恋と戦では何でも許される・4




後世の歴史家は評価しないが。



このときヤン艦隊の移動の速さ。

ランテマリオ星域へ向かったヤン艦隊のスピードは「疾風ウォルフ」とまでは及ばぬが相当な

日数を短縮している。



宇宙艦隊司令長官アレクサンドル・ビュコック元帥とともに、自由惑星同盟の主流艦隊の総参謀長を

つとめたチュン・ウー・チェンでさえ、ヤンが到着するのは2月15日であった。

「最速で。」である。

総参謀長はテーブルマナーは最低だが温和な顔に似ず頭がいい。計算ができる男である。

もともとヤンにイゼルローン要塞の放棄を促す訓令文を出させたのも彼であり、あらゆる方面で

自由惑星同盟の頭脳ともいえる人物が推定して出した希望的観測日が15日であった。



ヤン・ウェンリーは軍艦に乗せざるをえなかった民間人も、キャゼルヌが指揮をとる戦艦

「ヒスパニオラ」を中心とした「臨時分艦隊」にのせた。大多数の民間人は輸送船、病院船に

振り分けられたが貴重な戦艦もさく必要があった。「ユリシーズ」もそのうちの一つである。

「ヒスパニオラ」を中心に民間人船団「臨時分艦隊」をヤンは切り離すと、一路強行軍で

ランテマリオ星域を目指した。

結果として合流を果たしたのは2月9日。ヤンはしらないが6日の日数をイゼルローンから

ランテマリオまで時間短縮した。



ヤン・ウェンリーは脱出作戦の段階でこの方法なら民間人をいち早く避難させることができ、軍人

だけで戦場に向かえるとキャゼルヌに指図していた。やはり彼は比類なき名将なのである。



突然のヤン艦隊の「奇襲」に、ラインハルトは体勢を立て直す為一時撤収した。

ランテマリオから2.4光年離れたガンダルヴァ星域、第2惑星ウルヴァシーを占領。今後のハイネセン

侵攻の拠点にした。ウルバシーは人口も少なく水資源が豊富な惑星である。



ヤンにすれば半日遅かったと悔やみかけるがアレクサンドル・ビュコック元帥が生き残った

分水嶺も2月9日である。あと少し遅ければ自由惑星同盟主流艦隊は壊滅していた。

合流後、艦隊編成をしつつハイネセンへ向かったのである。

恐ろしい強行突破をヤンは果たした。

そのハイネセンへの「華々しからざる凱旋」途中、ユリアン・ミンツ少尉は帝国軍駆逐艦をのっとり

ヤン艦隊に合流を果たしえたのである。



それを超光速通信(FTL)でしったポプランなどはそういうことでは手の早いやつだと青年の無事を

からかいつつ喜んだ。

女性提督は苦笑した。もしヤン司令官が凡庸な将帥であったらわざわざバーラト星系に出向いて

命令が下るのを待ったであろう。それでは遅い。

個人的にビュコック元帥を知らぬアッテンボローすら旗艦「リオ・グランデ」を確認したとき安堵で

小さなため息をつき笑みをもらした。



2月。

ヤン・ウェンリーはハイネセンへ帰って二時間後に元帥に昇進した。ともないヤン艦隊の人間も

それぞれ一つ階級が上がった。

女性提督はダスティ・アッテンボロー・ポプラン中将となり、夫のオリビエ・ポプランは中佐になった。

夫妻はアッテンボローの住んでいたシルバーブリッジの官舎に滞在を決めた。

亭主はホテルに行こうというけれど女性提督は「無駄遣いはダメ。」とたしなめたからである。

ポプランは部屋にはいるとアッテンボローに熱い抱擁と接吻を散々ささげた。そのあとしぶしぶテレビを

つけた。アッテンボローがハイネセンのニュース事情を知りたいからテレビをつけろとうるさく言うの

だった。ポプランは買ってきた酒を口にして、アッテンボローははたきで部屋を掃除しながらニュースを

耳にしていた。亭主はテレビなどもう卒業した世代であったし、女房殿は掃除し甲斐のある我が家の

清掃に没頭して耳だけで時事を探っていた。



「お。ユリアンだぜ。ダーリン。」と彼女の趣味「家事」をやめさせてソファに座った自分の膝の上に

座らせた。「なんだか大人になったね。ユリアン。」アッテンボローは感慨深いものを感じた。

ハイネセンではヤン・ウェンリーの養子、いな「秘蔵っ子」が帝国軍駆逐艦を奪取して帰還した

報道で色めきたっていた。

英雄の秘蔵っ子が若すぎる英雄となった。この話題は敗戦に近い自由惑星同盟の人々の希望

