もう一度、愛してる、から。・4



自分が陥った記憶喪失の症状の載った資料を読み。

オリビエ・ポプラン中佐は仕官食堂でため息をついた。



隣で女性提督は悠々と珈琲を飲み「何がそんなに気鬱なのだ。オリビエ。無事に治ったじゃないか。」

と微笑んで言う。

「まあ。それはそうだけどな。昨日の俺って一日中こういう質問攻めとか・・・・・・してたわけだ。」

まあなと向かいの席でイワン・コーネフ中佐がきれいな笑みを見せた。

「でもアッテンボロー提督のあしらいは妻としてすばらしかったです。ポプランがどんな質問をしても

「秘密」と「内緒」で潜り抜けたでしょう。お見事でしたよ。」

それと思わせぶりな笑顔で。



まともに答えると疲れちゃうだろとダスティ・アッテンボロー・ポプラン夫人は夫の赤めの金髪を

なでた。



「オリビエのいいところはどんなときでもなにをしてもかわいいところだからね。」



女性提督に頭をなでられても中佐殿はうむむと考え込む。

かわいいとかかわいくないとかの次元ではなくポプランとしては「空白の一日」が釈然としない。

それほど気に病むことはないよと妻はやさしい微笑でいってくれるけれど。

「酒飲んで一日記憶が飛ぶ人間はごまんといる。あきらめろ。ポプラン。」

コーネフが言うと隣でテレサ・フォン・ビッターハウゼン中尉が微笑んでいる。

その隣にはカーテローゼ・フォン・クロイツェル伍長も同席して和やかな歓談に加わっていた。

「うちのワイフがどれだけ愛らしくて優しかったか覚えがないのが悔しいな。」

ブラックの珈琲を口にして隣のアッテンボローを見てポプランはつぶやいた。



いつも愛らしいしやさしいはずだけどおかしいなあと女性提督はごねるポプランの額を指で

ちょんとつついた。

「いつもやさしいけど。今夜かわいがって。ダーリン・ダスティ。俺もかわいがるから。」

うんいいよとアッテンボローはにっこりと極上の笑顔を夫に見せた。

「提督ほどいい奥方はいないのに。ああ。情けない亭主が付随する。不条理極まりない。」

コーネフは僚友の「あまったれ」をなんともいえぬ表情で見ている。



そういえばさとアッテンボローは話題を変えた。



「暗号でやり取りしていることだがユリアン・ミンツこっちにくるんだ。到着は明日。帝国の目を

かいくぐってここに来るから暗号でやり取りしてる。その後地球に行くんだってさ。」

地球ねえとポプランもコーネフもつぶやいた。

「やっぱ、新婚家庭にお邪魔していたくないってやつじゃないのか。ヤン・ウェンリーが奇跡を

おこしてフレデリカ姫と結婚しただろ。あの坊や、姫に片思いだったしな。家出するにはよいころあい

かもな。」

と口の悪いほうの撃墜王は言う。

「もうユリアン君も坊やとはいえないだろう。16歳で中尉だものな。しかも親の七光りではないことは

われわれはよく知っている。才能あふれる青年だ。・・・・・・地球ねえ。面白いかな。」

と口がもう一人よりは悪くない撃墜王は興味を示しつつ言った。



「でもカリンなんぞユリアンといい勝負するぜ。反射神経のよさはちょっとお目にかかれない・・・・・・

まあ艦載機周辺は油でギトギトだから今後は気をつけろよ。カリン。いつでも俺がそばにいて

助けてやれるわけじゃないからな。守ってやりたいのは山々だが俺にはかわいい女房がいる。

すまないな。」

そういわれてカリンは、はいと言った。

「ポプラン中佐はアッテンボロー提督を大事になさってくださいね。」

と15歳の少女は微笑んだ。

おう、こころえたとポプランはアッテンボローにキスひとつ。



ふとポプランは考えて。



「カリン。ユリアン・ミンツって青年がいる。中尉。16歳。亜麻色の髪にダークブラウンの眸。知性的で

理性的で・・・・・・まだ未熟者だが美形だ。初陣でワルキューレ三機、駆逐艦を完全破砕するような

男には見えないが俺の空戦での弟子だ。どう思う?」

どうもこうもカリンはぴんとこない。

「広報でお顔は存じ上げてます。ヤン提督の秘蔵っ子とお聞きしています。」

