M(マリア)・4




「もう一回プロポーズしてくれたらありがたいんだけれど・・・・・・って。結婚するつもりになったのか

おれをからかいたいのかどっちかな。ダスティ。」



ポプランは過去にアッテンボローに57回「結婚しよう。」「結婚してくれ。」など言葉にしてあげると

誰もが赤面するような甘い言葉や粋な言葉、直接的な言い回し、婉曲な申し込みなどで

求婚してきて57回挑戦するも



「子供ができたらな。」

「戦争が終わればね。」と断られている。



彼が多少こういうことを質問したくなる気持ちは仕方ない。それは女性提督にもよくわかる。

だから彼女は話をし始めた。



あのね。



「うまくいえないんだけれど、お前と暮らし始めて今もこうして暮らしているわけだけどその生活は

私はいいなと思っている。それで思うわけだけれど一緒に生きていく相手にお前ならいいなと思うし

・・・・・・これだけ思っているひとに対して私は仕事にかまけて逃げていたなと思うようになってきさ。

分艦隊を預かって一年以上がたって多分少しは慣れたから余裕も出たのかも

しれないけれど・・・・・・お前が今まで結婚の話を出してくれても逃げてきてばかりで。

そういうのはもう嫌だし・・・・・・。ちゃんと籍を入れたいと思って・・・・・・。

まだ、その気があるならの話だけど私はお前の子供が欲しいしお前のことも、大事だから

仕事は続けるにしても、結婚したいと思うんだ。・・・・・・そういうことなんだけどね。」



アッテンボローは自分でもセンスもないしゃれもない洗練されていないプロポーズをしていると

わかっているが正直な気持ちをつむぎだすとこういう言葉が彼女の口から出た。



「つまりポプラン夫人になる気になったということかな。ダスティ。」

キッチンの壁際に彼女を立たせて顔を覗き込んで尋ねるポプランにアッテンボローはうつむかずに

答える。赤面するのは否めないのであるが。



「うん。オリビエさえよければ・・・・・・そう。なりたい・・・・・・です。」

そっか・・・・・・。とポプランは彼女の額に自分の額をくっつけて。



「じゃあ。結婚してください。ミス・ダスティ・アッテンボロー。」そう彼が言うと、彼女は

「はい。」と答えた。58回目にしてようやく正式に婚姻届を出し結婚することをアッテンボローは

了解した。



ポプランはいつも自分が首につけているプラチナのボールチェーンのネックレスをはずして

彼女の首にかけた。

「本当かどうかは定かじゃないけど代々のポプラン夫人がつけるものらしい。・・・・・・指輪を贈らなく

ちゃな。・・・・・・ありがとう。結婚の返事をしてくれて。」

と彼女の唇に触れるようなやさしいキスをした。

「あのね。お願いがあるんだけれど。早速で申し訳ないんだが。」とアッテンボローは

ポプランにいう。



「・・・・・・もし子供を授かることができれば退役するけれどそれまでは今の仕事を続けたい。

軍人家業は好きじゃないけれど投げ出せない。でもオリビエの妻になりたい。それがお願い。」

アッテンボローも眸をそらさなかったが、ポプランもそらさない。



「うん。わかった。おれはそれでいいよ。奥さん。」

そう彼が言ってくれたので彼女は安心して少しぎこちない微笑をした。



「・・・・・・ごめんね。今まで真剣に考えていたつもりだった。でも分艦隊も大事だけどオリビエは

もっと特別なんだよね。だから・・・・・・遅くなったけど。ありがとう。」



うつむくアッテンボローの手をとってその手の甲にキスをする。

「明日指輪を見に行こうな。・・・・・・もしかしてフレデリカ姫に相談してたことってこのこと

だったのかな。」

「うん。入籍って簡単かと思ったけど姉たちは婚約期間があって結婚式を挙げて入籍したみたいで、

私はよく仕組みが理解できてなかったし。・・・・・・窓口にいってすぐ法律上の妻になるのかも

わからないし、フレデリカならわかるかなと。でも自分で調べた。・・・・・・仕事しながら。」



そっかとポプランはまた額を彼女の額にこつんと当てて、笑った。

で、どうやったら入籍できるわけと彼女に尋ねた。



「同盟では当人のIDカードと署名があればいいんだけど。・・・・・・オリビエ知っててきいてるだろ。」

「あたりまえじゃん。プロポーズするんだから知ってるさ。お前が可愛いからつい聞きたいなと。」



