85・雪



「ミキ・マクレインは美しいし稀にみるいい女と言っていい。だが

人間悲しいかな誰にでも欠点がある。それはひとつにムライの

おっさんの娘だということだな」




アッテンボローは頭部に1発、腹部に3発被弾していまだ入院療養中

である。元軍人の外交官として被害者となったアッテンボローにボディ

ガードとしてオリビエ・ポプランがついているがここ数日の間に美人医師、

ミキ・マクレインと青年外交官が恋愛関係になってしまったことが撃墜王

殿には面白くなかったようである。







「退院したら、当然、レディ・マクレインに求婚するんでしょう?

ご愁傷様です」


「なんだよ?ご愁傷様って?」

「いわずもがな。あなたはムライ中将の娘婿になるんですよ。

いかがです?」


「おれはお前さんよりは、参謀長閣下におぼえがめでたい・・・・・・はずだ」









結婚。

そのことも考えなければならぬことであったが。

アッテンボローは窓に映った雪を見つめていた。




「犯人はリンツが捕まえたらしいがあなたを狙撃するってぇのはお門違い

ですね。それほどハイネセンは病んでいるんですか」


「考えてもみろよ。確かに同盟政府がヤン・ウェンリーを追い込みさえせず

にいれば物資不足や求職難の今の世の中とは違っていただろう。皇帝なり

皇妃が占領国として統治しただろうさ。独裁者によって安楽な生活を保証は

されるだろう。独裁政府は独裁者に責任をなすりつけられるが民主主義は

民衆が責任を負うべきものだ。自尊心豊かなお前さんならどちらの国に

すみたいかな」


「おれはいろんな星に女がいるからなぁ。どの国の女もいいもんですよ」

ポプランが混ぜっ返した。



「言ってろ。戦時中のハイネセンは軍需で国家予算を賄っていたところが

多いが今現在帝国側からバーラト自治星域における軍の配備は許されて

はいない。となるとそれに取って代わる産業がなければ経済がひっ迫する。

税金だって高いし物価も高い。復興事業で帝国に国債だってある。市民の

なかには自分たちが生活に苦しんでいるのは軍人がいつまでも戦争ごっこを

していたからだと言いたくなるものもいるだろう。さっさと降伏をして銀河帝国の

属領になったほうが生活は楽だったかもしれん。食うに困ればそう思いたくも

なる・・・・・・それは人間の心理だろ。おれだって稼いだ半分は税金にもっていか

れるしうんざりはする。しかしこれは仕方がない。今はな。産業の

活性化で経済とて潤うのだがな。人材を育てないとな。戦争で確かに物資も

失ったが一番痛いのは各分野で活躍していた中堅の人材だ。今後は教育が

問題になるだろうな・・・・・・」




ポプランがなるほどねぇと呟いた。

「なんだか、えらく政治家っぽい仕事をしてるんですね。閣下」

アッテンボローは肩をそびやかした。

「冗談。おれはさっさとこの仕事をやめたいんだよ。しかし最後の帳じりが

あわないから尻拭いに帝国との交渉役をひきうけているだけさ。他にいい

人材がいれば変わりたいね」


「でもいずれにしても、独身主義の返上はお考えでしょ」









考えたいとアッテンボローが言ったときに、ミキ・マクレインが病室に入っ

てきた。そして、ポプランに挨拶を言ってアッテンボローのほほにキスを

した。




ミキ・マクレインは完全な人材であった。

彼女はプロの医者でありそして人材を育てるために大学病院で多くの若い

医者の卵を育てている。

その彼女が果たして自分と結婚を考えているだろうか・・・・・・。

今も医者として寝ずに交代で自分の療養所と救命病院とを往復している。

タフさを自慢しているが時折顔色が優れない日もある。

今日は窓の外の雪が彼女の肌にうつって・・・・・・余計に色白に見える。







「閣下、レディ・マクレインはもう一つ、欠点があります」

「おい、ひとの恋路をじゃまするな。ポプラン。いい加減なことをいうとゆるさんぞ。」

アッテンボローが言った。

「惜しいことだ。これだけの美人が、オリビエ・ポプランにときめきも

しないなんて。大いなる欠点ですよ。」




ミキもアッテンボローも顔を見合わせて、笑った。

「問題ないね」

撃墜王殿の目の前にも関わらず外交官閣下は女医を引き寄せてキスをした。



by りょう
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