になった。ユリアンは中尉に昇進し自由戦士勲章も与えられた。しかし辛らつに言えば、



この事実で銀河帝国に勝てるわけではないのである。



「まあ。テレビうつりは悪くないな。あいつ顔きれいだから。若い英雄ってもんは国事情が無残な

だけに必要だから美形の英雄でよかったんじゃないか。」とポプランは膝に乗せたアッテン

ボローを抱き締めた。

「だめ。掃除が終わってない。その後洗濯して食事を作らなくちゃ。」

さらに抱擁と接吻に試みようとしたポプランを彼女は笑って彼の腕の中からもがきでた。

そしてまた何となく鼻歌交じりで手際よく自分の家をきれいにしていく。



「家事にいそしむ主婦ってのはいいものだがもう少し、夫にかまってほしいよな。だからホテルが

よかったんだ。」と唇を尖らせポプランはいそいそと動き回る妻をいそいそとあとをつけまわし

隙あれば抱きつこうとしていた。じゃれるなとアッテンボローは笑った。

「安心しろ。日が暮れるまでには夕飯は出来上がる。やっぱり清潔なベッドは大事だと思うよ。

だんな様。」アッテンボローは家事が好きであった。彼女の趣味だった。



日も暮れて掃除はすみすっかりきれいになった家。

「ヤン先輩はユリアンと出会えたかな。ユリアンがいないからホテル・カプリコーンに泊まった

みたいだけど。ユリアンがいないと何もできない人だからね。」

夕食はアッテンボローが持ち帰った圧力鍋・・・・・・もちろんポプランがプレゼントしたちょっと大き目の

ものを使って夕餉を整えた。

ビーフシチュー、オニオングラタンスープ、チキンライスに魚と野菜をホイル焼きにしたもの。

ソーセージと豆のスープパスタ。



「やっぱりいつもの私の料理よりホテルの料理のほうがよかったかな。」



と遠慮がちにいう「白い魔女の妹分」であるアッテンボローにポプランは賛嘆した。

「いや。すごい。うちのワイフは宇宙一だ。」とキスしてワインをあけた。

物資が調達しにくかったのであるが彼女は工夫が上手なので、その日2月13日、再会できた

ヤンとユリアンが「三月兎亭(マーチ・ラビット)」でいただく食事よりも美味しくて

ポプラン中佐好みの味をした料理にありつけた。



久々の家事労働で鬱憤が晴れたのかアッテンボローは割りと早くに酔いがまわって

結局食器は食べ残したまま洗いもせず亭主のポプラン中佐に抱きかかえられて

ベッドインとなった。

蜜月時代の二人なのでこれくらいはご勘弁。






2月の末にはヤン・ウェンリーの艦隊は蠢動を始める。

エピローグの始まりである。



メルカッツ提督も事実上「正当政府」を見限り副官と部下6名を連れてヤン艦隊に加わった。

民間人の無事を確保したアレックス・キャゼルヌ中将も合流した。ユリアンも中尉となり辞令はなかった

けれど彼の保護者の側にいた。

ヤン艦隊はもはやイレギュラーズ(不正規兵)であった。けれどアイランズ国防委員長はすべての

軍の権限をヤンに託した。



これで自由惑星同盟はヤン・ウェンリーという32歳の史上最年少の元帥にすべての

命運をゆだねることとなる・・・・・・。



「ライガール・トリプラ両星域の会戦」ではカール・ロベルト・シュタインメッツをブラックホールを利用し

壊滅の危機に陥れてさらに増援にきたミスター・レンネンに打撃を加えてヤン艦隊はライガール方面に

「悠々と逃げた」。

「タッシリ星域の会戦」では補給コンテナを使いアウグスト・ザムエル・ワーレンを戦術での完全なる

勝利で叩きのめした。

ラインハルト・フォン・ローエングラムの怒りも頂点に達したであろうとヤンは内心思う。



帝国軍の諸将帥を戦術レベルで完膚なきまで叩く。それによって「戦いの天才」であるローエングラム公を

戦場に引きずり出す。ローエングラム公さえ戦場で殺戮をすれば帝国の体制は必ず瓦解する。

現在銀河帝国では宰相閣下の後継者はいない。なればこそ残された将帥たちの「後継者争い」が

始まるであろう。



あの戦争の天才に自分が勝てるか。ヤンは疑問が多かったが彼以外になしえる人物もいない。

銀河帝国はローエングラム体制で善政を約束されているのに。彼を倒していいのであろうかと

いう気持ちは心の隅にいつも存在していた。歴史の上で自分は悪になるのかもしれない・・・・・。

