83.空白
その日の彼女は春が近い日だというのにドレッシーな
白いつばのない顔をすっぽり隠す帽子を身につけそれに
似合った上質な白いロングコート姿であった。
そしてアッテンボローの横に立ってもいつもほど背の差がない。
かなり高いヒールの靴を履いている。
彼女は実用的な人物だから普段はヒールのない靴を履く。こんな
高いかかとの靴を履くとはフェザーンで皇妃や元帥がたに会う
からさすがのミキもやや緊張しているのかなとアッテンボローは
思った。きっとこれが彼女の正装なのかと彼などは思った。
タイラー主席はフェザーン出立前にある高級ホテルの一室を
借りて記者会見をした。アッテンボローも同席していたしその
隣には航路は一緒でも予定が違うと言い切ったミキが立って
いた。
これは以前から決まっていたことである。
リンツやキャゼルヌはこの日がXデーになると予測していた。
アッテンボローもそうである。
ポプランもそのようだ。
だから本当はミキがフェザーンへ行く日にちがずれていれば
よかったのにと青年外交官閣下は思っていた。けれどここまで
来れば仕方がない。
現実はこの記者会見現場でおこったことはよりアッテン
ボローに過酷であったかも知れない。
ブラスターの閃光が会場内にひらめいた瞬間アッテンボローは
隣に立っていたミキ・マクレインが彼によろめいて彼もろとも床に
崩れ落ちた。
重い。小柄で華奢なはずの彼女の体が重い。
「よし、撃て!」
遠くでポプランやリンツの声がする。人々が逃げまどう混乱した声が
会場に響く。室内にいた報道陣、タイラー主席も床に伏せた。
アッテンボローは何がおこったのか一瞬わからずにそのまま床に
ふしていたが小柄なミキのからだが異様に重く感じられたので恐る恐る
彼女を抱き起こしてみた。
ごとり、という音とともに彼女の白の帽子が床に落ちた。
それにはブラスターの焼けこげた後があり・・・・・・重く動かない
彼女の白いコートの脇腹にも大きな銃痕がまざまざと残され
ていた。
・・・・・・・彼女が撃たれた。
アッテンボローが自分以上に愛した女性が彼の腕の中で
ぴくりとも動かないのだ。
命を狙われていたのは、タイラー主席ではなかった。
ダスティ・アッテンボローそのひとでありミキ・マクレインは彼が
狙われていることを察知して彼をかばったのだ。
身を呈して。
しばらくの銃撃戦の間彼の心の中は空白に等しくなった。
彼女が身替わりになるなんて。
彼女が身替わりになるなんて・・・・・・。
by りょう
■小説目次■
|