81・王様 その夜はミキ・マクレインがディナーを用意して恋人の ダスティ・アッテンボローがホストを務めたホームパーティ。 ゲストにアレックス・キャゼルヌ、カスパー・リンツ、ラオ、 ユリアン・ミンツと、その妻カーテローゼ、フレデリカ・G・ ヤン。そしてオリビエ・ポプランとその相棒のイレーネ・ コーネフが招かれた。 しかしこれは表向き。 「この場合ターゲットは我らがアッテンボロー提督ではあり ませんね」 撃墜王殿は部屋が盗聴されていないかを調べたうえでみな に言った。 この数日ポプランは彼のコネクションを使って先だってのアッ テンボロー狙撃事件の捜査をしていた。そこでニュースソース は明かせないが実はあの事件はただのカムフラージュに過ぎ ないとの情報を手に入れたという。 「本当の狙いは、タイラー首席誅殺です」 ポプランのその声には緊張感がみなぎっていた。 現在、同盟政府の首席を務めるウィリアム・タイラーを亡き者に しようという動きがあるのだと彼は言うのだ。タイラー自身戦争中 平和組織を率いて同盟政府の擁立をになった人物であるのだが その当時のほかの平和組織の人間でタイラーでは力不足とクー デターを水面下で企てる計画をしているのだというのだ。 「それが本当であれば、阻止しなければなりませんわね」 夫をテロで暗殺され父をクーデター首謀者としてなくした フレデリカは穏やかだがしっかりとした声で言った。ユリ アンらも頷く。 「そこで、考えたのですがね」 と、ポプラン。 「その地下組織をとらえてしまうまでに我々はターゲットをまだ アッテンボロー提督だと思い込ませておくと都合がよいと思い ましてね。もちろん主力になる警備隊はタイラー首席の警護に 回すんです」 「じゃあアッテンボローの方はどうするんだ」 キャゼルヌが口を挟んだ。 「おれが雇ったエキストラを使います。制服着せれば精鋭に見える ようなソリビジョン俳優を目指している役者どもを5人ほど使います。 実際には閣下が生命を狙われているわけではないので偽物でも よいでしょう」 「5人とは手薄に見えやしないか」 アッテンボローが言う。 「おれのギャラは誰がだしてくれるんでしたっけ。予算の関係もある でしょうに。ねえ。キャゼルヌ秘書官殿」 こほんとせき払いをするキャゼルヌ。 「そのかわりにちょいと細工をするんです。ユリアン。お前さんは まだ自分の女房と麗しのレディ・ヤンを守れるだろうな」 「はい。おっしゃるようにします」 ユリアンは言った。 「OK。で、リンツはレディ・マクレインの診療所まわりにお前さん達 不良グループの生き残りを配備することはできないか。2、3人もいれ ば十分だ。レディ・マクレインご自身もかなりの腕利きのようだから」 「了解した。声をかけるさ」 そうリンツは言った。 「で、イレーネがキャゼルヌ家を護衛することにしてさも イゼルローン共和政府組は狙われて困ってますって見せ 掛けるってわけ。でもあくまでも主力の警備隊はタイラー 首席、つまり『王様』を守る」 「その間お前は何するんだ」 アッテンボローがミキがついだアイリッシュコーヒーを受け取り 言った。 「おれは王様より、女王様か、お姫様と仲良くなりたい口でして」 お前なぁと、アッテンボロー。 「冗談です。おれはいわばいつでも動ける位置にいたいわけ です。一応、この仕事に関しては企画したのがおれですから」 みなが、そんな計画でいいのだろうかと議論している中で リンツが重々しく打ち明けた。 「実は、今日タイラー首席の事務所の地下駐車場の壁一面に 『負け犬』とひどい落書きがされていたんですよ。こうなると ポプランが言うことも私は一理あるような気がしますね・・・・・・ 試してみる価値はあるでしょう」 ポプランでは冗談に聞こえるがリンツが言うと神妙に聞こえる。 一同は『ポプラン提督』の作戦に従うことにして散会した。 by りょう ■小説目次■ |