星のラブレター・4



三次会というわけではないがヤンとユリアンとフレデリカは夕食を要塞の民間区域にある

レストランでいただこうという流れになった。



明日は日常に戻るし、テトラサイオキシン麻薬騒動もおさまってはいるが通常勤務に戻る。

ポプラン夫人は職場では「アッテンボロー提督」のまましばらくは仕事をする。



花嫁と花婿は新婚旅行に行かないので(訂正。いけないので)蜜月は自宅で過ごすことにしたらしい。

もっともあの12月末からあの二人が蜜月でない時期もなかったのであるけれど。



「今日はお恥ずかしいです。私なんだかいろいろと思い出して。泣いたりして恥ずかしいです。

閣下にもユリアンにもお詫びしますわ。」



フレデリカはすっかり化粧も直して・・・・・・アッテンボローは自分の化粧には頓着しないが

友人の化粧の崩れは直させた・・・・・・いつもの明敏なる美しき副官殿に戻っている。

「いやいや。私もなんと言うか感動したなあ。二歳しか変わらないけれど彼女は私の妹のような

存在でもあったからね。キャゼルヌ先輩が奔走する気持ちもわかるよ。あのアッテンボローが

結婚したのか・・・・・・。」



ヤンの隣でユリアンは微笑んだ。

「提督はきっといつまでもミセス・ポプランをアッテンボローとおっしゃりそうですね。」

彼はうっかりしたなともらして続けた。

「うん。かれこれ何年の付き合いになるかな。キャゼルヌ先輩の次に長いな。彼女の家にも

士官候補生時代に遊びに行ったこともあるからご両親や姉上たちとも面識がある。

ポプランが二人って言うのもなんかおかしいだろ。」



おかしくないですよとユリアンとフレデリカは笑った。

「今日のユリアン、素敵だったわよ。貴公子みたい。顔立ちがいいから礼服が似合うわ。」

フレデリカは誉めた。

「うん。シャルロットといい、あの演出はよかったね。ポプランも今日はいつも以上の伊達男に

見えたし花嫁は綺麗だった。」



テーブルに赤ワイン。三人は「美しき花嫁と、その僕(しもべ)なる花婿に」乾杯をした。

「でも緊張しましたよ。あのリングピローの上にはお二人の大事な指輪がのっているし。

うかうか落とせば一生言われそうでしょ。縁起が悪いとか。」

そうだろうねとヤンも笑った。



「それにしても今日のポプランはおとなしかったね。あれは司会者の徳だろうな。

いい司会者をキャゼルヌは選んだ。・・・・・・参謀長殿はお嬢さんを思い出したかもしれないな。」

ユリアンは小柄で綺麗な女医を思い出していた。



「参謀長にはお嬢様がおいでなのですね。」

うん。「私とは二年だけ基礎学科が一緒だった。軍医だったんだが亭主をなくして今は民間の

医者になっている。よい女性だよ。でもなかなか次のご亭主をというわけには行かなくてね。

まだ5年もたっていないからなあ・・・・・・。次の相手という気持ちにはなれないのだろうな。」

「じゃあお嬢様のこと心配でしょうね。」

「うん。普段はそんな話はしないからね。美人で賢くて家事が得意。そして強い。アッテンボローは

強そうに見えるけれどもろいところがある。ポプランはよく見てるよ。・・・・・・噂を流してよかったな。」



え。とフレデリカもユリアンも顔を見合わせてヤンを見た。



『要塞きっての、いや、同盟軍きっての若く生命力に満ち溢れた女性提督ダスティ・アッテンボロー

少将と、空戦隊エースでレディ・キラーのオリビエ・ポプラン少佐が・・・「男女の仲になっているらしい」』

「悪い方向にはならなかっただろう。でもここだけの話にしておくれ。」



フレデリカは閣下ったらと晴れやかな笑みをこぼした。

ユリアンは「無謀ともいえる情報作戦だったんですね。」という。料理が並んで三人はなかよく

いただくことにする。



「似合いに見えたんだよ。割と悪くなかっただろう。ああでもしないとアッテンボローはすぐ

逃げるしね。私はあまり彼女に長く軍人でいて欲しくないと思うときがある。いや有能だから