「あ。興味ないか。カリン。」

色恋に興味がありすぎなのはお前だとコーネフがたしなめた。

「クロイツェル伍長。こいつはすぐに何でも恋愛に結び付ける悪い癖がある。でもミンツ中尉は

性格がいいと思うよ。おおむね温和な性質だしね。友達になるにはよいと思う。」

は、はあとカリンは返事をした。

少し困ったカリンを見てそう周りがせっつかないほうがいいとアッテンボローは言う。



「ユリアンは悪い子じゃないけど同じ年頃の女の子が苦手みたいだ。恥ずかしいんだって。

ご面相がよくてもおくてなんだろう。大人の中で育ってきているからね。今ひとつカリンをうまく

リードできるような器用さはないな。」

アッテンボローはカップに唇をつけ、カリンを見て。

「無理に親しくならなくても気のあうやつなら知らぬ間にこういうことになるから。」と女性提督は

自分の左手の指輪を見せた。



「私だって本来のタイプはシェーンコップだったけれどああも堂々と口説かれると逃げたくなる。

あの男が卑怯じゃないのはわかってるし仕事もできるやつだが・・・・・・やっぱり女性としては

あれだけの恋を重ねている男の手にうまうまと転がり落ちる気持ちは起こらなかったな。」

アッテンボローが言うとコーネフが「おや。提督は中将のほうがお気に召していらしたんですか。」

とからかった。

「外見だけならね。コーネフだってリンツだってうちのオリビエよりハンサムといえると思うし。

でもオリビエが一番・・・・・・。」

女性提督はいとしげに隣のポプランの頭をなでている。

「・・・・・・まさかハンサムだったとか言うのではないでしょうね。」とコーネフが苦笑。



まさか。

「彼はファニー・フェイスだよ。でもさオリビエは何をしててもかわいいから・・・・・・彼がいいの。

シェーンコップは仕事仲間にはいいけれど・・・・・・一緒に暮らすにはちょっと違う気がした。」

アッテンボローはポプランを見た。ポプランはさっとアッテンボローの唇を掠め取って言う。



「あの不良中将は女を不安にさせるところがあるよな。俺のダーリンなんかは甘えん坊だし

寂しがりやだから絶対無理だ。あの御仁と俺とはなんかスタンスがちょっと違う。過去レディ・キラー

の俺としては・・・・・・あの人の恋の仕方がやや乱雑に思えるときがある。」

自分の悪行を棚に上げてよくまあそれだけ悪口がいえるよなあとコーネフはあきれた。

「まあな。いやシェーンコップのご老体の恋も一つ一つは真剣なんだろうけどな。人徳がないって

言うのかな。俺と違って。はっきり言って俺は女性から恨まれてなぞいないから。」

そのうちアッテンボロー提督から死ぬほどうらまれるさとコーネフ中佐は言った。



「なんつうのかな。あの御仁が昔おれのダーリンを口説いている様子を見たけどな。やや強引なんだ。

そういうのがお好みの女性なら成立するけど女性はソフトに誘われるのが好きな場合が多いな。

まあどの女性とも本気で恋をしているだろうとは思う。中将って器用そうに見えるけど実は案外そうでも

ない気がするぜ。・・・・・・敵に塩を送るまねはしたくないが美男子なのは疑いの余地はないから女性に

困るってことはまずないさ。あれで仕事できるからな。」

「ほほう。シェーンコップ中将の美丈夫ぶりには賛成したんだな。さすがのポプランも。」

コーネフはからかった。

ポプランは口を尖らせて言う。

「おれはそうたいそうなルックスの持ち主じゃない。いや。訂正。普通の美男子ではないってことだ。

でも魅力はふんだんにあってもててもてて困った。やや個性的な愛嬌のあるかわいらしい男が

おれ。でも男ってのは顔じゃないからな。だからこうして隣に絶世の美女がいるわけ。なあダスティ。」

絶世の美女云々はどうも返事ができないとアッテンボローは言う。

「シェーンコップという男は恋愛面では女を不安にさせる要素が多すぎる。そこは賛成かな。」



少女は考えた。

もしも自分の父親がポプランのような男であればすぐに娘だと名乗り出て甘えたかもしれないと。

