撃墜王殿は彼女が眠るまで・・・・・・うでまくらをしてくれる。 朝起きると彼の腕はアッテンボローの首に埋まっていたり、抱き枕のようにアッテンボローを 抱えて寝ていたり・・・・・・・ポプランが背中に乗って寝ていたこともある。 寝相の悪さはともかく・・・・・・ アッテンボローが眠りにつくころはまだポプランは腕が痛いとか重いとは思わぬらしい。 「ラブラブなふたりは腕枕でしょ。やっぱ。」 そういう男ばっかりじゃなかったもんとアッテンボローはちょっとだけふてくされたようにいう。 そりゃどう考えても・・・・・・。 「ハニーの男運が悪かったってことだな。かわいそうに。」 事実彼女は男運がよくなかった。 ポプランの顔をまだ腕の中ではじっと見つめるのが恥ずかしいので アッテンボローは親指をそっとかんだ。 ある意味さ。 「男運がよかったから最後に俺にたどり着いたわけじゃん。」ねとポプランは ほほえんでアッテンボローの親指をそっとにぎって彼女に唇を重ねた。 ふだんはアッテンボローは指をくわえたりしない。 ただ、時々彼にじっと見つめられると・・・・・・まだ恥ずかしくて眸を背けたくなる。 交際を始めたのは去年の12月26日。 今日は1月1日。 27にもなって恋愛に疎いアッテンボローが洒脱な恋の達人である恋人を ベッドの中でまっすぐに見つめるには・・・・・・まだ面映い。 そんなアッテンボローがかわいくて、いとしくて。 つい彼女の頬をなでてみたり、髪をいじってしまうポプラン。 25歳のオトコノコに愛されている自分ってとアッテンボローはまた赤面。 「・・・・・・まだ新年のパーティのほうがいい?俺と二人で新年を迎えるより。ね。 騒がしいお祭りのほうが興味あるのかな。ダスティ。」 だって。 「100フロアぶち抜きの花火が見たかった。」 女性提督にあるまじき。 かくもかわいい言い草にハートの撃墜王殿は微笑んだ。 じゃあさ。 夜になったら「二人で花火しよう。そんなおっきな花火じゃないけどな。売ってるはずだ。」 うん。なら・・・・・・・。 「・・・・・・このままでいい。」 ポプランがわかっているくせに俺と二人でいいのと耳もとでささやくと ねこが眠るときに頭をこすり付けるようにアッテンボローはポプランの腕に 頭を摺り寄せた。 「・・・・・・うん。」とつぶやく。 そして。 あんまりまじまじと顔を見ないでよと一言付け加えた。 どうして俺の美人の恋人を見つめちゃだめなわけとポプランは愉快げに質問した。 もちろん少佐は歴戦のつわものだからアッテンボローが言おうとすることは わかっている。 彼女は自己評価が低い。 それがとってもかわいい。時々自己評価がひくすぎちゃって気の毒に なるけれど。 アッテンボローは自分の魅力がわかっていない。 だって。 化粧も落としたしはずかしいだろと顔を上げないアッテンボローがつぶやいた。 「それにあんまりきれいじゃないから。」 やっぱりそうきたか。 お前って。「すごくきれいなんだぜ。多分本気にしてくれないと思うけど。 だから。」 恋の勇者がヤキモチヲヤイタリシタンだぞ。 でもさ。 そばかすなんてないほうがいいよねとまだ顔を上げない女性提督がいう。 アッテンボローの小さなあごをやさしく上げて。 宙(そら)色の眸をじっと見つめて。 「いや。おまえはそばかすがあるほうがかわいい。なかったらとてもお近づきができない ほどのかんぺきすぎる美人になってしまう。そのそばかすのある顔で微笑まれると。」 ポプランの胸に甘い疼き。 アッテンボローが微笑むと愛くるしくてすべて赦してしまいたくなるのが ポプランの本音。 彼女が微笑むと永久凍土すら熱を持つ。つまりどこであろうと凍てついてものさえも 溶かす魅力がアッテンボローの極上の笑顔にはある・・・・・・。 アッテンボローの長い前髪を指でときすかせて額に甘い接吻。 「でもちゃんといっておくけど。」 お前は美人。 お前の笑顔が好き。 「それだけでお前一人に決めたわけじゃない。ダスティ・アッテンボロー。」 不思議そうな面持ちでポプランを見つめたアッテンボロー。 「あとはなんだろう。無茶だから?」 うん。お前の無鉄砲さはある意味魅力だよなとポプランは同意した。 俺はいろんな女性を見てきたけど。 「なんかお前といっしょが一番居心地がいい。」 無鉄砲で無邪気であやうくてもろいところはもろくて、けれど凛としてて。 