問題はさ。



「証人のサインがいるんだよね。二人。オリビエ誰がいいと思ってたんだ。」

「そうだな・・・・・・。おれはヤン・ウェンリーがフレデリカ姫と先に結婚したらあの夫妻に

お願いするつもりだったけど、うちが一歩リードだからだんな夫婦かな。キャゼルヌ夫妻。」



うん。私もそう思ってたとアッテンボローはいう。



「でも先輩今テトラで忙しいかなと思って。」

「ま、頼むのは悪くないからメールだけ入れとく。」と彼は彼女にキスして尻ポケットから携帯を

出してメールを送った。



「なんておくったの。」とアッテンボローがいうとポプランは画面を見せてくれた。



「要塞事務監どのにお願いがあります。お時間があれば電話ください。ハートマーク。」

・・・・・・ハートマークはつけなくてよかったのではないかと思う女性提督であった。



そんな彼女にかまわず、もう一度今度はあまくながいくちづけ。アッテンボローが

ポプランの首に腕をゆっくり回して彼は彼女の腰に腕を・・・・・・。



着信音がした。

ポプランはしぶしぶキスをやめて腕だけは彼女の腰を抱き寄せた。「はい。あ。だんな。」

同盟軍でアレックス・キャゼルヌをだんなと呼ぶのは、オリビエ・ポプランしかいない。



お忙しいかと思ってメールにしたんですけどとポプランはいうが、キャゼルヌはこの少佐に

「お願い」をされるのが嫌なので嫌なことは早く済ませたいのだという。



あのですねとポプランは話を切り出した。






1900時。アレックス・キャゼルヌ宅へ二人はIDをもってとにかくこいと召集がかかった。



「よくやった。ポプラン。やっとアッテンボローが結婚するといったか。よしよし。こっちに来い。リビングで

飯を食う間にサインしてしまえ。」



「あいつは同盟軍史上初の女性提督で、今後彼女が範となって女性士官を「提督」に登用する

か決めることになる。だから彼女に関する醜聞は、軍部も司令部もできるだけ早く摘み取っておきたい。

今回のようなポルノのモデルなぞ、いくら自由な表現が許される国だとしても彼女の人権を犯し、

そして軍部批判・侮辱とこちらがとらえてもおかしくはない。ここまではわかるだろ。少佐。」

と過去のキャゼルヌの言葉を思い出す。



しかし、事務官殿はグラス片手に笑みを満面に浮かべている。

「用紙ならちゃんと我が家にたくさんあるから書き損じても気にするなよ。」まあ婚姻届はコンピュータ

で落とせますもんねとポプランは言う。



「いらっしゃい。お二方。お食事はされてないでいらしたでしょ。召し上がってね。」

奥方のマダム・オルタンスは亭主ほどではないがいつものように、にこやかで朗らかだ。



「ダスティさん、よくご決心なさったわね。いいことですわ。ご両親もご安心でしょう。」

もうすでにアッテンボローさんではないのねと、アッテンボローは思う。

「うちの人間は父以外は賛成してくれると思うんです。じつはまだ家族にいってません。母はずっと

私の婚期は気にかけていたし二番目の姉と彼は面識はあるんですけれど。何せほかにまだ姉が

二人でしょ。数が多くて。それなら先に籍を入れていいと・・・・・・。」キャゼルヌは渋い顔もしたが。

「まあ。お前の父親のことを考えれば既成事実を作ったほうがいいな。・・・・・・簡単に末娘を嫁に出そうと

思わないだろう。お父上は。」

はい。とアッテンボローはIDカードの自分の社会保障番号を記入。署名。



「ポプランは係累ないんだよな。」いませんよとポプランもすらすらと必要事項を書いていく。

「遺産を遺してくれる曽祖父なんぞいればいいですねえ。」

「ばか。おい。お前先にかいてくれるか。書類はできた。」と妻を呼び彼女はさらさらと女性らしい文字を

連ねた。最後にキャゼルヌは書類の不備はないかを見て自分のサインを入れた。



「明日の日付と今日の日付どっちがいい。それとも式でもする気なのか。それによって日時を考えることも

できるぞ。」事務の達人様がそうおっしゃる。



「式、考えてなかったんです。ここはなんと言っても最前線ですし。私はできれば早く籍にはいれたらと

思うだけですけど・・・・・・。」とポプランを見た。

「今日ってもう1900時を過ぎてるじゃないですか。時間外でしょ。」といったら。