いて欲しいと思うけれど・・・・・・でも彼女は本質は女性的で少佐の給料でやりくりして暮らす姿が

似合いそうだろ。」

ヤンは赤ワインを含んで話した。

「たしかにミセス・ポプランはマダム・オルタンスの妹分のようなひとですからね。・・・・・・でも

少佐は恐妻家というより愛妻家に見えます。ミセス・ポプランは家計のやりくりがお上手です

から少佐は本当にいい奥さんをもらいましたね。僕がミセス・ポプランと同じ年のころなら

ちょっと恋をしたかもしれないです。」

とユリアンが言うと・・・・・・。



アッテンボローにとっても今回の縁組は良縁だよ、と礼服を着ているが司令官には見えない

ヤンが言った。

「彼女は今日の式でもポプランより前に出なかっただろう。あいつは逃げるわりに自分を

うまく引っ張ってくれる男性を探してた。ポプランはあれでまだレディ・キラーだったら

大問題だけどアッテンボローをとても気に入っている。似合いなんだよ。」

ええ。本当にその通りですわねとフレデリカは頷いた。



「それにしてもやはりシェーンコップは来なかったね。薔薇の騎士連隊で花を贈るとか

言っていたな。本当ならアッテンボローの好みはシェーンコップだと思っていたけれど

少佐は駆け引きが巧みだった。あの知恵を何かで生かせたら楽だろうなあ。」



少年はあきれて、フレデリカを見た。「ええ。楽ができると思いますわ。閣下。」

花嫁からのブーケは次に受け取る女性が結婚するといわれがあるけれど

花婿がブートニアを渡すのにあまり意味はないなと少年は思うけれど。・・・・・・いつに

なったら彼の保護者はミス・フレデリカ・グリーンヒルにプロポーすをするのだろうと少年は

考えていた。



あの少佐でも60回近いプロポーズをしたと聞いた。



とても自分の保護者にはそんな活力や覇気はないから、一回勝負なんだろうなと

少年は揺れる気持ちを抑えつつ、そんな日が来ることを同時に心待ちにした・・・・・・。



「あの指輪はとても綺麗でしたわね。きっと少佐のことだからキャゼルヌ少将のように

はずさないでずっとつけておいでだと思うわ。」

魚のカルパッチョと海の幸のマリネとフルーツトマトモッツァレッラのサラダ、仔牛のミルフィーユ仕立て

を三人でいただく。「やっぱり女性としてはずっとつけていて欲しいのでしょうか。指輪。」

ユリアンは尋ねた。



少し考えて。「でもうっかりなくしてしまうひとだったら大事に引き出しにしまってくれればいいと

思うわ。少佐はなくしそうもないでしょ。むしろミセス・ポプランが大丈夫かしら。私もひとの

ことは言えないのだけれど・・・・・・。」フレデリカは答えた。

フレデリカさんも装飾類を身につけませんねと保護者の情報のためにユリアンは聞いている。

「うふふ。私もうっかりなくしそうなひとだから。苦手なの。アクセサリーって。」

いたずらっ子のようにフレデリカはときどきとても可愛い笑みを見せる。



よかったですね提督と少年は安堵もして、少しだけ複雑な心を整理しようとしていた。



ヤン・ウェンリーとフレデリカ・グリーンヒルの二人を見ればよく似合いの二人だと

少年は思う。そして尊敬してやまない師父と、あこがれている大尉が結ばれるといいなと

心からそう思っている。



ほんの少しだけ自分はまだまだ未熟だと少年は思いながら食後の珈琲を、歓談している

二人の会話を聞きながら、思う。







ポプランとその花嫁が自宅へ帰ると配送センターからの伝票があり、女性提督は電話で帰宅を

したから荷物をもう一度持ってきてくれと頼んだ。

「なんだろうね。うちに荷物なんて。」と花嫁の女性提督は「花婿の一生のお願い」でまだウェディング

ドレス姿のままである。



「こんな服装で帰れないだろ。」とお怒りになる女性提督をとっとと横抱きして部屋までつれて帰ってきた

少佐。さすが。