怜悧な顔して仲間と認識すれば人懐っこい笑顔を惜しまないところも。 「新年の花火なんてデートでしたことないんだぜ。」 彼女の唇に唇を重ねて。 でも。 「そういうのもまたいいんじゃないかって。・・・・・・お前とはずっと一緒にいられたらいいなって 本当に思ってる。ダスティ。お前がいるとおれけっこう愉快だし・・・・・・結局惚れてるってこと だな。」 きれいな形のよい頭をなでてポプランはいった。 俺からばかりキスしてるから、お前からもキスして。 アッテンボローの上唇はややめくれ気味。 気になるほどのそれじゃなくてむしろつい、キスしちゃいたくなるような上唇。 下はちょっとふっくらしていて色はないけれど、つやがあってやっぱりおいしそうな 唇。 やっぱり俺はうっかりとこの女に惚れてしまったんだなと恋の達人ともいえる 青年は、はにかみやの恋人を腕の中に抱きしめて。 彼女の魅惑の唇が重ねられるのを待っている。 毎日一緒に肌を合わせて抱き合っていてもまだまだ彼女はシャイ。 そばかすの頬を上気させて戸惑いがちにポプランにキスをした。 ダスティ・アッテンボローは罪なオンナ。 こんなに恋愛が下手なのにハートの撃墜王殿を独り占めしてしまった。 二人で出歩くと目立つのでポプランが夕方食べ物とシャンパン2本。 そして花火を用意してきた。 もっともっと夜が深くなるのを待って二人は公園へ行ってみた。 手をつないで。 アッテンボローはポプランの手が大好きで。 ポプランはそんな彼女がいとおしくって。 酔漢たちに絡まれないように公園の隅っこで二人で花火。 「子供が火遊びしたらおねしょするんだぜ。ダスティ、今夜は気をつけるんだぞ。」 なんていわれても仕方ないほどアッテンボローは花火がすき。 きらきら、ぱちぱちと火がはぜて花を咲かせる様子を見るのが いくつになっても楽しいから。 いつか。 いつか戦争が終わって「ふたりでどこかの土地で暮らすことになったとき。」 一緒に花火をしようなとポプランは3センチ背の低い恋人にいう。 3センチ背が高い恋人にアッテンボローはまた、どきどきするようなかわいい笑みを見せて 「うん。一緒にね。」といった。 宇宙暦802年1月。 背丈の差が3センチだった恋人同士は夫婦になり さまざまな出来事があったけれど。 二人のささやかな家の庭で満点の空の星のもと。 あの新年と同じ花火をして。 ほんの少しおなかが目立ってきた彼女体をポプランはガラスの靴でも扱うかのように 足元などに気をつけて・・・・・・。 ぱちぱちと光るちいさな星屑のような花火。 「HAPPY NEW YEAR」 お互い微笑みあって新年の挨拶とキス。 街で新年の鐘がなる・・・・・・。 それぞれの新しい道へと続く大事な一日へ。 どんなときでもポプランはアッテンボローの手を離さないし アッテンボローもポプランの手が大好きで。たとえ「もうじき母親になる女性なのに。」と 彼にからかわれても彼の手も彼のことも・・・・・・まだまだ彼女は大好きだった。 そしてからかっている張本人ですら彼女へのいとしさが募るばかり。 街の中心の広場では大きな花火が打ち上げられてその夜、空に星が増えたかのように 瞬いた。 「ダーリン・ダスティ。風邪を引いたら大変だ。俺と部屋であったかくして二人でねんね しよう。」ポプランがそういってアッテンボローの肩を抱くと 「もうじき父親になる男のくせに。」とアッテンボローはお返しにからかった。 「まあ。そうなんだけどな。」ゆっくりと玄関のドアを開けて寝室に彼女をいざなう。 お互い親になるんだけどさ。 「子供は巣立っていくもので最終俺たちは二人なんだ。仲良くしようぜ。」 息子だったら簡単に巣立ちを赦すだろうが娘だったら・・・・・・キャゼルヌ以上に親離れが 遅そうだとベッドにもぐりこみながらアッテンボローは思った。 腕枕もまだ健在。 こんな幸せな未来が訪れるのはまださきのこと。 数奇な宿命に流されつつもふたりの信頼と愛情を守っている通過点に 二人はまだ存在する・・・・・・。 by りょう どこが「ラブラブ・ギルティー」なんだといわれても答えようがありません。 がりゅー弟が乗り移っているのです。(大嘘 2008年サイト再開して、駄文をつらつらと書き連ねてまいりました。 今日は大晦日ですし、少しばかり新年のお話を。 私も、皆様もすこやかでよい一年が迎えられますように。・・・・・・ギルティー? |