ポプランは何かひとをひきつける魅力を持っている。

「なぜ母や私を捨てたの。」と問い詰めても受け止めてくれそうな気がする。

満足の行く答えでなくても。

だがあの男は違う・・・・・・気がする。

人を寄せ付けぬ感じがする。

ワルター・フォン・シェーンコップというひとをそうは知らないけれど・・・・・・彼女の母親は

たった三日だけしか男と一緒にいなかった。

なぜ三日で二人が離れたのかわからない。

任地についてくるかといった男の手を振り切ったのは母のほうだ。



シェーンコップという男のことは本当によく知らない。



父がいない私生児ということで少女は気持ちのよい幼児期を過ごしたとはいえない。

でも・・・・・・。

手を離したのは母かもしれないが、それでも連れて行こうと思わないシェーンコップという男。

そして母のほうからついていくことを拒んだような男・・・・・・。



カリンには理解できないし理解したいとも思わない。



なぜ母は父・・・・・・遺伝子分類上の父の手を離したのか。

母は不安だったのではないだろうか。

・・・・・・カリンはなんとなく気鬱な気持ちになった。



「たぶん懐に入るのが難しいひとなんだろうな。シェーンコップっていうひとは。馬鹿やあほは

相手にしない男だし。俺も複雑な男心を抱えているがあの御仁もそれなりに抱えているのだろう。

ま、それはともかくユリアンには3人のお師匠がいる。ひとりはヤン・ウェンリー。絶望的な

野暮天。そしてもう一人はワルター・フォン・シェーンコップ。絶望的な排他主義者。まあ色事のことなら

俺に似るのがユリアン・ミンツは幸せだろうな。」

ポプランがそう指を立てていうとコーネフはあほらしいといい捨てた。

「ユリアンのことだし地球へは何かを研究に行くのだろうね。地球って面白いのかな。

800年も前に人類がすてた惑星だろ。今は・・・・・・宗教の巡礼の星じゃなかったっけ。」

アッテンボローは口にした。

「ええ。地球教という宗教がありますわね。ハイネセンでよく見かけました。」

テレサが答えた。

「若いのにあいつは枯れてるよな。あれだけのルックスと運動神経があれば女の子なぞ若いうち

自由にできるだろうに。地球めぐりって・・・・・・あいつ何が悲しいんだろうな。」

ポプランは彼にとっては不出来な弟子のことを慮った。

「さあ。お前さんよりもはるかにミンツ中尉は気苦労が多いのだろう。・・・・・・排他的だとシェーンコップ

中将のことを言うけれどあのひとユリアン・ミンツ中尉には親切だったな。才能があったからかな。」

コーネフがポプランに言う。

「ユリアンには庇護欲をかきたてる何かがあるんだ。だって普段は自分のことすら満足にできぬ

ヤン・ウェンリーがことユリアンに関してだけはここぞとばかりに保護者ぶるじゃないか。あのぐうたらを

動かせる力ってのはすごいものがあるよな。」

確かにとアッテンボローは微笑んだ。

みなが笑ったからカリンも微笑んでみた。



けれどぎこちない笑みしかできなかった。

ユリアン・ミンツという少年はワルター・フォン・シェーンコップに認められていて、自分は・・・・・・。

少女のかたくなな心はさらにかたくなになった。






浴室に椅子を運んでポプランがアッテンボローの髪を整えた。

男は伸びても仕方がないが女性の髪は命だからと彼は器用にはさみで彼女の髪型を整えた。

「あ。美容師さんみたい。オリビエ上手。」

「うん。プロほどじゃないけど辛抱して。ダーリン。」



そのあと二人で一緒にシャワーと浴槽を使って風呂上りアッテンボローはポプランの腕の中でベッドで

ごろごろとした。

ねえ。

さっきあのカリンちょっと変じゃなかったとアッテンボローはキスの合間につぶやいた。

「なんだかユリアンの話をふったら・・・・・・それから無口になった気がするんだよね。あんまり

思春期の女の子の恋愛事情に踏み込まないほうがいいと思うよ。オリビエ。」

