87・親不孝




「父さん・・・・・・」

「15日には墓の花を換えてやらんと、フィッシャーがかわいそうでな」



今日ここに来れば父に会えると彼女はわかっていた。

実家に帰れば両親にも会えるのに何故かミキはここへやって来た。

軍の墓地。

彼女の夫もここに眠っている。

父は隠居生活をしていて趣味で花を作ったり野菜を作っては愉しんでいる。

特に父親のつくった薔薇は美しい。ミキはそう思う。







「どうした?ミキ?」

「みんなに会いたくなったの」

「そうか。みんなに会いたいか。私もだ」



ムライが、うすく微笑んだ。

「少しは家に帰ってきなさい。お母さんも心配してるよ。元気にしているのかい」

「ええ。もちろん。母さんは元気でいる?」

ムライは娘に向かっていった。

「もちろん。母さんはいつだって元気だよ。」



ミキは大好きだった『フィッシャーおじさん』の墓の掃除を父親とした。

そして彼女の夫ジョン・マクレインの墓も綺麗にした。

墓守のようだねと2人冗談を言いあった。







「ジョンはいい息子だったが結果的には親不孝だな。かわいそうな子だ」

父は無口なほうでミキも彼の前では安心してゆっくりした時間を過ごせる。



「親よりはやく死んでしまうのは、親不孝ね・・・・・・彼のせいではないけれど。

彼のせいではないと思うけれど」


ミキの言葉に、ムライは言った。






「何か、まよっているんだね?お前」

娘は笑った。



いつもこの父親には見透かされる。

無粋な人物を装っているが、こと家族に関しては勘の強い人である。










「私、今自分の診療所と救命スタッフと大学の講座と掛け持ちしているの。

仕事に躊躇はないわ。私はこの仕事を誇りに思っている。ううんそうじゃない

わね。Jの後ろ姿を私はいまでも追っているんだわ・・・・・・きっと。彼の仕事へ

の姿勢も好きだし今でも尊敬している・・・・・・。今の世の中で必要な仕事だ

とも思っているの。こんな私が誰かを好きになるというのは・・・・・・あまり相手に

よくはないわよね・・・・・・」




「再婚するのかね?」

娘は首を横に振った。



「わからない。好きだけれど結婚を考えていいのか悩むの。私には時間がなさ

過ぎる。相手の男性だって時間がなさ過ぎる。Jとは・・・・・・違う。Jとは同じ仕事だった。

理解しあえたし・・・・・・彼は家族だった。夫という前にJは私の家族だった。だから

許し合えた・・・・・・結婚するなら私もお母さんみたいに潔く仕事をやめるべき?そう

かんがえたほうがいいの。お父さん。」










見目麗しい娘はどうも融通が利かぬところが私に似たようだなと父はほくそ笑む。

妙にきまじめな娘な性格。




「それは相手と相談しなさい」

「怖いわ」

「もちろん、そうだろうとも」

白やピンクの薔薇が大切な人々の眠る墓に飾られてムライは穏やかな顔になる。



「会話なくしてわかりあうことなどできないとお前は知っているだろう。その男性に

正直に話しなさい。お前はそのひとを愛しているのだろう。ならば誠実に接しなさい。

誠実にね」






困った顔をした娘の額にキスをして、父は言った。



「私はジョンを愛していたよ。お前とかわらぬほど愛している。親不孝であってもあの子を

せめることはできない。あの子はいつも遠慮して生きてきた。私たちが我が子とかわらぬ愛情

を注げば注ぐほど、あの子は遠慮してきた。あの子は私たちの家族になって幸せだと言って

くれた。それだけが私のすくいだよ・・・・・・」


「父さん 」

「お前は十分、ジョンを大事にしてきた。まだ35だ。また誰かを好きになれるのなら、それは

それで素晴らしいことじゃないか。どんな人物であってもお前はまだ誰かを愛することができる。

それだけの豊かな愛情を心にもっているんだよ。その男性とはなしなさい。はなしてみて、

二人で考えなさい。焦ることはない。いいね。これが母さんでもおそらく同じことを言うよ」




ミキは、くすっと笑った。

「・・・・・・そうね。独り相撲はもうだめね」



父は白い薔薇を一本、彼女に渡した。



「お父さんは白い薔薇の花言葉をしっているの?」

彼は穏やかに笑ってもちろん、といって娘の肩をたたいて墓地をあとにした。









相思相愛。

果して彼はミキ・マクレインという人間をどこまで愛してくれるだろうか?

彼女はどれだけ、ダスティ・アッテンボローを愛することができるであろうか。

お互いを慈しみあえるであろうか・・・・・・。

by りょう

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