71・ポーカーフェイス 「あの・・・・・・ミキ・・・・・・・」 彼は、恋人の・・・・・・いや、つい最近やっと恋人らしい関係になり つつある女医に言葉をかける。 「なぁに。ダスティ」 ミキ・マクレインは彼のカルテに何かを書き込んだり傷のふさがり 具合を見ては忙しそうにしている。 ・・・・・・彼女があまりに冷静でアッテンボローは困る。 静かな湖畔の水面のように彼女は穏やかでストイックでもあった。 「いつになったら・・・・・・いつになったら」 彼は吃音ではなかったが彼女のクールさには戸惑いを隠せない。 彼は狙撃されて重症を負ったが幸いにしてミキの手術で助かり 回復も順調なようであった。 そしてひょんなことから自分が彼女を愛しているのと同じく彼女も 彼を愛してくれていることを知り、今に至る。 ただハグしてみたりキスまではできても病室でそれ以上どうしようも ない。 いつになったら・・・・・・ 「やっぱり・・・・・・後二週間は安静なわけ。おれ。」 彼の言葉に彼女はうなずいた。 「ここ数日同じことを聞くけれど仕事で焦っているのね。ダスティ、 あなたは腸に損傷をおっているし腎臓も傷ついてたのよ。今養生 しておかないと折角治る傷が治らないでしょう。後二週間、キャゼルヌ 先輩に仕事のことは任せてベッドで大人しくしていて頂戴」 二週間は彼女を抱くこともできない。 ここ数年、本気で誰かを愛したことがなかった。 1人の女性と真剣につきあったこともない。 女は姉達の存在でうんざりしてきていたし、(彼は3人の姉がいる) 物騒ではあるが戦争でそれどころではなかった。 自分の護衛役の撃墜王殿などはこまめに恋を愉しんできていたが 元の性格から言ってダスティ・アッテンボローは1人に思いを寄せると 他の女性は目に入らない。 そして情けないほど一途な恋になってしまう。 もっともっと2人の距離を縮めたいと思ってしまう。 それは、ごく自然なこと。 キス以上、縮めたい距離・・・・・・。 愛する彼女の肌に触れたい・・・・・・。 二週間後かよー。 いかんいかん、と彼は自然の欲求を封じようと他のことを考えてみる。 しばらくはそれで十分だったしミキの姿が見えなければ今後の外交のこと 仕事のことを建設的に考えることもできた。 お互い好きで、お互い大人で。 放送で彼女を呼ぶアナウンスがかかる。 急患。 ミキは、彼にキスをする。 いつになったらもっと距離を縮めることができる? 2人はゆっくり話しあう時間もない。 そんな彼に彼女はどう思っているのだろう? あの見事なポーカーファイスは一体なんだ? 好きだと言ったよな? 確かに言ったよな? ミキはアッテンボローの髪を撫でて、言った。 「二週間後には一緒に朝のコーヒー、飲めるわよ。ハニー」 見事な彼女はポーカーファイス。 残された彼は、ローティーン並の、赤面。 by りょう |