カリンとユリアンは似合いだと前にお前は言ったじゃないかと優しい唇が重ねられる。

「・・・・・・でもなんかいやそうだったよ。そりゃ喜んで紹介してくださいなんていえないけど・・・・・・。

10代の恋はそれなりに難しいからな。」

あ。

経験者が語ってるとポプランは腕の中のアッテンボローをからかった。

苦々しい経験を持っているからあんまり語りたくない女性提督。

「私は男運が・・・・・・よくなかったから。」

過去彼女は恋人に言われたことがある。もちろんポプラン以外の、別れた恋人である。



わいせつな体をしてる。男を誘うような体つきと顔つきしてる。

淫猥な女。そういう世界でも働ける。云々。

口にできぬような下卑たことばが浴びせられたようである。



その男との別れ際に。



とその夜はじめてアッテンボローはポプランに言った。

彼は彼女を抱きしめてふつふつと湧き上がる怒りを感じていた。

今そいつはどうしてるんだ。俺がミンチボールにしてやる。というと

アッテンボローは戦死してるよという。

「ふん。そんな低俗なことを言うからこんないい女を逃がすんだ。馬鹿な男だぜ。

まだその言葉を気にしているのか。ダーリン・ダスティ。」とポプランはアッテンボローの頬に

骨ばった指を添えた。やさしく。

「うん・・・・・・時々夢に出る。時々ね。・・・・・・だから容姿をほめられると・・・・・・だいぶましに

なったけどなんかそういう目で見られてるんだって思うから・・・・・・好きじゃなかった。素直に

喜べないんだ。女性からならまだ大丈夫なんだけどね。・・・・・・今も苦手なときがある。

オリビエから言われるのも大丈夫。・・・・・・でもさ、胸も無駄に大きいし・・・・・・そういう世界で

生きている女性もいるから本当は落ち込んだら失礼だけど・・・・・・でも・・・・・・そう見られてるのかなと

思うとね。顔のこととか体のことを言われるのが苦手なのはそういう理由が大きい・・・・・・。」

ポプランのやさしい肌に頭を乗せて・・・・・・言う。



本当にそいつは3000回殺しても殺したりないぜとアッテンボローの額に唇を当ててポプランは

憤怒している。



「お前はさ・・・・・・。」瞳を閉じた彼女のまぶたに接吻を落としながらポプランは一言一言、

丁寧に言った。



「お前はさ。おれにとっては人生最大の幸運なんだ。お前とであって、恋して・・・・・・これからも

ずっと生きて行こうって決めて。そしてこうしてそばにいる・・・・・・無意識だったけど手をつないだとき

・・・・・・なんだか妙にしっくり来る女だなって思った。肌がな俺たち合うんだろうな。初めてキスのときに

あ、俺本当にこの女しかいらないやって確信した。」



おれって指が長いから「お前が嫌う胸の大きさがちょうど手に馴染む大きさで。」

と手のひらで彼女の「コンプレックス」な大き目の胸を包んだ。

「ほら。ちょうどいい感じ。」

ポプランはいたずらっぽく微笑み、アッテンボローはつられて小さく笑った。

んで、おれサイズ的に大きくないからさとポプランが言うと女性提督は首をかしげた。

「息子のサイズ。ピロートークだからいいよな。おれのはそれほど大きくないと思う。固いけど。」

アッテンボローはくすくすと笑う。

「シェーンコップのくそ野郎とかでかそうだなって思うぜ。」

「・・・・・・大きさなんてあまり問題じゃないと思うけど。」とアッテンボローは赤めの金髪に

指を入れていじる。



女はたいていはそういってくれるが・・・・・・

「前に「まあ。かわいいお坊ちゃんね。」ってお姉さまに言われたくらいだな。「かわいいお坊ちゃん」

だって。なんか笑うよな。」

ポプランが笑うからアッテンボローも笑う。

笑っていいのか微妙なのだけれど。

「で、ここだけの話。お前は小さくて狭くて締りがきついから俺とサイズがぴったりなわけよ。」

もう。とアッテンボローは頬を染めて彼の髪を引っ張った。

それに「それに・・・・・・普通にたっててどちらかが背伸びしたり身をかがめなくてもちょうど唇の