「祝儀とか祝いをもらうなとだんなから言われてあいさつ回りのときにそれとなく匂わせて

おいただろ。ダーリン・ダスティ。」とベッドに腰掛けた花嫁に唇を重ねた花婿。

「今夜は媒酌人に御礼に行かないとね。」

と花嫁はそばかすの美しい微笑を向けて夫に言う。

「御礼はするが今夜でなくてもいい。」と当然の返答が帰ってくる。相手が少佐だから。



さからいたいところをマダム・オルタンスの格言を思い出してみる。



「世の亭主というものは、ときどき馬鹿なことを言ったりしでかしたりするけれど、黙ってついていくと

まずまず機嫌よくことが進むものですよ。」



細かいことはさからわないでおこうとダスティ・A・ポプランは思う。そんなときチャイムが鳴った。

「あなた。お願いね。」と女性提督は試しに言ってみる。自分でもなかなか慣れそうもない。

でも言われた撃墜王殿はキスを中断されてことの不機嫌さも忘れて玄関へ向かった。



船の操縦とにてるような似てないような・・・・・・。



そう思っていると「祝いだ。贈り主は気に入らないがものに責任はないからな。シャンペンと・・・・・・

おいで花嫁さん。」花婿に手を引かれてリビングに出ると大輪の白い薔薇の花かごがいくつも

並んでいる。

「あらら・・・・・・。」

贈り主は「気に入らないがシェーンコップ少将と愉快な仲間たち。薔薇の騎士連隊の連中のなかでも

リンツとか本気でお前を狙ってたんだぞ。ざまみろ。ダーリンは俺の花嫁。」



・・・・・・背後から抱きしめられてちょっと待てと女性提督は言う。



「リンツがなんで。そんなそぶりないじゃん。」

と亭主に聞く。「お前は鈍い女だよ。リンツもコーネフもお前狙いだったんだ。積極性がなかっただけ。

面と向かって口説いてたのがおれとあのエロシェーンコップだったから二人とも遠慮したんだろ。

恋に遠慮してちゃいい女は手に入れられないのにな。」




えええ。と花嫁は不平を鳴らした。



「二人ともハンサムでよかったのにい。どうして教えてくれないんだ誰も。」

「馬鹿いうな。花嫁さん。お前の花婿にキスして。」



女性提督は腕の中で彼に向かいなおして唇を重ねた。

「・・・・・・これからもよろしくね。オリビエ。本当に頼りにするから。」

「任されて。ダーリン・ダスティ。俺にだけはどんどん甘えてください。これからもよろしくな。」

とこつんと軽く額を当てて二人は微笑んだ。



本当に。「綺麗な花嫁だ。綺麗になっているだろうと思ってたけど想像以上で見とれた。」

腕の中の女性提督に撃墜王殿は言った。

「オリビエも素敵だったよ。いつもそう綺麗に軍服を着ていれば男前なのに。・・・・・・ね。

まだドレスぬいだらだめなの。」

苦しいかと聞くと苦しくはないけれど裾が気になると彼女は言う。



「一生のお願いがあるんだ。ダーリン。」

「さっき一生のお願いを聞いただろ。一生のお願いというのは一度きりだと思うんだが。」

まあまあと花嫁をなだめるのは花婿は得意である。「花嫁姿を見てああ本当に美しいなと思ったのと。」



ハナヨメスガタデイイコトシタイナと思ったことを白状した。

女性提督は半ばあきれて夫を見たけれど・・・・・・。「レンタルじゃないけどドレス汚さないでね。」と

夫のポプラン少佐にキスをした。「それは勿論。」と少佐。






翌日午前中にキャゼルヌ宅へ二人は訪れ、お礼を述べ、気持ちの品を届けた。



「あらあら。お礼をいただいては主人に文句を言われますわ。あなたがたはこれから

所帯を持つわけですし今後はこんな気兼ねはなさらないでね。うちのひとは文句は

いいますけれどお二人のことが好きで世話を焼くんですから。私もですわよ。」



返すというわけにも行かぬのでオルタンスはいったんお礼をいただいておく。



現金で御礼をするのは普段の付き合いからすると大げさにも思え、亭主の好きな酒と

奥方やご令嬢が食べれる菓子を贈った。本当は祝儀をキャゼルヌは二人に渡そうとしたが

