74・ベストフレンド
「私に護衛がつくのは今回のことを考えてしかたありません。 ですが・・・・・・ですがなんでその護衛が寄りにもよってこいつ なんですか。」 包帯の取れていない若き青年外交官は病室で思わず声を高く 上げた。そのせいで少し痛みがはしるが軍人上がりなので痛み にはなれていたからアッテンボローは情けない声は出さなかった。 「自分は金次第でなんでもするスイーパーでね。それ相応の金を 積まれたらまぁ、悪魔のためでも仕方なく働きますよ。仕方ないです からね」 陽気で、瀟洒なかつてのハートの撃墜王が言った。 オリビエ・ポプランである。 「ポプランに守ってもらうほど、おれは情けない男じゃないですよ。 先輩、勘弁してくださいよ。他にいなかったんですか」 「ひどいこというなぁ。未来の命の恩人に向かって」 「まだ命の恩人じゃないだろ」 したり顔で毒舌を吐くポプランと憎々しげに言い返すアッテンボロー。 これではヤン艦隊の時代となんの代わりもない。 でも、それはそれで二人には心地よい。 キャゼルヌはアッテンボローがテロに襲撃されたことで真剣に内政の 自治の確立をしないと帝国の干渉があるのではないかと危惧した。 もちろんアッテンボローや元軍人閣僚の警察隊の警備をあつくした。 警察隊の臨時指揮顧問に陸戦のプロである元・薔薇の騎士連隊第14代 連隊長のカスパー・リンツに依頼した。 彼は陣頭指揮をとりテロ集団の逮捕に貢献した。 臨時であるので早速政府は対テロリスト部隊の編成のプロジェクトに 取り掛かりはじめた。 それまではリンツは自主的に顧問を務めることになる。 部隊の編成が終わり事件が終息すればリンツはまた一民間人に戻る ことになるだろう。 実はユリアンが個人的にポプランと連絡をとったらしくこの自他とも認める 「お祭り男」はフェザーンからわざわざやって来た。 「あの歩く『伊達と酔狂』が狙撃されたってか。奴さんは大人しく病院で寝て るってのか。ははん。なかなか面白いじゃないか。ハイネセンへ行ってもいいな」 ユリアンは人が悪いとポプランをたしなめたがこれでこの男は友誼に篤い。 ポプラン自らキャゼルヌにそれとなく打診してアッテンボローの護衛役を買って 出てくれたのである。 しかしそのようなことは本人は恥ずかしくて口に出さない。 アッテンボローもなんとなく事情は察しているのだが素直にありがとうと言える 仲ではない。 それでもこの2人には深い友情が通っている。 ヤン・ウェンリー亡き後このオリビエ・ポプランもユリアンを中心に戦ってきた。 生命を懸けて民主主義の苗床をつかみ取った。 責任を伴う自由を手にした。 決して安楽ではないが切り開く自由をつかんだ。ともに未来を勝ち取ってきた 仲間。はなれていても時を隔てていても薄れることのない友誼が二人には あった。 「ま、臨時にあなたのシークレット・サービスをするだけです。本来は野郎を 護衛するより美しい女性を守ることがどちらかというと好みですからね。いやな 仕事なんですけどアッテンボロー提督が死んでしまうとおもしろくはないです しね。一肌くらいは脱ぎましょうってことでしばらく、よろしく・・・・・・」 撃墜王殿としぶしぶ握手をしてアッテンボローは破顔した。 「まったく。おとなしく宇宙海賊をしていればよいものを」 青年外交官は懐かしい旧友と会えたことを、素直に喜んだ。ポプランにしても アッテンボローには恩がある・・・・・・。男と手を握りあってるのはいやだなと 苦笑して撃墜王殿はいった。 「ところでこの病院におれ好みの美人がいたんですよね。ナースじゃないと 思うんですけれど秘書官殿しりませんか。黒髪で黒い眸でオリエンタルな美人。 上から、87・56・85の・・・・・・」 嫌な予感がするキャゼルヌ。 「失礼します。閣下調子はいかがですか。診察の時間ですよ」 ビンゴ、とポプランはひらりとミキに近づき彼女の右手にキスを した。 「ありゃ病気だな。さすがに早い」 キャゼルヌはそのひと言ですんだがアッテンボローはそうはいかない。 「あなたがドクターですか。なんて魅力的な女性だろう。仕事を終えたら 食事をしませんか。機智に溢れた美人と会食するのは男と生まれたきた 以上この上ない歓びなんです。いかがでしょう。ドクター。」 アッテンボローが怒鳴ろうかとしたときにミキはポプランに優しく言った。 「嬉しい申し出ですが私の自由時間は・・・・・・その・・・・・・ある男性で万席 なんです。ごめんなさい。素敵なハンサムさん」 え? と、アッテンボローは口をあんぐりと開け、キャゼルヌはアッテンボローを 見て笑った。 それって、それって、もしかして・・・・・・? 「閣下、傷を見ますよ。痛みます?」 「えーと・・・・・・そのぉ・・・・・・痛くはありません」 ポプランはなんだできてたんだと、面白くない様子で言ってからかった。 キャゼルヌはまぁまぁ美味いものならうちでくわせてやると言ってポプランを 連れて病室を出ていった。 廊下に出て撃墜王殿は病室の親友に向かって心の中でほくそ笑んだ。 「うまくやってやがったんだなぁ。あの恋愛音痴」 後に撃墜王殿はミキ・マクレインがムライ参謀長の愛娘であることをしり アッテンボローの勇気に拍手した。 by りょう |