「お前。おれを誰だと思ってるんだ。」とささやかれた。「ん。そんなに急ぐ理由はアッテンボローはおめでた

なのか。」

オルタンスは速攻で夫にひじを入れた。「はは。違います。まだ妊娠してないです。妊娠したら彼に食べ

させてもらうつもりで退役します。・・・・・・いろいろと問題はありますけれど。」アッテンボローはいう。

「そうか。退役するのか。・・・・・・それがいいな。女性提督はお前1人で終わりだろう。データをみたところ

アッテンボローほど傑出した女性士官はまだいないし士官候補生にもこれというのもいない。

アッテンボローは射撃さえましだったら・・・・・・次席か主席卒業できただろうな。そこまでの女性はいない。」



だが。



「お前がこの男を夫にすると決めたことはいいことだ。この男はお前のことに関してだけ

従順だし。使いでがある。お前に都合の悪いようにはせんだろう。・・・・・・ま、めでたいことだ。

分艦隊が一生お前を面倒見てくれるわけじゃない。俺個人は婚姻成立はよしと思う。」

で結局早いのがいいなら。



「おれが受理しておこう。結婚証明書は明日になるがまあ、法的に現時点でお前さんらは夫婦だ。

ダスティ・A・ポプラン・・・・・・にぎやかな名前だな。アッテンボローをはずせばよかったのに。」

とまた文句を言いかけるとオルタンスがちらりと夫を見た。

咳払いをしてキャゼルヌは言う。



「そっか。独身貴族を辞めるのは結構だし。佐官の給料で食うなら切り詰めんとな。その辺は

アッテンボローは大丈夫だろう。ポプラン、戦場で無茶をしてこいつを未亡人にしてくれるなよ。

死亡給付はアッテンボローに転がり込むわけだな。」「あなた。」とぴしゃりとオルタンスがいう。



「でもダスティさんの花嫁姿は見たかったわ。きっと綺麗ですもの。きれいな花嫁さんはひとを

幸せな気持ちにしますからね。」亭主の毒舌を制して細君は言う。

「二人で少し話したのは簡単な食事会くらいならしようかと。仲間内で。」

「あら。ぜひお招きいただきたいわ。ねえ。あなた。」

「ならいっそ略式で分艦隊の人間と空戦の人間とヤン司令くらいは呼べばいいじゃないか。」

ううん。かたくるしいのはやだなあとアッテンボロー。

民間区にいいレストランがあってそこでガーデンウェディングでもと思ってたんですよねとポプランが言うと。



「だめだ。現役少将が結婚するんだぞ。民間区じゃなく軍のホールを押える。大きくなくていいだろう。

それから・・・・・・・というかポプラン、婚約指輪は。」

明日でも買いに行こうかとというと、馬鹿といわれた。「式をあげるなら結婚指輪もいるぞ。」

「そんなに指輪ばかり要らないです。」アッテンボローは文句を言う。

「彼女の花嫁姿は見たい。三日後までに式上げれないかなと思ってね。うちうちでレストランでの式なら

きがるにできるでしょ・・・・・・。」



そこまで聞くとアレックス・キャゼルヌは「・・・・・・おれが媒酌をする。お前たちな現役の士官で

幕僚だろう。ある程度の品が必要だ。お前たちに任せておけん。いらいらする。媒酌人をするぞ。」

「準備のことは知ってますよ。でもそういうことに金をかけるより簡単な挨拶でいいじゃないですか。

一年や半年結婚式まで待ってたらいやですよ。彼女の花嫁姿、早く見たいです。一週間以内。

いや三日以内かな。」

ばかものとキャゼルヌは言う。

「なんなら衣装だけでも着せて二人で写真を取るってのもありですけどやっぱり式は挙げたいでしょ。

いいじゃないですか。ガーデンパーティで。」

「いいわけないだろう。あのなここは最前線だ。現役士官がちゃらちゃらと民間のレストランで

結婚式が軍で赦されると思うか。男は礼装。勿論軍のな。アッテンボローの衣装はまあきれいにしても

いい。・・・・・・ともかくおれが媒酌人をする。悪いようにはしないから。まかせろ。」



アッテンボローはポプランを見つめ、オルタンスを見つめキャゼルヌにいった。

「媒酌人と仲人って何が違うんですか。」



かくてこんこんと食事と酒を賜りながら二人の「新婚」は結婚式の日取りだの式次第だの招待状だのと

自称媒酌人である事務監どのから教示され。



緊急に二人の結婚式が行われる段取りになった。


fin



ラストも変わるかもな。随分妄想しました。終了です。サイオキシンから結婚。Mとはマリッジだったのかと

納得。



LadyAdmiral