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HIKARI・4
翌日からアッテンボローは執務室のひととなった。 司令官のヤン・ウェンリー、艦隊副司令官エドウィン・フィッシャー、分艦隊司令官 ダスティ・アッテンボロー・ポプラン、要塞事務監アレックス・キャゼルヌだけが極秘 として把握していた「反帝国陣営」の兵力は艦艇数2万8840隻、将兵5万7400名。 後の戦術に利用するためこの数を帝国軍にかぎつけられぬよう厳重なる極秘事項 とした。 故に詳細を知るものは限られることとなる。 宇宙歴800年、3月にはいってハイネセン方面から旧同盟軍艦艇が帝国軍の 哨戒をくぐり抜けてイゼルローン要塞に集結してきた。 過去ヤンが率いた兵の数だけで言えば最大であったが、それは単に数だけの ことで素直に喜べるような陣容ではなかった。 先にも書いたとおり艦艇の大半は、フィッシャーが指揮を執り修理と整備に あたっている船であり、アッテンボローはその事務処理を請け負う。 同時に艦隊運動パターンを女性提督は今回引き受け、過去のデータや シュミレーションを駆使して思案に明け暮れていた。 そんな日々なのでとてもじゃないが常のようにフレデリカ・G・ヤンと仲良く昼食 とは行かない。 むろんヤン夫人は黙々と仕事をする夫の世話と副官としての仕事にこれ また忙しい。ヤンはこの時期ラインハルト・フォン・ローエングラムとの戦いに向け 地の利を生かして有利に戦えないかと額に汗して、頭脳労働に取り組んでおり フレデリカは夫の汗をハンカチでぬぐって、手術中の医者のごとく精励していた。 一方女性提督の亭主の方はどうかというとこれまた忙しい。 ポプランはなんとヤン艦隊の「第一飛行隊長」であるので、(よくみな忘れる) 教官として部下の訓練にいそしんでいる。集まった兵士たちのうち銃もまともに 使えぬ新兵も約2割強いたものだから、一から教えねばならぬことが多い。 といえど。 ポプランさんはどんなときであろうと自分を見失うことはない。 アッテンボローの執務室に入室さえ赦されれば、差し入れをしたり横やりを 入れたり、抱擁したり、接吻したりと忘れない。 温かいココアをポプランがアッテンボローに入れてくれそれを口に運びながら 彼女はデスクにノートを開き、硬質の唇に指を当てて、何か考えを巡らせている。 そのときばかりはポプランはあまり自分からは近づかず、意見を求められた ときに彼なりの考えを妻に述べる。 仕事のあいまにアッテンボローは模索をする。 現在の艦艇数。確かに過去最大だ。 先の「神々の黄昏」作戦では、ヤン艦隊は実質一個艦隊でなんとかしのいできた。 戦場ではラインハルト・フォン・ローエングラム公(当時)の旗艦「ブリュンヒルト」を 主砲の射程内にまでおさめた。 今回数こそ艦艇数は最大のものをヤンは掌握していたが、足並みの悪さと 言ったら。 ドクター・ロムスキーら「エル・ファシル独立政権」がもしヤンを帝国に売って、 政府存続を皇帝ラインハルト一世に申し出ないとも限らない。 ヤン・ウェンリーは現時点で、ローエングラム王朝率いる軍との戦いしか 視野になくシェーンコップやアッテンボローなどの幕僚がヤンの身の保全を 慮る(おもんばかる)ほかない。 アッテンボローは長い前髪をすくってさらさらと思いのままを記述した。 「ドクター・ロムスキーの動き、シェーンコップはちゃんと押さえてるのかな。 勝手に動かれるおそれはある・・・・・・。第2のレベロ議長なんてごめんだ。」 うちの現在の組織は一枚岩とはいえないものな。 翡翠色の髪をかき上げて誰ともなく呟いた。 覚え書きとして残しておいて不安要素は早期に発見してつぶそうと アッテンボローは思っていた。 イゼルローン要塞を拠点として地の利を生かすならば帝国側は大包囲陣を くむと推される。壮大なる布陣。 「結局、一個艦隊ずつあたるつもりかな。我が元帥閣下は。」 それと後手後手になったが地球教のディスクの検証結果に関して ヤンは深く追求していないがアッテンボローは、度々のヤンへの政治的妨害が 過去にあったことを思うと、看過できぬものを感じ取っていた。 ガイエスブルグ要塞がワープアウトしてきたとき、ヤンは査問会に召還された。 救国軍事会議クーデター時、ヨブ・トリューニヒトは地球教にかくまわれ 現在は帝国軍の傀儡になっている。 ディスクによれば表向きはフェザーン自治領(ラント)は、裏を返せば地球教 であった。 そして地球教の皇帝ラインハルト一世暗殺未遂。 「・・・・・・うちの元帥も危ない気がするのは私だけじゃないよな。」 テロや暗殺で国家元首や先導者は狙われる。地球教の意図はわからないが 何らかの画策はして来ないとは誰が断言できようか。 アッテンボローは綺麗な筆致で「ヤン元帥暗殺阻止」と書き留めた。 後は思いつくままシェーンコップ、キャゼルヌと打ち合わせをしようと思考を 切り替えて艦隊運動のパターンの考案につとめた。 そして4月20日、帝国軍からイゼルローン要塞へ一通の通信文がもたらされた。 フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト提督からの通信文である。 「ビッテンフェルト提督はとどのつまり、この通信文でこちらにけんかを売って いるということですよね。」 アッテンボローがこの通信文を得てヤンに面会に行ったとき、我らが元帥殿は 優雅に朝食中であった。 トーストと紅茶、そしてカントリー風オムレツに青豆のスープとヨーグルトを、 ヤンはユリアンとともに頂戴し、夫人はその味が奇跡ではなく鍛錬の結果で あることを料理の神に祈った。ヤンもユリアンもおいしいおいしいと、舌鼓を 打っていたのである。 フレデリカの入れた紅茶はこの時点で、ユリアンの入れた紅茶のまた従兄弟と いえる味になってきて、ヤン家は健やかで朗らかな朝を迎えていた。 「その通信文を読んでどう思う?アッテンボロー。」 「「唯一の将帥たる閣下の残党」として言うなら、この通信文は皇帝からの ものでもないわけで、無意味なものです。アムリッツァで負けた汚辱をいま、 黒色槍騎兵団のみで雪ぎたいっていうのが言わんとするところじゃない ですか。ビッテンフェルト提督が負けたのはその一度限りですからそういう ところはビッテンフェルト提督の風聞からして、らしいと思いますね。」 アッテンボローは目にかかる長い髪を指で掬う。ヤンも彼女の言うことにおおむね 同意見であった。 「ただビッテンフェルトが皇帝の勅命を無視して、暴挙にでるといろんな計算が あわなくなってくるんだよね。そうならないでいてほしいな。」 ヤンは二杯目の紅茶を実に満足そうに、口にした。 「返事どうしましょう。この際適当にあしらっておいて、相応な返信を返すのが 礼儀ってものじゃないですか。」 アッテンボローはあれこれと頭の中で返信文の草案をこねくり回していた。 喧嘩上等の気持ちで。 しかしヤンはこの時点では返信を確実にするとは明言しなかったので後日の ことになる。 「ところでアッテンボロー、最近ポプランと一緒じゃないね。まさか喧嘩したわけ じゃないだろう。いつもならこんな時でもお構いなしにくっついて来るじゃないか。 お前さんのご亭主は。」 むくれてるんですよ。 女性提督はにべもなく言ってのけた。 「あれやこれやとシェーンコップたちと私が討議しているから、すっかりむくれて。 空戦隊で珍しく訓練をつけて気を紛らわせているようです。」 まだシェーンコップ中将に中佐は焼き餅ですかと一角獣を思わせる若者、 ユリアンがあきれて問うた。 「あれの悋気はなおらないねえ。シェーンコップがもう私に執着していないこと など見てわかるというのに。でも、第一飛行隊長のくせにいままでさんざん 仕事をさぼってきたんですから、丁度いいのじゃないでしょうかね。」 アッテンボローは美しい微笑みを浮かべつつ、言う。 寂しくはないんですか、提督とフレデリカがきく。 「家にいるときは始終一緒なんだよ。いままでがおかしかったのさ。一人って 身軽だよね。革命軍司令官補佐としてはこの方が楽だな。」 と恐ろしいことを言い出した。 そんなこんなで話し込んでいると空戦隊第2飛行隊長が第1飛行隊長の 首根っこをつかまえてアッテンボローをやっと探し当てほっとしたのか 言った。 「提督、こいつうるさいです。25秒おきには「俺の提督」と叫ぶし。お願いです から革命軍司令官補佐の補佐にしてください。空戦隊の秩序が危ういのです。」 コーネフ中佐はそういってポプラン中佐をアッテンボローに押しつけ何事も なかったかのようにヤンたちに礼をして出て行った。 「自分はアッテンボロー提督のお役に立ちたいんです。」 と、ユリアンをまねてポプランはアッテンボローによよよと、すがりついた。 「一人じゃなんにもできなくなっちゃったのか。ダーリン・オリビエ。」 泣きつかれて女性提督はあきれつつ彼女の最愛の夫をいいこいいこしながら 呟いた。 それを見ていたヤンはアッテンボローとポプランの二人に言った。 「ポプランはコーネフの言うように、革命軍司令官補佐の補佐でもしていつも のように二人一緒にいなさい。二人がセットじゃないと見ていて落ち着かないよ。」 空戦隊第一飛行隊長は、司令官閣下から直々に「革命軍司令官補佐の補佐」 という役職を拝命し、女性提督を腕の中に抱きしめて神妙に敬礼。 「お役に立てるよう善処します。」 などと言ってのける。 なんだかなと腕の中に抱きすくめられたアッテンボローは思うのだが、結局 観念してシェーンコップらと打ち合わせをするときにも必ず「補佐の補佐」たる ポプランをつれて要塞内を奔走する羽目になる。 めでたし、めでたし。 by りょう ちょっと伏線を用意しておきました。そうたいしたものでもないですけれど。 30歳のアッテンボローをからかう名シーンを書きたい気持ちはあるのですが 過去にポプランに綺麗な女性はいくつになっても綺麗と言わせたため 割愛です。 でもシェーンコップ、ポプラン、娘という三人での馬鹿話は入れたいです。今後。 |