ポプラン夫人は「では倍返しで。お祝い事ですから。」といった。

新婚世帯から倍返しのお返しをもらうのは気が引ける。

ゆえに必要経費と心づけ以外はキャゼルヌ夫妻とポプラン夫妻の間には発生しなかった。



「無事に世間様に後ろ指を差されることなく今後は夫婦として生きていけるのも、キャゼルヌ夫妻の

おかげですよ。」とポプラン少佐は言う。

今まで後ろ指を差されていたのかなと隣で聞いている妻は思う。むしろ今後ポプランの本妻として

後ろ指を差されるのは自分のような気がするなと女性提督は考えた。



「新婚旅行ができなくて残念ですわね。ここはなんと言っても最前線ですからね。」

オルタンスは二人に珈琲と菓子を出した。

「えっと先輩と夫人はどちらへ新婚旅行へ行かれましたっけ。」と女性提督は尋ねた。



コールダレーヌという湖が綺麗な山荘で過ごしたことを夫人は語った。

「牛乳が美味しいところなの。酪農を近くでしているのね。乳製品が美味しかったんですよ。」

キャゼルヌの亭主のほうはマス釣りをしていたという。

ヤンたちはのちにこの地方へ新婚旅行へ行った。ヤン夫妻は牧歌的な生活を

好んだのである。



「牧歌的ですね。残念ながら我が家向きじゃないな。」とポプランは珈琲をいただく。

「あなた方ご夫婦は宇宙がお似合いですものね。少佐に釣りは確かに似合わないわね。」

マダム・キャゼルヌは微笑んだ。

「いずれハイネセンへ戻る機会があれば彼と一緒に実家に行きます。それがもしかすると

初めての旅行になるかもしれないですね。」と女性提督も温かい珈琲をご馳走になる。



「ご結婚をして何か物入りはないの。ダスティさん。あ、そういえばうちのひとがポプランさんの

部屋のほうの荷物は片付けてあの部屋をあけておくようにといってましたわ。佐官に昇進する

人間がでればあの部屋がいるのですって。お手伝いしましょうか。」

いえいえとポプランはキャゼルヌ夫人の申し出を辞退した。

「彼の部屋はそもそもものがないし、物は彼が運んで私がきちんと綺麗に掃除します。」

と女性提督は言った。



物入りといっても二人は二年近くあの部屋で不自由なく暮らしてきた。将官の部屋が

大きなスペースであったこともあって彼の荷物はいくらでも収納できる。それにうるさいながらも

父は娘のためためていた「嫁入り支度金」を贈ってくれた。姉たちも祝いと称して現金を

振り込んでくれている。

独身時代あまり金を使わぬ生活を彼女はしてきたし蓄えはある。運良く妊娠して少佐のサラリーで

食べていくことになっても十分切り盛りする自信がダスティ・A・ポプランにはあった。



「正直あなた方お二人の事に関してはそう心配はないの。」とオルタンスは言う。

きっとね。

「あとに続く二人のほうが大変そうだと思って。ヤンさんはいつになったらフレデリカさんに

求婚するかしら。きっといろいろとあのお二人のほうがうちのひとも口出しするでしょうね。

あなた方お二人のことは私、何も心配していないのよ。」とにっこりと微笑んだ。



確かにねと女性提督は隣の夫を見て頷いた。

「うちはとにかくおめでた狙いです。大きな戦闘のまえに嫁に子供ができたら彼女を前線に

おくらなくてすみます。小官は能力も運も十分にかねそろえているし美しいワイフを遺して

死ぬほどの愛国心はありません。」とポプランは言った。

三人は笑ったが

「子供は授かりものですから、こればかりはまわりはなんともいえないわね。

せいぜいご精励なさいませ。」オルタンスは美しい笑みを見せて言う。



すごく励んでいるんですと言う亭主の尻をつねり赤面する女性提督であった。



fin


by りょう



さあて。つぎはやっと幼帝誘拐だ。アッテンたちは8月18日に挙式。17日入籍ですね。

8月19日にオルタンスへお礼に行ってます。

さて。8月20日はなんでしょう。


LadyAdmiral