65・回復する傷 ミキ・マクレインは、ダスティ・アッテンボローが差し出した 婚姻届にサインをした。 実のところアッテンボローは彼女がなんと名乗ろうが気に すまいと思っていた。 以前彼女はジョン・マクレインという人間と結婚をしていた。 マクレインという名前を彼女が名乗りたいというのならかま わないと彼は思っていた。 それは彼女がきめればいいことであると彼は考えていたし ありのままの彼女を受け止めようとアッテンボローは決めていた。 結局彼女が選んだ名前はミキ・M・アッテンボロー。 Mというのはマクレインではなく、ムライである。 「マクレインというひととはもう死別して彼を解放してもいい ころだと思っているわ。彼は間違いなく私の夫だったけれど 彼も私をずっと以前に解放してくれていた・・・・・・。私は今度 あなたというひとを今後の伴侶として選び、選ばれたのだから もうマクレインの名前を使わなくてもいいかなと思ったの。」 ジョン・マクレインはいい人間だったとみなから聞いている。 きっとミキの幸せだけを願っているであろうとアッテンボローも そう思えた。 間に自分の元の姓を名乗るのはなぜかというと、 「ミキ・アッテンボローって、なんだか間が抜けていないかしら。 なんども口に出してみたけれど実はしっくり落ち着かなくて。 フレデリカのまねをしてみたの。E式とW式が結婚する時って 名前が難しいわよね。それともいずれはなれてしまうものなの かしら。」 と陽気な彼女は笑って答える。 アッテンボローはそれでいいと思っている。 彼女の脇腹の打撲も回復してきた。 彼女が夫をなくした心の傷ももうすでに癒えていたかも知れ ない。 ダスティ・アッテンボローという男性とであって恋をするうちに 傷は回復したのだろう。 7年という歳月も味方をしてくれた。 まず本当は両家の家族に挨拶をするのが先なのだがミキが 養女のコーネリア・フィッツジラルドの婚儀のためにフェザ ーンへ行かなければならないことには変わりはなく。 こうなるとアッテンボローも事件のせいで遅れた外交のために 何かぶつくさ文句をいっているオリビエ・ポプランとしずかに・・・ ・・・アッテンボロはーは思わず吹き出してしまったが・・・・・・クー ルな面持ちでクロスワードパズルを解いているイレーネ・コー ネフとともに渡航を決意した。 「新婚旅行のかわりね。楽しみだわ。」 ミキは陽気に微笑んでいった。 奇妙な新婚旅行である。なかなか二人きりでロマンチックにとは 現実はいかないものなんだなと青年外交官閣下は思う。 それでも。 傷の癒えてきた彼女とこれからを生きる。 それはとても幸せなことだとアッテンボローは婚姻届を役所に 提出した。 アレックス・キャゼルヌはようやく籍を入れたことでなぜかとても 機嫌がよかった。 「ばかだな。おれに提出すればすぐに受理するのに。結婚証 明書付きで。」 事務処理の権威(オーソリティ)は上司に平気でばかという。 それすら新婚のアッテンボローには、この世の春。 by りょう |