それでも独裁政権にすべて降伏することもできない。腐敗した民主政治であってもヤンにはそれが

尊いものに思えた。



宇宙歴799年4月11日。



岩石だけで成立している小惑星ルドミラで半日の「休暇」が発令された。2400時までヤン艦隊は

休息を得る。その間にフレデリカ・グリーンヒル少佐はヤン・ウェンリー元帥から「洗練されていない」

求婚を受けた。ヤンは自分を戦争犯罪人だと思っている。その自分が普通人のように家庭をもって

よいのか。フレデリカの気持ちは勿論であったときにわかっていた。けれど応えることができなかったのは

その思いがあったゆえであった。けれどやっとフレデリカからも「イエス」の返事を得た。



一生分の勇気を使い果たした気持ちでしどろもどろ何かを呟く婚約者をフレデリカは眺めた。

長くこんな瞬間を心待ちにしていたけれどいざというときには「イエス」ひとつスムーズにでて

こなかった自分を恥らうフレデリカでもあった。「閣下、私料理に自信ないですけれどがんばり

ます。・・・・・・わたしこそ閣下にふさわしいかわからないです。でもがんばってみます。ずっと

・・・・・・あなたを追いかけてきたんですもの。これからだって大丈夫です。」

大きなヘイゼルの瞳は濡れてまた涙がこぼれそうな婚約者をヤンはうっかり見落とさず

しっかりとやさしく抱き締めた。



「・・・・・・これはセクシャルハラスメントになるかな。フレデリカ。」まだ夢を見ているような二人である。

「いいえ。だって休息時間ですもの。2400時までは勤務時間ではありません。・・・・・・」



料理は・・・・・・。

「そんなに気にしなくていいよ。二人が生き残ればゆっくり覚えればいいし・・・・・・君は・・・・・・

ずっと思ってていえなかったことなんだけれどすごく大きなきれいな眸をしている。すっと思ってて

・・・・・・いえなかった。」

気持ちも気づいていたのに答えを出すのが遅くてごめんよとヤンはフレデリカの涙を不器用に

ゆびでぬぐった。

そして不器用に彼女の額にキスを一つ。



・・・・・・そしてまた不器用にフレデリカの唇に自分の唇を重ねた。

シンデレラ・リバティ。ヤンとフレデリカの場合であった。



ルドミラのポプラン夫妻の部屋。

コーネフは自室で寝るといっていた。ポプランは勿論アッテンボローを腕の中に抱きピロートークを

愉しんでいた。「いよいよこの休暇が終わればローエングラムの坊やとの戦いだ。なんとか一対一に

持ち込んだけど・・・・・・・きっと大きな戦いになる。無理しないでね。」

宙色の眸を瞠らせて女性提督は撃墜王殿に指を絡ませた。

「ダスティは心配性だな。ういやつ。」

「もう。ちゃんと約束しろ。未亡人にしたらいろんな男と華麗なる恋愛遍歴を作り上げてやる。

まずシェーンコップだろ。薔薇の騎士連隊の男前連中だろ・・・・・・。」

こら。ポプランは口を封じるためにアッテンボローに甘く深いくちづけをした。

吐息が漏れて彼女の呼吸が荒くなる。

「俺は生きて還ってくる。心配しなさんな。ダーリン。愛してるぜ。」

「私も愛してるよ・・・・・・。」ポプランの腕の中でアッテンボローは呟いた。



2330時。二人で熱いシャワーを浴び終えて身支度を二人整えた。彼女の洗い髪をポプランはいつもの

ようにきれいに乾かして。「よし。極上の美人提督の出来上がりだ。」と満足げに言い唇を重ねた。

2345時に二人は部屋を出た。

通路を進むとメルカッツ提督の部下の女性士官とイワン・コーネフ中佐の姿が見えた。

「どこかしらでロマンスが起こってるな。イイコトだ。」



ポプランはほくそえんで、アッテンボローも微笑んだ。コーネフをからかいたいポプランを押えて

女性提督は「トリグラフ」ブリッジに立った。ポプランは出撃を指図する自分の美しい妻を

惚れ惚れと見つめた。



2400時。根拠地ルミドラをヤン艦隊は出動しバーミリオン星系へ向かった。

エピローグへの、出動・・・・・・。



by りょう




チュンさん好きです。大塚さんの声も好きですが。チュンさんは面白いです。ビュコック元帥はいいひとを

得たなと。だいすき。チュンパパ。


LadyAdmiral