位置が同じくらいじゃん。俺たちってよくサイズから相性から合うんだと思う。」

脚がお前のほうが長いのがちと悔しいがなとポプラン。

女性の体のつくりからすれば腰の位置が高くなるから仕方ないよとアッテンボローは微笑んだ。



「お前のコンプレックスは全部俺にとっては魅力。ほんとお前こそ何をしてても、お冠でもごねても

かわいい。たまらなく俺を誘う愛くるしさとか妖艶さとか・・・・・・お前は価値を感じてないようだけど

俺にとっては大事。」

外見だけじゃなくて中身も。

「コーネフに言われなくてもお前のような優しい女が俺のそばにいることは自分で幸せだって

十分感じている。お前って本当に優しい女だよ。あったかいっていうのかな。アンバランスな危うさを

抱えているけどそれすらかわいらしさに思えるものな。・・・・・・今度はやな夢を見たら俺に言えよ。

おれがそういうの全部忘れさせて見せる。若いころの傷って言うのは後々まで残る。・・・・・・俺は

無神論者だからあんまり使わないけどお前って女神みたいにきれいだぜ。いつも一緒にいる俺が

言うんだから・・・・・・もっと自信もっていいぞ。ダスティ。」

アッテンボローの細い腰に腕を回して彼女があえぐような接吻を幾度も、かわして。



唇が離れて「・・・・・・すごくお前がすきなんだ。俺。」と吐息のような口調で言われた。

「・・・・・・うん。」

「だからまたコンプレックスで悲しくなったら俺に言うんだぞ。そんな気持ちのままではお前が

かわいそうでたまらない。ほんとその男はろくでもないな。殺したりん。」

もう死んでるってばと女性提督はささやいた。



だからね・・・・・・「だからね。ユリアンとカリンのことは様子を見ようよ。私はあの子が12のころから

知ってみてきているけれど恋愛に関してはどうもお前じゃなくて先輩に似ているような気がする。

だからカリン相手にしどろもどろしちゃうと思うよ。カリンを傷つけることはしないと思うけど・・・・・・

彼女は傷つきやすい面が多い。思春期ゆえなのか母上をなくしたばかりだからなのか・・・・・・

父親のことを話さないだろう・・・・・・。」

そこまで言ってポプランの眸を見つめた。

「うん。引き合わせはするが後はユリアンに任せる。」



俺の奥さんは本当に女の子のこととなるとさらにやさしくなるんだからとポプランは微笑んだ。

「でも愛してるよ。奥さん。」

うんとアッテンボローは柔らかな笑みを見せた。

私も。と今度は彼女からポプランに甘いキスをひとつ。

「ハンサムな男はヤン艦隊にはたくさんいたけど・・・・・・。」

「俺が一番でしょ。」

「・・・・・・うん。最初はほんとファニー・フェイスだった思ってた。」

女性に細やかだから恋の達人なのだと彼女は思っていた。けれど。

「お前、ときどきすごくハンサムになる。パイロットスーツ着てるときとか、結婚式で礼装をきちんと

きたときとか・・・・・・。お前の動きはきれいな曲線なんだ。所作がきれいなんだ。お前。」

だからときどき。



「恋したくなる。」

宙(そら)色の眸が熱を帯びてポプランを見つめた。

夫婦で口説きあうのも。

「夫婦で口説きあうのもたまには悪くないな。」

指を絡めて唇を重ねた。



オリビエ・ポプラン中佐の記憶喪失は軍医の診断どおり一両日中に解決し大きな問題は

起こらなかった。後遺症もなければ何の危険もない。

後遺症ではないけれど。

ポプラン中佐は結婚したことすら忘れても怒るどころかおおらかにほがらかに、自分を包み込んで

くれていたアッテンボローに深く感謝をする。

深く敬愛し、純粋に愛情を感じる。

ヤン・ウェンリーが奇跡でフレデリカ・グリーンヒルを得たというのなら。

オリビエ・ポプランとてまさしく奇跡でダスティ・アッテンボローを手に入れたといっても過言ではない。



アッテンボローが良妻であるがゆえに二人は何があっても幸せなご様子である。

よきかな。

よきかな。



by りょう




LadyAdmiral