82・生徒会室



今は昔。



「・・・・・・太陽風ですか」

若き日のダスティ・アッテンボローは生徒会室で先輩に当たる

ヤン・ウェンリーとジャン・ロベール・ラップと談笑をしていた。









「そう。ハイネセンからフェザーンへ向かう回廊の宙域に2万年に

一度もしくは2万5先年に一度の太陽風が発生するといわれている」


ラップが後輩に説明した。知性あふれる穏やかなだが快活でも

ある青年である。




「太陽風っていえば結局は恒星の磁場に飲み込まれてしまうって

あれでしょう。話には聞いてますが・・・・・・さておれたちが現役軍

人時代にその宙域で戦いをするとは思いませんが・・・・・・。あのフェ

ザーン回廊を同盟か帝国が莫大な金を出して、買収するか軍事で

支配するかしない限りはね。戦闘はどうせイゼルローン回廊でしょう。

あの要塞を攻略できるのかどうかが決め手なんですよね。」




当時士官候補生の新入生であったアッテンボロー。そばかすの浮いた

頬を上気させて彼は黒髪の先輩にいった。


「うん。まあ当面はそういうことになるだろうね。あの要塞に固執せざるを

今のところはないんだろうな。同盟の力でどうにかできると思えないんだ

が。誰がイゼルローン要塞を攻略するんだろうねえ。歴史上の人物として

今後教練本にのるだろう・・・・・・。まあ、さておき。この太陽風に遭遇した

場合、もしお前さんが艦長だとしようか。どうするね。アッテンボロー。」




ヤンは興味深げに後輩をみて尋ねた。

この後輩。

なかなか頭が切れるのでヤンはおもしろくつきあいをしている。







「えー。先輩からいってくださいよ」

少年はヤンを兄のようにしたっていた。だから甘えるように口を尖らせて

不平を鳴らせる。

末っ子ならではの癖かもしれない。



「おや、降参かい。準優等生のダスティ・アッテンボローくん。」

二歳だけ年長のヤンは微笑んだ。口達者な後輩が存外だらしなく

とっとと白旗を揚げたのがおもしろくない。




「いいえ。先輩はおれより2年は早く出征するでしょう。先人に学ぶと

いう謙虚な姿勢をとっているんです。」


ヤンとラップは笑った。

「早く出征はするだろうが早く昇進するとは限らないよ。お前さんが

先に将官になって私は使われる身かもしれない。ラップはともかく

私は出世する人間じゃないよ。」

どう見てもとヤン・ウェンリーはのんきに言っていた。



共和制政府の象徴とまでなるとはこのころ夢にも思わない。



「太陽風か。地の利をいかして優勢にもっていくには・・・・・・そうだなあ。

私ならどうするかな・・・・・・。」




そこまでヤンがいうとどかどかと当時の事務局次長のアレックス・

キャぜルヌが参戦してきた。

悪巧みを神聖な生徒会室でするなといってラップに行事の連絡をした。

ラップは貧乏くじを引きやすいなとヤンは笑った・・・・・・。

生徒会長とはご苦労なことだともアッテンボローとヤンは愉快そうに

笑っていた・・・・・・。



















『海鳥号』が太陽風のただなかにはいった2秒程度アッテンボローは

この時の光景を思い出した。

あの時、茶々を入れずに「魔術師ヤン」の意見を拝聴しておくの

だったと僅かに後悔した。




さて、ダスティ・アッテンボローならどうするのか。

彼だけがこの船の命運を握っている。



by りょう

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